使える奴隷
奴隷とメイドは切っても切り離せない関係にあると思います
「さて、お前達を買った理由だが、なんでかわかるか?」
買った奴隷をヘリに乗せ、メリダと共にラケナリアに戻った奏は、用意させた部屋に奴隷を集め、話しをしていた。
部屋の隅には何かあった時のためにとメリダを控えさせていた。
「なんで私を買ったんだか知らないけどさ、大方、下の世話でもさせるつもりでしょ。ね? ご主人様」
嫌味たっぷりに言い放ったのは、奴隷の中で唯一の人間であるココ・ラーシャだった。
「なんだ、やりたいのか。いいぞ、後でたっぷり相手してやる。だが今は別の話しだ。単刀直入に言おう。俺は軍隊を設立しようとしている。お前達を買ったのはそのためだ。これはいわば面接だ。俺が使えると判断すれば適切な労働条件で雇ってやる」
奏は使えないと判断した場合の事はあえて説明しなかった。
「まずはエルフ。お前達は知能が高いと聞いているが、人間と比べて具体的にどう違う?」
ソファに礼儀正しく背筋を伸ばして座っているエルフ2人に奏は聞いた。
「私達エルフは人間に比べて長命です。知能が高いというのは恐らくそれから来ているのでしょう。人間との最大の違いは魔法が使える点だと思います」
「魔法?」
「ええ。魔法と言っても、簡単な治癒や手から小さな炎を出す程度のものですが」
「すげえな。なんでそんなもんが使えるのに奴隷になったんだよ」
「私達の種族は争いが得意ではありませんので」
「成る程。2人に聞きたい。こちらの戦力は100。相手の戦力は500。勝利条件は敵将の首を獲るか、戦力を0にする事。また、戦力20につき小隊長が付き、小隊長を倒せば戦力は20下がる。武器は同じものを使用する。状態は正面衝突だ。別行動がとれる戦力は20。相手は別行動は出来ないものとする。なお、敵将の位置は判明している。この状況でお前達はどういう戦略を立てる? ゆっくりで構わない。お茶でも飲みながら考えてくれ」
戦略とは全体的な方針であり、言い換えれば目的である。それに対し戦術とは、戦略を達成するために必要な方法だ。
奏は思考の差を求めていた。彼は戦術を立てるのは得意としていたが、戦略を立てるのは苦手としていた。強者故に時として困難なものを目的にしてしまっていたのだ。
「紙を使っても?」
「ああ。じゃんじゃん使え」
エルフ達はまず、渡された紙に奏が言った条件と状況をまとめて書いた。その後小声で話し合い、別の紙に考えをまとめた。
「終わったか?」
「はい」
「見せてみろ」
渡された紙を見た奏は若干顏をしかめた。
「あ、あの。何かまずい事をしたでしょうか?」
エルフ達の顏は青ざめていた。自分達が何か悪い事をしたのであれば罰が待っている。それは、奴隷として扱われてから骨身に染みた経験だった。
「ああいや、すまない。純粋にこう考えるのかと思ってな」
エルフが立てた戦略を簡単に説明すると、別行動が出来る戦力を犠牲にし、残った80人総掛かりで隊長のみを狙うというものだった。
「仮にお前達が立てた戦略を元に戦術を立てるとしたらこうだな。犠牲の20人が5人ぐらいにばらけて、1部隊が敵将に、残りは後方と両サイドから特攻って所か。後は足並みが崩れた所を、隊列が整う前に小隊長を……って所だな」
そこまで話して奏は、お気に入りのトロピカルジュースを一口飲んでこう続けた。
「俺はなカミカゼが嫌いなんだ。だから俺の隊から戦死者を出す気はさらさら無い。それが例え名前の知らない1隊員だったとしてもだ」
カミカゼという単語に聞き覚えの無いエルフ達だったが、言わんとしている事は理解していた。それを聞いたエルフ達はどこか熱っぽい目で奏を見ていた。
「ああ、そうそう。面接の結果だったな。お前らは合格だ。雇ってやる。細かい内容は後でな。次はドワーフだ。お前らは何が出来る?」
「冶金。以上」
「よし。採用」
「……」
「ていうのは冗談だ。オリジナルについてどの程度の知識がある?」
「オリジナルっつーのは一機一機違う。だからひとくくりには言えんが、ワシ達はそんじょそこらの奴よりは詳しいつもりじゃ。なんせあのオールド・ロリポップにいた訳だからな」
「お前ら奴隷のくせに態度デカイな。オールド・ロリポップってそんなすごいのか?」
「お前に言われたくないわい。というかお前さん知らないのか」
「知らん。メリダお前知ってるか?」
目を閉じて壁に背を預けていたメリダはゆっくりと口を開いた。
「オールド・ロリポップは異常なまでにオリジナルという技術にこだわっている。彼らは技術のためなら時に常軌を逸した行動を行うわ。一部では変態組織と呼ばれる程にね」
「わしらはその変態組織の技術屋だった。つまりはそういう事じゃ」
「仮に一から魔法生物と対抗しうる性能を持つ量産機を作れと言われたら出来るか?」
「出来ない事は無いじゃろうが、難しい話しじゃな」
「なんだ残念だ。1ついいことを教えてやろう。人間が一から魔法生物に一応とはいえ対抗出来る機体を作ったぞ」
ラナの作ったイミテーションの事だ。先日の作戦で、イミテーションは一定の戦果をあげていた。試作機であの性能ならば、今後に期待出来ると奏は考えていた。
「何! それは本当か!」
ドワーフ達は身を乗り出して言った。
「ああ。その反応を見るにやっぱりあいつはそんじょそこらの天才とは訳が違ったか」
「なんという事じゃ! 頼む! その機体とそやつに会わせてくれ! 後悔はさせない。お前さんの役に立ってみせる!」
その言葉を聞いた奏は小さく微笑んだ。
「交渉成立だ。後で細かい話しを決めていこう。残ったのは……」
奏は横目で、先程からふてくされた表情をしていたココを見た。
「ココ、お前の扱いだ」
「気安く呼ばないでよ。私はあんたなんかの下に付く気は無いよ!」
「気の強い女だな。お前はなんであそこに入れられた?」
「……」
ココは顏を背けて無言を貫いた。
「黙ってちゃわからないだろう。子供かお前は」
ココはいきなりティーカップをテーブルに叩きつけて割り、出来た破片で奏の首元を貫こうとした。が、寸での所で横から差し出されたメリダの刀に止められた。
「その辺にしろ。私は気が長い方ではない」
メリダはココを睨みつけた。ココも負けじと睨み返していた。
「もういい。下がれ、メリダ」
「……奏に感謝するんだな」
「ふぅー。そうカッカすんなよ。わかった。必要に駆られるまでお前の事は何も聞かん。しばらくはお前はメイドとして雇ってやるよ」
奏はその後の指示をメリダにし、今回の件を龍之介に報告しに行った。
○
執務室に着いた奏は、テーブルに足を乗せて、来客用のソファに座っていた。
「そういう事だおっさん。人数分の部屋と立場と給料を工面してやってくれ」
「何がそういう事だ。ちゃんと説明しろ」
龍之介は半分笑いながら言った。奏も笑いながら、持ってきたトロピカルジュースを一口飲んでこう言った。
「とぼけんなよ。知ってんだろ?」
「知ってたか」
「当たり前だ。ちょろちょろとストーカーみたいに人の後ろを付けさせやがって。盗聴に盗撮、プライバシーなんてあったもんじゃない」
「気づいていたんなら壊せばよかっただろ。お前らしくもない」
「別に。なんかそんな気になれなかっただけだ。ただ、メリダ達を抑えるのは骨が折れたとだけ言っておこう」
「恩を売る気か」
「べっつにー。おっさんがどう感じるかは勝手だ。俺は別に悪い事はしてないしなー」
「よく言う。悪いツラしやがって。やっぱりお前は危険な奴だ」
「おっさんにだけは言われたくないな。俺のやろうとしてる事を止めるどころか手伝ってくれるんだからな」
奏は再びトロピカルジュースを飲んだ。
「おっさんも飲むか?」
「いらん。何が悲しくてお前と間接キスをしなければならん」
「そりゃそうだ」
「お前が動けば動く程ラケナリアは大きくなる。止める理由が無いな」
「ま、そうだな。精々寝首をかかれないように気をつけな」
「お前には出来んさ」
「……ああそうそう。そろそろ手に入れたレフトアウトを一箇所に集めようぜ。オーディエンスも合わせてさ」
「お前に言われないでも、もうやってる」
「流石だな。じゃ、俺は愛するハニー達とイチャイチャしてくるから、おっさんはその様子を見て興奮でもしてるんだな」
奏は片手をひらひらとさせながら執務室を出て行った。
「本当に、面白い奴だ」
龍之介は執務室で1人ひげを撫でながらそう言った。
相変わらずジャンル分けに迷ってます。ファンタジーとSFどっちなんでしょう
後奏に従順なメリダ可愛い




