第23話『感情』
屋敷に帰った俺は、小村丸先生のところに来ていた。何か教えてもらいたい事がある時は、先生なのだ。
我ながら調子がいい
「先生、昔この町にいた。氷の霊界師の事を知りたいのですが、何かご存知ではありませんか」
「氷の霊界師、零度の事ですね。もちろん零度は、彼女の本当の名前ではありません。彼女は、ある時突然現れ当時、妖魔つきに苦しんでいたこの町を救ったと聞いています。だからそれ以前の事は、全く謎に包まれているのです」
「謎に包まれている?宮中にも記録は、ないのですか」
「残念ながらありません。ですから霊界師であった確証もないのです。ただ極めて高い霊力者であった事は確かです。一説によると何処かの国の姫君であったという話はあります」
"氷の姫君"
俺は、なぜこんなにも零度の事が気になっているのか自分でも分からなかった。ただ、あの女に似ていると言うことだけで…
「先生は、何かの文献で零度の事を知ったんですか?」
「零度に関する文献は、ほとんどありません。おそらくこの町の伝承程度のものでしょう。この町に来る前に私も零度の事を調べようとしたのですが」
「だったら何処で先生は……」
「オビトの残した資料です。兄は、零度に関してかなり深く研究していたようなのです。私は、その中の一部分を見たにすぎません」
オビトと零度のつながりについては小村丸先生も分からないようだった。
せめてオビトの資料の続きがあればとも言っていた。
その後、俺とミツキは小村丸先生の屋敷で何日か過ごしたのだが妖刀の情報が手に入ったのか、ある日、先生に呼び出された」
「おいっ、ミツキっ、先生が呼んでるみたいだそ」
ミツキは、ペンダントを磨いているようだったが俺の声に立ち上がり首にペンダントをかけると近くにやって来た。
「イオリもたまには、水晶磨いた方がいいよ」
「あんまり磨くと傷が付きそうだからやらない」
「めんどくさいからやらないとしか思えないけど」
俺達が奥の座敷に入ると小村丸が待っていた。
「先生、何か手掛かりがつかめましたか」
「ええ、ここから西にイカルガと言う町があります。そこに最近、影らしきものが出入りしているようなのです。もちろん姿が確認出来たわけではありません。ただ霊界師が何人か暗殺されているのです」
「妖刀使いがいる可能性もあると言う事ですか」
「はい、あくまで可能性ですが」
小村丸は、チラリとミツキの方を見た。ミツキが快く引き受けてくれることを期待しているのかも知れない。
「⁉︎」
何故だか小村丸は、ミツキの方を見た時、一瞬だが驚いた顔をしたような気がした。気のせいかも知れないが
「先生、あたしはやりますよ、でも手に負えないようだったら帰って来ます」
ミツキは、快く引き受けたが少し慎重になったようだ。前回の俺のケガを気にしているのかも知れない。
「ありがとうございます、それで構いません。よろしいですねイオリ殿も」
もはや、俺の意思はないに等しい
「ところでミツキさん、可愛いペンダントをしていますね。」
ミツキは、珍しくペンダントを外に出していたのだ。
「はい、母の形見です。すごく大事にしていたと聞いています」
「そうですか」
そういって小村丸は、にっこり微笑んだのだった。
翌日、俺達は、イカルガに向けて出発することになった。屋敷でお弁当も用意してもらい万全の体制だ。
今回は、珍しく小村丸先生も門の所まで見送りに来ていた。
「では、小村丸先生いって来ます」
ミツキは、そういって手を振った。
「気を付けて行ってくるのですよ」
その声に見送られて俺達は、イカルガに向けて出発したのだった。




