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第70話 『微笑』

ワダツミの里は、イチジョウの町から近い。それにもかかわらずユリネが帰らなかったのには理由があるのだろう。イオリはそれが魔剣と関わっているのだと考えていた。決して興味本位ではなく心からユリネの事が心配だったのだ。


普段はなかなか素直に示すことの無い気持ち。

幼い頃より兄弟のように育ってきたユリネはイオリにとって数少ない理解者でもあったのだ。


きっとユリネの心に闇を落としている原因がワダツミにはあるのだろう……

イオリはそれを確信していた。



しばらくして、ワダツミへ出発する日の朝がやって来た。


「おはようミツキ、早速、転送たのむ……って、おい! なんだっ! その疲れ切った顔は!?」


「ああ、イオリ、おはよう……さあ、張り切って行くわよ……」

ひどく疲れた様子のミツキが消えそうな声で答えた。


「いやいや、張り切ってる感じゼロだぞ。お前、どうしたんだ? 目の下のクマが半端無いぞ」


「ミツキさん、いったい何があったの」

イオリに続いてネネまでもが心配した声をかける。


「大丈夫だよ、ちょっと寝るのが遅くなっただけ……」

力無く答えるミツキ


「パリピですね……」

クダンがボソリと呟くとハッと顔を見合わせるイオリとネネ。


「パリピだな」

「パリピですね」


納得したふたりにミツキは、不機嫌そうに噛み付いた。


「なによ、パリピって、絶対バカにしてるよね! どういう意味なのよ!」


「いいかミツキ、ともかく今は寝ろ。転送はクダンさんがやってくれるから」


「ねえ、パリピって……」


ぐたぐたと話すミツキを抱えるとイオリは、クダンの用意した転送陣に飛び込んだ。


その後を追って転送陣に飛び込むクダンとネネを妹のカスミは嬉しそうに見送るのだった。辛い思いをしてきた姉妹にとって今が信じられない程の幸福な時間であった。特に幸せそうなネネの顔を見ると涙腺が緩みそうになった。

転送陣が消えた後、カスミは両手で頬をパンと叩いて言った。


「さあ、お昼の食事の仕込みを始めますか」


自分にも人の役に立てる事がある、それがカスミにとってとても嬉しく思えた。




◆◇◆◇




イオリ達がイチジョウの佐々木の屋敷、と言うかルリの部屋に転送されるとルリとユリネは既に準備を終えて待ち構えていた。


「お兄様、おはようご……」

ルリはイオリに挨拶をする途中で口ごもった。

イオリが抱えているものが目に付いたからだ。


「お、お兄様、そ、その小動物は何なのですか⁉︎」


「ああ、これか。随分弱っていたから抱えてきたんだ」


イオリの言葉に反応するようにミツキはゆっくりと顔を上げルリの方を見るとニヒッと笑った。


「はああっ⁉︎」


挑発されたルリはキレて部屋に布団を敷きだした。


「具合の悪い方を連れて行く訳にはいきません。今日はミツキさんは部屋で休ませましょう」


ルリは確定案件として事を進めようとするが、ミツキは、咄嗟にイオリの手を払いのけ床にすっくと立った。


ルリは、ミツキの方へツカツカと歩いて近づき、目の前来ると立ち止まった。


「ミツキさん、今日はお誘い頂いてありがとうございます。でも部屋の中では靴を脱いで下さいね」


ハッとするミツキは、慌てて靴を脱いだ。

それをみてニヒッと笑うルリ


「お前達は、いいコンビだな、ははっ」


イオリの言葉にふたりは口を揃えた。


「誰のせいですかっ!」


入れ替わるようにユリネは、イオリに先日の件の念押しをした。


「イオリ様、くれぐれも実家には近づきません様に、わかってますよね」


「わかってるから、剣に手を掛けながら話すのやめて下さい。ユリネさん」


「ならば良し」


そう言って今度はユリネがニヒッと笑ったのだった。


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