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噂のマモノ育て屋さん  作者: なすたまご
物語のはじまり
3/34

3 ウサギの耳と ブタの鼻



はぁーーー


そんなこんなで森の中を歩き回って体感6時間ほど。最初の1時間こそ自分がここにいる理由が分からず混乱して森の中を走り回ったり大声を出して助けを呼んでみたりしてみたが、今はもう割と冷静でいる。ただただ森の中を歩いて出口を探している。

無駄に走り回ったり大声出したりしたせいで、余計な体力を使ってしまった。そのせいで、体が訴えてくる空腹感に苦しめられている。


「腹へったぁ…」


ぐるぐると鳴り続ける腹を擦りながら辺りに食べるものがないかきょろきょろと探してみる。

大きな樹、地面に生えた短い草、岩に生えたコケなどはあちこちにある。

それらの中でも、怪しいものもいくつか発見している。

木の根元に生えているぼこぼこした紫色のキノコ、背の低い木に実った赤と黄色をごちゃ混ぜにしたような配色の木のみらしきもの、どれだけ目を擦ってももそもそと移動しているようにしか見えない花。


「なんなんだここは…なんなんだここは…」


いくら空腹だとはいえ、明らかに毒がありそうなものは口に入れる勇気が出ないし、なんだかあり得ない動きをしている花とかはもう無視をすることにする。

いや、なんとなくそうじゃないかとは思ってたけど…

ここ、僕が知ってる場所のどこにも当てはまらないんだよねー。んでもって移動する花とか見たことも聞いたこともないんだよねー。

なんてことを思っていると、また目の前を移動する花が通った。

見た目は普通の花なのに、体(茎)を前後に揺らしながら、せっせと土をかき分けながら進んでいる。

今回は、大きめの花の後ろにまだ蕾をつけたばかりであろう小さいやつらが続いている。

まるで、子ガモが親ガモの後ろについてまわるように。


「これは、異世界ってのに来ちゃったかなぁ…」


ネットで何かと話題になっていた異世界転生。最近になって同じような内容の小説やら漫画やらが大量に出てきた。

僕はひとつも読んだことはなかったけど、有名なアニメをひとつ見たことがある。

あの時は、こんなことあるわけないよなーでも面白そうだなーぐらいに思ってけど。


はああぁぁぁ、なんで僕を転生させちゃうかなー。


周りはよく知らない森の中にいるし、見たこともない植物がいる。けどそれはまあ百歩譲って、別の国の奥地にある人間がまだ手を入れていないジャングルに突然ワープしてしまった!って考えることもできる。(この時点でもうおかしいけど)


けどなー、自分の体が変わってるんだよなー


そう、それだけはどう頑張っても説明がつかない。一瞬で拉致された、遠い森に捨てられた、ワープした、とかがあったとしても、これだけは説明がつかない。

全く知らない子どもの体で、全く身に覚えのない場所にいる。


んー、転生、にしてもおかしいよな…

転生するなら赤ん坊の姿になるはず、だよな。けど、僕は子どもの体ではあるけど、赤ん坊ってほどでもない。せいぜい10歳かそれよりちょっと上かぐらいのはずだ。体をぺたぺた触って確かめただけだから、もしかしたら顔だけおっさん顔とかもありえるけど。え、なにそれきもっ。


あーーーー、もうわからん!知らないことについて考えても何もわかりません!


もう面倒だ。考えても考えてもわからない。というか、6時間ほど考えた結果他に何も浮かばないんだから、今はもう転生してしまったって考えていいだろう。それにこれ以上頭を使い続けるのも、腹が減るだけな気がする。


「うぅぅぅぅ、食べたい食べたい早く食べたい、握りこぶしふたつ分ぐらいのオレンジに齧り付きたい。リンゴを丸ごと口に入れて思いっきりかみ砕いてその全てを腹に入れたい。もうブドウぐらいのサイズなら丸のみでもいい。くそっ、転生なんてしなけりゃから揚げ弁当のレモンも食べれたのに…」


だめだ。腹が減るとついイライラしてしまう。今体が全力で欲しているもののことを考えるだけで、口の中の唾液がドバっと溢れてくる。この唾液の量はレモンの酸っぱいもの効果もあるかもしれないが。


…あれ?僕って、そんなに果物好きだったっけ…?


ふと、さっきから頭に浮かぶ食べ物が果物しかないことに気が付く。

いやいやいや、僕が好きな食べ物はから揚げだっただろ。あの噛んだら溢れてくる肉汁に今まで散々魅了されてきて…


おえぇぇぇ


な、なんか気持ち悪い。なんだろうこれ。なぜか大好きのはずのから揚げを思い浮かべると吐き気がする。あんなに魅力的だったはずの溢れる肉汁が、物凄く気持ちの悪いものに思えてしまう感覚。


人間って、腹がすきすぎるとああいう重たい食べ物は食べたくないものなんだな…


なんか若干のショックを得たけど、そんなことはどうでもいい。何か食べるものを探さなければ…。

何でもいい。食べるもの…食べるもの…。



そんなとき、視界の端になにやらもそもそと動くものを見つけた。それは、木の陰に隠れていてよく見えなかったが、なにやら全身を毛がもふもふに覆っている小動物のように見えた。あちら側を向いているせいで頭部が見えないけど、大きさはウサギほどだった。


あ、耳見える。あれウサギの耳…だよな?


その小動物は全身が黄色の毛に覆われていたため一度見ただけではウサギには見えなかったが、大きな長い耳が付いているのが見えた。

ウサギ。ウサギかぁ。んー、生で食べれないよなぁウサギ。捌いたりとかできないし。というか特別狩りをしたり家畜を飼ったりしてない現代っ子が生き物を殺してその身を捌く…とかほんとに無理。グロすぎです。なんかウサギ食べるってかわいそうだし。ウサギの肉って食べた経験ないし。


でも今何か食べないとほんとに…動けなくなるって、マジで。


そんなことを考えつつ、その黄色いウサギに気づかれないようのっそりのっそりと近づく。

ウサギは音に敏感だと聞いたことがある。あの大きな耳で周りの音を集め、物音がしたらすぐ走って逃げるそうだ。

けどこのウサギは僕がここまで近づいても気づいた様子がない。なにやらもそもそ動いてはいるが、立ち上がる様子もない。


もしかしてコイツ、寝てるのか?


これはチャンスとばかりに、ゆっくり気づかれないようどんどん近づいていく。

黄色いウサギ、食べれるかなんてわからない。とりあえず捕まえてみる。それから考えよう。

ウサギに気づかれないよう、背後からそろりそろりと近づいていく。

ウサギまで、あと30メートル…15メートル…5メートル…1メートル…

もう手を伸ばせば届く!といういうところで、はい、やりました。

右足を出した先に細い枝が落ちていて、見事に踏んでしまい、ピシッと耳障りのいい音が聞こえた。


ああもうっ!そういうとこ!昔っからそうだこのベタやろう!


心の中で自分に向かって罵声を浴びせながら、体の動きを止める。ウサギは先ほどよりも大きくもぞもぞと動いた。


これは、気づかれたか・・・?


そして、ウサギがこちらに顔を向けた。




…いや、それはウサギなどではなかった。

ウサギのような大きさで、ウサギのような耳を持っているだけだったのだ。

こちらを向いたソイツの顔には、くりくりっとした可愛らしい目が2つと、ブタの鼻がくっついていた。




え、ナニコノイキモノ



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