第13話『封印』
「た、たのもー」ミツキは、さっきから20回ぐらい叫んでいた。
少し声も枯れて来ている。
俺は、さすがに辛くなってミツキを後ろから抱きしめて言った。
「もういいんだ、ミツキもういいんだよ。」
「だ、だって、だってー」
ミツキは、泣きべそをかいて言った。
「た、たのもー。たのもー」
突然ルリが同じ事を始めだした。
ど、どうしたルリ⁉︎
「イオリ様、ちょっと。」
俺は、ユリネに呼ばれた。
大きい門戸の脇に小さい扉があり上からヒモがぶら下がっていた。
ユリネは、それを指差した。
まさかな?俺は念の為、3人をさがらせてヒモを引っ張った。
ぐいっ。遠くでリンリンと涼やかなベルの音がした。どうやらタライは落ちてこないようだ。
「何か御用でしょうか?ご用件賜りますが」扉の裏から声がした。
ユリネの手柄だ。ミツキとルリは、とても残念そうな顔をしていた。
「イオリと申します。本日は、小村丸先生の使いで参りました。」
「同じくユリネと申します。佐々木ソウゲンの使いで参りました。」
しばらくして扉が開いた。
「お待たせ致しました。皆様はご一緒でよろしいのでしょうか?」
俺は構わないので水無月師範に会いたいと伝えた。
「イオリ様、コラムマル先生とはお知り合いでしたか。」ユリネが、言った。
あと、コムラマルな。
「ああ、だから心配する必要は無いが親父の手前があるだろう、お前達には。」
「はい、若のお心遣い感謝致します。」
ユリネは、言った。
「若はやめてくれ、ユリネ。」
「はい、そうでした。」
門下生らしき人について行くと屋敷の奥の茶室に通された。
「師範の水無月と申します。本日は、何やら大事な要件でお越しくださったようで。早速お伺いしてもよろしいですかな。」
「はい、本日は小村丸先生の使いで例の封印の老朽具合を確認に参りました。」俺は、小村丸から預かった書簡を渡した。
「わかりました。後でご案内致しましょう。そちらの方は。」
「はい、佐々木ソウゲンの使いで参りました娘のルリでございます。本日は、誠にぶしつけではございますがお力添えを頂けますようお願いに参りました。」
ルリは、同じく書簡を差し出した。
水無月師範は、しばらく書簡に目を通していたが霊界師の派遣を約束してくれた。
ルリとユリネは、ほっとした様子だった。
その後、俺とミツキは、小村丸の要件を済ませる為、封印のある場所に向かった。
ルリとユリネは、屋敷の部屋で待っているようだ。
屋敷には地下室が作られており封印されたものはそこに置かれているそうなのだ。
途中、2本ほど妖刀らしき物が封印されているのを見かけた。
「この奥が、ロイドの封印されているところです。」直接案内してくれた水無月師範が言った。
俺たちは、厳重に結界の張られた扉を開けてもらい中に踏み込んだ。
中は、10名程が入れそうな広さで真ん中に棺桶がひとつ置いてあった。
床には陣が描かれており棺桶は、その上に置かれているようだ。
そして棺桶の至る所に霊符が貼ってあった。
ミツキは、しばらく霊符を見つめていたが、結局何も言わなかった。
確認が済んだ俺たちは、師範に御礼を言ってルリ達のいる部屋に戻ってきた。
ルリ達は、宮中からの書簡をすでに預かっており、やはり小村丸への宛先になっている。
やれやれ、もうしばらくは同行するはめになりそうだ。
宿に戻り俺は、ミツキに話を聞く事にした。あの二人を巻き込む必要は、無いと思ったからだ。
ミツキは、頭がいいのだと俺は思っている。封印の部屋でも帰り道でもそのことには一切触れなかったのだ。
「ミツキ、やっぱり怪しいか?」
「うん、あの霊符は、貼り直しだよ。封印は、解かれている気がする。」
「どうしてわかるんだ。」
「霊符が違うんだ。」
ミツキは、キッパリと言った。
「あれは、おじいちゃんの字じゃなかったんだよ!」
どうやら俺たちは、小村丸によいみやげを持って行けそうに無いようだった。




