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第8話 『満月』

「兄が、不老不死に興味を持ったのはおそらく母親の事がキッカケなのでしょう。兄は母が大好きだったのです。代々霊界師の家系である小村丸家では、長男である兄に対して父は特に厳しく接していました。そんな時に母は、兄のことを優しく励ましていたのを幼かったわたしも記憶しています。」


「今、お母様はどうされているのですか?」ミツキが言った。


「母は、亡くなりました。兄と薬草を取りに行っている時、崖から沢に転落したと聞いております。兄は、当時治癒の術式を知らず。母は、兄の目の前で冷たくなっていったそうなのです。」


「先生にとってもつらい話をさせてしまって申し訳ありません。」


「いえ、母に対して思い入れが深いのは兄の方ですから、それにあなた方にはこの話を知っておいて頂きたかったのです。兄は、ずっと不確かな命の存在に疑問を感じ続けていたのだと思います。」


  話を聞いた俺は、まだ小村丸が、本題に入っていないことに気付いていた。


「先生、俺達への大事な話とはなんですか?」

「気付いていましたか。ここからが本題なのです。」


「あなた方が、出会ったロイドは、白いのっぺりした姿をしていたはずです。おそらく本能で行動しているタイプでしょう。」


 俺達は、頷いた。


「しかし、ロイドになった兄にはツノが生えていたのです。そして兄の意識が確かにあったのです。ちょうど妖刀で変化したイオリ殿のように。」


「そ、それってまさか術式も…」

「可能性は、十分あります。ただ封印した当時は、使えなかったようです。しかし最近その封印が解かれた気配があるのです。」


「⁉︎」まずく無いですか、それ


「今回は、その封印が解かれていないか確かめて欲しいのです。実は宮中からの報告は、何か歯切れが悪く信用しかねる状況ですので信頼できるお二人にお願いしたいのです。」


「お任せ下さい。信頼できる私たちに」

 信頼できると言われミツキが断るわけもなく、俺達は宮中に向かう羽目になった。


 慌ただしくも明日の出発となった。その日は、疲れもあり俺達は、早めに寝ることにした。


  夜更け頃、屋敷に忍び込む人影があった。その身の軽さは、常人を遥かに超えたものだった。

 ちょうど忍者のように……

 侵入者は、広い屋敷の中、迷う事なく目的の場所に進んでいるように思われた。


 そしてある部屋の前で立ち止まった。そこは、イオリの部屋の前であった。


 侵入者は、イオリに復讐せんと願う者"ヨシツネ"だった。


 ヨシツネは、どうやってかは分からないが妖魔つきの山猫を倒したイオリを警戒して寝込みを襲うことにしたのだ。


 気配を消し、細心の注意を払っていたヨシツネにあり得ない事が起こった。


 "こんばんは、きょうの満月はとてもきれいね。"


 女の声だった。


 ヨシツネは、ビクリとして声の主を見た。女は、まるで夕涼みでもする様にゆったりと縁側に腰掛けていた。その姿は、恐ろしいほど美しく、高貴な雰囲気をたたえていた。そして長い黒髪は、月明かりでも分かるほど青く輝いていた。


 ヨシツネは、恐怖を覚えた。


 "こんな夜更けにどうなさいました。"


 もはや、切るしか無いとヨシツネが決意した時、女は立ち上がりこちらに向かって歩いて来た。


 "哀れな者よ。 我が名は……"


 ヨシツネは、最後の言葉を聞く前に意識が遠のいていくのを感じていた。


 翌朝、屋敷は騒ぎになっていた。ヨシツネがイオリの部屋の近くで謎の死を遂げていたからだ。遺体は、切り傷も無くただ干からびた様な状態だった。

 

 小村丸も不思議そうな顔をしておりこの様な術式にも覚えがないと言うだけであった。


 ただ簡単に侵入を許した点については、対策を検討する方向で落ち着いた。


「先生も心配なら自分で行けば早いのにね。」宮中に向かいながらミツキが言った。騒ぎが落ち着いた俺達は、予定通り旅立ったのだ。


「先生が行けば宮中の報告を疑っていることになるから関係の無い俺達が、行くのが一番良いらしいよ。」


「なるほど、偉い人達は、めんどくさいんだね。」


「だなっ」


 俺達は、先を急ぎつつも気楽な会話をしながら帝都を目指したのだった。

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