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第34話 『増殖』

  ロイド化した氷堂には、やはり自我がないようだった。それは、以前戦ったハルマがそうであったように目の前にあるものに斬りかかる衝動に突き動かされているようにみえた。


 頭の角が一本なのは、そういった違いが有るのかも知れない、ハッキリとはしないが。


 氷堂は、ハルマに比べて剣の威力は低いだろう、しかし、それを補う程の速さと手数の多さを持っている。


 妖刀モードで切られた場合、イオリも無事では、すまないだろうということはハルマを切った時の様子から容易に推測できた。

 つまり一度の油断が、敗北に繋がるのだ。


 イオリの剣先から離れた氷堂は、仕切り直して体制を整えると、そのまま迷いなく2本の剣を振るって真っ直ぐ飛び掛ってきた。


 激しい剣の応酬にイオリもなかなか隙を見つけられない。


「やれやれ、闇雲に攻撃されるのもなかなか厄介だ」


 イオリは、氷堂の左の剣を受けた瞬間受け流すのではなくそのままグイと押し戻した。

 氷堂の体は、その反動で後ろに仰け反る……


 氷堂の間に少し空間が生まれ、そこにイオリは、高速の剣を放った。


 "霧風" ユリネの剣技だ。


 カマイタチのような斬撃が飛び氷堂の体に食い込んだ。

 僅かに怯んだ氷堂にイオリは、一気に間合いを詰めガラ空きの胴を横一閃に切り払った。


 氷堂の断末魔とともに勝負は、決着したのだった。


「ミツキっ、大丈夫だったか」


「うん、あたしは、大丈夫だよ、でもたくさん人が、切られてる……」


 修行場の床には、氷堂が無差別に切った門下生が倒れており、ひどいありさまだった。


 俺の体は、もうすっかり元の姿に戻っていたのだが、以前に比べてそれが早くなっているのは、おそらく妖刀とのシンクロ率が関係しているのだと思っている。

 ミツキとキリハのシンクロ率は、もともと高いのだろうが、俺と長姫のシンクロ率もここ数日で格段に高まっているのだろう。


 イナスケには、頼みたいことがあるのだが鬼の姿では、怯えさせてしまうだけだからな…


「イナスケっ、ここに閉じ込められている女の人は、どこにいる」


「だ、旦那は、人間ですよね」


「ああ、当たり前だろ、腹も減ってるしさ」


 少し安心したのかイナスケは、地下室の入口を教えてくれた。


 階段を降りたミツキが、地下室の扉を開けると女達は、薄暗い部屋から飛び出してきた。

 10名ほどが中にいたようだが、どうやら無事なようすだった。


「イナスケ、残った奴らで死んだ仲間を弔ってやってくれよな、あと妖刀には、もう関わるなよ」


「へい、わかりました」

 ほっとした、イナスケは、苦笑いしながらそう答えたのだった。


 俺とミツキは、女達を連れ立って屋敷の入口に戻ってきた。


 門番は、驚いて近寄ったきたが、俺は剣を抜いてその鼻先に突きつけながら言った。


「今日で、この支部は閉店だぜ」

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