ラケナリア襲撃 後編
先程の放送から20分が経とうとしていた。最初は遠くで物音が聞こえる程度だったが、10分を越えた辺りから格納庫が大きく揺れだしていた。
戦闘区域が広がっているのか? もしそうだとしたら一刻も早くここを離れなければ巻き込まれてしまう可能性がある。この世界の戦闘がどんなものかは知らんが、それなりにでかいこの施設が揺れているという事は間違っても子供の喧嘩レベルのものではないだろう。
不意に、一際大きな音が聞こえた。一拍遅れて炎が格納庫に舞った。何人かの作業員が炎に巻き込まれていたが、俺の関心は別のものに向けられていた。
目の前に〈フリージア〉と同じくらいの大きさの人型兵器が立っていた。ずんぐりむっくりとした頭身の低い体だったが、この場に置いては力強さを象徴しているように思えた。赤い目の光が〈フリージア〉を捉えた。
まずい、狙いはこいつか。この距離ではどうやっても逃げられない。機体が起動する事に懸けるしかない。しかし、起動操作をしても〈フリージア〉は反応しなかった。
起動しなければ死ぬ。祈り、再度起動操作を行った。
敵はもう目の前まで迫っていた。
「起きろおおおリザああああああああ」
機体中央操縦桿の前に設置された丸いインターフェイスに光が宿った。
『おはようございます。緊急行動を開始します』
○
関節の軋む音が獣の咆哮のように聞こえた。リザは自身に迫る危険に対して適切な対処をした。体に刺さった無数の槍により行動が制限された状況下では満足に敵を退ける事が出来ない。
ならば、この場に置いて最も有効な手立てはタックルである。リザは機体を脚の力のみで前面に押出し、眼前の敵を遠ざけた。
「ぐあっ!」
コックピットハッチが開いたままタックルをしたので大きな衝撃が〈フリージア〉のコックピット内に響いた。
リインカーネーションの量産機である〈パロット〉の搭乗者は混乱していた。ほとんど予備動作が無かったにも関わらず〈パロット〉がここまで突き飛ばされた事が理解出来なかった。
『コックピットハッチ閉鎖』
『全周囲監視ディスプレイ起動……完了』
『バディドライブ起動……起動失敗』
『量子フィールド形成……失敗』
リザが起動処理を最速で行う。
『伝達回路正常に起動』
〈フリージア〉の目に光が緑色の宿った。
『機体の損傷をチェック……終了』
『奏。機体の状態は最悪です。撤退を推奨します』
「リザ。お前起きるのが遅いんだよ」
『すみません。長期間放置されていたので起動に手間取りました。それよりも、撤退を』
「無理みたいだな。あいつはやる気満々だ」
〈パロット〉は態勢を立てなおしていた。
性能では〈フリージア〉に劣っていてもこちらには飛び道具がある。更にあちらは相当に手負いだ。一人でも問題は無い。〈パロット〉のパイロットはそう判断した。
「そういや、お前俺の事『奏』って言ったな。俺の名前か?」
『そうです。あなたの名前は霧島奏。記憶喪失ですか?』
「そうみたいだ。後でゆっくり教えてくれ」
『来ます』
「ええい、くそったれ。話す時間くらいよこせってんだ」
奏は急いで狭い格納庫の中を目一杯横に飛んだ。間髪を容れずに〈フリージア〉がいた場所に〈パロット〉が放った38ミリアサルトライフルが飛んできた。
「使える兵装は?」
『ありません』
「嘘だろ……一か八かやるしかないか」
〈フリージア〉は格納庫の床を踏抜き、その巨体を〈パロット〉にぶつけた。ぶつかった衝撃でお互いの装甲が砕け散った。
「こなくそおお!」
奏は脚に刺さった槍を一本引き抜き、相手の機体のコックピットと思われる部分に突き刺した。同時に〈フリージア〉はバランスを崩して倒れそうになった。
後ろから呆然とその光景を眺めていた美咲は慌てて〈デルフィニウム〉を操作し、倒れゆく〈フリージア〉を支えた。
ピクリとも動かなくなった〈パロット〉からは、槍を伝い冷却液と血が混ざった赤褐色の液体が流れ出ていた。
今日中にもう一回投稿します




