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ランページコンプレックス~君のいた世界~  作者: アキノタソガレ
流れにride in
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リンドウ

急速にやる気が抜けていくのが感じられます。ひゅーっと。

メリダみたいな人が欲しい。

 頭痛を振り払うように頭を振ったら、通信が入った。アザミからだった。


「ラナを確保したわ。龍之介と片桐は執務室にたてこもってるみたい」


「でかした。こっちは人質を確認した。結構な数が格納庫に集められてる。何機が機動兵器もいるから絶対に格納庫には近づくな。龍之介達は大丈夫そうか?」


「見た感じは大丈夫そうよ。敵が近づく気配が無いわ」


「……やっぱり狙いはラナと俺達か。よし全員聞け。今からアヤにドンパチを始めてもらう。その騒ぎに乗じて俺とレオリオが格納庫の見張りを片付ける」


「ええ……またオレ危ない事しないといけないのかよ」


 レオリオが愚痴気味に言ったが、奏は聞こえなかったふりをした。


「メリダはそこから出てエウラリアに乗ってくれ。残り2人はラナの護衛だ」


「了解」


 必要最低限の事だけ話し、通信を早々に切り上げた。


「スネークタイムは終わりだ。今度はパーティーだ」


「お前についたのは失敗だった気がしてきたぜ……」


「気のせいだ。降りるぞ」


 2人はアザミ達と通信しながら既に移動を開始していた。


 現在位置は格納庫までの距離が扉一枚の場所。つまり、目の前だ。当然扉の前には護衛がいる。3人だった。通風口を開け、上から3人に鉛弾を食らわせる。3人はあっけなく絶命した。


「見たな? こっち側はコンテナが多い。お前は右、俺は左のコンテナから殺る」

 念のために銃の動作確認をしながら奏が言った。


「オーケー。そんじゃ、1、2、3!」


 格納庫扉の開閉ボタンを押す。重々しい音を立てて、分厚い扉がゆっくりと開いていく。


 2人は兵の注意がこちらに向く前に素早く格納庫に入り、コンテナの影に隠れた。


「んー? やる気のあるネズミがいるみたいだな」


 リチャードが嬉しそうに腰を下ろしていたコンテナから立ち上がり言った。


「ポジションA」


 冷静な男の声。ナガセ・ナズナだった。


 格納庫に散らばっていた兵が2人一組になってコンテナの影に隠れた。


 奏達が通路が出会った兵とは違い、統率がとれていた。その身のこなしを見るに、訓練された優秀な兵だろう。


「おい、人質を下がらせろ」


 リチャードが側にいた兵に命令した。


 大勢の人質が数人の兵に誘導され一斉に端にある大型コンテナの影に隠された。


 それが合図だったのかの様に激しい銃撃戦が始まった。パパパパパパッ。鉛弾が飛び交う音がする。


「グレネードは使うなよ!」

 奏が銃声に負けない大声でレオリオに言った。


「わかってるよ! ったくことごとくツイてねえ」


 本来2人は、囮としてグレネード等の爆発物を使って敵の注意を惹きつけるはずだった。しかし、予想よりも敵の展開が早い上にこちらの建物の構造を知ってるとしか思えない様な敵配置だった。


 結局当初の予定はまる崩れ。唯一予定通りだったのはラナを確保する事が出来た事だけだ。


「あー! もう! 俺なんか作戦立てるの向いてない気がしてきた!」

 奏がアサルトライフルのマガジンを交換しながら言った。


「オレもそう思う! この間も思ったけどお前の作戦予定通りに行った試しがねえ!」


「うるせえよ! 今回のミッションプラン作成には俺参加してねえよ!」


「お前がいるだけで全部予定通りに行かねえんだよ! お前こっち来てから予定通りに作戦遂行出来た事あるか!?」


「……ちきしょう! 数えるほどしかねえ!」


「やっぱりお前のせいじゃねえか! お前呪われてんじゃねえの!?」


  格納庫が大きく揺れた。アヤが外で撹乱行動を開始したのだろう。


「うお! なんだあ? オリジナルのお出ましか?」


 揺れにいち早く反応したのはリチャードとナガセだった。


 2人は今の揺れが機動兵器の攻撃によるものだとすぐに察知し、予め用意していた自身のオリジナルに搭乗しようとした。


「マズイ! あの2人を乗せるな!」


 奏が叫び、銃口を2人に向ける。ワンテンポ遅れてレオリオも銃口をそちらに向けた。


 だが、格納庫はあまりにも広かった。遠すぎて狙いが定まらない。ろくな制止も出来ずにオリジナルへの搭乗を許してしまった。


 終わった。オリジナルが動けば歩兵同士の戦闘等子供同士のじゃれあいになってしまう。奏はすぐに思考を切り替え、無傷での人質開放を放棄した。


「アヤ! メリダ! どっちでもいい! 格納庫のハッチを壊せ! オリジナルが動き出した!」


「ああああ! オレもうマジでいやだあああ!」


「何してんだレオリオ! ずらかるぞ!」


 急がなければアヤかメリダのどちらかが格納庫のハッチを壊して入ってくる。


 テロリスト側からすればラナが女であるという事以外わかっていない状況だ。であれば人質を守ることを優先するだろうが、こちらは違う。最悪ここにいる人質は見殺しにしても問題は無い。試合に勝って勝負に負けるという形になるが、ラナとオリジナルジャンパーさえ生き残っていればいくらでもやり直しは効く。


 だから、逃げるのだ。

 去り際に見えた紅いオリジナルに見覚えがあるような気がして、また頭痛がした。


  ○


 奏とレオリオが格納庫を脱出して間もなく、メリダ駆る〈エウラリア〉が専用高出力レーザーブレードオビエドでハッチを切り裂き始めた。ハッチが赤く輝き、熱を持つ。


「はーやーく動けってんだよ、出来損ない!」


 リチャードが苛立たしげにコックピット中央に鎮座している丸いインターフェイスを蹴った。


『起動プロセスの省略を確認』

〈フリージア〉のリザとは対照的な低い男の声だった。〈リンドウ〉に搭載されたAIアイビーが言った。


『全周囲監視ディスプレイ起動……完了』


『火器管制システム正常に稼働』


『シングルドライバ起動』


『伝達回路正常に駆動』


〈リンドウ〉の目に紅い光が宿った。


「やーっと目が覚めたか」


 メリダの手によって右上から斜めに切り裂かれ、ハッチが無理矢理開いた。


「俺がやる。あんたはそこで見てな」


 リチャードはナガセに言い、手を握ったり開いたりを繰り返した。


 これは彼の癖のようなものだった。戦闘が始まる直前に、意図せずやっているのだ。


「やるぜえ」


〈リンドウ〉が凄まじい速さで飛び出た。その速さは外で油断なく待ち構えていたはずのメリダとアヤを驚かせる程のものだった。


〈リンドウ〉が地を蹴り空に浮かんだ。見せつけるかのように上空で一回転してから着地し、右手にもったライフルを3連射した。


「ふざけた事を!」


 メリダが〈リンドウ〉との距離を詰めた。右腕のオビエドを振るうが、リチャードはすれすれの所でそれを避けた。


「おっかないねえ」


 アヤが横から〈レストレイン〉の右腕に装備されたレーザーライフルを撃った。


 しかしリチャードは、それすらも予想していたかのようにバク転というアクロバティックな方法でそれを避けた。


「なっ……?」


 完璧に不意を突いたはずだった。敵は完全にメリダに集中していた。その上こちらは姿を確認されていなかったはずだ。にも関わらず、彼は避けた。それも軽々と。


「あり得ない……」


「気を付けろ、アヤ! 強い!」


 メリダは特殊合金製の盾の先端から発せられるエネルギーランスで〈リンドウ〉を貫こうとした。が、何度突いても、全て紙一重で避けられてしまう。合間を縫って放たれるアヤのレーザーライフルも彼は全て避けていた。


 完全に遊ばれていた。


「おいおい、こんなもんかよ」


 リチャードは少しがっかりしていた。ラケナリアのオリジナルジャンパーは凄腕だ。そんな噂がここ最近の奏達の活躍によって3大組織で流れ始めていた。


 リチャードもその噂を耳にしていた。更にクライアントからもクラスペディアの傭兵を雇った上で、注意しろと言われていた。


 言われた通り普段よりも念入りに、周到な準備をした。スパイも送り、情報も仕入れた。その上で、自分の敵では無いと判断していたが、それでも何かあるかもしれないと用心した。


 だが、実際はどうだ? そこいらにいる有象無象よりは遥かにマシだが、やはり自分の相手では無い。


(噂倒しか? ……しかし……いや、まだ3人いる)


 リチャードはプロだった。戦闘を楽しむ癖はあったが、ミッションは完璧にこなす。油断する事だけはしない。残りが来るまでに片付ける。


「時間切れでーす!」


〈リンドウ〉は急に棒立ちになった。


「……?」


 敵に何が起きたのかはわからないが、これは紛れも無いチャンスだ。〈エウラリア〉は一瞬で〈リンドウ〉との距離を詰めた。オビエドから発生したレーザーブレードが〈リンドウ〉の胴を切り裂――


「何!?」


〈リンドウ〉を切り裂くはずだったオビエドの刀身が〈リンドウ〉に握られていたのだ。


「バイバイ」


〈リンドウ〉がオビエドを握っている手とは逆の手を振った。と、同時に〈エウラリア〉のコックピット周辺で鉄が圧縮される様な音がして〈エウラリア〉が地に伏した。


「驚いた? でもダメだよぉ、戦場でビビっちゃ。ドンっ」


〈エウラリア〉を倒してすぐに〈レストレイン〉の許へと飛んだ〈リンドウ〉が、再び手を振って、バイバイをした。と、同時に、やはり〈レストレイン〉のコックピット周辺で鉄を圧縮する様な音がして〈レストレイン〉も地に伏した。


お読みいただいた方々とブックマークしてくださっている方々に感謝を。

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