ヒロイン考察
ヒロイン、それは最も意味のない言葉の一つである。いや、「無くなってしまった」と言うべきか。
まあ、どちらにせよ変わらない。これを読んでいる方は一度ヒロインという考えを捨ててみてはいかがだろうか。そんなことを考えるだけ無駄なのだから。
heroineという単語は本来heroの女性型であり、「女傑」とか「女主人公」という意味があった。
この言葉が創作の世界に持ち込まれたのは男尊女卑の時代だ。女性が登場することすらほとんど無い。だから創作の世界では「女の中では目立つ存在」、ひいては「主人公の相手役を務める女性」がヒロインと呼ばれるようになった。たいていの場合は「主人公に守られる人物」か「主人公の恋愛対象」だ。
ところが時代は下って男女平等となり、女性を男性のオマケみたいに扱うことが出来なくなった。一方で、ヒロインが「女主人公」へと完全に戻ることも無かった。「主人公の相手役を務める女性」とおおっぴらに言えなくなったことにより、この前提から演繹できる定義である「主人公に守られる女性」や「主人公の恋愛相手」が単独で「ヒロイン」を表せるようになってしまった。
更に、ヒロインとは似て非なる考えであるはずの「萌えキャラ」もヒロインと混同されるようになった。身も蓋もない言い方をすれば読者を釣るためのキャラクターだ。萌えキャラは恋愛ゲームの攻略対象として生まれた「主人公の恋愛対象」である。「ヒロイン」の十分条件だが、必要条件ではない 。
近頃のキャラクター推しの風潮もあって、「名持ちの女性キャラは全員がヒロイン」という様相を呈するようになってきた。
もう「女性キャラ」で良いじゃん。なんでお前ら「ヒロイン」って言葉使いたがるの。
人それぞれニュアンスが異なっているから余計に使いにくい。
まるで「チート」みたいな言葉だ。「チート」は否定的、「ヒロイン」は肯定的という違いはあるが、あっちの方がまだ「ずるしたんじゃないかってぐらい強い」という元の意味が消えてないだけ使いやすい。許容範囲の違いぐらいで、根本から意味が食い違っていることはまず無いからだ。「ヒロイン」では互いの認識を確認することから始めなければならない。
こんなもの名乗るだけ無駄である。
ヒロインとただの女性キャラを隔てるものは何か。創作を志すならば考えるべき命題だ。
「嫌な役割を女性に割り振って反感減らそう」とかそういう邪念は持たないでほしいものだ、
※:ドリルは紙を破くのに十分な性能を持つが、たったそれだけのためにそんなに高い威力のものを持ち出す必要はない。「萌えキャラ」と「ヒロイン」の関係は、この「ドリル」と「紙を破く」の関係と同じものである。