遭遇
ラケナリアへの帰還中にそれは起こった。騎士型魔法生物の出現。アザミの乗機〈グラジオラス〉は連戦により、既に弾薬は空に近い状況だった。更に〈グラジオラス〉は火力に長けている分、装甲と機動力を犠牲にしていた。装備している武装をパージすればそれなりに動く事は出来るが対抗手段が無くなってしまう。まさに万事休すといった状況だった。
遭遇後すぐにラケナリアに救援要請をしたが、恐らく援軍は望めないだろう。それに、騎士型魔法生物はリインカーネーションが主体となって量産している〈パロット〉が20機以上いて初めて撃墜出来るタイプだ。
「あーあ。死にたくないな」
今はまだ発見されていないようだが、それも時間の問題だろう。〈グラジオラス〉では逃げ切れない。交戦するしか道は無い。
少しでも有利な状況に事を運ぼうと、比較的肉質の柔らかい部位を狙い遠距離から最後の一発のグレネードランチャーを発射した。
命中。が、僅かに外殻にヒビが入った程度だった。
「まあそうだよね」
わかってた事。そう自身に言い聞かせ、弾の無くなったグレネードランチャーを放り投げ、残弾4発のミサイルランチャーを装備した。
騎士型魔法生物が雄叫びを上げながらこちらに向かって走ってきている。幸いだったのは、騎士型魔法生物が近距離戦闘に特化した個体だった事だった。他の個体に比べ、移動速度は早いが、それでも一瞬で距離を詰められる程では無い。
ブースターを吹かし、ミサイルランチャーを一発ずつ正確に当てていく。騎士型魔法生物は衝撃で少したたらを踏んだ。
「チャンス!」
ミサイルランチャーを放り投げ、残弾の心許ないガトリングとバズーカをありったけ撃った。爆風で土煙が出て、敵の姿が見えなかった。
「やった?」
煙が晴れ、見えたのは左手を失った騎士型魔法生物だった。赤色の血が垂れる左腕越しの瞳は、痛みに染められていたが、すぐにそれは怒りへと変わっていった。
逃げ切れない。この距離はもう、あいつの距離だ。アザミがそう思った時には既に騎士型魔法生物の剣状の腕が〈グラジオラス〉の右腕を刈り取っていた。
「うあっ!」
凄まじい衝撃が〈グラジオラス〉のコックピットを襲った。衝撃を分散させる装置が無ければ確実に気絶していただろう。
残った装備は背中に積まれた散布用のミサイルのみ。少しずつ、大切に撃って距離を稼ぎながら逃げるしかない。アザミは衝撃でクラつく頭に活を入れ、再度機体を動かした。




