プロローグ
じいちゃんがまだ元気だった頃、じいちゃんはあたしを抱っこして、こんなことを言った。
「のう、星華。星華は『運命』をどう思う?」
「運命?うんめいって、えーと、その、自分の将来とか、そんなものが決まったもの?あれ、違うかな。…よくわかんないや」
たかだか7,8歳だったあたしは、そんなことを聞かれても全く意味が分からなかった。子供にそんなことを聞くじいちゃんもじいちゃんだ。
「はは、そうか。実はじいちゃんも、よく分からんでの」
笑いながらじいちゃんは、片方の腕にあたしを抱き直して、もう片方の手でテレビのリモコンを引き寄せた。多分、いつも観ている時代劇の始まるころだ。
じいちゃんが電源を入れると、テレビ画面に映ったのは、だんだら模様の隊服を着て、手に手に黒光りする刀を持った物騒な男たちだった。変な髪形に、動きづらそうな和服。じいちゃんは時代劇を好んで観るけれど、あたしは嫌いだ。だって面白くない。
あたしたちは暫く黙ってそれを見ていたが、おもむろにじいちゃんが口を開いた。
「じいちゃんは、運命は『自分で切り開く』ものだと思うよ。…必ずしもそれが正しいとは限らないとしても」
あたしはじいちゃんを見上げた。見上げたじいちゃんの目はテレビ画面に釘付けだったけれど、なんだかとても凛々しかった。70過ぎのじいちゃんの皺だらけの顔に、一瞬だけハタチ前後の青年の横顔が重なって見えた。
そんなじいちゃんが死んだのはさらに10年後、つまり昨日のことだった。もうボケていたじいちゃんは、病の苦しい息の下、あたしに最後にこう言った。
「星華、」
思い切り変な遺言だった。痴呆も極まればあそこまでいくとは、壮大なファンタジーだ。
――星華、歴史を救え。
危険回避のために
http://ncode.syosetu.com/n9336ct/