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噂のマモノ育て屋さん  作者: なすたまご
物語のはじまり
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4 初めて目にする ウサギブタ(仮)



僕は今、謎の生物と目が合った状態で固まっています。30秒ほど両者姿勢を崩さず、見つめ合ったまま動きません。

いや、僕の場合は動かないのではなく、驚きと若干の恐怖で動けなくなっているだけなんですが。


な、なんだこいつ。ウサギの耳がついてるのに、ブタっぽい鼻…?なんだこの生き物!?


見たことのない生き物を目にして固まっている僕を、そいつはじっと見つめてくる。しかし、そいつは全く動かなかった。

と思っていたが、よく見るとかすかに体が震えているのがわかった。小刻みにガタガタと体を震わせている。


こいつもしかして、食べられそうだって分かってるのか…

うわー、なんか僕ってすごい悪者…?


いや、世界は弱肉強食。弱いものが強いものの糧にされてしまうのは世の常。僕は悪くない、僕は悪くない…。

そう、背に腹は代えられない。僕は何かを食べなければならないんだ。これはしょうがないこと、目を瞑ろう。


既に空腹でお腹はぎゅるぎゅる変な音を立てているし、結構立ってるのもしんどい。あーもうだめ、早く何か食べたい。

よしっ、と心を決めて、ウサギブタ(仮)を捕まえようと身を構える。それを察してか、ウサギブタ(仮)は怯えるようにより一層身を震わせ、縮こまっている。


と、ここで、あることに気づく。


…んー、いやいや、でも食べなきゃだし、うぅ、いやがんばれば、いやいや…


目の前に肉があるのだ。いくら見たことのない動物だからって、そこらへんの変な色したキノコや木の実を食べるより、何倍もいいはずだ。それにブタっぽい鼻がついてるし、以外と豚肉のような味かもしれない。

…そう、食べたほうがいいに決まっている、んだが…。


「だめだ、こいつを食べるイメージが湧かない」


そう、僕は目の前の動物を食べるというイメージが全くできないでいる。

僕はこいつのどこを食べるんだ?毛?いやいや、耳?いやいや、鼻?

頭の中で、肉!肉!と騒ぐ理性がいる。そいつの肉を食え!と叫んでいる。


・・・・・・・・・おえぇぇ


だめだ、どうしても、だめだ。僕がこいつの肉を食べるなんて、ありえない。なんだ肉って。食い物じゃないだろそれ。

想像するだけで、喉に胃液がこみ上げてきそうなほどの吐き気がする。脂ののった柔らかい肉を、歯で食い破り、その汁をすすり、ぐちゅ、ぐちゅ…って、ぎゃー!無理無理!


自分の中で、感情と理性が喧嘩を始める。


腹が減ってんだ!食えよ!死にたくないだろ!お前の好きな食べ物はから揚げだろ!


だー無理無理無理!絶対に無理!肉なんて食えるわけないだろ!!却下!あんなの口に入れられるわけない!!絶対拒否!


そ、そんなに…?仮に僕が前の世界からこの世界に転生して来たのだとして、生まれ変わった僕はそんなに反肉食主義者なの?ベジタリアン?うっそー、僕が?信じられん。

しかし、どうがんばって想像してみても、ウサギブタ(仮)の肉を美味しくいただける自信がない。


はー、とため息をついて伸ばしかけていた手を下ろした。


「駄目だ、食えないよ、無理だ」


お手上げ、というように肩を上げる。この生き物にもそれが伝わればいいなと思いながら。もう食べる気はないですよー。安心して逃げてくださいねー。という意を込めて。

すると、ウサギブタ(仮)は安心したのか、体の力をすっと抜き、ふんっと小さく鼻を鳴らした。しかし、そいつは全く逃げるそぶりを見せず、何やら自分の前足をじっと見つめ始めた。


ん?こいつ、足ケガしてないか?


ウサギブタ(仮)が見つめる前足の部分を見てみると、黄色いはずの毛が赤く染まっていた。ウサギブタ(仮)は、両前足に怪我を負っていた。血がまだ止まっていないところをみると、怪我をしてそんなに時間が経っていないのだろう。


だから僕から逃げなかったのか。足が痛くて、動けなかったのか。


ウサギブタ(仮)は、僕が食べられないことを理解したのか自分の足だけを見つめている。そして、地面に傷口をぐりっ、ぐりっ、っと押し付け始めた。


「な、なにしてるんだ!そんなことしたら…!」


まだ血が流れている傷口をわざわざ刺激するなんて、何をしてるんだこいつは!慌ててそいつの動きを止めようと体を押さえつける。急に掴まれて驚いたのか、ウサギブタ(仮)は体をビクっと震わせて僕の目を見てきた。その目がどこか悲しそうで、しかしもう諦めているように見えた。

どうぞ、私を食べるといいでしょう、と言っているみたいに…。


僕は、急いで前足の傷口を見た。あんなに押し付けると傷口が抉れてしまうだろう。

そう思って、傷口をみた僕は驚きに手を止めた。よくみると、傷口をいくつもの小さな泡が包み、しゅわしゅわと小さく音を立てていた。そして、その傷口が、ゆっくりではあるが、徐々に徐々に塞がっていく。そして、傷口の4分の1が塞がったころ、泡は消えた。


なんだ、今の泡…あれが傷を治してた、よな?


どういうことなんだろう。傷口が泡立って治る?わけがわからない。何がどうなって…っと考えている時間もない。まだ傷口のほとんどは塞がっておらず、血も流れ続けている。ウサギブタ(仮)は諦めたように、耳を垂らして大人しくしている。


僕は医学の知識なんてない。ましてや、動物も飼ったことないから怪我をしたらどうしたらいいのかも全くわからない。止血?何かで縛ればいいのか?いや、縛らない方がいいんじゃないか?どうしよう、どうしよう。痛そうだ。このままだと死んでしまうんじゃ?


僕が何もできずにあたふたしていると、しゅわしゅわという音が小さく聞こえた。音のなる方を見てみると、そこはさっきウサギブタ(仮)が足を擦りつけていたところだった。そこにあった、地面に生えた草の葉の表面が泡立っていた。

それを見た僕は、咄嗟に隣に生えた同じ草を地面から引き抜き、葉を1枚ずつ分け、その葉でウサギブタ(仮)の傷口を覆うように、両前足に巻き付けた。

もしかしたら、見当違いかもしれない。けど、何の知識もない僕にはこれが傷を治してくれる葉だと信じることしかできなかった。


すると、不思議なことに、足に巻き付けただけの葉はピタッと傷口に張り付き、しゅわしゅわと音を立てながら足を泡で覆っていった。

ウサギブタ(仮)は、体をぴくぴくと小さく震わせた。

焦る。これは薬なのか?毒なのか?使い方が間違ってる?でもさっきみたいに擦りつけてたら傷口が治るより抉られて広がっていく方が早いはずだ。


がんばれ、がんばれ、がんばれ。


そう念じながら、葉っぱの上から優しく前足をおさえる。血、止まってくれ。止まってくれ。


そのまま暫くすると、泡の音が消えてぺりっと足から葉が剥がれ落ちた。葉は萎びたように水分を失っており、赤く染まっていた。

葉が剥がれた後の傷口を見ると、傷はすっかり治っており、毛についていた血もとれていた。どうやらこの葉は傷を治すだけではなく、汚れを落とす効果もあったらしい。


よかった!やっぱりあの草は薬だったんだ!

残り傷がないか細かく確認して、ウサギブタ(仮)を放す。ウサギブタ(仮)は足の具合を確かめるようにぴょんぴょんと2度跳ねた後、嬉しそうに んぶぅ と低めに鳴き、僕を中心に円を描くように走り出した。


はは、嬉しそうでよかった。


こうして僕は、食べようとしていた見たことのない生き物を救ったのだった。


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