つかの間の休息
ここからってところでブックマークが消えて泣きそうになったのは私だけでしょうか。まあやる事は変わりないんですけどね。やる気的な部分で……ゴニョゴニョ。
オーディエンスの会議室に奏を始めとするオリジナルジャンパー達とオーディエンス代表のブルーノウ、量産機部隊の隊員、通信経由でラナと高坂が集まっていた。皆一様に壁に掛けられたスクリーンを見ていた。
「状況を確認する」
スクリーン横の席に座っていた奏が立ち上がり言った。
「現在、オーディエンスに向かって魔法生物が進軍中だ。正確な数はわからないが、偵察機の送ってきた映像を見るに、1個師団から2個師団と予想される」
1個師団の数が1万から2万なので、都合4万近くの魔法生物がオーディエンスに向けて進軍している事になる。
「今回我々の目的は、この魔法生物をオーディエンスに侵入する前に撃破、もしくは撤退させることにある。ラナ、魔法生物の状況を説明してくれ」
「はいは~い」
厳粛な雰囲気の会議室にはそぐわないラナの気の抜けた声が響く。
「今回の魔法生物は北のタワー、ベンタスから出現してます。彼らの行動には明確な目的があるようで、進路上のレフトアウトには目もくれないどころか、まるで戦闘を避けるためにレフトアウトの少ない道を選んでこちらに向かってまーす」
スクリーンに魔法生物の進軍ルートが表示された。
「そして重要なのは、移動速度の速い騎士型や斥候型が、移動速度の遅い砲台型に合わせて進軍してまーす。これは、彼らに知性がある事を意味してます。今まで魔法生物は本能のみに従って破壊行動を行っていたと考えられていましたがー、その前提が覆されます。これがどういう事を意味するかというと、今回彼らは私達人間のように作戦をたてて行動しているかもしれないって事でーす」
会議室にどよめきが走った。
「ラナ。ありがとう」
主導権が再び奏に戻った。
「聞いての通り、今回の魔法生物との戦闘は未だ誰も経験した事の無いものになる可能性が高い。そこで、まず皆にはこれまでの魔法生物のイメージを消し去ってもらいたい。その上で、作戦を説明させてもらう。なお、今回の作戦の立案、総指揮は俺が執る」
量産機部隊の隊員達から不満の声が上がった。自分たちよりも一回り以上も年下の奏が責任者になると言っているのだ。トップに命を預ける者達から不満が出るのは当たり前の事だった。もっとも、奏の実力を知っているオリジナルジャンパー達はなんら疑問を抱いていなかったが。
「ならあなた達が作戦をたてればいいんじゃない?」
アザミが目もくれずに冷ややかな声で言った。
「魔法生物とまともに戦った事も無いあなた達が」
会議室に一瞬の沈黙が訪れた。量産機部隊の隊員達は気まずそうな顏をしていたが、黙って話しを聞く気になったようだった。
「いいか? 説明するぞ。作戦名はラインの乙女。文字通り、マップに表示されているラインを敵が超えてしまうと、乙女の花は散らされてしまう」
スクリーンに映されたラインに魔法生物を表すマーカーが侵入した。スクリーンに赤が広がり、作戦の失敗がわかりやすく表現されていた。
次にスクリーンに魔法生物の構成が映された。先頭から順に、斥候型、騎士型、肥満型、砲台型と表示されていた。他にも未確認のものを表すunknownの頭文字を取った、Uと書かれたマーカーが点在していた。
「敵は混成部隊だ。まずは先頭に位置している斥候型を、グラジオラスを中心に横一列に配置したミサイル部隊で数を減らす。1分間のミサイル攻撃後、ミサイル部隊は急いで後退し、後続のエウラリアと雷切、レストレインに道を譲れ。メリダ、義経、アヤの3名は敵陣深くに侵入して騎士型の注意を引いてくれ。危険な役割だが、やってくれるか?」
「無論だ」
「承知」
「任せて」
メリダ、義経、アヤが順に頷いた。
「ありがとう。エウラリアと雷切、レストレインに注意が向いてる内に、量産機部隊は10機でチームを組み、チームごとに騎士型を一体ずつ撃破していってくれ。危険だと判断した場合はすぐに退却して、別のチームに合流し、協同で騎士型の撃破にあたってくれ。グラジオラスはミサイル攻撃後一旦戦域を離れて後方の砲台型がいる場所まで可能な限り戦闘を避けて来てくれ」
スクリーンの表示されている画面がマップに切り替わり、グラジオラスを表す緑のマーカーと砲台型を表す赤のマーカー、奏とレオリオを表すオレンジのマーカーがマップに現れた。
「霧島奏及びタカシ・レオリオ両名は、機体の特性上、ミサイル部隊が配置につく前に後方に位置する砲台型に攻撃を仕掛ける。その際武装は砲台型の撃破のみに目的を絞ったものにする。これが成功すれば全部隊は補給ヘリにて補給を受けられる。折を見て補給を受けてくれ」
「おい待てよ。後方からって事はオレ達は砲台型と他の魔法生物を同時に相手にしなくちゃいけないって事だよな?」
「そうだ。なんだ? ビビってんのか?」
「そ、そんな事ねえよ」
「そうだよな。ヒーローには絶好の見せ場じゃねえか。ちなみに俺達がしくじれば部隊は補給無しで何万もの魔法生物と戦う事になるから気をつけろ?」
「ひいい!」
「大丈夫だ。いざという時は俺が助けてやる。砲台型の撃破後、ナルキスはヘリに戻り装備を変更しろ。その間俺とグラジオラスは後方で合流して肥満型を中心に撃墜しながら、後方の部隊構成を乱す。ナルキスの武装換装後、メレアゲルもヘリに戻り武装を変更する。その後ナルキス、メレアゲル両機は、遊撃部隊として行動する。以上が作戦の概要だ。質問のあるものは?」
誰も奏の作戦に疑問を挙げるものはいなかった。全員が奏の作戦に納得したのだ。
「未確認の魔法生物の存在も確認されている。各員通信を怠るな。遭遇した場合は戦闘を避け、付近のオリジナルに任せろ。いいな? これは絶対だ」
「おおっとお。これで終わりみたいな雰囲気になってるけどちょおっと待ちたまええ」
ラナが割り込んだ。
「なんだ、ラナ。休憩の時間もあるんだ。早くしろ」
「そんな事言っていいのかなあ? せっかくいいニュースを発表しようと思ったのに」
「なんだよいいニュースって?」
「イミテーションの試作機が完成したよお。数は少ないけど、実戦投入出来るよお」
「ありがたいが、そういう事は最初に言ってくれ……。作戦の立案に支障が出る」
「ごめんごめん。他にも対魔法生物用の兵器をいくつかヘリに乗せておいたから」
ラナは悪びれた様子もなくそう言った。
「よしわかった。だが、作戦の大まかな流れに変更は無い。量産機部隊の隊員の中で腕の立つ奴にイミテーションに乗ってもらう。量産機で構成されるチームに一機ずつある限りのイミテーションを配置する。以上だ。作戦の決行まで残り5時間。イミテーションに乗るものは慣れておけ。解散!」
○
「うっひょー。なあなあ、さっきのオレどうだった? ヒーローっぽかっただろ?」
ベンチに座ってコーヒーを飲んでいた奏にレオリオが聞いた。
「そうだな。助かったよ。おかげで俺の仲間も無事だったしな」
「だろお? やっぱヒーローはああじゃなきゃな。ところでさ、ヘリって後どれくらいで来るんだ?」
「ラナが最速で準備してくれたみたいだからもうすぐじゃねえか? 新装備だぞ? お前的には嬉しいだろ」
「ああ。最高に燃えるぜ。危機的状況に新装備。まさにヒーローだ!」
「やあやあ君たち楽しそうじゃないかあ。私も混ぜてくれえ」
後ろから声が聞こえた。ラナだった。
「ラナ? なんでお前がここにいるんだよ?」
「いやー面白そうな事になってるなあと思ってね」
「俺に言わせればお前っていう存在の方が面白いわ」
「あんたは誰だ?」
レオリオがラナに言った。
「初めましてえ。今回の作戦に技術スタッフとして参加させてもらったラナだよお。君たちの使う武装の開発をした人間と言えばわかるかな?」
「マジで!? なんでそんなやつがここにいるんだよ。ってかちっさ!」
「身体的特徴を侮辱するのはやめたまええ」
「でもお前ちんまいじゃん?」
奏がラナを持ち上げながら言った。
「それは否定しないよお。まあいいから下してくれえ。真面目な話しをしよう」
ラナを下し、ベンチに座らせた。
「ふう。さて、君たちに1つ伝える事がある」
「なんだよもったいぶって」
「まあ聞きたまえ。今回君たちに使ってもらう対砲台型装備、内部拡散式プラズマバンカーの説明だよ」
「随分と大層な名前じゃないか」
「ふふふ。そうだろう? 私自身中々のものが作れたと自負している。杭を打ち込んで内部にプラズマ爆発を起こす代物だ。ただね、この装備重大な欠陥があってね」
「聞きたくないが、一応聞いておこう」
「まずパイルバンカーの杭に当たる部分がエネルギーで形成されているから常に一定量のエネルギーを消耗している事になる。つまり、普段よりも機体のエネルギー出力が下がるって事だ」
「勘弁してくれよ。機動性失ったら結構危ないんだぞ?」
「話しはまだ終わってないよ」
「まだあんのかよ」
「次に突き刺した部分にプラズマエネルギーの固まり、要するに小型爆弾だね。それを打ち込む訳だけど、プラズマ爆弾の形成に莫大なエネルギーを食うんだ。一回バンカーを打ち込んだら、計算上では5秒間まともに動けなくなると考えて欲しい」
「ふざけた兵器だな。まともに運用出来ねえじゃねえか」
「しょうがないじゃないか。まだ試作の段階なんだから」
「ま、文句ばっか言ってもしょうがないか。ハイリスクハイリターンだと考えるさ」
「そうしてくれえ。その分威力はとんでもないから一撃で砲台型を倒せるはずだよ」
「それが唯一の救いだな。……どうしたんだよレオリオ、さっきから黙ってるけど」
「今更ながら緊張しちまってよ。オレなんかがこんな大きな作戦に参加していいのかなって」
「何言ってんだバカ。お前だから参加出来るんだよ」
「どういう意味だよ?」
「今回の作戦は言っちまえば俺らは大して関係無い。だけど、皆正義感から作戦に志願してくれてる。その中でもお前は、任務とかじゃなく俺の仲間を助けてくれた。その上オーディエンスをも救おうとしてる。それは真の意味でのヒーローなんだよ」
「……そうか。ヒーローっぽいじゃなくてヒーローなんだよな」
「ヒーローの定義は人それぞれだけど、お前は間違いなくヒーローに近づいていると思う」
「へへっ。オレとした事がらしくなかったな。そうだ。オレはヒーローになるんだ。こんな所で死ぬわけにはいかない!」
「その意気だ。頑張ろうぜ!」
「おう!」
奏とレオリオは固い握手をした。
「いい感じに話しが纏まったみたいだねえ。私は現場に戻るよ。いろいろと忙しいしね。あ、そうそう。少しでも生存率を高めるために君達の機体に増設の装甲を付けるから」
「そいつは嬉しい配慮だ」
「奏君。君は機体を見た時きっと驚くよお。私もただボケーッとしていた訳ではないという事がわかるはずだあ」
「なんだよ、今言えよ」
「まあまあ、見てからのお楽しみってねえ。ところでアザミとメリダの所に行かなくていいのかい?」
「……そうだな、行くわ。いろいろサンキュな」
ラナは手をブンブンと振り回しながら奏を見送った
○
「アザミ」
ブルーノウに与えられた個室でソファに座って佇んでいたアザミに奏が声をかけた。
「奏……」
ソファの淵の部分に手をついて後ろから話しかける奏に、アザミは振り向きながら答えた。
「なんだよ元気ねえな」
「ん。緊張しちゃってね」
「お前もか」
「誰だって緊張するわよ。大きな作戦だもの」
アザミが奏の首に手をやり、自身の唇まで奏の唇を導いた。
「そんなもんかね」
「この作戦が終わったら、休暇を取りましょう。前みたいに街を見て回りたいわ」
「そうだな。俺は絶対に死なない。だから、アザミも死ぬな」
「わかったわ」
「少し寝ろ。俺はメリダの所に行ってくる」
「ちょっとくらいお姉ちゃんと一緒に寝てくれてもいいと思うんだけどな?」
「そんだけ言えたら十分だ。ラケナリアに戻ったらいくらでも寝てやるよ」
「ふふっ。期待してるわ」
「じゃあな」
○
「君か」
メリダはブルーノウに与えられた個室でソファに座って読書をしていた。傍らにはいつも持ち歩いている刀が置いてあった。
「お前はさほど緊張してないみたいだな」
「そうでもない」
奏はメリダの横に腰を落とした。
「私とて女だ。緊張して男に甘えたくなる時ぐらいあるわ」
メリダは奏に優しく寄りかかった。
「……大丈夫だ、安心しろ。誰も死なせないとは言わない。だけどな、せめてお前たちだけは死なないよう努力はするつもりだ」
「ふふっ。これでは君の騎士失格ね。そう言われて、安心している自分がいるわ」
「それでいいんだ。この作戦が終わったら休暇を取ろう。申請を出して他の組織を見て回ろうぜ」
「それは、魅力的な提案だ」
「だろ? それじゃ俺は他の奴らのところに行ってくる。少しは休めよ?」
「ああ。……ありがとう」
奏は何も言わず部屋を出た。
○
「あんたは予想通りだな」
「霧島奏か」
義経は共有の休憩室で椅子の上にあぐらをかき瞑想していた。
「少し話せるか?」
「ああ、構わない」
「あんた、魔法生物が来るって言ってたよな。なんでわかったんだ?」
「運命とは面白いものだ。君が白騎士に出会った事で彼らが動きだしたんだ」
「白騎士? ダーナの事か?」
「ああ。あれは厳密には兵器では無い。生物だ」
「どういう事だ?」
「あれは転移したのでは無く、こちらで生まれたのだ。あれは……魔法生物だ」
「……詳しく説明してくれ」
「自分が最初にあれに出会ったのはある任務中の事だった。任務を終え、帰還しようとしていた時、帰還進路上で魔法生物同士が戦闘を繰り広げているという情報が入ったのだ」
「共食いかなんかか?」
「いや、あれは明確に人の味方をしていた。背後に位置していた量産機部隊から引き離すような戦い方をしていたのだ。自分はあれに興味を抱いた。その後所属するレフトアウトを抜け、個人であれを追いかけていた。だがある日、突然消息がつかめなくなった」
「……オールド・ロリポップ輸送車両護衛任務。ひょっとしてあそこにあんたもいたのか?」
「ああ。全部を見ていた訳では無いが、あれが今の姿形に変化する所は目撃した。あれは人を取り込んで変化したんだ」
「なんだかこんがらがってきた。なんでそれが魔法生物の出現と関係するんだよ」
「魔法生物はあれを狙っている。護衛任務の時も魔法生物はあれだけを執拗に狙っていた」
「今回のもあいつのせいだって言うのか?」
「可能性の話しだが」
「まあ、なんにせよわかってるのは今あいつらは俺達の所に向かってるって事だな」
「ああ」
「なら話しは簡単だ。倒しゃいいんだ。難しい話しはその後だ」
○
「よ。いきなりな展開だな。せっかくうまくいきそうだったのにな」
アヤは格納庫にいた。作戦に支障が出ないよう〈レストレイン〉の状態を自身の目で確認しておきたかったのだ。
「あなたは……霧島奏」
「ああ、奏でいい。あんた結構若いな」
「うん。私はまだ16才だから」
「その年で戦場に出るのはキツイだろ? 俺もそうだったからよくわかる」
「……」
アヤは奏の質問には答えなかった。代わりにこう言った。
「私が悪いのかな」
「またか……。戦闘中にも思ったけどお前暗すぎ」
奏はアヤを掴んでグラグラと揺らした。
「あう、あう、あう」
「皆緊張してるみたいだけど、俺はしてない。なんでかわかるか?」
「わか……らない」
「負けるとは微塵も思ってないからだ」
「どうして? こんなにも絶望的な状況なのに」
「俺は仲間を信じてる」
「羨ましいな。私もそんな人がいたらいいな」
「俺はアヤを信じる」
「え?」
「だから、と言うつもりは無い。だがアヤも俺を信じてくれ。それだけだ」
「それって……! ねえ! 本当に信じてもいいの?」
「お前の勝手だ。俺は少し休む。じゃあな」
アヤは歩き去る奏をいつまでも見つめていた。
○
格納庫で奏とリザが言い争っていた。口調こそ穏やかなものだったが、2人の間に確執があるのは明らかだった。
「奏。私もあなたと一緒に戦うわ」
「ダメだ。俺はこれ以上仲間を失いたくない」
「そう言って逃げるのね。あなただってわかってるはずよ? フリージアは」
リザの言葉を遮るように奏が声をかぶせた。
「2人で乗って初めて本当の性能を発揮するっていうんだろ? わかってるさ。だけど俺はもう俺以外の人の命を預かりたくないんだ」
「……そんなに明正君が死んだのが受け入れられないの?」
「当たり前だ! あいつは俺のせいで死んだんだ。俺はこれ以上隊から死人は出さない」
「奏、あなたいつまで子供でいるつもり? 自分さえ犠牲になればいいとでも思ってるの?」
「ああ。俺が犠牲になるぶんには何も問題はない」
「あなたがいなくなった後の事は?」
「誰かがやってるくれるさ」
パンっ。乾いた音が響いた。リザが奏に平手打ちをしたのだ。
「無責任よ、奏。あなたはいじけてるだけ。完璧だったはずの自分の作戦が崩されて、死人が出ちゃったから。戦争なのよ? 人が死ぬことだってあるわ。それを認められないの?」
「……わかってたさ。だけど、頭で理解するのと経験するのと全然違うんだよ!」
「そうね」
「お前だから……お前だからこそ、戦場には出てほしくないんだ」
「私を信じて」
「……」
奏は寝汗をかいていた。軽く目をこすり、辺りを見回す。すぐに自分がオーディエンスの個室で仮眠をとっていたのだと思いだした。
時刻を確認すると作戦開始まで後僅かだった。一度大きく息を吐き立ち上がった。
「ちょっくら行くとしますかね」




