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第64話 『陽炎』

「おそーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーおおおおいっ!」

ミツキは、吠えた!


イオリと父である小村丸の帰りが遅かったからに違いないのだ。心配している訳では無い、ただ待ちくたびれただけであった。



「ミツキさん、まだ会議が長引いているだけですよ。その後の会食だってすぐに終わる訳ではありませんから……」

クダンは、そう言った後、しまったという顔をした。ミツキの顔がギラリと輝いたからだ。


「かい……しょく!? かいしょく、会食」


ミツキは、クダンの言葉を反芻した


「決めた! 行こう」


「わわわっ、それはおやめ下さい。ミツキ様」


「もう遅いよ」

ミツキは、既に転送陣を展開していた。覚えたばかりの転送術をこれほど速く展開出来る事にクダンは正直驚いていた。だか今はそれどころでは無かった、ミツキが転送陣の中に飛び込んでしまったからだ。


「ち、ちょっと、お待ち下さい!」

追っかけクダンも転送陣に飛び込んだ。



ミツキとクダンが転送した先は、宮中の門の前であった。イメージした先に転送する術の特性もあり、ミツキがここを選んだのは当然の流れであったのだが、それは運命という名の偶然なのかも知れなかった。


門に近付いたふたりは、宮中の中から感じる大きな霊圧に気が付いた。その中のひとつは、よく知る小村丸のものに違いない。しかし後のふたつは禍々しい妖気を感じさせるものでミツキにはそのひとつがイオリだと分かっていた。だが残るひとつは誰の霊圧なのか? いや、もはや答えは出ている。イオリ以外に妖気をまとった霊圧など敵でしかないのだから……


「まったくどうして何時も戦っているのかな、あいつは……」

ミツキの頭から会食の件は消え去り、沸々と怒りが込み上げてきた。


「あたしを放っぽらかして、あのふたりはいったい……」

ミツキは、自分の手のひらをグーでバシンと叩いた。どうにもおさまらないミツキの様子にグダンはやれやれと言う顔をしていた……


次の展開は見えている。転送陣は既に完成していたのだ。ミツキとグダンはまたもや青い光の中に飛び込むのだった……





◆◇◆◇





イオリは、鬼となった加納の頭に2本の角がある事から恐らく奴は自我を失ってはいないのだろうと警戒を深めていた。


剣の腕前は、どの程度なのか?

流派はいったい何なのか?


緊張は焦りを生み、剣の腕を鈍らせる。ならばイオリの取る手段は、「見」にまわる事であった。

まずは防御の構えから相手の出方を伺った。


加納は、イオリを見つめニヤリと笑う。狂人を思わせるその口元は、戦いを楽しんでいるように見えた。


バトルマニア⁉︎


イオリの頭にそんな言葉が浮かんだ。


事実、加納は楽しんでいた。自らが引き抜いた妖刀使い達を倒し、苦渋を舐めさせられたこの男の事を高く評価していた。

いや、剣を交える事を楽しみにしていたと言っても良いだろう。


そんな狂気に満ちた加納の剣は驚くほど研ぎ澄まされていた。剣先から流れる闘気はゆっくり立ち登りゆらゆらと視界を歪めた。


"陽炎⁉︎"


イオリはそう呟き、佐々木家の書庫にあった古い文献の記憶に思いあたった。

それは歴史から忘れ去られた"加納流"

『陽炎』と言う名の秘剣を持つ流派の事であった。


「なあにバトルマニアは、お前だけじゃ無いさ」


イオリは、加納を見返して同じ様にニヤリと笑った。

この時は、まだ妖刀に秘められた力がある事に気付かぬイオリであった……

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