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ランページコンプレックス~君のいた世界~  作者: アキノタソガレ
流れにride in
33/37

潜入

遅くなってすみません。

後少しでメリダのスピンオフも完成します。

 たどり着いたセーフハウスで、レオリオと義経を除いた3人は準備をしていた。


「生身で戦うのとか久しぶりだわ」

 ハンドガンの弾倉に弾を込めながらアザミが言った。


「あーそういや俺も久しぶりだわ。メリダは?」


「実戦では無いが、義経と訓練はしているな」


「へー今度見せてくれよ」


「構わない」


 セーフハウスの扉が音を立てた。


 まず最初に奏がテーブルを倒し背を預け、扉に向け油断なくハンドガンを構えた。次にメリダ。音も無く扉から死角の位置に移動した。アザミは柱の影に隠れ奏と同じく扉に向けハンドガンを構えていた。


 そして扉の向こうから現れたのは――


「うお!? 落ち着けよオレだよオレ!」


 レオリオと義経だった。


「なんだお前かよ。戻る時はちゃんとレオリオでーす! って大きな声で言わなきゃダメだろ」


「そんな事したら蜂の巣になるわ!」


「まあいい。で、どうだった?」


「正面入口にアサルトライフル持ちが5人。格納庫入り口は何人いるかわからん。パロットも3機いた。」


「どっちも論外だな。東側の非常口は?」


「2人。眠たそうにあくびしてたから余裕だ」


「よし、そこから入ろう。侵入後、メリダ義経アザミチームはラナがいると思われる場所を見てくれ。俺とレオリオは通風口を通って格納庫の様子を覗く。ここまでもちろん隠密行動でな。銃組はサイレンサーを忘れるな。無線機はそこだ」


「よし! やってやんよお!」

 無線機を装備し終えたレオリオが言った。


「それは俺が言うべき掛け声なんだがな……まあいい行くか」


  ○


 東側非常口の見張りは義経が相手が声を出す暇も与えず一瞬で排除し、義経が制圧完了の合図を出した。


 奏が周囲を確認しながら近づき、ノブをゆっくりと回す。僅かに開いた隙間から敵の有無を確認する。いない事を確認し、全員を扉前に集める。


「俺とレオリオが先に行く。お前達は2分後中に入ってくれ。行くぞレオリオ」


 奏は広いラケナリア本社の構造を必死に思い出そうとしていた。記憶の中ではこのまま真っ直ぐ進めば通路が3つに別れるはずだ。


 格納庫へ繋がる通風口に登れる場所は限られている。辿り着くための選択肢は2つ。右側の通路を通り迂回して進むか、左側の最短通路を通るか。


 戦闘が避けて通れないと仮定すると、遮蔽物が多い迂回ルートになる。しかし、スピードを要求される今は、人質の立場から考えれば遮蔽物の無い最短ルートの方がいい。


「どうするかな……」


「オレは最短の方がいいと思う」


「理由は?」


「オレ達は銃持ちだけど、あっちはアザミしか遠距離に対応出来ない。遮蔽物がなかったらいい的だ。戦闘が避けられないならオレ達が行くべきだ」


「どの道あいつらもここを通るしな。お前にしちゃ名案だな。そうしよう」


「お前にしちゃは余計だ。……ストップ」


「いるな……」


 2人は気配を感じ取っていた。敵の数は恐らく2人。巡回途中なのだろう。


 現在の位置は分岐路。ピッタリと体を壁に押し付け気配を消す。気づかれないようサインでお互いに意思疎通を図る。


『1人一体ずつ』


『わかった』


 一歩ずつ足音が2人に近づいていく。一歩。また一歩と。そして遂にその時が来た――


「……!」


 のんきに左右を確認せず角を曲がった敵を奏が腕で引きこむ。間髪入れずに膝の間接を蹴り、態勢を崩す。声が出せないように首を絞め、落とす。


 視線を移せばレオリオが敵の足を払い、押し倒し、頭に2発鉛弾をめり込ませていた。


「中々やるじゃん」


「お前に言われても嫌味にしか聞こえねえよ。スネークかってーの」


 周囲を警戒しつつ早足で目的地まで進んでいく。が、目的地直前になって問題が発生した。即ち、監視カメラの存在だった。


「ちっくしょ。俺のプリチーなケツが丸見えだ」


 ここまでは監視カメラの死角をついて移動して来たが、目的地直前になって監視カメラから逃れられない事が判明したのだ。


  ○


「2分経ったな。行くぞ」


 奏とレオリオの突入後メリダを先頭にアザミ義経の順で侵入した。目的地はラナの私室。彼女ならばこの状況でも私室でのんびり激甘コーヒーを飲んでいるだろうという考えの元だ。


 東側非常口からラナの私室まではしばらく直進が続く。その間一度も敵に遭遇しないというのはよほど運に味方されない限りあり得ないだろう。


 幸いにも通路には数日前から行われている資材の搬入によって、ダンボールやコンテナが多量に配置されていたはずだ。


 障害物の多さは即ち生存率の向上に繋がる。何も無い場所はどれだけ早く動こうとそれは的にすぎないからだ。


 資材は予想よりも多かった。所狭しと無造作に置かれたコンテナに時に足を取られかけながら進んできた。


 資材が無くなり、横幅が広く3つの分岐路がある通路に到達した。ここまで一度も敵と遭遇する事はなかった。


「妙だな。静か過ぎる」

 メリダがそっと呟いた。


「あなたもそう思う? こういうのなんて言うんだったかしら?」


「嵐の前の静けさ」

 義経が立ち止まり、目を閉じ言った。


「どうしたの?」


「いる」


 義経は側の部屋を蹴破る勢いで開き、2人を強引に部屋に入れ、自身も身を滑り込ませた。一瞬の後、グレネードの爆風が3人を襲った。


「そんな、いつの間に?」


「囲まれていたようだな。義経がいなければ危なかった、感謝する」


「いい。問題はここからだ。先に行く!」


 そう言って義経は部屋を出て行った。


「いたぞ! 撃て!」


 前後左右合わせて12人の敵。前方の集団が義経にサブマシンガンをばら撒く。誤射を気にしてか、後ろの集団は義経を狙わなかった。代わりに部屋の中にいるアザミに狙いを定めた。


 壁を蹴り、通路を縦横無尽に駆ける義経。背後ではアザミが部屋の中から後方の集団にアサルトライフルを撃っていた。


「位置が悪いわ! ここからじゃ殺りずらい!」


 アザミとメリダは向かって右の通路と正面の通路の死角に近い部分から銃撃されていた。


「右のを任せた。正面のを殺る!」


 言うが早いかメリダは駆け出していた。器用に体をひねり敵の射線に入らないように移動していた。


「どうして内の人達は飛び込むのが好きなのかしら……」


 言いつつもアザミはメリダを援護した。右の敵と正面の敵同時に相手し、極力メリダに注意がいかないようにした。


「獲った!」


 メリダが接近に成功した。一閃。1つの首が宙を舞った。地面がゴツっというを立てた。遅れて首の無くなった体から大量の血しぶきがあがった。


「ハハっ!」


 メリダの笑い声だった。


「っこの! 戦闘狂が!」


 兵が焦り、と驚きを顏に浮かべながらサブマシンガンを向ける。が、それよりも早くメリダは頸動脈を切り、喉笛に突き刺し、首を獲った。


 返り血を被った彼女の(かお)はこの上なく美しかった。


「もらった!」


 視線を移せば、義経も敵に接近していた。


「ヒッ!」


 芸術的な輝きを放つ刀身が兵の首と体を切り離す。上がる血しぶきすらも刀を彩る添え物のようだった。


 息をつく間もなく、首が刈られていく。気がつけば、数呼吸の内に4人の兵の首が床に転がっていた。


 刀身に付着した血を一振りし、払う。壁に血がへばりついた。


「んもう! グレネード使っちゃおうかしら」

 とは言っても使えない。すぐ近くでメリダが敵と交戦しているのだ。


 タタタッ。タタタッ。銃声が響く。しかし、倒れた兵は1人。1人倒れてから相手はより慎重になり、壁から顏を出さなくなった。出すの銃身。デタラメに吐き出された鉛弾は当たる事はなかったが、こちらの鉛弾もまた、当たらなかった。


「しょうがない」


 アサルトライフルを壁に向けばら撒き、同時に部屋から飛び出た。武装をハンドガンに変え、敵の隠れる通路の角に飛び込む。


 突如として現れたアザミに狼狽する兵に反撃の隙を与えずに、ハンドガンで仕留める。


 パンッ。パンッ。パンッ。乾いた音が3つ響いた。


 床に視線を落とすと、頭から多量の血を流した男たちが転がっていた。


「終わりだな」

 メリダが言った。


 3人はほぼ同時に12人を片付けた。こちらに人的損害は無かったが、別の意味では大損害を被った。


「早く行きましょう。気づかれるまで時間が無い」


「そうだな」


  ○


「なあ、お前ケツ撃たれた事ある?」


 監視カメラの目からどう逃れようか暫しの間考えていた2人だったが、不意に、思い出したかのように奏が言った。


「なんだよ急に」


「いいから答えろよ」


「ある訳ねーだろ。そもそもまだ一発も弾もらった事ねえよ」


「ケツで鉛弾食べたい?」


「待て。すげーイヤな予感がする」


「お前しんがりな」


 奏は付近にあった消火器を監視カメラに向けて放った。周囲が煙に包まれた。


「おっさきー!」


 奏が我先に通風口へと入っていった。


「ゴホッゴホッ。てめ、このやろう!」


 レオリオも悪態をつきながらも、奏に続いて通風口に入っていった。


 通風口の中は思ったよりも清潔だった。油にまみれていたり、クモの巣がはっていたり、大量のホコリが発生している等という事は無かった。


「ナイスアイデアだったろ?」


「消火器を使うところまではな。時にお前さん、寝る時は戸締まりを確認した方がいいぜ?」


「なんだよレオリオ寝首をかこうってのか?」


「どうかなー?」


「お前には無理だな」


「なんでだよ」


「メリダがいるから」


「え? なんでそこでメリダさんが出てくんだよ?」


「あれ? 言ってなかったっけ? 俺の部屋でメリダとアザミが住んでるんだよ」


「え! マジで!?」


「バカ! 声がデカイ」


「わ、わりい」


「あいつ俺に敵対する奴容赦なく切り刻むからな。おっかねーよ」


「簡単に想像出来るあたりがメリダさんだよな。キンタマが縮んだよ」


 等という無駄話をしている内に気がつけば格納庫真上の通風口に到達していた。


 通風口から覗いた格納庫には本社の半分近くの人が集められていた。距離が遠すぎてよく見えないが、エルフの特徴である長い耳が見える気がするあたり、ルーラとヘレナがいるのかもしれなかった。


「みなさーん。よく聞いてくださいねー。これから俺が喋る事に口答えすれば殺します。うるさくしても殺します。黙っても殺します。わかりましたかー?」


 通風口越しでもよく聞こえる声だった。


 声の主はオールバックでまとめた黒髪に無精髭。野性的な笑みが似合う男だった。


 明らかに普通とは一線を画するその肉体からにじみ出る空気は人殺しであり、狂人のそれだった。


「どうすれってのさ……」


「んー? 今喋ったのは誰かなあ?」


 そう言って、男は心底嬉しそうにニヤけた。


「アタシだよ」


 男に物怖じせずに声を発したのは加蓮・レイナードだった。


 奏達が来たことで活躍の場を奪われてしまったが、加蓮は戦闘員である事に誇りを持っていた。故に自身の機体の調整を怠らなかった。しかし、そのせいで格納庫を訪れたテロリスト達にまとめて取り押さえられてしまったのだ。今回は彼女の真面目さが裏目に出てしまったと言ってもいいだろう。


「んー可愛らしいお嬢さんじゃないか。いいねえ、この状況でもビビらず冷静だ。でもこうしたらどうかな?」


 男はその辺のスタッフの頭に拳銃のレーザーポインタを当てた。当てられた男は恐怖のあまり声を出すことも出来なかった。


「やめなさい!」


 緊迫した空気の中、更にもう一つの声があがった。高坂美咲だった。


 彼女は初めて実戦のオペレーターをする事になったルーラとヘレナの補佐として作戦室にいた所を襲撃された。


 彼女1人であれば抵抗し、逃げる事も出来たが、非戦闘員が大半を占める作戦室での抵抗は味方が犠牲になる事を意味する。結局しょうがなくテロリストの言う通りに格納庫に集められたのだ。


「おーう。ここのお嬢さん方は威勢がいいのが多いねえ。嬉しいよお。お嬢さんの名前は?」


「高坂です」


「ふふーん。高坂君。俺はねえ、えらーい人からラナっていう女とオリジナルジャンパーを誘拐して来いって言われてるの。だからね、女の人は撃てないんだ。だけどね、男を撃っちゃいけないとは言われてないんだ。この意味わかる?」


「や、やめなさい!」


 高坂の制止虚しく、ポインタを向けられていた。頭に弾丸を受け、絶命した。


「なんて事を……!」


「ついでに君の名前も聞いておこう。言え」

 レーザーポインタを加蓮に当て直し、言った。


「加蓮だ」


「加蓮ちゃん。君はどう見ても戦闘員だよねえ? 君は女だけど俺達の対象じゃないように思える」


 ニヤニヤとしながら男は引き金を引い――


「リチャード」


 新たに現れた男がリチャードと呼ばれた男の額にピッタリとレーザーポインタを当てていた。


 若い男だった。一見すると優男だが、その油断無い立ち姿は紛れも無く訓練された者のそれだった。


「無用な殺生はやめろと言ったはずだ」


「これはこれはミスターナガセ。とりあえずその物騒なもんを下げてくれねえかな。ビビっておちおち話しも出来ねえ」


 額に銃を向けられているにも関わらず、リチャードはまるで気の合う友人と話すかのような口調だった。


「言い訳はいい。だいたい察しはつく」


「なら止めるなよ」


「依頼主から女は殺すなと言われているだろう」


「僕ちゃんは臨機応変な態度をとっただけですー。ともあれ! 皆さんも余計な事をすればどうなるかよくわかりましたねー? じゃあ大人しくしててください」


 何かを待っているのか、リチャードはコンテナの上に腰を下ろし、鼻歌を歌い出した。


「なあ、さっきの高坂と加蓮じゃね?」


 レオリオは黙って下を覗きこんでていた奏に話しかけた。


「……」


「おい、どうした?」


「ん? ああ、悪いなんだって?」


 おかしい。リチャードと呼ばれた男を見ていると酷く頭痛がする。穴あきチーズに更に穴をあけようとネズミが駆けずり回っているかのようだった。


 時に、自分とは絶対に相容れない人物と接触していると頭痛が発生する場合があるが、どうもこれはそれとは違うようだった。


 奏は自身の記憶に何か関係があると薄々感じていたが、それが何かを今はゆっくりと考える事は出来なかった。


時になろうの皆様はフルメタル・パニックを読んだことはあるのでしょうか?

もし無いのであれば読むことをオススメします。私の作品なんかとは比べ物にならないほど面白いですよ。

読者の方々とブックマークしてくださっている方々へ感謝を。

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