コンバット!
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「ちっくしょおおお!」
格納庫側の搬出口にほど近い通路にレオリオの叫びが響いた。
奏とレオリオは出口まで後少しという所で長らく足止めを食らっていた。次から次へと出てくる敵の増援にグレネードは早々に使い切ってしまった。
「あーやだ! もうホントやだ!」
「口動かす前に手を動かせ! 残弾は!?」
「あーマガジン2つ分」
「こっちは1つ! ロケットランチャー撃つ! 耳塞いで口開けろ!」
奏はろくに狙いも定めずにロケットランチャーを放った。発射音と共に爆発音が聞こえた。近距離撃ったため爆風と熱が奏を襲った。
「あっちい! 死ぬっての!」
「そんなんで死ぬタマじゃねえだろ。てか行けんじゃね?」
爆発の影響で周囲には濃い煙が発生していた。
恐らく敵はまだいる。運が悪ければ死ぬが、行かなければ弾切れで死ぬ。どちらに賭けるかは考えるまでも無かった。
「敵出たらお前盾にするから。恨むなよ」
そう言いながらも奏はレオリオよりも先に飛び出た。が、やはり敵がいた。誤射の危険性があるためか発砲こそしてこないが、近接戦闘を挑んできていた。
人3人分の通路をギリギリまで使った近接戦闘が始まった。胸に挿していたコンバットナイフを引き抜き、薄暗い視界の中で向かってくる敵の首を正確に切り裂いていく。
銃を使えない訳では無かったが、視界の向こうに何人残っているのかわからないこの状況ではいたずらに弾を消費するよりも温存し、近接戦闘で出来る限り進んだほうがいい。
「キリがねえ! スネークでも無理だ!」
レオリオが敵の首を折りながら言った。
「スネークでダメならメイトリックス大佐呼んでこい!」
「マジで来てくれ大佐!」
2人の願いが届いたのか、搬出口から見て右側の通路から銃声と悲鳴が聞こえた。
ひらひらと揺れる白いスカート、頭につけたカチューシャ、どこからどう見てもメイドだった。手に持ったサブマシンガンとコンバットナイフに目を瞑れば、だが。
「後ちょっと後ちょっと後ちょっと」
レオリオはブツブツと呪文のように呟きながら次々と首を掻ききり、折り、突き刺し、殺していた。
「こわ!」
その姿には流石の奏も薄ら寒いものを感じた。
レオリオは普段の発言がヘタれているせいで能力が低く見られがちだが、実際は並のオリジナルジャンパーよりも遥かに優秀だった。
最初こそ実戦経験の浅さから来る未熟さが見られたが、奏と行動を共にした事で実戦を経験し、最近はそれも見られなくなっていた。
メイドと奏とレオリオ、3人でどれ程の数の敵を蹴散らしただろうか。ナイフに付着した血が固まる程の時間は優に戦っていたはずだ。
煙の晴れた視界に残っている敵は3人。もう銃を使っても問題は無いだろう、そう油断したのがまずかった。奏達から見て左側の通路から飛び出してきたメイドはあっという間に残った敵を片付けて、奏に斬りかかった。
十分な助走を経て飛び上がり、振り下ろされたナイフは例え女性であったとしても相当な破壊力を持つ。咄嗟に盾にしたアサルトライフルがミシミシと音を立てながら中から折れようとしていた。
「てめっ……なんつーバカ力だ……! ココ!」
奏に飛びかかったのはココ・ラーシャだった。支給されたメイド服は返り血で赤く染まっていた。
「はん! 私を自由にしてたのが裏目に出たね。あんたを殺して私はここを出る……って言いたい所だけど、外にオリジナルがいるんだよねー。ってことであんた達は見逃してあげる。さっさとあいつら倒してよ。出来るでしょ?」
「簡単に言ってくれるじゃねえか。まずはナイフをどけてくれないかな、お嬢さん? 手がふさがってるからお前の乳が揉めない」
「……あーイライラする。気が変わった。やっぱあんたは殺す!」
ココがナイフに更に体重を乗せた。アサルトライフルがミシミシと音を立ててヒビが入り始める。限界だった。奏は全力でココをアサルトライフルごと押しのけ、態勢を整えた。
「やっぱお前を買ったのは正解だった。ここで邪魔されるのはシャクだけど、すげえ戦力になる。さっさと俺の犬に……なれ!」
言いながら奏はナイフを横に薙いだ。ココはそれを見切っていたかの様に最小の動きで避け、ナイフを奏の胸目掛けて突き刺した。奏もその動きを読んでいた。体を横に逸し、避ける。そのままの流れでココの腕を取ろうする。が、ココもまたその動きを読んでいた。奏よりも先に腕を動かし、ナイフの柄で奏の顎を打った。
「情けない。あんたホントにタマついてんの? 私を屈服させてみなよ」
「屈服ねえ。1つ約束しろ」
奏は顎をさすりながら言った。
「何さ」
「俺が勝ったら、お前は俺のものだ」
「何かと思ったらそんな事。いいよ。どうせあんたはここで死ぬんだから。奴隷でもなんでもなってやるよ」
「言ったな? お兄さん本気だしちゃうぞ」
奏が姿勢を低くし、一気にココの懐へ飛び込んだ。
「え! ちょっ! マジ!?」
一瞬たじろいだが、すぐに態勢を立て直し、奏の金的に膝蹴りを試みる。奏はそれを内股になることで回避し、ココの腹部に拳をめり込ませた。
「あうっ!」
連撃を食らうわけにはいかない。ココは痛みに歯を食いしばりつつ、飛び上がり、体を捻って蹴った。それはちょうど旋風脚の様な攻撃だった。
頭を狙った攻撃だったが、左腕でガードされてしまった。だが、それでもいい。目的である距離を取る事は出来たのだ。
「可愛い女の子を殴るのは気が引けるな」
「微塵も思ってない事をペラペラと」
ココは吐き捨てるかのように言った。
「痛いのはイヤだろ? さっさと降参しろ」
「嫌だね。あたしはまだ抵抗する」
「あのー。お2人さん? お取り込み中申し訳ないんですが、今の状況わかってます? 手を取り合う場面だと思うんですけど?」
レオリオがおずおずと腰を低くしながら、2人に気を遣った声音で言った。が――。
「うるさい!」
「ひいっ!」
レオリオの思いは2人の声にかき消された。
再び熾烈な近接戦闘が始まる。
今度はココが先に飛び出した。勢いを活かして飛び上がり、回し蹴りをする。躱される、だがそれは予想通り、狙いは次にある。回転によって舞い上がったスカートで死角が出来る。そこからナイフを繰り出す。
奏の顔面を切り裂くはずだったナイフは空を切った。あるべき場所に頭部が無かった。
(しくった……!)
思い切り勢いを付けて振ったナイフ。流れを止める事は出来ない。片方に集中した重心は、僅かな衝撃で崩れ去る。
勝負が決まった。渾身の一撃を避けた奏は、ココの足を払い、馬乗りになってナイフを首元に突きつけた。
「俺の勝ちだな。忠誠を誓え」
「……っ!」
「口だけでいい」
奏は血が出ない程度にナイフを軽く押し付けた。
「……わかったよ。あんたに忠誠を誓います」
「そうだ。それでいい」
奏はナイフを下げて立ち上がり、ココに背を向けた。その隙を見逃すココでは無かった。ナイフを握り直し、奏に突き刺そうとした。が、体を横に逸らされ避けられ、挙句思い切り抱きしめられてしまった。
「ホントに口だけだな」
「ふんっ。その内背中からブスっとやってやる」
「もういい加減いいだろ? 早く行こうぜ奏」
「そうだな。ここから右にもうちょっと行って左に曲がった場所の左側の部屋に武器がある。施設に残った敵を片付けてくれ、ココ」
「……」
「ココ」
「ちっ。わかったよ。やればいんでしょやれば」
「助かる」
それだけ言って奏はレオリオを伴って搬出口から外へ出た。




