第7話 お姫様抱っこ
チャイムがなった途端空気が変わった――。
重苦しい、息が詰まるような感覚。
視線、視線、視線、視線――。
視られている。
校舎の窓から。
校庭から。
生徒と教師が動きを止めて俺とカメ子を凝視している。
皆、敵意を剥き出しにして。
その肩や背中に低級悪魔がくっついていた。
学校にいる俺達以外の全員に悪魔が憑りついてるなんて、偶然でもあり得ない。
そう、誰かが仕組まないかぎり。
『コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ――!!』
悪魔に憑りつかれた人間達が、口々に叫び始めた。
殺せ、殺せの大合唱。大勢の人が声を出しているはずなのに声は一つとして乱れることなく、重なった声はたった一人が声を出しているんじゃないかと思いたくなるほどピッタリだった。
「アッキー、みんなどうしちゃったんですか?」
パニックから立ち直ったカメ子が聞いてくる。俺も今はふざけている場合じゃない。
「悪魔に憑りつかれてる。ひとまず逃げるぞ」
悪魔憑き達は、ギラギラと獲物を狙う眼でこちらを視ていた。
校庭にいるのだけで、ざっと二十人はいるんじゃないか? いくら俺が強くても、この人数+お荷物のカメ子がいる。不利だ。
「アッキーここ通れません! 不思議体験です!!」
校門に走り寄ったカメ子がぺちぺちと見えない壁を叩く。俺達が外に出れないよう、ご丁寧にも結界を張ってくれたらしい。
「外に出れないなら……」
俺は道を振り返る。ジリジリと悪魔憑き達が俺とカメ子を囲んでいた。
残された道はここの突破。
やだな、めんどくさい。
まあめんどくさいからってコイツらに殺されたくないし、やるしかないな。
「カメ子、ちょっと来い」
カメ子に手招きする。カメ子は校門から離れるとこちらへ来た。
「何か用ですか? あっ、もしかして私に愛の告白!?」
「んなことしないって」
カメ子の頭をげんこつで殴る。ゴチッといい音がした。
「痛いですっ! これ以上お馬鹿になったらどうするんですか!」
涙目になったカメ子。相当痛かったらしい。
「ところでカメ子、お前足速いか?」
「足、ですか? 自慢じゃないですけど、かなり遅いです! クラスでビリですから!!」
クラスでビリって……。走って逃げても、カメ子は悪魔憑きに追いつかれるな。疲れるけど、あの方法でいくか……。
「カメ子、行ってこい」
「え? 何処へで、ってアッキー? 何するんですかっ!?」
カメ子をひょいと持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
カメ子は頬を赤く染めた。
「足の遅い私を、アッキーがお姫様抱っこで運んでくれるんですか!? お姫様抱っこしてもらうの夢だったんですよ〜!!」
「運ぶわけないじゃん。カメ子重いし」
「お、女の子に重いなんて言っちゃ―― ふきゃああぁぁ〜〜!!?」
言葉の途中で俺は、カメ子を悪魔憑き達の方へ空高く放り投げた。
月とスッポン!
は作者の都合により終了します。