1 初戦前夜
どうもお久しぶりです。僕です。俊太です。
僕が「血を飲ませて成長を促す」という能力を使ってブゥとノウミィにトレーニングさせるようになって、約1カ月が経ちました。時間が流れるのは早いものです。
「はい、これが実が大きくなる分、実がなるまでに時間がかかっちゃうもので…えーっと…これが、実は小さいけど一日ほどで実ができるものね。」
ノウミィが、僕にひとつひとつチョコの実を手渡しで渡してくれる。僕の手には、大きいチョコの実と小さいチョコの実が手に握られている。
「実をつける速さと実の大きさ、どちらも充実させるのはまだ難しいわ。もう少し実験を続けるわね。」
そう言ってノウミィは肩を竦めた。
現在ノウミィは、土をいじる能力を使って畑の植物で実験を繰り返している。
今もらったチョコの実以外にも、ワタワタ草の綿の吸水性を変えてみたり、ペタペタ草の葉の大きさを変えてみたり、薬草をより酷い怪我も治せるよう薬効を高めてみたり…。そういったことを目指して土いじりに精を出している。
まだ今のところはあまり成功していないんだけどね。
けど、土をいじることによって生えてくる植物を変化させるなんて、とんでもない能力だ。以前はただ成長を速めるだけだったのに、この1カ月でノウミィ自身が成長して、能力を使ってできることが増えている。
この1カ月で、ノウミィは花の中で丸一日眠って自分を成長させるアレを、2回もやっている。
ノウミィが使える能力は、土をいじって土中の栄養を調整する能力、土の中を自由に移動できる能力、微量の土を操る能力だ。基本的に使える能力は変わっていないが、それぞれの能力が強化されている。
今では地上で飛び回って移動するより土の中を移動する方が素早く動けるらしい。息継ぎも5分ほどしなくても土の中で行動できるようになった。得意の土いじりも植物の効果に影響を与えられるほどになっているし、以前のように長く時間がかかることもない。種ひとつ分くらいなら10分程度で土を整えられる。それに、操れる土の量もだいぶ増えた。前まではビー玉ぐらいの土しか操れなかったが、今では野球ボール2個分の大きさぐらいの量の土を同時に操れる。
この土を操る能力、今後の成長が最も楽しみな能力だ。土を自由に操れるということは、魔法使いお馴染みの初級魔法「ファイヤーボール」の土バージョンが出来ちゃうってことだ。
一度ノウミィに、土を球状にして木に向かって打ち出してもらうと、土はベチャっと音を立てて木を汚した。やはり火の球とは違って破壊力は全くなかった。
けど、そこでノウミィが提案したのが、土を操りながらその土の性質を変えて、硬い土の球にしたらどうか、というものだった。そんなことが出来るのかと驚いたけど、冷静に考えると洞穴の硬い地面をフバフバに柔らかくできるんだから、その逆が出来てもおかしくはないかと納得した。
今までノウミィの能力を植物関連にしか使わなかったからなー。
ノウミィはまっすぐ左手を木に向けて伸ばす。すると、地面からノウミィの掌に土が集まっていく。さらに集まって出来た土の球に右手をかざし、土の性質を変化させ、硬くしていく。十分硬くなった土の球を思いっきり木に向けて射出すると、なんと土の球が木を削りながら幹にめり込んだ。凄まじい破壊力だ。
…が、まだまだこの技は実用的ではない。土を硬くするのに時間がかかりすぎるからだ。土を集めてから土を硬くするまでに、1分ほど時間がかかってしまう。もし敵との戦いで使おうとしても、その前に敵に叩かれてしまう。
もう少しノウミィの能力が成長すれば、瞬時に土を打ち出せるようになるだろう。期待に胸が膨らむね。
うん。ゲームのように一定のレベルになったら新しい技を覚えるんじゃなくて、使える能力から新しい技を自分たちで編み出していくこの感じ。すごく、楽しいです。
最初のうちは、ノウミィが敵と戦うってことがあまり想像できなかったけど、意外と強くなりそうな予感がしてきた。
ゆくゆくは、地震を起こせたり、敵のいる地面に大きな穴を開けたり、土のゴーレムを作ったりできるんじゃないか…?
いやはや、土の妖精、侮れませんね。
これからもっともっと成長してくれることを心から楽しみにしていますよ。フフフフ。
そんなこんなで、能力を成長させたノウミィだけど、体の大きさは前と変わらず20センチのままだった。どうやら、成長する度に毎回体が大きくなるわけではないらしい。
ノウミィが最大でどのくらいまで大きくなるのかは分からないけど、この調子だとまだまだ小さな妖精のままだろう。
ま、今すぐどこかに攻め込むなんてことも考えてるわけじゃないし、そんなに焦る必要もないだろ、と僕は思っている。
まだまだ草むらでのレベル上げ。ボスに挑むのはまだ早い。確実に勝てるようになってから戦闘する。これが僕のやり方だ。
ブゥやノウミィに戦ってもらうことになるのはまだまだ先のこと。
それまで焦ることはない。ゆっくりじっくり育てて行こう。
「ノウミィ、そろそろ洞穴に戻ろうか。ブゥと一緒にぷつぷつの身を取ってきてくれるかい?」
ブゥはこの1ヶ月間でだいぶ足が速くなった。今ではぷつぷつの実の森と洞穴を往復30分ほどで行き来できる。最初の頃と比べると、倍ぐらいの速さだ。
ブゥはまだ子どもらしいから、きっと成長期ってことなんじゃないかな。そうだとすると、今がとても大切な時期だ。
今日も満足するまで僕の血を吸わせてあげよう。
「君たちが戻ってきたら、昼ごはんにしよう。気をつけて行ってきてね。」
この時の僕は、この世界では、ゲームのように物事が思い通りに進むもんだと勘違いしていたんだ。
この世界の厳しさなんてこれっぽっちも理解していなかった。
・・・・・・・・・・
は、速い。速すぎる。
あのラビット族の子ども、どう考えても足が速すぎる。何度も見失いかけて、ギリギリ後を追う事ができた。
確かに、ラビット族は足の速い種族として有名だ。しかし、まだ子どもであそこまで素早く動けるラビット族は見た事がない。もしかしたら、それもあの妖精の能力なのかもしれない。
「ここで夜まで待とうかねぇ。あの妖精さんが何をするかわかんねぇし、それに、人間もいやがる。」
そう、ラビット族の子どもの後を尾けると、住処であろう洞穴についた。洞穴の入り口には、青いローブに身を包んだ人間の子どもが立っていて、ラビット族と妖精を出迎えていた。
きっと、あの赤い実はあいつが食べるものだったんだろう。
「けどあなた、何でラビット族と妖精と人間が一緒にいるの?…何か、悪い予感がするわ。」
その通りだった。異なる3つの種族が共に生活しているなんて、冗談にしても笑えない。ラビット族は臆病で他の種族に会えば逃げるはずだし、妖精はそもそも姿をあまり見せない。それに、人間といえば何かにつけて魔物を討伐したがる種族だ。
とても協力して一緒に暮らせるとは思えない組み合わせだ。
それでも、おいらは首を横に振った。
「仕方ねぇ。こいつらを逃したら次はいつ食べ物にありつけるかわからねぇんだ。人間と妖精は放っておいて、ラビット族だけを仕留めよぉや。」
夜。夜が勝負だ。
あの妖精が眠ってから、静かに洞穴へ侵入して一発でラビット族を殺して連れ帰る。静かにことを進めなければいけない。人間は子どものようだし問題はないだろうが、妖精を起こされたらたまらない。音を立てないことが重要だ。
「お前らはここで待っててくれ。夜になったらおいらが仕留めに行く。もしもおいらが戻ってこなけりゃ、その時は」
「やめて、あなた。それ以上は言わないで。」
妻が、鋭い視線を向けて言った。
「あなたは絶対戻ってくるわ。私たちのもとに、ラビット族を捕まえて。失敗なんてしない。そうでしょう?」
妻は視線を逸らして、静かに言った。声が震えているように聞こえた。
そばで息子が心配そうな顔をしていた。
「ははっ、間違いねぇな。おいらは絶対戻って来るよ。」
安心させるように、息子の頭をぐりぐりと撫でた。
・・・・・・・・・・
「ブゥ、今日は休みだったけど、明日からまたトレーニングがんばろうな。」
ブゥの頭をぐりぐりと撫でると、嬉しそうに鳴いた。
ブゥの体はこの1ヶ月間で少し大きくなった気がする。と言っても、そんな気がするってぐらいで、まだまだ可愛い小動物だけどね。
「おやすみ、ブゥ。」
ブゥが眠りにつくまで頭を撫でてやる。もふもふとした感触に心を癒されながら、僕もウトウトし始める。
ブゥが寝息を立て始めたのを確認して、僕は瞼を閉じた。




