最終決戦
月面、第401独立小隊は先が見えない程大量の敵に囲まれていた。
「あ、ああ、あああ! 助けてください、助けてください! 隊長!」
懇願虚しくバメルは無人機〈バルログ〉に文字通り喰われた。機体が胴体から真っ二つになり砕け散った。
「バメル! ちきしょう!」
隊長と呼ばれた男、霧島奏声が吼えた。
「リザ、レーザーウィング展開。同時にグラビティランチャーーと反陽子砲の準備」
『了解。レーザーウィング展開完了。グラビティランチャー、反陽子砲いけます』
奏の搭乗機〈フリージア〉に搭載されているAIリザが言った。
「静乃、俺の援護に回れ! 突っ込む!」
「了解!」
静乃と呼ばれた女が〈フリージア〉のいる位置から少し離れた場所で援護を始めた。
〈フリージア〉が背に3本対になった光の羽で敵を切り裂きながら敵陣を突破していく。
奏は右手に構えたグラビティランチャーを敵の大群に向けて放った。重力の力で大量の無人機が一箇所に集まった。
「いけえええええええ」
左手の反陽子砲から光が放たれた。
眩いまでの光が視界を遮った。周辺の敵を巻き込み、集まった無人機は消滅していた。しかし、レーダー上に映る敵影は一向に減っていなかった。むしろ、先程よりも増えているようにすら感じられた。
「ハアハア。くそ!」
弾を使い切った反陽子砲を捨て、腰のハードポイントに載せられていたショットガンを手にした。
手にしたショットガンは戦友の形見だった。霧島奏率いる第401独立小隊のエースパイロット宗介のものだ。
奏は再びグラビティランチャーを放った。敵が一箇所に集まる。ブースターを吹かし、距離を一瞬で詰める。ショットガンを連射する。ばら撒かれた大量の鉛弾で無人機が穴だらけになり、一瞬の後爆発した。
奏は使い勝手の悪いグラビティランチャーを捨て、かつての副隊長が使用していたスナイパーライフルに装備を切り替えようとした。だが、その一瞬の隙を疲れた。有人機〈ファルコン〉に背中を撃たれたのだ。
レーザーパルスで撃たれた背中は幸いな事に距離があったためか損害は戦闘に支障無い程度だった。
「くらえこのやろう!」
奏はスナイパーライフルを〈ファルコン〉に向け3発撃った。頭部と左足と胴体に命中し〈ファルコン〉は爆炎に包まれた。
「隊長おおおおお!」
カルロが叫んだ。カルロは〈ファルコン〉と無人機〈ラットフェイス〉に囲まれていた。
「カルロおおおおおおお」
奏はエネルギーが切れるのも厭わずレーザーウィングを展開し、カルロの救助に向かった。敵を切り裂きながら高速で接近し、なんとかカルロに近づく事に成功した。後はレーザーブレードで切り進むだけ。それだけでカルロは助かる。
「リザ、レーザーブレード展開」
『無理です。エネルギー切れです』
「嘘だろ……。カルロ!」
「無理です隊長。逃げてください」
「認めねえぞ! 諦めんじゃねえ!」
奏は宗介の形見のショットガンと、かつての副隊長明正の形見であるスナイパーライフルを乱射しながらカルロの許に向かった。やっとの事でカルロのいると思われる場所に辿り着いたが、奏が目にしたのは頭部を失い、機体の各所から煙を上げているカルロの機体だった。
「カルロ! 返事をしろ」
「隊長……へへっ。最後に一花咲かせてやりますよ。自爆します。逃げてください」
「ふざけんなお前、隊長の目の前で死のうとする奴があるか!」
「楽しかったです、隊長。さよならです」
「カルロ!」
「いいから逃げろ! 頼むから無駄死にさせないでくれ……」
カルロはなけなしの燃料を全て使い、奏を吹きとばした。
「カルロおおおおお」
「うおおおおおおおおおおおおおお」
大量の敵を巻き込みカルロは自爆した。
「馬鹿野郎……」
奏は頭を振った。気持ちを切り替え、目の前の戦闘に集中する。
「リザ、残りの武装は?」
『バトルライフルとアサルトライフルです。どちらも残弾僅かです』
「頼れるのはエネルギー兵装だけか」
『量子フィールドの展開に支障が生じるので使用はおすすめしません』
「それでもやるしかないんだ」
〈フリージア〉の背中に光の羽が現れる。エネルギー消費の激しいこの兵装を使えば、量子フィールドが展開出来なくなるのは明白だったが、次々とレーダー上の味方のマーカーが消えていくの見ては、使用を尻込みすることは出来なかった。
奏は静乃の許まで駆けた。途中〈ファルコン〉に妨害されたが、バトルライフルとアサルトライフルを使い退けた。
「奏! あなた武装は!?」
静乃が敵にガトリング砲をばら撒きながら言った。
「さっき使いきっちまった」
「これを使って!」
静乃の機体〈マニューバ〉からバズーカが手渡される。受け取った奏はすぐさま敵に向かって撃った。なるべく多くの敵を葬れるように固まった所を狙って撃った。しかし、途切れる事を知らない敵の攻撃は次々と〈フリージア〉と〈マニューバ〉に吸い込まれていく。そして、遂にその時がやってきた。
『量子フィールド形成不可能』
「え?」
回線越しのリザの声に静乃の動きが止まった。
敵がその好機を逃すはずが無かった。〈ラットフェイス〉から放たれる大量の槍が〈マニューバ〉に迫る。
「あぶねえ!」
〈フリージア〉が〈マニューバ〉を押し倒し、その体を自身の背で覆った。
普段ならば弾かれる鉄の槍は、量子フィールドの消え去った〈フリージア〉の体に容易に突き刺さった。左腕部の装甲が砕け散った。
『機体に甚大な損傷多数発生。ライフガード損傷。バディドライブ機能停止。リカバリーシステム作動しません』
機体に搭載されたAIリザが心なしか焦ったように機体の情報を伝えてくるが、この場に置いてそんなものは無意味だった。
傍目に機体が死んでいないと確認出来る唯一の手段は、目に緑の光が宿っている事だけだ。それ程までに機体の損傷は激しかった。
「奏!」
静乃が叫んだ。
「ハアハア……ハア。もう401小隊は終わりだ。静乃、お前だけでも逃げろ」
額から血を流しながら、奏が言った。
とどめを刺そうと大量の敵が集結し始めていた。
「奏、何を言ってるの!?」
奏は仮想インターフェイスに手を伸ばす。
「待って! 私も最後まで!」
静乃は奏を静止しようと仮想インターフェイス越しに手を伸ばすが、それよりも早く奏は仮想インターフェイスを操作した。途端〈マニューバが光に包まれる。
「奏!」
静乃が再度手を伸ばした。静乃に呼応するかの様に〈マニューバ〉も手を伸ばし、奏に触れようとした。しかし、その手は届かなかった。静乃は光に包まれ、何処かへ消えた。
「じゃあな、静乃」
機体が眩いまでの光で満たされる。一瞬の後、月の一部を削り取る大きな光が現れた。




