二十四章 お姫様はハッピーエンドのあとが問題? 王子様はエンドレス裏ボス戦! 一
タコ土偶だらけの狭い空中通路でレイミッサに追われ、ひたすら逃げる。
「姉さんの仇ぃいいい!」
八つ裂き魔は土偶をかわし、壊し、速度を落とさないで済むなら強引に突っこんで距離をつめてくる。
「まだ死んでないし、貞操も奪ってない!」
「軍隊式の戦力算用ならば、まだこちらが有利ですが、レイミッサ様の非情さは私どもの甘さを突いてくるでしょう。不様でも卑怯でも逃げきれたら最上ですが……」
「ガガ! 『土砂装甲』部分解除!」
メセムスは魔法斧でボロボロになっていた左腕のがれきを背後へまきちらし、レイミッサを牽制する。
「『土砂装甲』部分解除!」
続いて胸部のがれき。
厚みがなくなると斧への耐性が不安だけど……今は速度と牽制を重視?
「今の最悪はポルドンスさんたちの合流です。ゴールまでは無理でも、距離を稼げれば……」
モニターではアレッサがこちらの様子を気にするあまり、シャルラの服をボロボロに切り裂きつつ、ヒギンズとニューノにはダメージを与えていなかった。
そして烈風斬の無駄撃ちが多い。
「なにやってんだ……きっちり服をはぎとれ! この際ヒギンズも含め!」
モニター向こうの聖騎士たちが四人とも、一瞬だけよそ見をする……オレを見た?
どうしたアレッサ。チャンスだったじゃないか。
でもレイミッサはさすがというか、動じた様子もなく猛然と追い上げてくる。
「姉さんに指図するなああああ!」
「レイミッサ様、指図の内容のほうを非難すべきです。あと『解放』していただけませんでしょうか……『闇針』!」
リフィヌはオレに抱えられたまま、ローブのそでから黒槍を何本か撃ち出す。
追いつきかけたレイミッサが胸を突かれ、ノコギリで防いでいたけど転ぶ。
「アレッサ様を慕うレイミッサ様のお気持ちはやや逸脱しておりますが、尊重いたします。しかしこの『不良神官』リフィヌが痴話ゲンカの相手を守りたい気持ちも、負けているつもりはありませぬ」
首輪の持ち主の親友みたいに、静かに不敵に笑う。
体力の残りは自覚していると思うけど、あまり無茶しないで。
「ちょ、ちょっとだけ待ってくれないか?」
アレッサが剣を打ち合う相手に無茶を言う。
「いいぞ? ほら剣を捨てろ。今すぐ捨てろ」
ヒギンズは嫌そうな笑顔で剣をふり続ける。
レイミッサはすぐに起き上がる。
細い体のあちこちに、タコ土偶の頭突きをくらった痛々しい腫れ跡がついている。
「早く冷やさないとあざになるじゃないか……アレッサのことなら心配するな! あのヤローは君やオレが思っていたよりはるかに頭が悪く、はるかに強いんだよ! そりゃ~、清之助だって怒る!」
レイミッサの『惨劇のノコギリ』はいつからか光を失い、重そうだった。
軽くなる効果を発動する『楽しさ』がないらしい。
あせっているのか?
「ひとりじゃ魔軍の中堅幹部を倒すくらいが限界だと思っていたのに、ほいほい俺を見捨てた挙句、こんなところまでひとりで来やがって……友愛同盟の存在意義をなんだと思っていやがる?!」
メセムスは足の装甲も解除をはじめる。
これでもう、ばらまくがれきも無い。
「ひとりで世界に刃向かう誇り高い騎士だと思っていたのに、今じゃどこに出しても恥ずかしいキワモノ珍獣だよ! 美少女ヒロインのくせにウケをぶんまいてどうする?!」
拳に力をこめ、声を張り上げる。
「さすがオレの従者だ! もっとやれ! そのままやれ! そのままが好きだ! それでこそアレッサだ!」
モニターに映る蒼い腕輪から、かつてない勢いで光が噴き出す。
それはもう風という量ではなく、蒼い嵐だった。
「『嵐の聖騎士アレッサ』!『第四の三巨頭』なんかさっさといなして、妹を迎えに来い!」
最強聖騎士が満面の笑みを見せ、オレの背筋が寒くなり、胸は高鳴る。
「貴様は歴史上の『嵐の聖騎士』など知らないまま、その名で呼んでしまったのだろうな……だが貴様が私をそう呼ぶならば、喜んで『嵐』となろう」
リフィヌが複雑な苦笑をしていた。
「『嵐』は歴代でも最強、かつ最大の問題児だった聖騎士……『天の勇者』様の称号です」
魔物ついでに人類国家も滅ぼしまくったやつだっけ。
ぴったりじゃないか。
ニューノが怒鳴っていた。
「離れすぎです! もどってください!」
シャルラがニューノを連れ、『土砂走行』をくり返して跳んでいた。
「ヒギンズ! アレッサをしとめなさい!」
ひきつった表情からすると、足止めに切り捨てたらしい。
「ヒギンズさんもなにをして……早く合流してください!」
やせこけた中年男は、荒れ狂う蒼い光を前に足を止めていた。
足元には大量のがれきの山。
「お嬢を説得しているヒマはねえだろ? 悪い案でもねえ。今ならオメーらでもなんとか優勝を狙える」
「ふざけないでください!」
「大まじめに、そろそろ楽しみたくなっちまってよ」
ヒギンズは短い剣を低くかまえ、地面のがれきをゆらし、ゆっくりさがる。
アレッサは楽しそうに両腕をふるいながら疾走する。
「かわしてくれよヒギンズ……烈・風・斬!」
滑空する刃を次々と放ちながらまわりこむ。
ヒギンズはがれきの壁を次々と蹴り上げて防ぐ。
三枚目の壁にもガツリと着弾音がした直後、ヒギンズは壁の上に飛び乗っていた。
その顔の向きは少しだけ、アレッサのいる位置からずれている。
最後の着弾が『乱舞の銛』と気がつくのが遅れ、長い蒼髪に一歩だけ深く跳びこまれていた。
ヒギンズは足元のがれきを打ち上げ、おそらくは狙いをつけない最速で自分の体を浮かせる。
「戦後育ちのくせに、センスはかあちゃん以上だよな……」
寸前で逃げ切ったように見えたけど、少し遅れて腕と額に傷口が開く。
「あははははは!」
アレッサの笑顔は無邪気すぎる。
あの怖さはもう、魔女どころか勇者様だ。
「というか、オレよりひどい戦争狂いじゃねえか」
ヒギンズの暗く乾いた目に、粘つく光が宿る。
自称『戦争にたかるハエ』が怨霊のような気迫で笑う。
今まで一撃離脱が中心だったヒギンズが、至近距離でまわりこみ続け、からみつくように剣を打ち合いはじめる。
刃の手数はアレッサが勝っているけど、ヒギンズは細かく『土砂走行』を発動し、常人ではありえない身のこなしで移動し、土砂はそのまま盾や足払いにも使う。
でも発動ペースが速すぎる……共倒れ覚悟か。
レイミッサは執念深くオレたちに追いすがっている。
移動装置へ逃げこみたいけど、探して安全確認する余裕がない。
大小の立方体がつながる空中通路はただでさえ、狭くて起伏が激しい地形。
オレとリフィヌはメセムスの背に移っていた。
メセムスは手がかからない高さの段差では壁のもろい部分へ『大地の小手』をかざし、自前で取っ手を作って登る。
レイミッサは残った取っ手を利用し、足りない腕の長さは斧をピッケルがわりに補い、だんだんと迫りつつある。
通路のつながりが少なく、急すぎる壁は登っている余裕がない。
進める方向へ曲がっているうちに、ほとんど引き返す方向になりつつある。
でもレイミッサはメセムスほどの持久力はなく、かなり息切れしている。
駆け続けで土偶をさばききれていないし、魔法人形のような防御力もないから、たびたび体当たりをくらってふらつきつつある。
「地味だけど、たたきやすくはなっているかな?」
そしてついに、二十メートル近い壁の行き止まりへ追いつめられる。
少しは段になっているし、メセムスなら登れなくはないけど、確実に追いつかれる。
「しかたない。ここでレイミッサをたたいておこうか?」
周囲にタコ土偶は少なく、起伏も少なく、あまり広くない。
霧を使われても陽光脚のゴリ押しでなんとか……
「リフィヌ?!」
目を閉じていた。
「おっと……だいじょうぶです。疲労と鎮痛薬の……影響かと……どうしました?」
リフィヌは目を開けるけど、寝ぼけたような表情。
「もう少し眠って、体力温存しておいて」
「了解です。でもあと何回かは陽光脚を出せそうですから……」
オレがかぶさるように支えていた腕の中で、リフィヌはまたすぐ眠りに落ちる。
メセムスは壁を登りはじめながら、オレの顔をちらと見る。
「陽光脚をあと数回使うまでは。命の危険はないと推測しマス」
鍛錬を積んだリフィヌなら、自分の限界も正確に把握できるか。
でも、もう一回も使わせてたまるか。
かなりまずくなった。
最弱のオレをメセムスとリフィヌのどちらかに守ってもらい、もうひとりに戦ってもらうつもりだった。
オレがリフィヌの護衛じゃ、メセムスはかなり気をつかって戦うことになる。
「ところでここ、追いつかれるよね?」
聞くまでもなく、メセムスが壁の半分、数メートルの急な段を二つ登ったところでレイミッサは真下に到達し、ものすごい勢いのロッククライミング……ここって、的になるだけじゃないか?!
「ユキタンに。リフィヌの確保を要請しマス!」
意味がわからないまま、気絶しているリフィヌをしっかり抱きしめる。
メセムスは片手でオレをつかみ、壁の上までぶん投げる。
着地はできたけど、骨折した左手で少し体を支えてしまい、悶絶する。
「ぐぽがぱべ……?!」
悲鳴をこらえつつ崖下をのぞきこむ。
メセムスはレイミッサに比べれば鈍重……そこでがれきもなしに戦えるのかよ?
「ガガガガ!『土砂装甲』ゼロパーセント。完全解除!」
え。
メイド服に包まれた、二メートルを超える厚くいかつい巨体が爆散する。
「自爆?!」
……いや、装甲解除と似た崩れかた……そして頭も小手も残っていた。
体はひとまわりスレンダーに……エロいプローションになっていた。
レイミッサは突然の崖くずれに襲われ、数メートルの高さから自ら空中へ飛び出していた。
着地し、立ち上がった時に顔をしかめる。
片足をひきずり、斧を杖がわりについていた。
頼むからもうあきらめて。とか言ったら逆効果だから言わない。
とにかくこれで逃げられそうだ。
メセムスがふたたび取っ手を作りながら登ってくる。
その動作は見た目どおりに軽やか。
背はまだ二メートルくらいあるけど、細くなった体は頭とのバランスがとれ、バレーボール選手のような体形。
メイド服は残っていたけど、ボロボロでブカブカ。
「今まで見ていた厚い体格も『土砂装甲』だったのか……そんな奥の手を残していたとは」
「ガガ……ガ! ユキタンに。背後の警戒を要請しマス!」
ぎょっとして背後を見る。
目の前にタコ土偶はいなかった……でも遠くから寄ってきている。
たしかに今は、オレが警戒しないと。
「衣服を含む完全解除の形状は! 整備員だけに観察を許可しマス!」
「恥じらっているだけかよ?!」
シュウシュウと頬から湯気を噴き出す音が聞こえる。
登った小山の頂上は一辺が十数メートルの立方体で、先を見まわすと土偶の残骸が多い……最初に出た場所?
ふと嫌な予感がして、はしと茶わんをかまえる。
リフィヌは床に寝かせていた。
「前方の警戒の。継続を要請しマス。ワタクシの衣服は。修復中デス」
メセムスが登りきった直後、先の崖から白ローブがふたり、飛び出てくる。
大柄なアゴわれ男が『難儀の玉すだれ』をふるう。
「ハッハーア!? まさか歴史の教科書で習った『傀儡魔王』が相手とは……困りきったぜ?!」
クソボーズこと『虹橋の神官』ポルドンスの標的にされたオレはかまえていた『おちこぼれのはし』で鋭い金属片の先をつまみとって防ぐ。
ヒゲマッチョ女子こと『雷電の神官』タミアキはさらに深く飛びこみ、両手の鉄鞭をふるう。
「雷撃双鞭!」
狙われたメセムスは両腕ではじき、鉄鞭の一本はタミアキの手を離れて崖下へ落ちる。
厚い装甲の外れた体は動作が格段に速くなっていた。
「うぬっ、やはりこの傀儡、電撃は効かぬ体質! そして鉄鞭とて砕くは困難! さらには軽減せし身のこなし、わしと互角か?!」
ただし重量が減った分、体が少しぶれやすくなった気はする。
骨折した左手でつまむように持っていた茶わんへ意識を集中する……傀儡魔王と知りながら冷静に仕掛けるタミアキ女史、やっぱりすげえ。
はしで玉すだれをとらえたまま、金属片の先へ茶わんを接触させて叫ぶ。
「雷撃茶わん!」
破裂音が響く。
「うお?!」「あだ!?」
オレとポルドンスが同時に悲鳴を上げて倒れる。ざまあみろ。
最悪はオレかリフィヌが人質にとられる状況だ。
タミアキとメセムスの一騎討ちに持ちこんでやった。
「ぬぐ! さすがユキタンどの! 見事な自爆さばき!」
タミアキは驚き顔でポルドンスの位置までさがる。
オレもクソボーズもまだしびれる体でよろよろと起き上がろうとしている。
メセムスは追撃に出るけど、直後につんのめって倒れる。
足首に鉄鞭が巻きついていた……背後の崖下から!
続いて赤くギラつく光が飛び上がる。
レイミッサは崖上へ着地する気も見せず、空中で斧をふりまわす。
メセムスは深く打ちこまれながらも起き上がり、リフィヌばりの回し蹴りで八つ裂き娘を崖下へはじき落とす。
その背を狙い、ふたたびタミアキが飛び出ていた。
オレは割りこんで茶わんをふるっていた。
レイミッサの執念に『敬意』を寄せ、メセムスとリフィヌの危機に『凶暴』なあせりをこめて!
「八つ裂き茶わん!」
狙いはつけられないし、刃筋を通したところで茶わんのふちじゃ、たかが知れている。
それでも、しびれが残っている体で達人級のふりの速さだけは得られた……軽い分、斧よりさらに無茶な速さ!
赤く光らせた食器をめちゃくちゃにふるい、メセムスが向き直って態勢を整えるまでのわずかな時間を足止めする。
「ぐっ、ふぐぉ! いでぁ?!」
でも骨折した左手でふっているから、すばらしく痛い。
タミアキはポルドンスに肩を貸して逃げ出した。
追い払えた……?
崖下をのぞくと、一段下の狭い崖棚にレイミッサが倒れていた。
起き上がったけど、もう立っているのも大変そう。
「ワタクシが加減できたのは。ユキタンは護衛する必要が低いと推測できたためデス。そしてユキタンは。レイミッサへの『敬意』でワタクシを護衛しマシタ」
レイミッサは答えず、すごい形相でにらんでいた。
でも『凶暴』斧の光は弱っている。
「レイミッサの行動目的は。『アレッサの保護』が最優先ではないと推測シマス」
メセムスはブカブカのメイド服を大雑把に引き絞ってまとめ、リフィヌをそっと抱え上げる。
右足を引きずっていた。
新しく深い傷が左腕に二つ、右足にひとつ。
右足が最も深く、人間で言えば骨に近い深さ。
ミラコの鉄球に撃たれていた胸元や左腕もへこんでいる。
そんな状態でも主力として頼るしかなく、どうにか使える移動装置を見つけて転がりこむ。
モニターを見ると、剣を失ったアレッサがヒギンズに蹴られ、転がって倒れる場面だった。
その手に『大地の脚絆』を抱え、うれしそうに笑っている。
「あ~あ。ついに取られちまった。オメーにだけは渡したくなかったのに……しかもどうせ、オレにはとどめを刺しちゃくれねえんだろ?」
ヒギンズは壁にもたれて座り、肩にはアレッサの剣が刺さっていた。
「教え子の戦いくらい、見届けてくれたっていいだろう? ……これ、使い方のコツとかは?」
アレッサはいそいそと母の形見を身につける。
「教えるわけねーだろ」
アレッサはがれきの波を足元で持ち上げると、少しずつ速く高く飛び上がる。
「こ、これはっ?! 面白いな?! いい魔法道具だ!」
「ちっ、やっぱりだ……その程度を使いこなすまでに、俺やシャルラお嬢がどれだけかかったと思っていやがる」
元師匠は苦々しそうに笑う。
「教えはじめた時から嫌な予感はしていたんだ。とぼけたべっぴんのくせして、野外演習での勘は山猿なみ……『脚絆』との相性までかあちゃんと一緒なんじゃねえかってな」
ヒギンズはカメラ目線……コウモリを見てぼやく。
「時間は稼いだから、勘弁しろよ」
誰に向かって言ったのか?
「これも返してもらうぞ」
「げぁ?!」
アレッサがやにわにヒギンズの肩から剣を引っこ抜く。
「て、てめ! なにか言ってから……!?」
「言ったら攻撃してくるじゃないか」
「あたりめーだ!」
『嵐の聖騎士』は笑い声を残し、『土砂走行』の連続発動で遠ざかる。
ヒギンズは傷の手当てをはじめ、しょぼくれた顔で大きなため息をつく。
「娘まで使って俺の戦争を邪魔するんじゃねえよ、リューリッサ……」
ピパイパさんも嫌そうに笑っていた。
「鬼に金棒! 『切り裂きの魔女』に機動と防御! アレッサ選手が名実ともに『嵐の聖騎士』じみた大迷惑と化して一気に追い上げています!」
アレッサは中世階層の最後、投石土偶の一斉砲撃をかわし、階段を使わずに竪穴を跳び登る。
「かなりの距離ですが、あの速さならトップに代わったユキタン選手に追いつけるでしょうか?! ……あれ? もしかしてこっちのほうが早いかな?」
拡大された画面はどこかの移動部屋で、化粧をなおしたシャルラ総隊長が得意顔だった。
「そう、『巨人魔王』階層の一番乗りは騎士団のもの! 当然、優勝も! せいぜい急ぎなさい! 追いつけば四天王の最後の一角……千変万化の魔法の使い手『渦の聖騎士』シャルラがじきじきに決着をつけてあげましょう!」
「アレッサさんはもう四天王なみとみなすべきです。追いつかれたら自称四天王は瞬殺ですね」
背後にいたニューノさんは総隊長閣下のボロボロの服を大雑把に縫い合わせつつ、どんより険悪なオーラを噴出していた。
「まだ根に持ってんの?! ヒギンズを切り離した判断は的確……っいだ?!」
「失礼。動くとボクの手がすべります」
あきらかに故意で針を刺していた。
ニューノさんはやっぱり手ごわい。
探知魔法があるとはいえ、こんなに早く追いつかれるとは。
シャルラの得意顔からすると、アレッサが追いつく前にゴールできる見通しらしい。
たしかに今のオレたちの消耗の激しさだと、足止めもできるかどうか?
「そして三番手は……こちらもたった今、移動部屋で上昇をはじめました!」
拡大された画面に映ったのはふたりの白ローブ。
「ハッハーア! 時代はこの僕、『虹橋の神官』ポルドンスを勇者に選んじまうかも……だぜ?! レイミッサに追いついても加勢しないでよかった~あ!」
そして見捨てたか。さすがクソボーズ。
「みつどもえの決勝、一緒に楽しませてもらうぜ! シャルラ総隊長どの! 勇者ユキタン君!」
「なんでこんなショボいやつらが残っちゃうかなあ?」ブタ勇者。
「お前にだけは言われたくねえ!」クソボーズ。
「アンタにだけは言われたくない!」ピンク頭。
ピパイパさんも苦笑いでうなずいていた。
「本当にろくでもない余りものばかり……いえ、強豪選手が続々と脱落する中! その意志を継ぐ選手たちによる、熱い最終決戦が今まさに、これから! そして……みつどもえで済むとは限りませんよ~?」
映ったのは中世階層の大きな吹き抜け。
垂直な壁を三輪車が爆走していた。
「戦国以降の縦空間こそ『無双の戦車』と『赤烏帽子』ラカリトの飛翔能力が見せ場! 貴様らはせいぜい、我が躍進におびえながら準決勝を済ませておけ!」
決め顔で叫んだ時には足で駆けていたけど、土偶の密集がせまると吹き抜けへ飛び出し、鳥男の羽ばたきに接地を支えられ、ふたたびロケットのように壁を一気に上昇する。
「『邪鬼王子』ブラビス選手も猛烈な追い上げ! 魔軍勢力の最後の希望……すごい細い気もしますが……まだつながっています!」
「なんの役にも立たなかったアホが! 最後の最後で割りこむ気か?! どうでもいい引き立て役なんか今さら追加しなくていいよ!?」
とは叫んでみたものの、やつの言うとおり、あのコンビには有利な地形が続いてしまう……追いつきやがるかも?
ピパイパさんが眉をしかめ、別の画面を開く。
「あとこれ……どうなんでしょう?」
そこには中世の上、古代『不死魔王』の階層に入った第五勢力が映っていた。
「傀儡魔王様~! 傀儡魔王様が~あああああああ!」
「す、少しは落ち着かんかマキャ坊?!」
人形師のオッサンが泣きじゃくり、老魔女が汗だくの疲れきった顔でなだめていた。
そんなふたりを乗せた半馬人のおっさんはおびえ顔でゾンビ土偶の合間を縫って駆けている。
……なぜかほかの競争相手より怖い。
「あれ? あ……王子……だめかな……」
ピパイパさんが見ている画面で、邪鬼王子の背後から長い蒼髪が飛び跳ね迫っていた。
「ぼっちゃま、無邪気です! 邪念を捨て、清い心で全力逃走ですぞ!?」
「わかっておる! さすがは我が嫁候補! なんと鬼気迫る邪悪さか?!」
アレッサはまばらながれきを無理矢理につなげ、自前の跳躍もまじえてほとんど逆さになってきりもみしながら二匹に並ぶ。
「邪鬼王子! 先に借りを返しておく!」
明るい笑顔で枕を投げ渡す。
ブラビスは受け取りつつ、恐怖は正直に顔へ出して『無邪気』になり、断崖へ飛び出す。
「一気に引き離す!」
「死力を尽くしてお供しますぞ!」
「洗う時間がなかったので、においが残っていたらすまない!」
アレッサも近くのがれきへ飛び乗り、追いかけて縦穴へ向かう。
「邪鬼王子の魔法はまさに無双! 消耗した私のにわか『土砂走行』でどこまでついていけるか……いざ勝負! ……ん?」
しかし上空にブラビスの姿はなく、下から悲鳴が聞こえた。
「ぼっちゃまあああ!? 移り香ごときの邪欲に負けないでくださああい!?」
「おのれアレッサ!? はかったなあああ!?」
激突音。
ブラビスは片足が嫌な方向へ曲がっていたけど、残念ながら生きて悶えていた。
鳥男がはばたいて減速できたらしい。
アレッサは青ざめ、首を小さく横にふる。
「ち、ちがう……まさかそのような邪念を侍従長どのの移り香にもよおすとは!? 邪鬼王子おそるべし!」




