5 新しい仲間
そう、ファンタジーと言えば勇者。そして勇者と言えば魔王。
ゲームのような異世界ならば必ずと言っていいほど登場するものだ。
やっぱり、この世界にもいるんだな、魔王!
「魔王…?おいらはその話、初めて聞いたねぇ。」
えっ?みんなが知ってるもんじゃないの?
魔王なのに知名度が低い?そんな人望なかったの?
「私も詳しく知っているわけではないわ。妖精王様が話しているのを少し聞いたことがあるだけよ。知っているのは、大昔に魔王が死んだことと、その配下に十魔人と呼ばれる強力な魔人が10人いて、ハンゾウ様がその1人ってことぐらいね。」
なんと、あの博識のノウミィですら魔王の名前も知らないとは…。
魔王と言えば全魔物を従える存在で、恐ろしく強力な魔法を使い、桁外れの体力と耐性を持っていて、生半可な攻撃じゃ倒すことができないという、誰もが恐れるものなんじゃないのか。
くそっ、なんか期待しちゃったのに。大昔に死んじゃっただけじゃなく、現代まで語り継がれるほどの功績も残していないなんて。大したことないな魔王ってやつは。
「ハンゾウ様は、元はナーガ族という獣人だったけど、より強力な魔人へと進化して今の姿になったそうよ。私も直接お話ししたことはないけど、妖精王様とお会いしているのを何度か見たことがあるわ。」
ノウミィ曰く、ハンゾウという蛇の魔人は、口元を黒い布で覆った、長身のすらりとした男らしい。蛇の魔人と言っても、下半身が蛇であったりはしないようだ。
「私たちは、まだハンゾウ様のことを諦めていません。ハンゾウ様は必ずこの森へ戻ってくると信じています。」
「他の連中は森の外へ行ったが、森の外は何があるかわからねぇ危険な場所だ。無闇に森を出るよりも、ハンゾウ様の帰りを信じて待つ方がずっといい。」
なるほど。確かに、ハンゾウがこの森に戻ってきた時、誰もいなくなったこの森を見るとショックを受けるだろう。
ハンゾウが戻ってきた時のために、事情を説明できるよう誰かが残ったいた方がいいかもしれない。
けど、今の森の中の魔物は凶悪な害獣がほとんどで、僕たちが1ヶ月ほど過ごしている間に一度も他の魔物に出会わなかったところを見ると、弱い魔物は本当に極少数なのだろう。そんな状態だと、肉を必要とする彼らはなかなか生きていくのが厳しいんじゃないだろうか…。
もし僕らで手助けできることがあれば、そうしたいところだけど。
「あ、でも、君たちってチョコの実を食べれば肉を食べずに済むのかい?」
後ろに積まれているチョコの実を指差しながら聞いた。
…って、あれぇ!?チョコの実、あんなに少なかったっけ?毎日ノウミィが収穫してくれていたから山積みにされていたはずだけど、今はその山が半分くらいになっていた。
こいつら、遠慮なく食べていいとは言ったけど、本当に容赦なく食いまくったんだな。いや、いいんだけどさ。
けど、コツコツ貯めていた実を一回の食事で半分まで減らすなら、チョコの実だけで食べていくのは難しいだろう。
「いや、おいらたちは肉と野菜と果物をバランスよく食ってたんだ。毎日全部食わないとすぐ倒れる、なんてことはねぇが、ずっとこの実だけってなると生きてはいけねぇな。」
なるほど。それもそうだ。
ブゥが血を、ノウミィが土を食べる生き物だったから、つい当たり前のことを忘れていた。
バランスのいい食事。これをしっかりしていないと丈夫な体は作れない。
ん?待てよ。そしたらぷつぷつの実しか食べてない僕って相当まずいんじゃ…?
いやいや、この森に来てからあれしか食べてないけど、体には異常がないんだからきっと平気だろう。
これもきっと、転生者の特典なんだろう。ってことにしとく。
まぁ僕はそれでもいいけど、コボルドたちはそうもいかないってわけだ。
んー、だとしたら尚更、肉を集めるのが難しいな。野菜はノウミィに頼めばなんとかなると思うけど…。
「あ。それなら、モグロースを食べたら?あなたたち、モグロースの肉は食べられる?」
ノウミィが何かを思い出したように言った。
モグロース?なんだそれ、初耳だ。
コボルドたちも、モグロースが何かわからないようだった。
「ノウミィ、モグロースってのは一体何なんだい?」
「私の畑に悪さをする魔物、所謂害獣ね。土の中に生息していて、植物の根や実を食べて生活しているの。知能が低く、他人の畑のものを食べてはいけないということが理解できないから、あらゆる場所にある植物を食い散らかしてしまうのよ。体は小さいけど数は少なくないから、もし食べられるなら食料には困らないんじゃないかしら。」
私も退治するのに結構苦労しているの、とノウミィがため息を吐いた。
知らなかったな、そんな魔物がいたなんて。
だとすると、ノウミィは土に潜りながら魔物と戦ったりしていたってこと?
土の中で戦うって、どうやってるんだろう、ノウミィ。…ちょっと想像できないな。
「そ、そんな害獣がいるとは…。そういえばおいらたちの集落の畑でも、野菜がたまに原因がわからねぇまま枯れてしまうことがあったが、そのせいなのか?」
「私たちはその害獣の存在を知りませんでした。もしかしたら、その肉を食べられるかもしれませんが…。既に命を助けてもらい、食べ物まで恵んでいただいたうえに、更に私たちのために狩りをしてもらうなどと…。」
コボルド達が申し訳なさそうに体を縮めている。まぁ、今夜殺して食おうとしていた相手に親切にされすぎたら、そりゃあ居た堪れない気持ちになるだろうな。
けど、外に出てもまた食料事情に苦しむことがわかっているのだろう。なんだかソワソワしている。
お?これは、行けるやつなんじゃないか?これってつまり、「コボルドの家族が仲間になりたそうにこっちを見ている」ってやつ?
魔物マスターを目指す僕の頭がそう閃いた。こんな絶好のチャンス、逃すわけにはいかない。迷わずゲットだぜ!
「もしよければ、僕たちと一緒にに暮らさないかい?」
コボルドたちは嬉しそうな顔を僕に向けてきた。3人とも尻尾をブンブンと降り出す。
わ、わかりやすいやつらだな、こいつら。
とりあえず、一緒に暮らすということについて説明する。
まず、全員で助け合って生活していく、ということが大前提。最も大切なことだ。
ただ僕たちが食べ物を与えるのではなく、それなりに働いてもらう。それが僕たちと暮らすための1つ目の条件。
次に、害獣の警戒を父親のコボルドには行ってもらいたいということ。これも重要だ。
僕たちは今まで凶悪な害獣とやらに会ってこなかったけど、いつ出会ってもおかしくない。今そんなのに出会ったら僕たちなんてすぐ殺されてしまうだろう。
けど、このコボルドは集落の中でも最も腕の立つ戦士だと言うし、結構な戦力になるだろう。今はまだ無理でも、ブゥやノウミィがもう少し成長してくれればもしかしたらその害獣を倒せるかもしれない。
ということで、僕らの用心棒的な、そんな仕事をしてもらうというのが2つ目の条件。
あとはー…んー、何かあるかな?
人数も増えることだし、生活に必要なものも増えるだろう。眠るためのベッドや水を汲むバケツなど、物作りも積極的に手伝ってほしいな。
んー、他に条件、条件…。
あ、大切なことがもうひとつあった。むしろこれが一番協力してほしいことだった。
3つ目の条件は、トレーニングをしてもらうこと。
僕の夢は魔物マスター。強力な魔物を育て上げ、そいつらと旅をするそんな人間になることだ。
それを叶えるためにも、こいつらにはトレーニングをしてもらいたい。もちろん、僕の血を飲んでもらうことになる。
「血…?なんで血なんか飲ませるんだ?」
おっと、そうだった。僕の能力のことを話すのを忘れていた。
僕は、僕とブゥとノウミィのことを話し始めた。
僕が気づいたら森にいたこと、ブゥやノウミィと出会い一緒に暮らすようになったこと、僕の能力のこと、そして、僕の目標のこと。
「なるほど。それであんたらは種族も違ぇのに一緒にいたのか。初めて見たときは何の間違えだって驚いたよ。」
「それにしても、血を飲ませて成長させるなんて聞いたこともない能力です。しかし、そこのラビット族が夫を圧倒するほど強いということは、その話は嘘じゃないのでしょうね。」
コボルドたちは驚いてはいたが、僕の話を信じてくれたみたいだ。特に怪しんでいる気配はない。
子どものコボルドは、キラキラとした目をして僕を見ていた。
「冒険!すごい!僕も冒険したい!連れて行ってよ!」
尻尾を左右にブンブン振りながら、興奮したように鼻息を荒くしていた。
いやーわかるよね。男の子だったら冒険のロマンが。
もちろん、と言って頭を撫でてやると、嬉しそうに飛び上がった。まぁ、まだまだ冒険するのは先になるんだけどね。
「と、いうわけで。僕らは森の中、それに森の外へと冒険するために、日々トレーニングしているんだ。君たちはハンゾウっていう魔人が戻るまでこの森にいるんだろう?僕たちもしっかりと力をつけるまでこの森にいるつもりだから、君たちも一緒に僕たちと暮らさないかい?」
コボルドたちは一度顔を見合わせた後、3人とも頭を下げた。
「「「よろしくお願いします!!!」」」
こうして、僕らに新しい仲間が加わった。




