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ランページコンプレックス~君のいた世界~  作者: アキノタソガレ
awakening
17/37

交渉と締結

 奏とメリダ、2人の周囲は血の海だった。大量の魔法生物の(むくろ)が転がっていたのだ。その数は優に100を超えていた。その代償にレオリオが駆る〈ナルキス〉は弾薬ゼロの上に中破。メリダ駆る〈エウラリア〉はレオリオをかばってレーザーを食らったため大破。奏が駆る〈メレアゲル〉は損傷こそ戦闘に問題無いレベルだったが、後半は弾薬が尽きた上、負傷した2人をかばいながら戦っていたため、奏は疲労困憊(こんぱい)だった。


「ハアー。無事か?」


「あ、ああ。あんた、すげえよ。オレ必要なかったじゃん」


「そんな事は無い。砲台型を1人で倒したじゃないか。メリダは?」


「……大丈夫だ」

 メリダは苦しそうな声で言った。


「きつそうだな。2人共動けるか?」


「オレは大丈夫だ」


「すまない、駆動系をやられたようだ。これでは足手まといだな。置いていって貰って構わないわ」


「バカ野郎。俺は仲間を見捨てることはしないんだ」

〈エウラリア〉に肩を貸しながら奏は言った。


「そうか……ありがとう」


 そこでフェイスウィンドに高坂が現れた。焦っているようだった。


「霧島さん! 輸送車両が魔法生物に襲われているそうです。援護に迎えますか?」


「無理だ。損耗が激しい。俺以外動けない。ヘリを出すしか無いな」


「っ! 情報、入りました。ピースシティで人型兵器が魔法生物と戦闘を繰り広げてるようです! 輸送ヘリをそちらに送るので補給後、霧島さんは援護に向かってください」


「わかった。出来るだけ急がせろ。それから救護班も準備させろ。負傷者がいる」


「わかりました」



  ○


 アキトは魔法生物の姿を確認し、宙に浮いた。


(街が、人が……!)


〈ダーナ〉は拳を握った。


「許さない……ここはお前達が来る所じゃない!」


〈ダーナ〉は加速した。両手にハンドカッターを出現させ、飛行型魔法生物に肉薄する。


「出ていけええええええええええ」


 飛行型にハンドカッターを突き刺す。アキトは何度も何度も突き刺した。飛行型から大量の血しぶきが出た。しかし、飛行型は一向に倒れなかった。

 飛行型が巨大な顎を開いた。トンボを連想させる大型の牙が剥き出しになる。


「何!?」


 飛行型が〈ダーナ〉の首筋に噛み付いた。ミチミチと音をたてながら徐々に牙が〈ダーナ〉の体内に埋まっていく。


「ぬう。くっ!」


 アキトは痛みに耐え懸命にハンドカッターを飛行型に突き刺し続けた。しかし、やはり飛行型には効果が薄かった。


「クシャアア」


 飛行型は6本の脚で〈ダーナ〉を押さえつけた。細い脚のどこに力があるのか〈ダーナ〉の体はミシミシと悲鳴をあげていた。


「ぐああああ」


 そこでアキトの目に残りの飛行型2体が街を破壊しているのが写った。


「……! 負けない!」

 アキトは残り少ない力を振り絞って飛行型を引き剥がした。


〈ダーナ〉の腹部に亀裂が発生した。亀裂からは溢れんばかりの青の光が伺えた。


「うううおおおおお」


〈ダーナ〉の腹部から蒼い光の奔流(ほんりゅう)が放出された。光は一直線に飛行型に向かい、飛行型を跡形も無く消し去った。


 アキトは残りの2体にも同様に青い光を放った。そこでアキトの意識は途切れた。


 輸送ヘリでピースシティにたどり着いた奏が見たのは、血の海に倒れた騎士型と壊れた街。そして、ビルにもたれかかるようにして気を失っていた〈ダーナ〉の姿だった。


  ○


 オールド・ロリポップ輸送車両護衛任務から2日経った今日、霧島奏はオールド・ロリポップに迎賓(げいひん)として招待されていた。奏は1人自由気ままに訪れたかったのだが、龍之介がそれを許さなかった。めったにない機会を無駄にしないためにと付き添いに高坂美咲と、小川龍之介の代理として片桐鳴介が付いてきていた。


「まずは本社へと出向いていただきます」

 出迎えの男が言った。男の側には扉を開いた黒塗りの車があった。


 車で移動し、案内された本社では耳が異常に発達した女と背丈の小さく、大量のひげを蓄えた男がせわしなく動いていた。


「なんだこいつら人間か?」


「少しは口に気をつけて発言してください霧島さん。私達はあくまでも客人なんですから」

 高坂を奏を諌めるように言った。


「だってよ、どうみても俺らとは別人種に見えるんだが」


「驚かれるのも無理ないです。あなたの言うとおり、彼らは我々とは別人種です。しかし、言葉も話せば我々をも凌ぐ知性もあります。特にドワーフの持つオリジナル解析技術は凄まじいものがあります」

 男が苦笑しながら言った。


「なるほど。しかし、よろしいのですか? 我々にそのような事を話して」

 片桐が言った。


「構いません。さして重要な情報ではありませんので」

 男は含みない様子で言った。


「さ、着きました。今から代表をお呼びいたします。そちらに置かれている果物類などはお好きに召し上がってもらって構いません。ごゆっくりとおくつろぎください」


 男に案内された部屋は会合室のようだった。


「なんだこれ。ホントに食い物か?」


 奏は手に取った果物はひょうたんのような形をした赤色のものだった。先端から伸びたつるがその身を守るように体に巻き付いていた。


「な、なかなかにショッキングな見た目してますね」

 高坂が頬をひきつらせながら言った。


「よし。食ってみよう」


 奏は果物と一緒にテーブルに置かれていたナイフで身を切り分けた。


「高坂これ好きだったろ? やるよ。俺はお前が残したのでいいからさ」


「見たことも食べたこともないものが好きなわけないじゃないですか! あなたが食べるって言ったんですから責任を持って食べてください!」


「ちっ。しょうがねえな。まずかったらお前のせいだからな」


「なんでですか!」


「本当に食べるのかい?」

 片桐が奏に言った。


「うまいかも知れないしな」


「やめておいた方がいい。万が一という事もある」


「そんときゃそんときだ」


 奏は大口を開けて果物を口に放り込んだ。


「ど、どうですか?」

 高坂が恐る恐るといった様子で聞いた。


「うん。うまいな。お前も食ってみろよ」


「わ、私は遠慮しておきます」


「いいから食え」


「いーやーでーすー!」


「強情なやつだ」


 奏は無理矢理高坂の口を開け、果物を放り込んだ。


「むー!」


「うまいだろ」


 高坂が果物を飲み込んだのを見計らって奏は聞いた。


「美味しい……」


「だろ? 次はこいつを食ってみるかな」


 奏は次にオレンジ色の棒状の果物を口にした。


「なんだこれ、まず。ねちゃねちゃしてる。後の高坂の服に塗ったくってやろ」


「聞こえてますよ!」


「お前耳いいのな」


「隠す気なかったですよね?。ホントにやめてくださいよ?」


「記憶の片隅に置いておいてやろう」


「サインペンで顏に書かれたいですか?」


「よし覚えた。問題無い」


 そこでノックの音がした。会合室にメリダと老人が入ってきた。


「よく来てくれたわね。すまない、出迎えには私が行く予定だったのだが」


「先日ぶりだな。体は大丈夫そうだな」


「ああ。君のおかげでな。今日は、先日の礼をさせてもらうために私が呼んだんだ」

 メリダは一度言葉を区切り、高坂達を軽く睨んでからこう続けた。

「……どうやらおまけも付いてきたようだがな」


「まあそう言うな。んで? 遊園地にでも連れて行ってくれるのか?」


「君がそれを望むなら連れて行こう。ただ、まずはその前に食事に付き合って欲しい」


「オーケー。美人と食う飯はうまいしな。願ったりだ」


「そうか。では行こう」


「ふむ。では僕達はそちらの方にご案内していただくという事でよろしいですか?」

 片桐がメリダに聞いた。


「勝手にしろ。私が呼んだのは霧島奏ただ一人だ」


「ではお言葉に甘えて」

 片桐はメリダの発言に気分を害した風も無くごく自然にそう言った。


  ○


「珍しいか?」

 メリダに案内されている途中、奏はオールド・ロリポップの施設をジロジロと観察していた。その様子を見たメリダが笑みを浮かべながら言った。


「そうだな。ラケナリアとも俺のいた世界とも違う」


「私も最初は戸惑った。周りを見渡しても人間がほとんど居なかったからな」


「他の所にもこいつらいるのかな」

 耳が発達した女とひげを蓄えた背の小さな男を指して言った。


「私が確認した限りだが、極小数のレフトアウトでも生活しているようね」


「こいつら俺らよりも頭良いんだろ? つーことはここの設備、この世界の技術水準の最先端を行ってるんじゃねえの」


「そうみたいね。あなたの機体もここでなら修復出来る可能性がある」


「おいおい。俺の機体の情報まで握ってるのかよ。流石3大組織だな」


「君が望むのなら、私が老人たちに取り次ぐぞ?」


「今はいいや。借り作りたくねえし。あんたこそ、俺に付く気はないのか?」

 奏はメリダを見つめた。その瞳に隠された意思を確認するためだ。

「やっぱいいや。今の段階で聞く事じゃなかった」


「いや、言おう。私は君に付く。君には私の中に在る義を感じる」


「そうか。ホントにいいのか? 裏切る事になるんだぞ?」


「構わない。もとより彼らが欲していたのは技術のみ。それも既に彼らは会得した。そうなれば私は用済みよ。君に付き従うのにさして障害は無い」


「助かる。お前のような腕利きがいると俺も安心出来る。これから行く所は安全か?」


「ええ、最初からこうなる事を予見していたから」


「流石だよ。全く」


 それから少し歩いて2人は目的の店に辿り着いた。店の名前はクラウド。規模の大きいオールド・ロリポップの中でも客のプライバシーが守られる店として知られていた。


「ここは料理もおいしい。話しをするにしても、まずは腹に何か詰めてからにしよう」


 対面に姿勢よく座ったメリダが言った。白いテーブルクロスが敷かれた丸いテーブルには奏の見たことのない料理が湯気をあげていた。


「どれも見た目がグロテスクだな」


「だが味は保証する。まずは食べてみてくれ」


 奏はフォークで何かの肉と思しきものを突き刺し口に入れた。


「うん。うまい」


「でしょう? エルフが品種改良したものを使っているらしく、栄養価も抜群だそうだ」


「そりゃ素晴らしい」 


 それから2人は差し障りの無い会話をしながら料理をたえらげた。


「そんじゃ、身の上話でもするかね。俺はあんたの過去にはさして興味は無いから俺から話させてもらう」


「ああ。聞かせてもらおう」


「俺は軍属でな、第401独立小隊。俺はその隊長だった。いろいろあって401小隊は壊滅的な被害を被って負けたんだ。だが俺は生き残った。俺は死んでいった仲間達のために401小隊を再編する。あんたにはその一員になってほしいんだ」


「弔い……か。死者への想い程虚しいものはないわよ?」


「なんとでも言ってくれ。俺はこの世界を抜けてあいつらの仇を討つ。だがその前に俺はこの世界から魔法生物を駆逐する。俺の目の前で俺の気に食わない事をされるのは腹立たしいからな」


「若いわね。私には無い輝きだ。やはり君は私の思う通りの人間だったようだ。これ以降、私はあなたの部下となる。私の剣はあなたを守るためだけに振るおう」


 メリダは力強い視線を奏に向けた。


  ○


「こうも我々を簡単に招き入れてよかったのですか?」

 片桐は自身の前を歩く狡猾そうな老人に言った。


「何も問題は無い。それとも、お前達は何かするつもりだったのか?」


「とんでもない。本社を見学させていただいても?」


「申し訳ないがそれだけは了承しかねる」


 それは明確な否定だった。


「やはりそうですか。当然、オリジナルを見せていただく事も無理ですよね?」

 片桐は動じる事無く笑みを浮かべて言った。


「オリジナル自体を見せる事には問題は無いのだが、本社に入らねばならないので了承しかねるな。また機会があればその時にでも言ってくれれば用意させてもらう」


 老人の言葉は片桐にとって意外だった。貴重なオリジナルを見せてやると今はっきりとこの老人は言ったのだ。


「それはありがたいですね。彼にも強く言っておきます」


 老人は奏が今後順調にこの世界に順応すれば、クラスペディアの傭兵に匹敵すると考えていた。そのためにラケナリアの使者として来た片桐にエサを撒いたのだ。


 片桐もまた老人の言葉の意味に気づいてた。奏が脅威なり得る存在になった時のため、奏に首輪を付けろと言われている事に。


 元々、オールド・ロリポップに指示されるまでも無く、奏には首輪を付ける腹積もりだったのだ。老人の提案にはメリットはあってもデメリットは無かった。故に片桐は老人のエサに食いついた。


「こちらとしてもそれはありがたい事だ。今回のミッションの件もあるラケナリアには1つミッションを仲介してあげよう」


「というと?」


「レフトアウトオーディエンスの殲滅」


 オーディエンスは優秀な女オリジナルジャンパーがいる事で有名だった。オーディエンスは他組織に吸収される直前になってオリジナルを入手したのだ。それをきっかけにオーディエンスは彼女の力を元に着実に外貨を稼いでいた。


「なるほど。依頼主は?」


「そちらは伏せさせてもらおう。私達の信頼に関わるのでな」


 片桐は老人の醜悪な笑みに苛立ちを覚えた。依頼主は明らかにオールド・ロリポップだ。それをこの老人はあくまでも仲介人であるというスタンスを崩さない。


 老人に掴みかかりたくなる衝動を抑え、片桐は表情筋だけで笑いこう言った。


「それもそうですね。その依頼お受けいたします。詳細は後ほどお話いたしましょう。今は高坂がいますので」


 ピリピリとした雰囲気の中口を開く事が出来ずにいた高坂は、自身の名前を急に呼ばれ驚いた。


「は、はい! すみません。交渉の場に私のような若輩者がいて……」


「いや、構わないよ。大筋の話しは終わった。ゆっくりと観光を楽しんでくれ」


「あ、ありがとうございます」


 片桐は溜息を尽きたくなる衝動を必死で抑えていた。高坂という存在のおかげで本格的な交渉は龍之介を交えて行う事が出来たが、もしこの場に高坂が居なかったらラケナリアが一方的に損害を被る可能性があった。それ程までに老人は狡猾(こうかつ)だった。


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