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ランページコンプレックス~君のいた世界~  作者: アキノタソガレ
awakening
19/37

レフトアウトオリジナル無力化

「リザ」

 奏はベッドに横になっていたリザに話しかけた。


「どうしたの?」


「いや、ただ呼んでみただけだ」


 リザはベッドから一度起き上がり、奏を胸に抱いた。そして、そのままの流れで奏を伴ってベッドの淵に座った。


「……」

 リザは何も言わなかった。ただ優しく奏を抱き、背中をさすった。全ての動作、呼吸さへも奏に対する慈愛で満たされていた。


「2階級特進だってよ。ははっ。あいつ、俺よりも階級上になりやがった」

 渇いた笑いが響いた。


「あーあ。あいつの下につくのか。なんかやだなあ。また、酒奢ってやらないとな。だけど……だけどさ。死んじまったら意味ねえよなあ」

 奏はいつの間にか泣いていた。


「なんで……どうしてだ。あいつが逝く必要は無かった」


「奏……」


「俺が! 俺が……ちくしょう……ちくしょう……!」


 奏は嗚咽を殺しひたすらに涙を流した。その姿にリザは胸を締め付けられるような痛みを覚えた。


「あれ……?」

 気がつけば、奏を慰めていたはずのリザの頬にも涙が流れていた。


  ○


 窓から差し込む光で奏は目覚めた。両隣を確認するとメリダとアザミが寝息を立てていた。


「そうか……やっぱり明正は死んでたのか」


 ラナの私室で見た記憶の最後に明正は狙撃されていた。しかし奏はもしかしたら、という希望を抱いていた。だが、それも今回の記憶遡行で打ち砕かれた。


 不意に頬に涙が流れた。記憶遡行と同じように奏は涙を流していたのだ。


「奏……? どうして泣いてるの?」

 アザミが上半身のみを起こし、奏を薄目で見ながら言った。


 アザミにリザの面影を感じた奏は、気がつけばアザミの胸に顏を埋めていた。


「怖い夢でも見たの?」


 記憶と同じように、アザミは優しく奏を抱き、背中をさすった。


「そんなところだ……。悪いな」


「いいのよ。たまには泣くことも必要な事よ……」


 暫くの間奏はアザミの胸の中で嗚咽を殺して泣いた。


「もう大丈夫だ。ありがとう」


「いいのよ。お姉ちゃんの胸でよければいつでも貸してあげるから。それじゃ私はそろそろ朝ごはんの準備するわね」


「飛び切りうまいのを頼む」


「もちろん」


 そう言ってアザミは朝食の準備にとりかかった。


「すまない。どうも私は邪魔だったようね」

 メリダが目を閉じたまま言った。


「起きてたのか」


「当然だ。理由は聞かない方がいいのだろう?」


「出来れば」


「ならば何も聞かない。話してくれる時を待つだけだ」


「悪いな。助かる」


「騎士だからな。当たり前の事だ」


  ○


「ミッションを説明します」

 奏、アザミ、メリダのコックピットに高坂の声が響く。


「目的は、レフトアウトオーディエンスのオリジナル、レストレインの無力化です。レスレインパイロット、アヤ・オルコットはレーザーライフルとマシンガンを用いた中距離からの引き撃ちを得意としています。戦闘区域周辺には多数の防衛部隊が展開していると思われます。また、情報の精度は確かでは無いですが、オーディエンスが他組織からオリジナルを雇ったという情報もあります。注意してください」


「よし。アザミとメリダはオリジナルを警戒しながら防衛部隊の殲滅にあたってくれ。レスレインは俺がやる」


 2人が奏に了承の意を示した。


「はいはい。毎度の事ながら機体の説明をさせてもらうよお」

 ラナが高坂と入れ替えでフェイスウィンドに現れた。


「奏のメレアゲルに関してはショットガンをご希望の速射ライフルに変更、メリダのエウラリアは変更無し。アザミのグラジオラスは改修にあたって大幅な武装変更をさせてもらった。腕部武装にプラズマライフルとバトルライフル、背部武装に多連装誘導ミサイルとジャマーを装備したよ。肩に付いてるの小型誘導ミサイル。個々の誘導性はさほど高くないからミサイルの密度をあげる目的で使ってね」


「まるで弾薬庫。すごいわね」


「被弾したら誘爆するんでねーの?」


「大丈夫。私を信じたまえ。その辺はしっかり考えて作ってあるから」


「ホントかよ」


「いずれにせよ問題は無い。私が彼女の分まで働けばいいだけの話し」


「あら、それじゃあ頼りにさせてもらうわね、メリダ」


「間もなく降下地点だ。準備しろ」

 輸送ヘリのパイロットが言った。


 固定ボルトが外れ、ハッチが開いた。


「降下!」


 3機が地表に降り立った。ブースターを吹かし、戦闘区域へと突入する。


「あちゃー。結構な数いるな。潰れかけのレフトアウトがようも数集めたもんだ」

 奏が〈パロット〉で構成された防衛部隊を見ながらそう言った。


 3人が攻撃を開始しようと散開した時、オーディエンス側からラケナリアに通信が入った。


「私は、オーディエンス代表のボーマン・ブルーノウです。私達に交戦の意思はありません。どうか武装を解除し、お引取りください」


「……だってよ。どうすんの?」


「作戦は続行だ。仕掛けろ」

 龍之介が迷い無く言った。


「あいよ。悪いな、そう言う事だ」


「どうして……私達は静かに暮らしたいだけなのに……」

 そうアヤが言い、躊躇いがちに〈レストレイン〉は武装を構えた。


「なんだか私達、悪者みたいね」


「みたいじゃない。悪者なんだよ。やるぞ!」


 奏が先陣を切った。〈メレアゲル〉を宙に浮かせ、散布ミサイルをばらまいた。それを発端に防衛部隊が一斉に攻撃を始めた。けたたましい銃撃音が響き渡る。


〈エウラリア〉がマシンガンをばら撒きながら高出力ブースターで一瞬にして敵に肉薄する。〈エウラリア〉の専用のレーザーブレードオビエドで目の前の敵を袈裟斬りにし、そのままの流れで右斜め前の敵も真っ二つにする。


 止まることを知らない〈エウラリア〉の猛攻によって、防衛部隊は混乱した。高速で移動を繰り返す〈エウラリア〉を補足出来ず〈パロット〉はほぼ棒立ち状態になっていた。その隙をアザミが逃すはずもなく、多連装誘導ミサイルで次々と防衛部隊の数を減らしていく。


 メリダとアザミが防衛部隊と戦闘繰り広げている間、奏とアヤは2人から少し離れた場所で撃ち合っていた。2人が放った弾薬は既に相当数になっていたが、どちらの機体にも傷1つ付いていなかった。


 機動力を活かし、近距離で一気に相手を削る事をコンセプトに開発された〈メレアゲル〉とバックブースターに重きを置き、中距離を保ちながら敵を削る事をコンセプトに開発された〈レストレイン〉は相性が悪かった。


〈メレアゲル〉が距離を詰めても〈レストレイン〉はそれと同じくらいの距離を後退する。どちらかのブースター性能が優っていれば、そちらが有利だったのだろうが、幸か不幸か2機のブースター性能は拮抗していた。


「やめて……私はあなたを殺したくない」


「俺だって好き好んで女を撃ちたくはないさ」


「なら……!」


「だけどな、俺にはやらなきゃいけない事があるんだ。だからこんな所で死ぬわけにいかないんだよ!」


 奏が散布ミサイルをばら撒いた。その内の数発が〈レストレイン〉に命中した。


「うう……。私は、私は死にたくないのお!」


 アヤがマシンガンをばら撒いた。奏と同じようにその内の数発が〈メレアゲル〉に命中した。


「誰だって死にたくねえよ!」


 奏は散布ミサイルを上にばら撒きパルスガンで爆発させた。爆風に煽られ、僅かにたじろいだ〈レストレイン〉の右足に速射ライフルを放った。


「っう! ねえ、どうして? 私がこの世界に来ちゃったから?」


 ばら撒かれたマシンガンから逃げるため、奏は一度〈レストレイン〉から距離を取った。


「そんなもんは誰にもわかんねえんだよ。お前はどうしたいんだ?」


「私は、私を助けてくれた人達を助けたいだけ……」


「……リザ。あいつとの通信を龍之介達に聞かれないようにする事は出来るか?」


『出来ます』


「頼む」


『了解。通信カットしました』


「おい。アヤ、聞け」


「何? 油断させて撃つ気?」


 アヤは奏に照準を定めた。それに対し奏は、敵意が無い事を表すために武装を下げた。


「俺と手を組もう。そうすれば戦う必要はなくなる」


「……どういう事?」


「俺とお前が手を取り合えばレフトアウト同士やりあわなくても和平出来るはずだ」


「無理だよ。ここで私があなたの手をとっても、オーディエンスは終わりだもん」


 オリジナルを1機しか所持していないオーディエンスはアヤが居なくなればそこで終わる。仮にここでアヤが奏を倒しても、次にはメリダとアザミが待っている。


 今頃、オーディエンスの防衛部隊は壊滅状態だろう。アヤの言う通り、オーディエンスはどうしようも無い程終わっていた。


「大丈夫だ。お前さえ俺の所に来てくれたら後はなんとかしてやる」


「……本当に?

「ああ。俺を信じろ。いいな?」


 アヤが頷き駆けた瞬間、2人目掛けてミサイルが飛んできた。


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