始まりの事件
さてと。ようやく民家が見えてきた。さすがに《転移能力》がないと移動はつらい。前回みたいに脚も速くないしな。
とか思いながらそこを見渡して気づく。
「人の気配が、ない……?」
「《ファイ》。気を付けて。――血があるわ」
言われて気づく。確かに《ラファエル》が言う通り、血だまりができていた。
嫌な予感がした。
今回の役目は、この事件を解決することか?
分からないが、確実にこれは俺たちに関係があるはずだ。
「行くぞ」
「え? う、うん」
戸惑いながらも頷く彼女を見るに、これが俺たちに関係あるとは思っていないようだ。
そして俺たちは柵を越えると。
「こりゃひでえな……」
もはや人間とはわからないくらいにぐちゃぐちゃになっている死体ばかりだ。
残されているのは、この死体たちだけか? 何か少しくらい痕跡があってもいいようなものだ。
「ねえねえ《ファイ》。これ何かなあ?」
彼女が手にしていたのは、血に汚れた紙だった。
それに書かれた文章は。
――なぜお前らは、神を信じることができる? なぜ一度見、会話をしたというだけでそう信じられる?
――人間は、互いを理解できず、ましてや自分すら理解できていないというのに、なぜ信じることができる?
――信頼、信仰など、ただのまやかしである。
そう、辛うじて読めた。随分と汚い字だ。いやまあ俺も汚いほうだが、さすがにここまでじゃない。
だが、この内容は、まるで俺たちを知っているような口調じゃねえか。気味が悪いな。
「本当ならここで休む予定だったんだが、予定変更だな。一応それを持っていてくれ。移動するぞ」
「わかった。でもその前に」
彼女はその死体に手を合わせ、黙祷している。
俺もなんとも言えない感情に包まれ、そうすることにした。
「行こうか」
「ああ」
俺たちは休む場所を求めて再び歩き出した。
まあなぜかあった看板曰くはあまり遠くはないらしいしな。今日中にたどり着けるだろう。
俺たちは傾き始めた太陽を背に歩き始めた。