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『どうしようもない』

本命の小説がこれとは別にあるので、更新は不安定になると思われます。それでもよろしければ、読んでいってやってください。

 

 涼木はるか、17歳。ひっじょーっに困った状況に追いやられています。


「ハルー? いい加減はるかが動かないと、その子もずっと動いてくれないよ?」


 一人でさっさと行ってしまった友人が恨めしい。私だって早くそっちへ行きたい。だけど、私にとって最大の難関が、間に立ちふさがっているんだ!


「にゃおん」

「ひぃっ!?」


 それは尻尾を振って私を襲おうとじりじりと近づいてくる。そしてそれは唸り声を上げて私を威嚇する。


「遊んでーって言ってるんだよ」

「いや違うね! どこから食ってやろうかって言ってんのっ!」


 そう。猫だ。私は猫がだいっきらいだ。いや、猫が嫌いというより動物が嫌いといったほうが正しいか。アレルギーがあるとかそういうわけではない。とにかく動物嫌いで怖くて半径一メートル以内には決して入れてはなるものかと誓っている。

 友人達からは動物の何が嫌いなのかとよく問われる。

 ついてくるからだ。

 例えば、通学路で猫を見かけると、はいアウト。私の後を追いかけてきて、しまいには学校の教室までついてくる。もちろん怒られるのは私だ。ひどい時は5、6匹の猫が私の後ろを列を成して追いかけて来たっけか?そりゃあ最初はかわいかったよ。だけどいくら振り払おうとしても尻尾を振りながら追いかけてくれば怖くもなるわ。

 他にも中学校の修学旅行で動物園に行ったとき。あれは最悪だった。

 私を見た全ての動物が歓喜の雄叫びを上げて檻から出ようと突進してきた。

 あれ以来、私は動物園を避け続けている。


「じゃあここで。ばいばーい」


 結局猫は私の家までついてきて、玄関を閉めることで何とか逃れた。にしても助けてくれればいいのに。ばいばーい、にやにや、じゃないよまったく。


「ただいまー……ってどうせいないよねー」


 鞄を台所のテーブルに投げて冷蔵庫へ直行。この前買っといたチョコレートプリンーっと。疲れたときは甘いものー、甘いものといえば一個320円ちょっとお高めのチョコレートプリンー。大好物のチョコレ……。


「……ない、だと」


 私のチョコプリンの定位置には三個セットの納豆が。

 さあ、どっちだ。どっちが私の楽しみを盗りやがった。

 ふふふ、と嫌な笑いが漏れる。


「おいおっさん!! 私のチョコプリン食ったのどっちだ!!」


 スパーンと音を立てて、おっさん――父親の寝室の扉を開け放つと、いつも通り膨らんだ布団が目に入る。

 こいつは……!


「起きろ!」


 布団を引き剥がすとボサボサ頭のおっさんがこの世の終わりかというような顔で丸まっていた。


「はるちゃん……、由香里(ゆかり)さんね……今度はニューヨークだって……」

「はいはい。ニューヨークでもどこへでも行けっての。それより私のチョコプリン」

「半年だよ、半年……。さっきだって、はるちゃんに会っていかないのって聞いたのに、飛行機に間に合わないって……、滞在時間30分だよどう思う!?」


 ……話にならねー。あの人の滞在時間が短いのはいつものことでしょうが。

 

 ――父は売れない画家。母は中途半端に売れてるファッションデザイナー。そんな芸術家の端くれ同士が結婚して生まれたのが、この私だ。

 パリの街角で父が描いていた絵に母が惚れたのが二人の始まりだとかなんだとか、話して聞かされた記憶があるが、この人に母を惚れさせる絵が描けるとは思えない。だって昼間から布団にもぐって泣いているような男だ。パリにいたというのも嘘くさい。海外なんて行ったらきっと三日で野たれ死んでるはずだ。

 母だってニューヨークだのロンドンだのに頻繁に勉強と称して出かけていくが、本当に勉強してるんだか。


「とーにーかーくー、私のプリン補充しとくこと! 疲れた、寝る!」

 

 再びスパーンと音を立てて部屋を出て、二階へと階段を駆け上がる。

 あーあ、なんでこんな家に生まれてきたんだろ。もっと両親がちゃんと仕事してて、安定した家の子に生まれたかった。なーんて。


 あ、320円のって言うの忘れてた。まあいい、違うの買ってきたらもう一回コンビニまで走らせよう。


 うんうん、と頷いた、その時だった。

 突如、上りかけの階段がぐにゃりと歪んだ。


「うぇ、あ……なにこれ」


 車酔いしたかのような吐き気。頭の中がぐるぐる回っている。いや、車酔いの比じゃない。船酔い、ううん、もっと。


——……ハル。


 幻聴まで聞こえる。

 立っていられなくなって階段に座り込んだ。


——ハル……我が、


 頭に殴られたような痛みが走って気が遠くなった私の身体は、階段を転がり落ちていった……のだと思う。

 

 すごい痛かった。






————


「…て、はやく! ……!」

「……だ、……さま」


 閉じた視界の向こうに、誰かの声を聞いていた。目を開けようと思うのに、目蓋がくっついて開いてくれない。

 騒がしい、誰だ。おっさんか。それとも母さんか。

 どっちでもいい。なにしてんの。私の身体浮いてるよね。抱っこされてるよね。この歳にもなってそんな恥ずかしいこと……。

 ま……でも、あったかくて、気持ちいいから、いいか。



「咲山様! 春火様がお帰りになられました!」

 


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