駆逐艦「島風」出撃す
最近はこれ書くのが楽しくなったのでこっちを火曜日に投稿します。
前日譚のほうもぜひよろしくお願いします。
世界から、抜け出す――
元々僕たちはそうやってこの世界に来たとはいえ、それは自分たちの力ではない。
だからきっと、できることではないのだろう。
僕が考え付く限りでは。
例えば、一回死んでみるとして、それで他の世界に行ける保証はないし、なにより他の世界の「自分」が死んでしまったら元も子もない。
じゃあ、どうするのか?
正直この世界で生き残ろうとするのは無謀だ。
僕たちが生き残っても、後の世代につながらない以上、何の意味もない。
「マスター? どうしました?」
その声を聞いてふと思いついた。この少女、《ラファエル》はちょっと前に、僕の足の速さの「概念」を造り変えた。
もしかしてだが可能性はある。
「なあラファエル。僕を、僕たちを別の世界に転生させることはできるか?」
「……可能と言えば可能ですが、何らかの副作用があるかもしれません」
できなくはない、しかし負うリスクは不明、か。
しかも僕の仮説――赤城さんたちのような、こっちの世界に来ていない人たちが別の世界にいるっていうのが正しいかはわからない。
でも、こっちの世界に来た人たちはみんなあのモンスターに殺されてから来たといっていた。
けれど疑問はある。
どうして、不完全に僕たちを分断したのか。
どうして、このような世界に転生させたのか。
きっと、そこに何か理由があるはずだ。
前に進むか、それともそうしないか。
きっとそれは僕の手の上にある。――困ったことに。生憎だが僕は決断力というものが欠けている。
僕の世代の兵器は少なくともあまり自立はしていなかったからだとは思う。
でも今はやらねばならない。
僕は連装砲を展開し、その表面を撫でる。無機質な冷たさでそれが答える。
迷っていてもしょうがないか。
じっと無言で待っていてくれたラファエルに僕は。
「わかった。僕は、行くよ」
「じょ、冗談、ですよね……? 死んじゃうかもしれないんですよ?」
心配してくれているのか。でもね、
「もともと死んでいた兵器に、何を言うんだい? それに僕は、誰かを守るために生まれた。今の僕にとって守りたいのは、この世界にいる仲間たちと、君だ。だから僕は行く。それが、その選択が間違いでも」
「……ッ……、私は、私はぁ……マスターに死んでほしくないんです。どうしてかは分かりません。でも、自分の心がそう思っているんです、だから――」
最後まで、僕は言わせなかった。
「大丈夫さ。今度はきっと、いや絶対に帰ってくるから。――君だって知ってるだろ? 僕のことをさ。
それに今度は、君たち仲間を巻き込みはしない」
ラファエルが肩を震わせていた。
「……絶対に、帰ってきて、なんて言いません。本当に、いいんですね?」
「当然だ」
正直、この決断はしたくはなかった。
ただの博打だし、失敗したときには全滅が待っている。後悔するかもしれない。
だけど、何もしないで公開するよりは、はるかにましだ。
どうせ貰い物の命、せいぜい散らして見せる。
「頼んだ」
だから僕は、彼女に最高の笑顔を見せた。心配しなくていいように。
効果があるかは知らないけど、そうする以外の方法を僕は知らない。
「さようなら、マスター」
そして光に包まれた俺に向かって彼女は。
懐かしい、あの旗――Z旗をホログラムで俺に見せていた。
感覚が溶け、意識が燃え墜ちた。
さて、どうなる、か、な――
そしてその世界から駆逐艦、「島風」は消えた。