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ランページコンプレックス~君のいた世界~  作者: アキノタソガレ
awakening
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改修計画始動

 リインカーネーションによる襲撃事件から2日。いよいよ〈フリージア〉の改修作業が始まった。機体をバラそうと慌ただしく動くラケナリアの作業員達を尻目に、俺はコックピットでのんびりとリザと会話をしていた。ガタガタと定期的に音と振動が襲ったが、意識して気に留めないようにした。


「リザ、この間聞けなかったここに来るまでの事を教えてくれ」


『転移の影響でほとんどのログが破損して閲覧出来ません。更に一部のログにロックがかかっています。奏と同じですね。私も記憶喪失です』


「うるせ。いいからとっとと話せ」


『私に残っている最後のログでは、あなたは静乃を単体ジャンプさせ、私と共に敵陣中央で自爆しようとしていました』


「また静乃か。見たところフリージアはタンデムみたいだが静乃は俺のバディだったのか?」


『まさか私の事まで忘れてしまったのですか?』

 リザの声は心なしか落ち込んでいるように聞こえた。


「すまんな。部分的には覚えてるんだけどな。操縦方法とか。だけど細かい事は覚えていないんだよ」


『最低限私の事は覚えていたみたいなので許します』


「寛大な措置に感謝しますよっと。でだ、さっきの質問に答えてくれ」


『フリージアは元々2人揃って初めて性能を発揮できる仕様です。その為、メインパイロットである奏の他にバディとして複数のサブパイロットが用意されていました。静乃はその一人です。ですが、最後のログでは奏は一人で乗ってました』


 なんで俺は一人で乗ってたんだ?

「まあ問題なのは俺はまともに性能を発揮出来ない状況で龍之介のおっさんに利用されるって訳だろ?」


『そうなりますね』


「あーあ。やってらんねえな。ある程度動けるようになったら3大勢力のどっかに体を売ろうかな」

 柔らかなリニアシートに背を預け、脚をその辺のインターフェイスに載せた。


『やめてください。私はこれ以上体をいじられたくありません』


 リザは今回の改修計画に乗り気では無かった。技術点検と称して機体を色々と見られるからだ。しかし、改修しなければ〈フリージア〉は使い物にならない。今は俺が説得したおかげで色々と点検されているが、やはりリザは少しご機嫌ナナメらしい。


「へいへい。ってか待てよ? 自爆しようとしたんだよな? 機体共々なんで生きてる?」


『私にもわかりません。気が付くと荒野のような場所に膝をついていました。奏が重傷を負っていたため急いでコールドスリープ治療をしましたが、機体のエネルギーが減っていたため、一部機能を残して停止したんです』


「俺はどれくらい眠ってたんだ?」


『28年です』


「嘘つけ。おっさんの話しじゃ18年前に初めて転移が確認されたって言ってたぞ」


『恐らくは発見されたのが18年前なのであって、転移自体はそれよりも前から起こっていたのでしょう』


「スケールのでけえ話しだな。一気に爺さんになった気分だ。それにしても、お前そんだけ放置されててよく動けたな」


『私は特別ですから』

 リザの声は得意気だった。


「霧島さーん! 降りてきてくださーい! 確認お願いします!」


 ここまで話して下から声が聞こえた。この声は高坂か。恐らくは改修計画の素案が出来上がったんだろう。俺の意見を取り入れつつ行われるという事だから俺好みの機体にしてもらうとするかね。


 下に降り、高坂に案内され企画室と書かれた部屋に着いた。中央に置かれた円卓には油の匂いが染み付いた作業着を着た技術者と思われる者とサイズの合っていないダボダボの白衣を着た女がいた。


「やあやあ君が霧島奏君だね? 実に面白い子だって聞いてるよお。よろしくねえー」

 白衣の女はそう言ってダボダボの白衣ごと手を差し出した。握り返した手は小さかった。


「誰だこいつは」

 目の前にいる金髪のちんまい巨乳女を指さし、高坂に聞いた。


「フリージア改修計画チームリーダーのラナ・アークライトさんです」


「ラナ・アークライトさんです」

 ニヤニヤとしながら高坂の言葉を真似するラナはとてもじゃないがチームリーダーには見えなかった。


「彼女、こう見えても25才なので多分あなたよりも年上ですよ」


「マジかよ」


「マジです~」

 自分のペースを取り戻そうとその辺に置いてあったコーヒーを口に含んだ。


「うあ、なんだこれ」

 信じられない程甘かった。


「それは私のだあ。勝手に飲んじゃだめじゃないかあ」


「お前こんなの飲んでるのか。味覚おかしいんじゃねえの?」


「失礼な事を言わないでほしいなあ。糖分は頭を動かすのに必要なんだよお? 更にコーヒーに含まれるカフェインは覚醒効果があって眠気が覚めるんだよお。わかったかなあ?」


「クソどうでもいいって事がわかった。早くフリージアの改修計画を進めよう」


「わかったよ。まずね、君の機体の事だけど何もわからない」


 ラナは急に真面目な空気を身に纏った。声のトーンも先程までの間の抜けたものではなく地に足の着いたしっかりとしたものになっていた。ラナの急変に面食らいながらも俺は会話を続けた。


「わからないってどういう事だ」


「そのままの意味さ。外部装甲はこちらの世界の基準では強度が低い方に分類されるんだけど、インナーフレームは信じられない程頑丈に作られている。その上インナーフレームがどういう技術で作られたのかさっぱりわからない。コックピット周辺にそれが顕著に出ていてね、コックピットのフレームは四肢のそれと比べて更に硬い。中にコアのようなものがあるみたいなんだけどあれは今の技術では取り出せない。中から取り出せないかい?」


「リザが嫌がるだろうな。それに、俺は機体の事をよく覚えてないんだよ」

「ああ、例の記憶喪失だね。時間を見つけて私の私室に来てくれ。治療してあげよう」


「治んのか?」


「見てみないとわからないけど、多分ね」

 ラナは先程俺が飲んだコーヒーをぐいっと飲みほした後、こう続けた。


「コアの話しに戻るけど、リザは機体の事を知ってるんじゃないのかな?」


「少なくとも俺よりは知ってるはずだけどな」


「それじゃあ君から聞いてみてくれないかい?」


「なんでだよ。自分でやれ」


「うーん。どうも私は嫌われているみたいでね、話しかけても何も教えてくれないんだよ」


 それもそうだよな。リザからすれば自分の体を弄くり回される訳だからおいそれと話したくはないよな。それもこんな怪しげなちんまい女には特に。

 考えてみればリザにとってはコアが体な訳だからインナーフレームってのはつまり人間に当てはめれば服みたいなものか。そう考えるとコアを見せるという事は他人に全裸を見せるという事になるな。


「ふむ、無理だな。到底答えてくれるとは思えない」


「何故だい?」


「リザが乙女だからだ」


「成る程。そうなると難しいなあ」


「え!? 一体今の会話の何処に納得出来る部分があったんですか!?」


「え? むしろお前理解出来なかったの? ホントに女かよ」


 そこまで言って俺は一つの考えに行き着いた。高坂美咲という女は公衆の面前に自分の裸体を晒す趣味、いや性癖を持っているのかもしれない。そう考えれば納得がいく。


「すまんな。理解してやれなくて。まあ、性癖は人それぞれだ。お前はお前の道を貫け」


「なんかすごい失礼な事を想像されてません?」


「そんな事はないぞ。俺は一応お前の味方だ」


「もう、いいです!」

 そう言って高坂はプリプリと怒りながら席に座って紅茶を飲み始めた。


「あーやだやだ。短気な女は嫌いだぜ。さて、考えはまとまったか? ちんまいの」

 横目で睨んでくる高坂を無視して、目の前でうんうん唸っているラナに話しかけた。


「そうだねえ。フリージアを素体として、状況によって装備を追加して機体自体を別のものに昇華させるってのはどうだい?」


 要するにリザにいろんな服を着せるってことか。それならきっとあいつも納得してくれるだろう。


「いいんじゃねえの」


「それはよかった! それじゃあ早速追加装備を考えよう。君の機体だからね、君の意見を第一に考えるよ」 


 この間の戦闘を考えるにこっちの世界の火力は相当なものだ。いくらインナーフレームが頑丈だと言われた所でヒビが一つでも入ってしまえばそこから全体が崩れる。そうなれば終わりだ。


それを避けるとなると、敵の攻撃に当たらないように機動力を重視して身軽になるか、敵の攻撃を受け止めるために重装甲にするか。選択肢はそう多くない。


 次に問題になるのは武装だ。量産機が主に装備しているアサルトライフルの口径が38ミリ。〈デルフィニウム〉の狙撃砲の口径が48ミリ。当たれば今の〈フリージア〉は吹き飛ぶが、逆に〈フリージア〉が扱うにしては口径が小さい。量産機相手であれば問題は無いのだろうが、オリジナルを相手にすると考えた時、恐らく火力が足りない。


「とりあえずこの世界の戦闘に慣れるまでは装甲を重点的に強化してくれ。武装はどの程度のものまでなら作れる?」


「そっちの方の技術は大分進んでいてね、実弾系であれば大抵のものは作れる。ただ、エネルギー兵装となるとラケナリアの設備では難しい」


「なら、大口径ガトリングとバトルライフルをメインに背部にバズーカ2門積んでくれ」


「オッケーだよ。他にご希望はあるかい?」


「白兵戦が出来るように最低限の可動域は確保しておいてくれ」


「わかったよ。それじゃ作り始めるよ」

 そう言ってラナは作業員達を引き連れて部屋を出て行った。


 入れ違いに龍之介が部屋に入ってきた。龍之介の姿を確認した高坂が律儀にも立ち上がって礼をした。

「改修計画は進んでるか?」


「まあな。何しに来たんだよ」


「お前のご機嫌を伺いに来た」


「気持ち悪い事言うな。大方俺の扱いが決まったから言いに来たんだろ?」


「その通りだ。お前にはアザミと一緒にラケナリアの外貨を稼いでもらう」


「ラケナリア唯一のオリジナルか。いつ会えるんだ?」


「今日帰還する予定だ。休息を取ったらお前の所に行くよう言っておく」


「そうしてくれ」

 詰まるところ俺のやる事は何も変わらない。戦い、金を稼ぎ、居場所を確保する。俺が生きるために手にした唯一の手段だ。


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