名乗る
少女は少年の言葉を待つ。銃をおろしているが、安全装置は外れたままだ。
少年は一抹の不安を感じながら少女と目を合わせる。そして言った。
「俺はベンジャミン。ベンって呼んで」
「ベン?三か月前自爆特攻した馬鹿と同じ名前……」
少女が呟いた。ひどい内容にしては声が弾んでいる。
それからブツブツと独り言が続いて、少年は肩をすくめた。
「それで?君の名前は?」
少女はハッとしたように体を震わせた。それから名乗るべきかどうか悩んだが、気分がいいのでファーストネームくらいは教えてやってもいいと心の内で思った。
「オリビア。あたしはオリビア。ベン、聞かせてくれる?死んでいない理由を」
「簡単だよ。君は心臓を撃った。俺は撃たれることを想定していたわけだ。それはだれでも同じ。だから心臓部を守ることに特化した防弾チョッキを着ているってわけ」
「私の銃は何でも撃ち抜く最強の銃よ?」
「俺の防弾チョッキはなんでも防ぐ最強のチョッキだから」
少女、オリビアは目をまんまるに開いた。その目は輝いて見える。
「すごいわね。じゃあもう一回あたしが撃つから防いでみて」
「いいや、それはさすがに危険だよ。必ず成功するとは限らないから。死んじゃうよ、俺」
「そのほうがあたしの得なんだけど。それに死んだらそれなりに綺麗に埋めてあげるし」
「確かにそうだけどそうじゃない」
そこでベンはオリビアの言葉を思い出した。
『それはあたしの夢よ』『あんたを殺してその後にあたしも死ぬ。これで人類は滅亡よ』
なぜ、どうしてこんな小さな少女がそんな夢を抱いているのか。
知りたかった。
ベンは手を叩いて誰の目も気にせず大声でオリビアに言う。
「あ、そうだ!残り少ない人類でお互いのことを語ろうっていいたかったんだ。いいだろ?」
「そんなことをして何の得があるっていうの?教えて」
「えっと…それは…ああ、なぜ人類を滅ぼそうと思ったのかを知らせておけば、どっちが先に死ぬか決めやすいだろ?」
オリビアは依然無表情だが、首を傾げた。考えている時の癖らしい。首を戻して、言う。
「そうね。とってつけたような理由だけど、悪くはない。いいわ。話す。でも言い出しっぺのベンから話すのよ」