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Code:Reliver  作者: へーがたくちくかん
第二章 「不信」
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もう一人の自分

なんとか日が暮れる前に俺たちはもう一つの集落に着いた。

「あんたたち、どこからきたんだね」

その集落の長のように見える老人から声を掛けられた。家の陰から子供たちの顔がのぞいている。

「わからない。気づいたらあっちのほうにいた」

老人は一瞬眉をひそめ、何もなかったかのように

「ならば、休んでいきなさい」

と言った。

俺たちは宿で早めの夕食を取り、寝ることにした。




次の日のことだった。

朝起きると、俺の服が血で染まっていた。

「――!?」

何だ、これは。俺は人を殺した記憶もないし、別に多重人格者とかそういうわけじゃない。

混乱する俺の意識を中断させたのは、バン! という音を立ててドアを開けられた音だった。

入ってきたのは彼女ではなく、屈強な男三人。

そして何も言わずに俺の腕をがっしりと掴み、引きずっていく。この状態では《術印》は解放できない。

俺は抵抗することもできず、ただ流れていく視界の中で彼女の姿を探した。

だが、見当たらない。どこにもいないのだ。

そしてそのまま俺は牢屋の中に入れられた。

「いったい何だってんだ……?」

服がいきなり血に染まってたりとか、有無を言わせずに牢屋に放り込まれたりとか。

周りを見渡すと、他の牢屋はあるが、誰も入っていない。

よっぽど治安がいいのだろうか?

いや、そんなことより、彼女はどこへ? 勝手にどっかに消えるわけもないし、まさかあいつらが彼女を襲ったとか? それにしては変だ。


ちり、と首筋を何かが撫でた気がした。


感覚が研ぎ澄まされ、その気配を探る。誰かが俺を見ているのか……?

しかし人の気配はない。

振り返る。

そこには、鏡があった。そこに映っているのは俺の姿に見えた。

だが、そいつの口は歪み、目は爛々と赤く光り、全身は返り血を浴びている。

そいつの口が動く。

「なあ、お前は神を信じるか?」

どこかで聞いた言葉だと思った。

「ああ、まあな」

一応俺はそう呼ばれるものを見たわけだしな。

「質問を変えよう。()()を信頼できるか?」

彼女? 《ラファエル》のことか? どうしてこいつが知っている。

俺が不審げな目を向けると、

「《ラファエル》を信頼できるか?」

――ッ!? カマをかけようとしているのではないのだろう。だが、どうして?

疑問に思いつつも俺は

「当然だ」

「そうか。――まあ、そうか」

そいつが笑いを浮かべ、そして右ほおに俺が一番見慣れた蒼い幾何学模様を光らせた。

「お前……! それは俺の!?」

「そうさ。俺は、お前だ。まあ最も、道を間違えちまったお前、だが。――ああそうだ、今彼女がどうなってるか知りたいか?」

「ああ」

混乱しつつも俺はそう答えていた。今俺の頭の中に、こいつがどうして俺と同じ見た目をしているのか、という疑問はなかった。彼女がどうなっているか、ただ心配だった。



鏡に写っていた風景が変わり、集落の広場が映し出された。

「この人殺しが!」

彼女は十字架に架けられていた。罵詈雑言を浴び、石を投げつけられていた。

「これより、この大罪人の処刑を行う!」

そうあの老人が叫び、群衆が呼応する。

そして、火がくべられた。


「なあ、お前はこれを見てどう思った?」

「なあ、どうしてこんなことが許されているんだ?」

「わからないのか? こいつらはな、他人を信じられないんだよ」

――信じられないからこそ、他人を排除し。

――信じられないからこそ、知らないというだけで罪を着せ。

――そして、処刑するのだ。

それには何の意味もない。

彼らにとって、本当にそれが利益になるのかと言われれば、違うのだと思う。


「これが、俺がこの世界に来た理由なのか?」

「さあな? 俺にはわからんさ。――じゃあな、正しき俺。またあとで」

そうあいつが言うと、鏡が消え、俺だけが残された。


そして俺の心はもう、冷静じゃなかった。

「《終末刻印(カニェッツ・コード)解放(オープン)》」

魔力が暴走し、俺の怒りのままに形を変える。

闇色の光を迸らせ、それは実態を得る。

俺は牢屋をいともたやすく粉砕し、彼女の下へ急いだ。

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