第27話 『守護』
イオリは、焦っていた。篠宮とミツキのことが、気になっていたのだ。
影は、つかず離れず一定の距離を取って戦っているように感じられる。
まるで時間を稼いでいるような……
「くそっ、こっちはオトリかよ」
イオリが気付いた時には、8名の影に囲まれていたのだった。想定していた人数をかなり上回っている。
結界の反応は、5つだったはずだ……
どうやら奴らは、ふたりひと組となり、侵入したと考えられる。
ということは、残りの二人若しくは一人が、篠宮の所に向かっている可能性がある。どうする……
イオリは、深呼吸をするとそのタイミングで庭の真ん中に出た。隠れる場所の無いこの状況では、影達の格好の的である。
用心しながらも影は、間合いを詰めて来た。それに対しイオリは、剣を下げ構えを解いて目を閉じた。
その行動に影達が、惑いを見せた瞬間だった、激しい光の閃光が起こり視界を遮ったのだ。
"霧風"
光を辿った風の刃が、影達を切り裂いた。"霧風"ユリネの技だった。剣先の流れでカマイタチを起こす、この技は、間合いを越えた先にあるものを切り裂くことができるのだ。
アオハネという超軽量の剣を使うユリネの速さには及ばないものの影を切り倒すには充分な威力だった。
庭には、8名の影達が横たわっていた。
「ユリネが、無理やり持たせた閃光玉が、こんなところで役にたつとはな」
イオリは、倒れた影達に構うこと無く篠宮の座敷に急いだ。
妖刀を引き抜いたミツキは、不思議な声を聞いた。
"我が力を欲する小さき者よ、我が身に代償を払う覚悟があるか"
「あたしの未来をあげるから、力を貸しなさい」
"ふふっ、面白い事を…命ではなく未来とは。では我に未来を捧げよ"
ミツキの体が、光に包まれた。
失敗すれば、蝋人となる事は、充分にわかっていた。
一瞬の事に心を奪われていた篠宮は、光が収まったあとに立っている者の姿を見て驚いた。
"キリハ"
篠宮が宮中にいた頃、唯一友人と呼べた存在、若い頃の姿のままのキリハがそこにいたのだ。ミツキに良く似てはいたが、年齢も上で大人びた顔立ちをしている。巫女の装束に全身がゆらゆらとした白い光に包まれていた。
「キリハっ、あなたキリハなの」
「話は、後になさい。シグレ」
キリハは、影に向かって開いた手のひらを向けた。
篠宮同様、呆気に取られていた影は、我に返って体制を整えたがすでにキリハの結界の中であった。
影の周りに小さい結界が張られたのだ。
そしてキリハが、開いた手のひらを閉じると影もろとも空間も閉じられ後には何も残らなかった。
「キリハ、どうしてあなたが妖刀に……」
「ふふっ、私は妖刀にいた訳ではないわ。ずっとこの子の中にいたのよ」
「あなたらしくないわ、随分、過保護なのね」
「だって、可愛い娘だからね」
誰かが、こちらに走ってくる音がした。
キリハは、姿を消し、代わりには倒れたミツキの姿があった。
心配して駆け込んで来たイオリの姿に篠宮は、どこまで話すべきか考えていた……




