レフトアウト奪取
2週間後、完成した〈ファーストフリージア〉に早速出撃命令が出た。
〈ファーストフリージア〉は初の改修という事で実験的な意味合いが強い事から頭文字にファーストとつけられた。
「作戦を説明します」
コックピットに高坂の声が響いた。
「目的は、三大組織のいずれにも属さないレフトアウト、アンダーザブリッジの防衛部隊の殲滅です。アンダーザブリッジは、レフトアウトの中でオリジナルを所有していない唯一の組織です。そのため、様々なバリエーションの量産機を相当数保有しています。敵火力は充実していると思われますが、あなたであれば問題は無いはずです。今回の作戦は三大組織へのアピールという意味合いが強いです。完膚無きまでに殲滅してください。なお、可能であれば、施設への損害を抑えて欲しいとの事です。気をつけて」
輸送ヘリのハッチが開いた。機体を降下させる。地面に接着。増設された簡易ブースターを吹かし移動する。
「敵部隊既に展開しています」
ガトリングを撃ちながら敵の横を取れる位置に移動する。次々とばら撒かれる40口径のガトリング弾に被弾し、敵の量産機〈パロット〉が30機以上落ちていく。
「遠距離、ガーランド。狙撃部隊です!」
〈ファーストフリージア〉の胴体部に〈ガーランド〉部隊の放った砲弾が2発明中した。増設された装甲が窪み、コックピットに衝撃が訪れた。
奏は〈ガーランド〉がいると思われる場所にガトリングをばら撒きビルの影に隠れた。
「言うのが遅い!」
「ごめんなさい。敵部隊、遠距離部隊と近距離部隊に分かれているようです」
奏の耳に、ガコンと何かが開く重い音が聞こえた。
「施設防壁開きました。あれは……投擲部隊です! グレネードが来ます、逃げて!」
奏は〈ガーランド〉に狙撃される危険性も厭わず(いとわず)ビルを蹴り、その場を離れた。一瞬の間も無く奏の居た場所に相当数のグレネードが落下し、大規模な爆発を起こした。
爆心地からは離れていたとはいえ逃げ切る事が出来ず〈ファーストフリージア〉は爆発に巻き込まれた。
「奏さん!」
「うるせえ、大丈夫だ。でも今のでガトリングがお釈迦になった。狙撃部隊のいる場所を教えろ」
「施設東側です。10機程です」
奏は壊れたガトリングを捨て、背部のバズーカに持ち替えた。バズーカは射程がグレネードよりも長い分爆発力では大きく劣っていた。しかし、それでも施設の一部を吹き飛ばすには十分だと奏は判断した。
狙撃されないようにジグザグに動き、バトルライフルで〈パロット〉の数を確実に減らしながらバズーカの射程距離まで近づいていく。途中何度かグレネードの爆発に巻き込まれたが、ラナの開発した爆発に反応して一時的にパルスシールドを発生させ、衝撃を分散させる装甲のおかげで致命傷には至らなかった。
(憎いことするぜちんまいの。帰ったら思いっきり可愛がってやる)
『バズーカ、射程距離です』
リザの声を聞いた奏はバトルライフルを背中のハードポイントに戻し、バズーカを両手に持った。
「うらあ! 壊れちまえ!」
〈ファーストフリージア〉の両手から次々と放たれたバズーカが〈ガーランド〉部隊の足元の施設に吸い込まれていく。
小規模の爆発が連続で起こり、施設が崩壊した。〈ガーランド〉が全機崩壊に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになった。並の量産機ではあの量の瓦礫をどけ、這い上がってくる事は出来ない。〈ガーランド〉部隊は無力化された。
奏は次の目標を投擲部隊に定めた。施設を蹴り、一気に距離を詰める。グレネードはその爆発範囲の広さ故に近距離では撃つことが出来ない。バトルライフルで敵を撃破していく。60ミリの成形炸薬弾が量産機の装甲を溶かしていき、1機、また1機と投擲部隊の反応が消失していく。が、反応が消えた側から別の方角に新しい反応が現れるといったモグラたたきの様な状況が暫く続いた。
奏は撃墜した数が60を越えた辺りから数えるのをやめていた。眼前の敵を無心で撃墜し、次の目標へと移る。その行動の末、レーダーに映る敵影は1機だけになった。
「最後です!」
高坂が奏に伝える。
最後の一人となってなお向かってくる〈パロット〉にバトルライフルを向ける。
重く響き渡る音と共に最後の1機が膝から崩れ落ちた。
「防衛部隊全滅。お疲れ様でした。回収します」
○
「龍之介、大喜びしてたわよ。」
アンダーザブリッジ襲撃作戦の夜、龍之介に与えられた本社の一室で、ソファーに座り寛いでいる霧島奏の隣にアザミ・アーヴァインはいた。
「今後アンダーザブリッジはラケナリアとして扱われる。補給地点や兵器の開発なんかをやるんでしょうね。私では出来なかった事。あなたはそれを簡単にやりのけてしまった」
奏はアザミに何も言わずテーブルに置かれたトロピカルジュースを飲んだ。
「弱小とはいえ、単機で組織を壊滅させたあなたは上位組織に目をつけられてしまった。これから先、オリジナル同士で戦わなければならない場面が必ずでてくるわ。大丈夫?」
「どうだかな。機体の性能差にもよるだろうし状況や運といった要素も絡んでくる。ただ」
奏は再びトロピカルジュースを飲み、こう言った。
「俺は死なない。必ず生き残る。アザミはどうするんだ?」
「私は元々支援機だから。機体の修理が終わり次第あなたの支援に回るわ」
「そうか。アザミも違う世界からこっちに来たんだろ? 元いた世界の話し、してくれよ」
「多分聞いてもつまらないわよ?」
「それでもいい。退屈しのぎにはなるさ」
アザミはグラスの中身を傾けて口を湿らし語り始めた。
「私の世界では大戦が起きていてね。元々は民族紛争だったんだけど、それが段々と拡大していって世界大戦になったの。当時19才だった私は、本来であれば徴兵される事はなかったんだけど、適正がある事が判明して戦地に駆り出されたの」
「適正ってのは?」
「私の世界での主力戦力だった人型兵器、アガサは適正が無いと動かす事が出来ないの。燃料に特殊なものを使っていてね、稼働時に副産物として生み出される粒子が人に有害なの。安全に運用するために発生する粒子をコックピットに内に充満させているから私のように粒子に対する抵抗を生まれつき持っている人じゃないと動かす事が出来ないの」
「あんたには全く無害なのか?」
「完全に無害という事は無いでしょうけど、少なくとも搭乗者に大きな問題が起きたとは聞いていないわね。でも、悪い点ばかりでは無いのよ? 粒子には衝撃を分散させる効果があるの。だから、衝撃で気絶するっていう事はあまり無いわ」
「ふーん。随分と欠陥のある機体に乗ってるんだな。燃料が切れる事は無いのか?」
「完全に無くならない限りわね。少しでもいいからエネルギーが残っていれば自動で回復していくの。だけど、無くなったら困るから機能に色々とロックをかけて運用しているのよ。あなたの機体こそ、燃料が切れたりしないの?」
「機体の事はよくわからんが、リザが言うには特別な機体だから切れないらしい」
「自我のある機械なんて、おもしろいのね」
「まあな。オペレーターよりよっぽど優秀だ」
「高坂さんの事、そんな風に言わないの。彼女だって元々はパイロットだったんだから不慣れな部分があるのは当然だわ」
グラスに入っている氷がコト、と音をたてた。
「なんにしても、アンダーザブリッジはラケナリアの傘下に入った。これで人材不足や資源不足って事にはそうならんだろ。大方おっさんが次に俺に命じるのはオリジナルを所持するレフトアウトの占拠。もしくは殲滅だな」
「そうね」
アザミはグラスの中身を煽った。アルコールが体を焼き、アザミの体が熱をもった。
「ねえ。お姉ちゃんと一緒に寝よ?」
アザミはトロンとした目で、妖しく囁いた。
「酔ってんのか?」
「さあ? どうかしら」




