ミセリア防衛
「ブリーフィングを開始する」
奏の一言でそれまで和やかな雰囲気にあった作戦準備室の空気が張り詰めたものに変わった。
作戦準備室にいたのは今回のミッションに出撃するオリジナルジャンパーとオペレーターだった。
「今回は試験的に俺が連れてきたエルフ達に作戦を立ててもらった。今から説明がある。注意して聞け」
奏に促され、前に出たのは数日前奴隷市から奏が購入したエルフだった。
ロングヘアーのルーラとミドルヘアーのヘレナが、一度手元のクリップボードに視線を落とし、説明を始める。
「依頼主はリインカーネーションです。今から一時間前、6機のオリジナルがリインカーネーション傘下のレフトアウト、ミセリアに攻撃を仕掛けました。同組織のオリジナル、ドネルとカーネルが迎撃にあたっていますが、戦況は好ましくありません。私達は、6機のオリジナルを撃破し、ミセリアを防衛します」
大型スクリーンにミセリア周辺の地図が表示された。
「ミセリアは周囲を谷に囲まれた天然の要塞です。所有オリジナルが少ないにも関わらずここまで粘れたのはこの点が大きいです。またミセリアはレフトアウトの中でも比較的規模が大きく、迎撃装置もしっかりしています。これを利用しない手はありません」
大型スクリーンに投影されていた内容が変わった。ミセリアの周辺5キロの防衛設備の位置と兵装が表示された。
「まず、部隊を迎撃装置の迎撃範囲内から少し離れた位置で降下させ、機動力の高いエウラリアと雷切が敵を迎撃範囲内におびき寄せます。その後、残った部隊は左右から奇襲を掛け、敵を殲滅してください」
今回の作戦立案に一切関与していない奏は、2人の能力の高さに感心していた。奏は2人の能力を図るために意図して情報を少なく与えていたのだ。
予め敵オリジナルが〈ヴェノム〉を中心とした部隊である事を知っていた奏は、戦力バランスから見て、危険度はそれ程高くないと判断していた。だからこそ、あえて敵の詳細を知らせずに味方のオリジナルの特性を簡単に説明するだけに留めていた。
説明を終えたルーラとヘレナが奏に目配せした。ルーラとヘレナは奏に最後の締めを行って欲しいようだった。
「敵オリジナルの中に、ヴェノムがいる。敵はヴェノムを中心とした雑魚部隊だ。苦戦する事は許されない。各員のコンビネーション向上を意識して作戦にあたってくれ。それからアザミは俺とフリージアに乗ってもらう。ナハティガルはもうちょいお預けだな。以上解散! パイロットは出撃準備。オペレーターは状況を開始しろ」
○
ボルトが外れる音。機体がヘリから降ろされた。空気を裂く音が気持ちよかった。
「よし。メリダと義経は予定通り、迎撃範囲内まで誘導してくれ」
「わかった」
「承知」
「俺とアヤ、レオリオは3方向に別れるが、誰がどこを担当する?」
「私はどこでもいい」
「はいはーい、オレ真ん中がいいでーす」
「オーケー。アヤが左翼、レオリオが中央、俺が右翼から攻める。散開!」
全員がそれぞれの持場へと移動を開始した。
メリダと義経のペアは想定よりも早く〈ヴェノム〉達と遭遇した。というよりも待ちぶせをされていたと言った方がいいかもしれない。メリダ達を見下ろす形で谷の上に立っていたのだ。
「ふあーっはっはっは! やはり貴様達が来たか! そこのお前! この間の屈辱忘れていないぞ!」
そう言って〈ヴェノム〉の搭乗者ミッシェルは義経を指さした。
「……」
「何故黙っている? 生まれ変わった俺様に恐怖したのか!」
「……」
「な、なんとか言ったらどうなんだ!」
「お前と話す時間が惜しい。言いたいことがあるなら早くしろ」
「ぐ、ぬぬぬ。どこまでも俺様をコケにしやがってえええ!」
「先に戦っていたはずのオリジナルの姿が見えないが、どういう事だ?」
メリダが流れを断ち切るように言った。
「ふふふふ。あーっはっはっは。まだ気づかないのか? お前達は騙されたんだよ! 今頃はお前達の頭、奏だったか? やつはもうこの世にいない! 安心しろ、お前達も仲良くすぐにやつと同じ場所に送ってやる!」
「ふふ。面白いことを言う。義経、君もそう思わないか?」
「傑作だな」
「な、何がおかしい?」
「奏がやられる訳無いだろう。面倒だな。私達で全て片付けよう」
「承知」
「黙れ黙れ黙れ黙れ! だーまーれー! 殺してやる……! 1人残らず殺してやる。お前達! 何をしてる! さっさと撃て!」
ミッシェルに命令され、彼の背後にいた5機のオリジナルがメリダと義経に仕掛けた。
ミサイルを織り交ぜたサブマシンガンの斉射。メリダと義経は軽快にそれらを躱し、斬りかかろうした。が、突如として地面が爆発し、出鼻をくじかれた。
「言ってなかったが、この辺には地雷が設置されている。地を這う貴様らにお似合いのステージだろう?」
「姑息な」
義経が言って、三角飛びの要領で崖を登り、そのままの流れでオリジナルを1機撃破した。メリダも義経に倣ってブースターを織り交ぜ、崖を登り、オビエドを振るった。
残るオリジナルは4機。圧倒的な実力差を実感してか、残ったオリジナルが後ずさった。
「これでお得意の地雷も使えなくなったな。どうする? 逃げる?」
メリダがオビエドをちらつかせながら言った。
「お、お前達! 後は任せた! 俺様は他の場所の支援に行ってくる!」
〈ヴェノム〉が凄まじい早さでレーダーから消えていった。
「主無き騎士程憐れなものは無い。義経、君に任せる」
メリダは興が醒めたと言わんばかりに手を振り、後ろを向いた。
「命惜しくば消えろ。追いはせん」
その言葉を聞いた4機のオリジナルは背を向け逃げた。
○
メリダ達がミッシェルを退けた頃、奏はコックピットで頭をひねっていた。
「おかしいな。全くバディドライバが作動しない。なんなんだ?」
「ちゃんとレバーは握ってるわよ?」
アザミがレバーを握り直し、言った。
「だよなあ。リザ、なんでバディドライバが起動しない」
『回答不能』
「こんな時だけAIぶりやがって、この野郎」
奏はコックピット中央の青く光る丸いインターフェイスを軽く小突いた。
『そこは大切に扱ってください。壊れたら直せないんですから』
「うるせ。もう面倒くせえな。倒しちまおう」
奏は戦闘開始から今に至るまで一発も発砲していなかった。〈ドネル〉が放つ数々の砲弾を軽く躱し、バディドライバの起動を試みていたのだ。
「ラナが悲しむわよ?」
「作動しないもんは作動しない。俺らはやれるだけの事はやった。そうだな?」
「……もう。わかったわ。好きにしなさい」
「ドーン!」
奏は左腕部の試作型高出力レーザーブレードを展開し〈ドネル〉横一文字に切り裂いた。
「敵機撃墜。作戦室、状況を教えて」
アザミがつまらなさそうにコックピットで足を組んでいる奏の代わりに言った。
「今ので最後です。残骸を回収して、回収ポイントまで行ってください」
「了解。奏、終わりだって」
「聞いてた。帰るか。つまんねえミッションだったな」
「ぼやかないの。危険が少ないのはいい事だわ」
「まあな」
「え!?」
仮想インターフェイス越しに、何かの爆発音が聞こえた。同時にオペレーターのルーラが焦った声を発した。
「どうした?」
「テロです! 急いで! もう、すぐ近くまで来て――」
「おい! どうした? 返事しろ!」
それ以降何度通信を試みても繋がらなかった。
「……作戦室が抑えられたのかしら?」
すぐにその発想に行き着くのはやはり、アザミも元の世界で軍属だったからだろう。
「だとすれば今本社はヤバいって事だ。面倒な事になったな。全員聞こえるか!」
奏はオープンチャンネルで作戦にあたったオリジナル全機に回線を繋げた。
「迎えのヘリは来ない。ラケナリアがテロリストに乗っ取られた」
「おいおいなんの冗談だよ。いくらお前でも笑えないぜ」
レオリオが言った。
「冗談でもなんでもない。全員移動しながら聞け。アヤ、生身で戦えるか?」
軍属だったアザミと奏、レオリオはもとより、メリダと義経の剣術は生身でも遺憾なく発揮出来る。十分に対テロリストの戦力として計算出来る。問題はアヤだった。
「ごめん、無理……」
「だよな、オーケー。どうするかな……最初からこれが狙いだったとしたら、相手は相当用意してたはずだ。やっぱりスパイがいるんだろうなあ……」
頭が痛いぜ、そう言って奏は頭を掻いた。
「敵さんの目的がわからんが、俺達が最優先で守らなきゃならんのはラナだ。あいつがいなくなったら俺たちゃ終わりだ」
「自分が敵情を視察してこよう」
「義経が? 適任だが相手の数がわからない以上危険だな。俺も着いて行く」
「ダメよ。奏がいなくなった指揮系統が乱れる」
アザミが奏を制止した。
「オレが付いてこうか?」
レオリオが言った。
「あなたが? ……なんかどんくさそう……」
「失礼だなアザミさん! オレだって一応訓練積んでるんだぞ?」
「……まあいい。最悪バレたら外でドンパチ始めりゃいい。作戦はこうだ。まず義経とレオリオが本社に潜入して状況を軽く探ってきてくれ。軽くだぞ? 決して深追いするな」
「言われなくてもすぐ戻るっての。どこぞの潜入のプロと違ってCQC得意じゃねえし」
「そうすれ。義経達が戻ってきたら2チームに分かれて潜入する。第1目標はラナの安全の確保。第2目標は龍之介の確保。それ以外は後回しでいい。で、チーム分けだが」
そこで奏は一度言葉を区切った。全員に思考と発言の機会を作るためだ。
「オレ奏と組みたい。相性いいしな」
レオリオが言った。
「相性がいいと感じるのは俺が合わせてやってるからだ!」
「ひ、ひどい!」
「自分も付こう」
「あ、義経はアザミとメリダに付いてくれ。刀なら音出ないからな。バレないように深く潜ってくれ。俺とレオリオは囮な。じゃんじゃかグレネード使って本社壊そうぜ」
「あー! お前と組みたいなんて言うんじゃなかった! 損な役回りばっかり!」
〈ナルキス〉が頭を抱えて振り回した
「それだけお前を信用してるの」
「そんな甘い言葉にゃ騙されねえよ!」
「ちっ。成長したなお前」
「壊すのはいいけどそれだけの爆薬どこにあるの?」
アザミが言った。
「こんな時のためにセーフハウスを用意しておいたんだな。各種アサルトライフルからバズーカまでなんでもござれだ。まずはそこによるぞ」
「ねえ、私は何をすればいいの?」
アヤが言った。
「俺達が危なくなったら本社を軽く揺らしてくれ。敵は多分俺達の機体も狙ってくるはずだ。念のため見張りも頼む」
「わかった」
2度の襲撃。1度目はリインカーネーションだった。そして恐らく2度目の今回もリインカーネーションだろう。
見え始めていたラケナリアは、不気味なほど平時と変わらなかった。
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