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噂のマモノ育て屋さん  作者: なすたまご
物語のはじまり
5/34

5 真っ赤な木の実と 僕の血と



ウサギブタ(仮)が嬉しそうに僕の周りを走り回ってるのをしばらく眺めていたけど、あぁ、もう限界…。


ぐぎゅるるるるるーー


腹が盛大な音をたてる。ほんと無理。もう歩けない。食べ物ほしいー。これ以上動くの無理だって。

僕は近くの木を背に腹をおさえて座り込んだ。

あー、やっぱこいつ食うべきだったかな?

……おぇぇ、無理だ、やっぱり肉はない。


そんな様子の僕を見たウサギブタ(仮)は足を止め、じっと僕を見た。

そして、ムッと気合いを入れたような顔をして、前足でタシッタシッと2度地面を叩き、フンッと鼻を鳴らした。


こいつ、意外と表情豊かだよなー。すげー眉のとこギュッてなってる。気合い入ってるなー。


なんてことを考えていると、ウサギブタ(仮)は再度地面を2度叩いて鼻を鳴らした。


ん?なんか伝えようとしてる、のかな?


ジェスチャーの意味が分からず首を傾げていると、ウサギブタ(仮)はもう一度だけ先ほどと同じ動きをして、森の中へ走り去っていった。


あぁ、ありがとうとか、もう行くねとか、そんな感じだったのかな?


そうだとすると、野生の動物にしてはかなり賢い気がした。助けてもらったことを理解して感謝を伝えようとするだけの知能があるということだ。


まぁ実際にありがとうという意味のジェスチャーだったのかは謎だけどね。


最初は見た目に驚いたけど、なんだかんだかわいいヤツだったなと思う。愛嬌ある顔してたし。

丸っこいフワフワした体に短い手足。そしてぴょんと立ったウサギの耳にくりくりした目。

食料として見たときは何も感じなかったけど、普通にかわいいなあの生き物。別れる前に抱き上げてもふもふを楽しんでおけばよかったなと思った。


それにしても、これからどうしよう。


腹はまだまだ盛大に音をたてている。何か食べ物を探さなければと立ち上がってみるが、空腹でヘナヘナとその場にへたれこんでしまう。


この世界に来てまだ6時間、こんな腹が減るものなのか?


意外と、ここに来て時間が過ぎているのかもしれない。体感と太陽の高さから見てそのぐらいかと考えていたが、あまりにも腹が減り過ぎている。

もしも前世から腹の減り具合を持ち越しているとしても、立てないほど腹が減るには早い気がする。


今世の僕って、大食いベジタリアン?マジかー、肉食べないからすぐ腹減るんだってー。


はぁーと深いため息をついて、ゴロンと寝転がる。これが一番体力を使わない。空腹も少しは楽になるといいけど。

そのとき、頭のすぐそばにキノコが生えていることに気がついた。

さっきから何度も目にしている、この森のあちらこちらに生えている紫色のキノコだ。


…あきらかに、毒っぽいけど。けど、何も食べなきゃ死んじゃうし…。


こめかみを冷や汗が流れる。

どうせ、何も食べなければ死んでしまうのだ。

それなら一か八か、このキノコを食べてみよう。


…少しだけかじって、明らかにヤバければ吐こう。


そう決意して、キノコに手を伸ばそうとした。

と、そのとき。


何かが、こちらに向かって接近していることに気がついた。

ダダダっと足音を鳴らして走って来ている。


あ、これ、森の獣に見つかっちゃった?


この森にきて、ずっと恐れていたこと。

どんな生き物がいるのかはわからないけど、猛獣系の生き物に見つかったらヤバイ。それはずっと思ってた。


あーおれ、転生して何もせず死んじゃうかも。


そう思って体を起こして音のする方を見て見ると、遠くから黄色いもふもふが走ってきているのが見えた。


さっきのウサギブタ(仮)?戻ってきたのか?


ウサギブタ(仮)は僕のそばまで来て、んぶぅと小さく鳴いた。ウサギブタ(仮)は、何かを咥えていた。

前足を見てみるとしっとり湿っていることがわかった。これはさっき助けたヤツで間違いないだろう。


その、口に咥えてるものって、もしかして…


ウサギブタ(仮)が咥えていたのは、真っ赤な木の実らしきものだった。大きさは僕の頭より一回り小さいぐらいで、キイチゴのように粒が集合したような形をしている真っ赤な実だった。

ウサギブタ(仮)は、その赤い実の房の部分を器用に咥えて運んできたようだ。


こんなでかいキイチゴ、初めて見た…


自然と喉がゴクリとなった。目が赤い実に釘付けになる。

ウサギブタ(仮)はその赤い実を、今にも涎を垂らしそうな僕の膝に置いた。


「食べて、いいの?」


ウサギブタ(仮)は、んぶぅと小さく鳴き、鼻を鳴らした。


あぁ神様。あなたは私の行いを見ていらっしゃったのですね。

情けは人の為ならず。自分の行いに誇りを持ちます。


空腹が限界に達していた僕は、急いでその実を手に取り、思い切り齧りつこうとした。

と、その時、ウサギブタ(仮)が僕の手の中にある実の房を咥えて引っ張り、実を食べることを邪魔してきた。


え?くれるんじゃないの?


僕が驚いてウサギブタ(仮)を見ると、ウサギブタ(仮)は口を大きく開けた。

ウサギブタ(仮)の口には、犬歯に当たる部分に鋭く短い歯が2本生えているだけで、他に歯は生えていなかった。

そして口を閉じて、んぶぅと小さく鳴いた。


これはもしかして、食べさせろって言ってるのか?


するとウサギブタ(仮)は、僕の目を見ながら赤い実をタシタシと軽く叩いてフンと鼻を鳴らして、また口を大きく開いた。2本の歯が姿を覗かせる。そして口を閉じ、んぶぅと鳴く。


まただよ。謎のジェスチャー。全然わからん。


とりあえず、赤い実をウサギブタ(仮)の口元に近づけてみると、ウサギブタ(仮)はフンフンと鼻を鳴らすだけで実を食べようとはしなかった。


んー、よくわからないけど、こいつは食べないみたいだし。もらっちゃっていいのかな?


試しに実を自分の口元に近づけ、大きく口を開けて食べようとしてみた。すると、ウサギブタ(仮)は嬉しそうにぴょんと跳ね、んぶぅと鳴いた。


あ、これはもう、食べていいってことだね。


ジェスチャーの意味はわからないけど、とりあえずこの実は食べていいらしい。きっと、僕が腹をすかせていることに気づいて、取ってきてくれたのだろう。


なんて優しいヤツなんだ…可愛くて賢くて優しいなんて、最高の生き物だなこいつは。


こうなるともう遠慮する必要なんてないだろう。

僕は手の中にある赤く輝く実に思い切り齧りついた。

何度も何度も噛みながら、実の味を堪能する。

噛むたびに甘い果汁が溢れ、微かな酸味とともに口の中いっぱいに広がる。

手元の赤い実からも果汁が垂れ、僕の手をその果汁で濡らしていった。


ん〜〜〜〜うっまい!!!うますぎる!!!


今までの人生で、こんなに美味しい果実を僕は食べたことがない。

それはもう食べることの幸せを噛みしめるように、口の中に広がる味を逃がさんと何度も何度も口を動かした。


いやー素晴らしいね、食べることってのはほんとに素晴らしい!こんな美味しい果実をこいつはどこから拾ってき…


がぶっ


「えっ」



僅かな痛みを感じて自分の腕を見ると、ウサギブタ(仮)が僕の腕に噛みついていた。

突然の出来事に驚いて固まってしまう。

ウサギブタ(仮)はそのまま、ちゅーちゅーと血を吸い始めた。僕の腕から、僕の血を。


……。





えぇぇぇーーー!!??




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