たった一人の「私」
その頃。
「はあっ、はあっ……」
空母「赤城」は一人逃げていた。
例の、伝説上の生き物の龍のような何かから。
十二分に距離を取ったところから仕掛ける。
「艦爆隊、発艦! 目標――やつの口の中!」
鱗にいくら攻撃してもダメージが入らない。
それならもう、体内を狙うしかない。
九九式艦爆から爆弾が投下される。
狙い通り、口の中に命中したらしい。血が噴き出る。
だがそれでもまだ致命傷には至らない。
「まだなの……!? でも、まだ!」
諦めては、ダメだ。
私は、あの子を見て思った。
――最後まであきらめちゃだめだ。何があるかわからないでしょ?
彼の言葉がよみがえる。
私はボロボロになった体を動かす。
きっとあいつだって不死身じゃない。
絶対に、倒せる。
そう確信できる。だから私は、「昔のトラウマ」を乗り越える。
あの、有名な戦いの、記憶を。
直上。
それは人間の超至近距離。
そんなところをガラ空きにすれば狙われるのもわかっている。
でも、だからこそ!
「全機、発艦。――直掩も、攻撃に参加して!」
回避なんて、できるはずもない。
奴の爪が迫る。
「グルルルルァァァアア!」
それが私の体に当たる寸前に、止まる。
本当なら、やりたくない作戦だった。
艦載機に、特攻させてまで自分へのダメージをなくすのは。
でも、そうしないと、勝てない。
「はあああっ!」
空母にだって砲塔はある。
全砲門斉射。
ダメージなどなくてもいい。
一瞬のスキを突く。
竜の口が上空を向いて開いているそこに、爆弾が投下された。
そして――そのドラゴンは、死んだ。
「はあ、はあ……。意外と私、戦えるんじゃないの……」
そう言ったとき、私の意識は途絶えた。
「へえ? 意外と戦えるのね……? でも残念。あなたが頑張れば頑張るほど――」
そこで少女は言葉を切り、微笑む。
まだあの世界の中で生き抜こうとしている「島風」とその仲間たち。
一人で戦い抜く者たち。
それらは皆、私のためにしかなっていないのに――
少女は世界全員の視点を見ながらそう思う。
彼らはそんなことを知らずに生きようと戦っている――