作戦開始
(´・ω・`)ショボン
「各員配置に着いたな?」
奏が高坂に問いかけた。
「はい。全員が所定の位置についています」
「作戦が始まったらお前がオペレーターの元締めになるんだ。気を引き締めろ」
「はい!」
作戦開始までのカウントダウンが始まった。リザが数字を読み上げていく10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。
『カウント0』
「オペレーションラインの乙女開始!」
奏の声と共にミサイル部隊が一斉にミサイルを発射する。次々と垂直に打ち上げられたミサイルは斥候型目掛けて落下していく。小さな爆発が幾重にも重なり合い、大きな爆発へと繋がる。
肉が爆ぜ、千切り飛んでいく。溢れ出れる血潮は大地を湿らすが、降り注ぐミサイルの雨がそれを許さない。
「始まったな。俺達も行くぞ、レオリオ」
奏は遠方に見える光を見てそう言った。
「おう!」
「俺は奥のをやる。お前は手前のを頼む」
「おっしゃ任せろ!」
「フリージアとして戦うのは久しぶりだな……」
ラナは奏の機体を限りなく〈フリージア〉に近づけていた。その姿は奏の記憶に残っているものと遜色が無かった。機体自体の性能も〈メレアゲル〉に比べて大分向上していた。
『増設装甲のせいで見てくれが悪いですけどね』
「砲台型を倒すまでの間だ。サポート頼むぞ、リザ」
『了解』
奏とレオリオが砲台型に接近する。砲台型も流石に近距離で大口径のレーザーを撃つ気は無いようだったが、それでも大量の小型レーザーが2人目掛けて絶え間なく発射される。僅かな隙間を縫うように避けていくが、それでも全てを避けきれるような弾幕では無かった。
レオリオと奏、それぞれが目標の砲台型の接敵に成功した。エネルギーパイルを突き刺した。トリガーを引く。ガツンっと重い音がした。シリンダーが回転する音だ。
打ち込まれたプラズマ爆弾が起爆する。音叉のようにプラズマの爆発が段階を追って起こり、共振していく。
エネルギーパイルを引き抜く。砲台型が青白い光をちらつかせながら倒れた。5秒間のブースターの停止。奏とレオリオは急いで撃破した砲台型の影に隠れた。
「よし! まずは2体だな。だが……」
奏はウィンドウに表示された作戦の経過時間を見た。砲台型を2体倒すのにかかった時間が2分。今頃はメリダ、義経、アヤの3人が敵陣に侵入し始めている頃だろう。イミテーション部隊もチームを組み終わり、騎士型と交戦していてもおかしくない。
対してこちらは、砲台型が未だに21体残っていた。単純に計算しても撃墜に20分以上掛かる。
(くそ! こっちが不利か。予想よりも敵の弾幕が厚い)
「高坂! アザミを一旦下がらせろ。砲台型の撃破までまだ時間がかかる!」
「わかりました。それと霧島さん」
「なんだ?」
エネルギーゲージが回復した。ブースターを吹かして、敵のレーザー弾幕を躱しながら砲台型の近づいていく。
「メリダさん達が敵陣中央に取り残されています。予想よりもイミテーション部隊が苦戦しているようです」
奏が右肩の追加装甲を犠牲にして砲台型を葬った。レオリオもちょうどエネルギーパイルを打ち込んだところだった。これでやっと4体の砲台型を撃墜した。
「作戦上仕方の無い事とはいえまずいな。通信繋いでくれ」
フェイスウィンドウにメリダが現れた。
「無事か?」
「奏か。今はまだ誰にも損害は出ていないが、この状況が続くと厳しいわ。そっちの状況は?」
「時間があればなんとか。急いではみるが厳しいと思う。もう少しだけこらえてくれ」
○
(こらえてくれ、か。難しいが、主の命令だ。破るわけにはいかないな)
メリダは1人コックピットの中で微笑んだ。その笑みはおよそ戦場には似つかわしくないものだったが、主のために剣を振るう事を矜持にしている彼女にのみ許されるものでもあった。
「行くぞ!」
〈エウラリア〉は本作戦のためにマシンガンを捨てていた。代わりに左腕部にはラナが開発した特殊合金製の盾を装備していた。コードネームはアマリリス。先端から発せられるエネルギーランスは魔法生物を容易に刺し貫いた。
右腕の高出力レーザーブレードオビエドを横一線に薙ぐ。騎士型が3体真っ二つに切り裂かれた。多量の血をまき散らしながら騎士型は地に堕ちた。
目の前の騎士型にエネルギーランスを突き刺す。ランスの刀身を伸ばして高出力ブースターを目一杯に吹かし、騎士型ごと前に加速する。敵を押しのけ貫きながら進む。アマリリスは5体の騎士型を葬った。エネルギーランスの刀身を元に戻す。貫かれ、絶命した騎士型が支えを失って倒れていく。
「はあああああ!」
オビエドを横に構え、眼前の騎士型をエネルギーランスで刺し貫き、盾にしながら前方へと加速する。
オビエドが〈エウラリア〉の右に存在する騎士型を切り裂いていく。エネルギーランスが騎士型を刺し貫き、敵を押しのける。
今のメリダの攻撃は騎士型を優に50体は葬った。だが、敵の勢いは一向に衰えない。
それでもメリダは攻撃の手を休めなかった。全ては自身のために。自身の全てを捧げた主のために。
○
義経は何も語らずにただ淡々と自らに課せられた命令を実行していた。村正に水を纏わせ、一刀のもと騎士型を葬り去っていた。
義経は自身が見初めた場所からほとんどと言っていいほど動いていなかった。ただひたすらに向かってくる敵を一刀のもとに切り捨てる。故に彼の周りには数え切れない程の騎士型の死骸が積み重なっていた。
だがそんな彼にも転機が訪れた。眼前にunknown。未確認の魔法生物が現れたのだ。極限まで薄くしなやかな外殻は両の手に持つ刀を振るうためのものだとすぐに理解出来た。
「これは……」
義経は身震いした。淡々と腕を振るうだけで消え去っていく騎士型は、藁人形を切っているのと変わらない。だが眼前の敵はどうだ? 明らかに他とは違う。自身を楽しませてくれるのは間違いない。そう義経は確信した。
「坂本義経……参る……!」
義経が仕掛けた。村正を垂直に構え直し、敵に向かって加速する。それはちょうど剣道における突きだった。
騎士型であれば何体もの体を貫いたであろうその突きはしかし、武者型にいなされた。
僅かに態勢の崩れた〈雷切〉に武者型は蹴りを入れた。無数の騎士型を巻き込みながら〈雷切〉は吹き飛んだ。
「ぐう……! 面白い!」
義経は自身の血がたぎるのを感じた。彼は生まれながらの武人なのだ。強い相手と戦う事を何よりの悦びと感じている。
義経は向かってくる騎士型を切り捨てながら武者型に近づいていく。接敵。村正を振りかぶる。武者型は両の手に持った刀をクロスさせ、上から振り下ろされた刀を受け止めた。
「ぬうううううう……!」
軋む音が響く。互いに一歩も譲らずに力比べを行う。〈雷切〉が一歩踏み込んだと思ったら次の瞬間には武者型が一歩踏み込んでいる。
義経は村正を上に持ち上げた。武者型は急に加えられなくなった圧に対応出来ず、両の手に持った刀ごと腕を上にあげた。それこそが義経の狙いだった。がら空きになった胴に義経は蹴りを入れた。武者型は先程の義経と同じように騎士型を巻き込みながら吹き飛んだ。
「二之太刀、鎌鼬!」
村正を横一閃に振るう。水を纏った青い剣圧が形を持って飛んで行く。真っ直ぐ進んでいったそれは、騎士型を切り裂きながら武者型の許へとたどり着いた。
折れる音がした。鎌鼬を受け止めた武者型の刀が一本折れた。ゆっくりと、ゆっくりとヒビが入り、折れた。それでもなお勢い衰えたとはいえ消えていない鎌鼬は武者型の胴を切り裂いた。
鮮血が飛び散り、武者型が呻く。しかし、膝をつくことはしなかった。残った一本の刀を支えに立ち続けた。
「その姿、美しい! その姿に敬意を表する」
義経は村正を鞘に戻し、前かがみになった。
「雷切、雷を纏え!」
〈雷切〉が青白い光をバチバチとちらつかされる。ただそれだけの事で周囲にいた騎士型は焼け焦げ、倒れていった。
「一閃、神鳴り!」
〈雷切〉の姿が消えた。否、過ぎ去ったのだ。雷を纏った〈雷切〉が神速で戦場をかけぬけたのだ。
〈雷切〉の通った道が黒く焼け焦げていた。そこにいたはずの魔法生物は黒く炭化した何かになっていた。今の一撃で義経は魔法生物を軽く100は葬っていた。
戦闘はまだ終わらない。一時の高揚感に浮かれているようでは武人として失格だ。気をとりなおし、義経は再び眼前の騎士型を切り裂いていった。
○
マシンガンで騎士型の視力を奪い、レーザーライフルで的確に頭を撃ちぬく。時折現れる斥候型にはミサイルを見舞い、葬り去る。流れ作業だった。
〈レストレイン〉は撃墜した数こそ少なかったが、囮役としての仕事はきっちりとこなしていた。
だが、アヤは焦っていた。機体の損傷こそなかったが、メリダや義経とは違い〈レストレイン〉には弾数という限界があった。接近戦用の装備を装備していない〈レストレイン〉にとって弾切れは即ち終わりを意味していた。
残弾は残り3分の1程度。ミサイルはさっき撃ち切ってしまった。レーザーライフルと、魔法生物に効果の薄いマシンガンしか無い。
「ここで私が下がれば……」
背後に控えるイミテーション部隊が大きな被害を被るの明らかだった。
今アヤに出来るのは奏とレオリオが砲台型を撃破し、ヘリによる補給を受けられる状況になる事を祈るのみだった。




