増援
アザミから通信を受けている間も奏はミッシェルのいやらしい攻撃を捌き続けていた。
殺傷力に欠けるニードルガンをばら撒きながら、思い出したかのようにミサイルを射出する。追いかければ全力で逃げる。ミッシェルは完全に時間稼ぎに徹していた。
火力自体はそれ程無い〈ヴェノム〉は、単体であればさほど脅威ではない。ある程度の実力があるものであれば、時間をかければ撃墜する事が出来た。しかし、事状況戦となれば話しは別だった。
ニードルガンは牽制力に優れ、威力そっちのけで誘導性にのみ重きを置いた小型ミサイルは撃墜しなければ確実にダメージを与える。更に〈ヴェノム〉自身の機動力も高いため集団戦で一番に撃墜するという事も難しい。
その上、奏は先程自身が傷つけた〈レストレイン〉を狙うオリジナルを遠距離から牽制しつつミッシェルと戦っていた。
状況はジリ貧であり、こちらが不利だった。
「逃げろったって、アヤを置いて逃げるわけにはいかねえし、どうしろってんだよ」
『遠距離より機体接近。高速です。オリジナルだと思われます』
リザが言った。
「またかよ! いよいよまずいな……」
奏は少々機体に損害が出てでもアヤの援護に向かい、離脱する算段を立てた。しかし、その計画は無駄なものになった。
「助太刀する……!」
高速で現れたオリジナル〈雷切〉が日本刀状のブレード村雨の柄で〈ヴェノム〉の背後を突いた。
〈エウラリア〉のものと負けずとも劣らない出力を持つブースターで加速し、柄で突かれた〈ヴェノム〉は、土煙を巻き上げながら吹き飛んだ。
「ぐっ……なんだ貴様はあ!」
ミッシェルが呻きながら言った。
「我が名は義経。坂本義経」
義経が村雨を抜いた。一点の曇りもないその刀身は見るものを惹きつける魅力があると同時に見るものを恐怖させた。矛盾を孕んだ村雨は、しかし美しいと言えた。
「あんたは俺の味方って事でいいのか?」
奏が油断なくライフルを〈雷切〉に向けながら言った。
「霧島奏。貴方は彼女を助けろ」
義経は村雨を〈ヴェノム〉に向けて構え直し、奏に背を向けた。
「……信じるぞ。頼んだ!」
奏もまた、義経に背を向け言った。
「応!」
「ふんっ! さっきのは不意を突かれただけだ! 貴様如きすぐに葬って、霧島奏も後を追わせてやる。くらえ!」
ミッシェルが義経に向けてエネルギーウィップを振るった。
義経は冷静に鞭の流れを見極め。村雨でエネルギーウィップを断ち切った。
近接戦は分が悪いと判断したミッシェルは、ニードルガンを義経に向けて放ちながら〈雷切〉の周りをぐるぐると周り地雷を設置した。
「間抜けな貴様はこれを踏むだろうな。クククッ想像したら笑いが止まらない。あーっははっはっはっはっは!」
〈雷切〉との距離をしっかりと取ってミスチェフは大きく笑った。同時に〈ヴェノム〉の動きがミスチェフの笑いに合わせて一瞬止まった。
「……愚かな」
義経はその隙を逃さなかった。ブースターを全力で吹かし、地雷原を駆け抜ける。
〈雷切〉のスピードについてこれない地雷は〈雷切〉が通りすぎてから思い出したかのように爆発した。
〈雷切〉が〈ヴェノム〉に肉薄する。
「何ぃ!?」
「一刀のもと全てを断ち切る……。水を纏え! 村雨!」
義経の声に反応し、村雨が水を纏う。
「一之太刀、雨雲!」
義経が大きく村雨を振り落とした。太刀筋に先導して刀身から勢い良く噴出する水はやすやすと〈ヴェノム〉の装甲を切り裂く。
「ぐああああああああ」
〈ヴェノム〉の右肩から下が芸術的なまでに美しく切り取られた。
「躱したか。悪運の強い男だ。だが、それも……」
義経が、衝撃で倒れた〈ヴェノム〉に村雨を突き刺そうと持ち手を入れ替えた。その隙を狙ってミッシェルは腰部に搭載されていたスモークガンを発射した。
先程の攻撃で壊れていなかったのはやはりミッシェルが悪運の強い男だったからだろう。そのおかげか、視界を奪われた〈雷切〉の攻撃は当たらなかった。
「貴様! 次に会う時に覚悟しておけ!」
〈ヴェノム〉は緊急離脱用の超高速ブースターを使って離脱した。
「逃げたか……。追う価値も無い」
「そっちも終わったみたいだな。助かったよ」
アヤの救出に向かった奏が言った。
「ああ」
「悪いが俺は仲間の援護に向かう。あんたはどうする?」
「自分も行こう。それに……おそらく魔法生物が来る」
「なんでわかるんだよ?」
「いずれわかる。今は先を急ぐべきだ。貴方の仲間が危ない」
○
「覚悟は決めた。……行くぞ!」
〈エウラリア〉が被弾を覚悟で〈マリオネット〉に肉薄した。先程と同じようにリリウムはショックロケットを放った。衝撃が〈エウラリア〉を襲った。
「ぐぅ……! だがあ!」
〈エウラリア〉が〈マリオネット〉を捉えた。ブースターを全力で吹かし〈マリオネット〉を抑えこむ。
「アザミ!」
アザミがバトルライフルを放った。〈マリオネット〉に吸い込まれるはずだった弾丸は道半ばで蒼い光にかき消された。
「なんだ!」
メリダが〈マリオネット〉から離れながら言った。
見上げた空にいたのは〈ダーナ〉だった。アキトは両手にハンドカッターを出現させアザミに切りかかった。
「速い!」
アザミがバトルライフルとプラズマライフルで迎撃するが、全てかわされ、一瞬にして〈ダーナ〉に距離を詰められた。
ガンっ。鈍い音を立ててハンドカッターが〈グラジオラス〉に突き刺さった。
「アザミ!」
メリダがブースターを全力で吹かし〈ダーナ〉に切りかかった。しかしアキトはブースターを織り交ぜたサイドステップでそれを回避した。
「大丈夫。機体の損傷自体はそこまでひどくないわ」
嘘だった。先程の攻撃でジェネレーターのどこかをやられたのか、機体の出力がまるで上がらなかった。アザミはメリダに心配させまいと嘘を言ったが、戦闘が続けば遠からずばれる事になる。
これ以上機体に損害が出ないように、意味が無い事とはわかりつつもアザミはミサイルを放ち、2機から距離を取った。
「君たちに恨みは無い。だけど、俺にはやらなきゃいけない理由があるんだあああ!」
アキトが悔しさをにじませながら叫び、メリダに切りかかった。
最近一話が短いのはリアルが小忙しいためです。すみません。ブックマークとかしていただければやる気でて読み応えあるものが書けるかもしれません。




