割とイチャコラな霧島奏さんの一日
前回の続きまだ時間かかりそうなので、お茶を濁すために書きました。
本当はスピンオフ作品としてやろうと思ってたのですが、そうも言ってられないのでこちらにも投稿しておきます。
時系列的は考えたら負けです
俺の一日は包丁がまな板を叩く音から始まる。ラケナリアから与えられた広いワンルーム。
本社の一角にあるその部屋は、本来俺だけのものだった。それが気がつけばいつの間にか女が3人も居座るようになっていた。
「あ、奏。起きたのね。もう少しで朝ごはん出来るから先にシャワー浴びちゃいなさい」
「んあー、わかった」
「もう! しっかりしなさい。お姉ちゃんと一緒に入りたいの?」
「そんな事は一言も言っていない」
「つれないわね」
最初はアザミ・アーヴァイン。21才。栗色のアールストレイトの髪型は、出る所の出ている素晴らしいスタイルをしているアザミによく似合っていた。
アザミは最初は自室で過ごしていたのだが、ある時俺の部屋で酒を飲んで酔っ払ったのか、俺と寝たいと言い始めた。その時に雰囲気に流されて寝てしまったのが運の尽きだった。それ以降アザミはどこで入手したのか合鍵を使って夜中勝手に俺の部屋に侵入して、俺を抱きまくらにして眠るようになった。
……まあ、正直な話し、起き抜けにデカイ胸を堪能出来るのは悪くないんだが。
「……だからなんでお前は風呂の扉の前に座っているんだ」
「騎士が主の側にいるのは当たり前だ」
「だからって人のシャワー入る音聞いて楽しいのか?」
「ああ。君のものだからな」
2人目はメリダ。23才艶やかな黒髪をキツくポニーテールで結んでいる姿は、メリダの凛々しい雰囲気と相まってとても綺麗に見える。
事の始まりは協同でミッションにあたった事だった。既に、レフトアウトを落としたりしていた俺の事を知っていたようで、最初の段階で既に、俺に対してある程度の好印象を抱いていたようだ。
ミッション完了後、メリダの所属する組織、オールドロリポップに招待された際に、君の事を主とする、今から私は貴方の騎士だ、とかって言い出したんだよな。
その後メリダを伴ってラケナリアに帰還したわけなんだが、俺としては仲間が増えるのは大歓迎なんだが、騎士は主を守るのが当たり前だとか言って、初日から俺の部屋で寝泊まりしてるんだよな。迷惑極まりない。
……まあ、正直な話し、綺麗な女を常に横に侍らかして歩けるのは男として込み上げてくるものがあるのもは事実だ。
「ってあれ? 俺のパンツはどこだ?」
「それならここにあるよ」
「なんでお前が持ってるんだ……」
「どうしてだろう?」
「振り回さなくていいからさっさと寄越せ。俺のエレファントがパオーンしちまう」
3人目はアヤ・オルコット。16才。金髪のストレートヘアーは彼女の儚げな雰囲気を更に儚げにしていた。最早薄幸少女にしか見えない。
彼女の所属する組織オーディエンスの危機を救って以降何かと俺に付きまとっているというのは知っていたんだが、これ以上部屋に誰かを入れたくなかった俺は無視を決め込んでいた。しかし、日増しに強くなる私も仲間に入れてビームに負けて、結局俺の方から同居を申し出てしまった。
アヤはどうも人の庇護欲を刺激するようだ。よく人から心配されているイメージがある。
……ここだけの話し、同居してみてわかった事だが、アヤは異常なまでに執着心が強い。しかもその執着心がどうも俺に向けられているようだ。たまにどこからか感じる強い視線はきっと俺の気のせいだろう。
「頂きます」
4人で食卓を囲む。基本的にご飯はアザミが担当している。家庭的な味はあまり知らないが、たぶんこういう味を言うんだと思う。
「うん、今日も美味いな」
「ありがとう。作りがいがあるってものよ。おかわりもあるからね」
アザミがにこやかに言った。
「あ、ちょっとそこの醤油取ってくれ」
「これか?」
メリダが醤油を俺の方に置いた。
「そうそう。センキュ」
目玉焼きに軽く醤油をかける。後はこれにコショウをかければ、美味しい目玉焼きの出来上がりだ。ぱっぱっとコショウの瓶を上下に振った。瞬間――
「あ」
誰かが声をあげた。
「あ」
ついで俺も声をあげた。
「見事なまでに綺麗なコショウ畑が出来上がったな」
メリダが味噌汁を口に運びながら冷静に言った。
「な、なかなか綺麗だろう?」
コショウの蓋が外れて中身が全て目玉焼きに降りかかった。
「創作的な料理ね。作りなおす?」
アザミが言った。
「いや、いいさ。このままでも食えない事はない」
「でも……アヤのと替える?」
アヤは実に優しいな。だが、この苦行を俺以外が味わう必要は無い。俺はその申し出を丁重に断った。
今度からコショウを使う時は蓋が閉まっているかどうかしっかりと確認しよう。
○
「お、高坂じゃねえか。こんな所で何やってんだ?」
「あ、霧島さん」
高坂美咲。17才。少し色素の薄い長い髪を後ろで柔らかくまとめている髪型は、似合ってはいるんだが、中身がギャグ要員だからか俺には少し不釣り合いに思えた。
こいつとは、最初部屋の用意に時間が掛かる関係から、短い間同棲をしていた間柄だ。
「幻のわさびでも探してのか?」
「いい加減人にわさび定着させようとするのやめてくれません?」
「お前ケツの穴でわさび食べるの好きじゃん?」
「そんなわけないじゃないですか! どこの世界にわさびを、その……お尻の穴で食べる人がいるんですか!」
「え? 俺のいた世界では当たり前の事だったぞ?」
「そうなんですか!?」
「ああ。男も女も皆ケツでわさび食べてた。それどころか食い物はみんなケツで食ってたぞ?」
「……あなたは口で食べ物を摂取していますよね?」
「ちっ。バレたか。お前なら信じるかと思ったんだがな」
「あなたの中での私の評価が気になります!」
「知りたいのか?」
「……やっぱりいいです」
「んだよ、ボロクソに言ってやろうと思ってたのに」
「それほとんど言ってますからね!」
「うるさい女だな。もう少し静かに出来ないのか?」
「あなたがうるさくさせてるんです!」
高坂はハアハアと息を荒らげていた。
「で? お前は何をやってる途中だったんだ? おち○ち○フルマラソンの途中か?」
「何ですか! おち○ち○フルマラソンって!」
「おいおい、いい年こいた女が白昼堂々おち○ち○は無いだろ……」
「う……。あなたが言わせたんじゃないですか……!」
高坂は頬を紅潮させて恥ずかしそうに言った。
「俺は知らんぞ? 何1つ強制していない」
「うう……。もう! 知りません!」
高坂はプリプリと怒りながら歩き去って行った。
○
「ようレオリオ、美味そうなもん食ってるじゃねえか」
タカシ・レオリオ。19才。短髪に切りそろえられた金髪は、レオリオの間抜けなツラによく似合っていた。ヒーローが3度の飯より大好きな男だ。
「おお! 奏じゃねえか。何してんだよ」
「暇だったからぶらついてたんだ」
「なんだお前もかあ。やっぱりミッションが無い日は暇だよな」
「なんか楽しい事ねえかなあ……コーヒーでも飲むか」
テーブルに置かれていたカップにコーヒーを注ぐ。香ばしいいい香りがした。
「まあとりあえずお前もなんか食えよ。少しは暇が紛れるぞ」
「さっき飯食ったばっかだからなあ。かけそばでも食うかな」
コックに言ってかけそばを用意してもらった。そんなに腹は減っていなかったはずだが、いざ目の前に出されると腹が減ってきた。
「そういや俺今朝から創作料理にハマっててさ」
「へえー」
「例えば今お前が食ってるカツカレーあるじゃん?」
「おう」
「そこにさっき貰ってきた激辛ソースを瓶丸ごといれるじゃん?」
「あ! てめ!」
「うまいじゃん?」
「んなわけねえだろうが!」
レオリオは青筋を立てて怒っていた。
「まあそう怒るなよ。今水持ってきてやるから」
優しい俺は氷がたっぷり入った冷水を用意してやった。だが、その優しさは俺が席に戻った段階でなりを潜めた。
「ほ、ほう……。中々やるじゃないか。俺のかけそばが血に染まってる」
恐らく一味を2瓶くらい放り込んだんだろう。
「だろ? お前の創作性には負けるかもしれないけど、俺だって中々のものだ」
「負けてられないな。ちょっと待ってろ。俺の創作性が爆発しそうだ」
「奇遇だな。オレも爆発しそうなんだ」
お互いに席を立ち、ブツを探しに行く。
俺が手にとったのはチューブわさび。ほぼ迷うこと無く決めたので、レオリオよりも先に席に戻る事が出来た。
チューブわさびをカツの上にかけていく。どこで間違ったのか、とぐろを巻きはじめてうんこみたいになっていた。
「うん、ちょう不味そう」
「待たせたな」
レオリオが戻ってきた。見れば手に紙パックを持っていた。黒く塗りつぶされていて印刷が見えない。中に何が入ってるかわからない分恐怖も倍増中だ。
「ずいぶんと遅かったじゃないか。コックと乳繰り合ってたのか?」
「そんな軽口も今に叩けなくしてやんよ。くらえ!」
レオリオが持ってきたの生クリームだった。真っ赤だった俺の草原が白に侵食されていく。
「……じ、実に美味そうじゃないか。どれ、食べてみようじゃないか」
箸を持った俺の手は震えていた。麺を一本掴み、口の前まで持ってくる。ゲロのような匂いがした。
「ままよ!」
俺はその味をしばらく忘れ無いだろう。あえて表現するならば、口の中に広がるクリーミィなカツオの風味を一味が包み込んでいた。
「おおうええええええええ」
「はっはっは。いやあ、美味しいみたいで何よりだ」
「……ああ。本当に美味しいよ。ありがとよ。せっかくだから俺の創作料理も食ってくれ!」
俺はスプーンに激辛ソースわさびカツカレーを目一杯盛り、レオリオの口に放り込んだ。
「ん……が……!……――――」
声にならない声がした。笑っていたその顔は一瞬にして苦悶の表情に代わり、真っ赤になって首を抑えるその姿はさながら釣り上げられたタコのようだった。
「美味いだろ?」
「はあはあ。な、なかなかの味だった。1つ提案があるんだがいいか?」
「なんだ?」
「停戦協定を結ぼう」
「それは名案だ。それじゃ、仲直りの握手をしよう」
お互い左手を差し出した。
「なんて言うとでも思ったかあ!」
レオリオが隠し持っていたカレー粉をかけそばに入れようとする。
「甘い!」
レオリオと同等以上の速さで俺は右手に持ったカラシチューブを力一杯握りつぶした。カツカレーに2つ目のうんこが出来上がった。
しかし代償は大きかった。俺のかけそばにも一瓶丸々カレー粉が投入されてしまった。
「も、もう本当にやめようぜ」
その言葉はどちらからともなく出た言葉だった。
その後、出来上がった創作物を完食するのに1時間以上を要した。食べ物は残さずしっかりと食べるべきだ。
○
「無益な争いだったな」
テーブルに突っ伏しているレオリオに言った。
「ホントだぜ。元はといえばお前が悪いんだからな」
「そうだな。お詫びに面白い遊びを考えたから許してくれ」
「言ってみ? どうせろくでも無いことだろ?」
「痴漢だ」
「は?」
「痴漢だ」
「すまん、オレの耳はおかしくなったようだ。もう一回言ってくれるか?」
「痴漢だあああああああ!」
「うおわ! なんつー大声を出すんだよ! 周りの人がびっくりしてるじゃねえか!」
「お前が何度も言わすからだ」
「オレのせいかよ! ていうかどういう事だよ。痴漢とかいくらオレ達でも独房に入れられるぞ?」
「そこはご愛嬌だ。今から人の名前を書いたクジを用意する。んで、引いて出た人に痴漢するんだ」
「やだよそんなの。メリットねえじゃん」
「じゃあこうしよう。一日俺の部屋で寝泊まりする権利をやる」
「マジで!?」
「ああ。条件付きだけどな」
「その条件ってのは?」
「痴漢した相手に嫌がられたら負けだ」
「な、なかなか難しいな。いいさ、やってやる! お前も嫌がられたらなんかやれ!」
「そうだな……。俺が負けたら格納庫でフルチ○マラソンしてやるよ」
「言ったな? 絶対やれよ?」
「ああ。安心しろ。俺は言った事は守る男でとおってる」
用意したクジを2人で引いた。結果は―
「あ、俺ラナだわ」
一番ラクな相手だった。ラナが相手ならば何も問題は無い。この賭けはもう俺の勝ちだ。
「ああああああ! なんで龍之介が入ってるんだよおおお!」
「良かったな。そりゃ一枚だけ入ってるスペシャルなやつだ」
「ふざけんなよ! 痴漢って言ったら女にやるもんだろ! なんで男が入ってるんだよ!」
「俺は一言もクジに女の名前を書くとは言っていない」
読者の人も確かめてみてくれ。俺はクジに名前を書くとは言ったが、女の名前を書くとは言っていないはずだ。
「ちっくしょう……! まあいい。ある意味ではこっちのが有利だ」
「んじゃ早速やりに行くか。まずは俺が手本を見せてやろう」
レオリオを伴って目標の人物がいると思われる格納庫へと赴く。
俺の思惑通り、ラナはそこにいた。
「ようラナ。今暇か?」
「お~。霧島奏君じゃないかあ。ちょうど暇してた所なんだあ」
ラナ・アークライト。25才。金髪をツインテールにし、明らかにサイズの合っていないダボダボの白衣がトレードマークだ。
子供にしか見えないちんまい体にでっかい乳。25才とは思えない童顔。どこをとってもちぐはぐだ。そのくせ頭の中身はとんでもない。ラケナリアの技術は全てラナの脳ミソに詰まってると言っても過言ではないくらいだ。
「そいつは都合がいい。ちょっと痴漢させてくれ」
「痴漢? どうしてだい?」
「いろいろと理由があってな。まあ、乳でも尻でもいいから揉ませてくれ」
「構わないよお。胸でもお尻でもお好きな方をどうぞお」
ラナに後ろから抱きついて乳を揉みしだいだ。
後ろを見るとレオリオが血の涙を流しながらハンカチを噛んでいた。
「ふう。助かった。これで賭けは俺の勝ちだな。なんでも言う事聞いてやるよ」
「本当かい? それじゃあ今度君の体を弄くらせてくれえ」
「前言撤回な。俺に出来る範囲で」
「それじゃあ高い高いをした後に肩車をしてくれえ」
「お安い御用だ。今やってやるよ」
ラナを持ち上げてブンブン振り回した後、肩車をした。
「このまま俺について来たら面白いものが見れるぞ。ついてくるか?」
「おもしろそうだあ。ぜひ私を連れてってくれえ」
「あいよ」
ラナを肩車したままレオリオの所に戻った。
「ちきしょう……ちきしょう。お前ばっかりいい思いしやがって……!」
「そんな泣くことないだろ? ほらお前の愛しの龍之介の所へ行こうぜ? 痴漢、するんだろ?」
「くそお!」
泣きながら歩くレオリオを伴って龍之介のいる執務室の前に来た。
「オレの勇姿を目に焼き付けろ!」
レオリオはそう言って執務室へと入っていった。俺達は扉をこっそりと開けて中の様子を伺った。
「なんだ? 急にどうしたんだ」
龍之介の低く重い声がした。見れば、相変わらず胸元を全開にしてスーツを着ていた。
「えと……その、そう! 話しがあって!」
「話しぃ? まあいい、そこに座れ」
2人がソファに座った。ちょうど死角になっていてレオリオの姿しか見えなかった。
「で、話しってのは?」
「ええと、あのーほら。あれです」
「なんだ、はっきりと言え!」
「はい! あの! あれです!」
レオリオ……声だけ大きくしたってはっきり言った事にはならないんだぞ。
「ああん?」
「ひっ! 霧島奏についてです!」
「霧島?」
「は、はい! あいつめちゃくちゃ女侍らせてるじゃないっすか。ラケナリアの代表としてどう思います?」
「いいことじゃねえか。強い男にはいい女が群がるもんだ」
「はあ……そんなもんすかね」
「なんだあ? お前も女が欲しいのか?」
「え? いや……あの、欲しいか欲しくないかで言えば当然欲しいっすけど」
「それならそうと最初から言え。どんなのが好みなんだ? 見繕ってやる」
「え? ホントにくれるんの!?」
「なんだ? いらんのか?」
「えと」
「いるのかいらんのかはっきりしろ!」
「いらないです!」
いつまでも事が始まりそうになかったため、俺はわざと音をたてた。
「え、えと! ちょっと後ろ向いてもらっていいすか!」
「……なんだ? まあ、構わんが」
レオリオがビビりながら龍之介の尻に手を這わせていく。
「……てめえ……なんのつもりだ?」
「ひぃい!」
声だけで龍之介が激怒しているのがわかった。
ここら辺で助けてやるか。扉を開けて中に入る。
「あん? 霧島じゃねえか。……お前そんな所で何やってんだ?」
俺に肩車されているラナを見ながら龍之介が言った。
「中々見晴らしがいいんですよお」
「そ、そうか。俺からは何も言わん」
少し顏がひきつっていた。
「悪いな。レオリオの回収に来た」
「やっぱりてめえの差し金か。妙な態度とってるから怪しいとは思ってたが」
「そういう事だ。またな」
「二度と来んじゃねえ!」
執務室を出た俺達は落ち込んでいるレオリオを労った。
「お前はよくやった。俺達にそれなりの笑いを提供してくれたよ」
「うんうん。君はよくやったあ」
「そうか……? オレ、なんか大事なもんを失った気がするよ」
「しょうがないから俺の負けでいいよ。今晩俺の部屋に来い」
「マジで!? お前と二人っきりとかそういうオチはなしだぜ?」
「わかってるわかってる。アザミもメリダもアヤもいるから。ラナも来るか?」
「行かせてもらおうかなあ」
「よっしゃあああああ」
廊下にレオリオの叫び声が響き渡った。
○
部屋に戻るとアザミが出迎えてくれた。
「おかえりなさい。あら、ラナにレオリオじゃない。どうしたの?」
「今日はこいつらも泊まるんだ」
「そうなの。そしたらご飯もうちょっと多めに炊かなくちゃいけないわね。先にお風呂にする?」
「いや、飯食ってからでいいや」
「わかったわ」
「お前、いつもああやって出迎えもらってんのか?」
「ん? まあな。日によって誰が来るかはまちまちだけどな」
「……」
「む。帰ったか。今日はおまけもいるみたいだな。泊まっていくのか?」
ソファに座って読書をしていたようだ。そういえばメリダは読書が好きだったな。
「そうだよお。今晩は私も霧島ハーレムの仲間入りだあ」
「ふっ。好きにすればいい」
「ホントに奏さんは女たらしだね。アヤ嫉妬しちゃうな。奏さんの事監禁したくなる」
アヤの目から光が失われた。
「怖いからやめてくれ」
「冗談だよ。それにそんな事すればメリダさんが怒るしね」
「当然だ」
靴下を脱ぎ捨ててメリダの隣に腰を下ろした。メリダがじりじりと俺の隣に寄ってきた。
「暑苦しい」
「そんな事は無い」
「いや、普通にそんなひっついてたら暑いから」
「気のせいよ」
このやり取りは何回目だろうか。何度言ってもメリダは聞かなかったからな、諦めるのが一番エネルギーを消費しないで済むか。
「私も奏さんの隣にすーわろっと!」
アヤが俺の右隣りに座ってきた。
「それじゃあ私は膝の上だあ」
ラナが俺の膝の上に乗ってきた。
「マジで暑苦しいんだが」
「てめえ! なんつー羨ましいやろうだ!」
今まで暗い顔をして黙り込んでいたレオリオが急に叫びだした。
「なんだよやかましいな」
「確かにうるさいな」
「ホント。うるさいですよー」
「君は少しに静かにするべきだあ」
「うるせえ黙れ! なんでお前ばっかりそんないい思いをしてるんだ! こんな事が許されると思ってるのか!?」
「許されるんだな、これが」
「強者の特権というやつだな」
「メリダの言う通り。羨ましかったらお前も強くなれ」
「くそう! 何も言い返せない!」
まあ、レオリオもその辺の雑魚とくらべれば強い方なんだがな。ラケナリアの連中と比べられれば流石に霞む。不幸な運命にある男だ。
「オレは決めたぞ! いつかお前に模擬戦に勝ってやる!」
「その前にまずはメリダ達に勝たないとな」
「みんなーご飯出来たわよ」
アザミが言った。
食卓につくと美味しそうなおかずが所狭しと並んでいた。
「いただきます」
全員で挨拶をして食べ始める。
「おかわりもあるからね。今日は男の子が2人もいるから張り切っちゃった」
アザミが嬉しそうに言った。普通料理を作るのは面倒臭がるものだと思ってたが、アザミの場合は料理を楽しんでいる節がある。
「うぃっす。ありがとうございます。アザミさん料理うまいっすね」
「そう? ありがと。可愛い可愛い弟君のためにいつも頑張っているからかしら」
「弟君?」
「ああ。俺が弟でアザミが姉ちゃんなんだと。何が楽しくて姉弟なんて言ってんだか」
「だってとっても可愛いんだもん」
「俺の事を可愛いと言うのはアザミだけだ。アザミ以外は皆俺の事をミステリアスでクールなイケメンって言ってるんだぜ?」
「いやそれは無いから」
レオリオが間髪をいれず否定した。
「でもイケメンだろ?」
「……うるせえ。お前なんて象のうんこにでもなっちまえ」
「こらっ。食事中に汚い事言っちゃダメよ?」
「す、すんませんアザミさん」
「む、奏。口元が汚れているぞ」
「え? どこどこ?」
「ここだ」
メリダがティッシュで俺の口元を拭いてくれた。
「奏さん奏さん。あーん」
アヤが俺にハンバーグを食べさせようとしていた。
「あーん」
「美味しい?」
「ああ。うまい」
「ねえねえ。私にもあーんしてくれえ」
「ほいほい」
ラナの小さい口にハンバーグを詰め込んでやった。こいつにあーんしてやるとひな鳥にエサやってる親鳥の気持ちになるのは俺だけだろうか?
「ああああああああ。もう、もう!」
「うるさいぞ。食事中だ」
「メリダさん、あんたは何も思わないのかよ!?」
「何がだ?」
「奏があんなことやそんなことをやってる事にだよ!」
「特になんとも思わん。妾が沢山いるのはいいことだ」
「あんたの頭ン中は腐った豆腐かよ。アザミさん、あんたはどうなんだ」
「私も特に何も。奏を慕う女の子が増えるのはいいことだと思うわよ?」
「あれ? オレがおかしいのか?」
「そうだ。やっと気づいたのか?」
こいつは一体何を言っているんだか。
「そんな訳ねえだろうが! おかしいのはこの空間だ! 羨まし過ぎんだよ!」
「お前だって大好きなヒーローがいるじゃないか。きっとそのヒーローはお前の事が大好きだぞ?」
「マジかよ。それはかなり嬉しい」
「ああ。お前自身がヒーローになる日もそう遠くないかもな」
「へへ。お前にそう言ってもらえるとなんかホントにそんな気がしてきたぜ」
「だろ? 頑張れよ。俺は応援してる」
「ありがとよ。で、話しは戻るんだけどよ。おかしいのはオレじゃなくて間違いなくこの空間だからな?」
「ちっ。いい話風にして終わらせようとしたのに」
「最悪だよお前! まあいい。問題はどうやったらオレはハーレムを作れるかって事だ」
「なんだそんな事か」
「なんか妙案があるのか?」
「イケメンに生まれなおせ」
「あんた酷えよ!」
「冗談だ。ヒーローになれ。俺みたいにもう取り零すがあっちゃいけないんだ」
「お前……そうだな。オレは何を焦ってたんだろうな。オレがヒーローになれば全て終わる話しだったんだよな」
「ああ。いい感じに纏まったな。飯も食い終わったし。風呂に入ろう」
「今日は私がお供する日だったな」
メリダがお茶をすすりながら言った。
「何度も言ってるが風呂はマジでやめてくれ。俺のリラックス出来る時間がなくなる」
「諦めろ。結局いつも誰かが入ってるじゃないか」
「ん? 二人ともなんの話しをしてるんだ?」
「俺が風呂に1人で入ろうとしているのをメリダが2人で入ろうとゴネている話しだ」
「て、てめえ……!」
レオリオの握った拳はプルプルと震えていた。
「一回あの世へ行けやおらあ!」
レオリオが俺に思い切り殴りかかってくるが、俺はそれを華麗に避けた。勢い余ったレオリオはタンスの角に小指をぶつけていた。
「ああ可哀想に。あれ地味に痛いんだよな」
「ふん。自業自得だ」
メリダが冷めた目でレオリオを見ていた。
結局、いつも通り俺は1人で風呂に入る事は叶わず、メリダと共に入浴する事になった。背中を流してもらえるのはありがたいが、女と風呂に入るのはやはりいつまで経っても慣れない。
○
夜、就寝時間直前になって1つ問題が浮上した。客人2人がどこで寝るかという問題だ。
部屋の主である俺がベッドで寝るのは当然として、ラナをソファで寝かすのは忍びない。しかしだからと言って普段4人で寝ているベッドにこれ以上人が増えたらいくらキングサイズのベッドでも狭くなるのは目に見えている。つまり。
「お前はソファで寝ろ」
俺はレオリオにそう言った。
「そうですよね。わかってました。あなたは沢山の女の子に囲まれているから布団がいらないでしょうが、ワタクシは寒くてしょうがないので毛布を貸していただけるでしょうか?」
「しょうがないやつだな。なんなら俺が添い寝してやろうか?」
「マジで!?」
「キャっ。どうせ私の純血を狙ってるんでしょ? この狼さんめ!」
「ぐへへへ。お前の純血を奪ってやんよお!」
「いやあ! やめて! おとーさんおかーさん!」
「ぐへへへ。叫んだって無駄だあ!」
「……」
2人の間に沈黙が流れた。
「今のはなかったことにしよう」
「それがいい。オレもその意見に賛成だ」
部屋の電気を消してベッドに向かった。
並びは俺を中心にして右隣にアザミ、その奥にメリダ、左隣りにアヤ、その奥にラナだった。酒池肉林とはこういう事を言うのだと思う。実に素晴らしい。
「おやすみなさい」
誰かの一言で部屋に無言が訪れる。
たまにはこういう休日も悪くないな。




