二十一章 三つの願いを熱く語られても困る! 静聴と賞賛と同情をくれてやれ! 四
「ミラーノさんは親切なかたです。しかしそれもすべてはミラコさんのためと……壮行の大礼拝でも熱唱しておりました。極端にミラコさんへ依存した意識では、なんらかのつじつまが合うのかもしれません」
「その熱唱がすでにありがた迷惑のような……同じように、あの妙な仕草や厚化粧やトンデモ衣装が嫌がらせじゃないなら、本人としては『親切』のつもりで……暗殺狙撃の補助すらできる? ものなの?」
それ人間?
「顔を隠す使いかたからして、まずまちがいないかと」
「やっぱり特務は特務か……でもオレも、クズヤローがかわいい女の子を襲おうとしたら『罪を重ねる前に楽に死なせてあげよう』になっていたや」
「そんな物騒なことをいつ……」
「さっき、リフィヌを守っていた時!」
親指を立てて白い歯を見せる。
「…………けっ」
なぜそこで邪神みたいな笑い?!
ザンナが抜けてからずっと無言、無表情だったけど、そのすさみようはなに?
「美少女エルフ僧侶ちゃんがそんな顔しちゃだめだよ……エロティック・ラブリー・フェアリー、略してエルフだよ……」
震え声のつぶやきは白い目で無視され、メセムスだけが顔を向けてくれる。
「『エルフ』の語源は『アルビノ』と同じく。『白い』を示す『アルブ』と。セイノスケに聞きマシタ」
「お取りこみ中らしいので……のぞき見だけで次に行きましょうか?」
モニターのピパイパさんまで逃げた。
「さて、続く魔術団のおふたりはマイペース、マイウェイで順調に順位を落としていましたが、ここでミラクルハプニングです!」
コウモリは砂漠の地面に空いた大穴へ入る。
「こちらの大ミミズが抜けたあとへ、ご休憩に入ったおふたりでしたが……」
中ではローブ姿のふたりが口を開けて内部を見回していた。
人工的な角ばった通路が奥まで通じ、青白く光っている。
その先は地下鉄ターミナル駅のように広大な空間。
何十と光る通路が集まり、あちこちへ伸びている。
「そう! こんなに大きな、破損の少ない遺跡を発見してしまいました!」
人形使いのオッサンがよだれをたらして駆け出す。
「ひゃっは~あ?! 近世魔道三期の……最盛期のブツだ!『妖術魔王』様の『魔法の道標』がこんなに!『光のクソ勇者』の無差別破壊から生き残ってやがった! ありがとうオマエら! とてもキレイだよ!?」
「これマキャ坊お待ち?! 減速のいかれた移動装置で何万人が壁の染みになったと思っ……きょあああ?!」
オッサンと、追いかけた若い姿のアハマハは光る通路に乗ったとたん、ベルトコンベアのように運ばれてしまう……電車のような速さで。
「六カメ、破損覚悟で追跡を。壁の染みがありましたら、遺品の確認を……八カメも追加で。現在、専門家の皆様にご意見をうかがっております……」
少しの間のあと、画面に映ったのはどこか暗い室内で寝そべる巨人将軍……のギリギリ胸が見えない裸の上半身。
「うちの近所で凍っていたやつと同じかな? のっかるとはやいけど、とまらないやつ。がんじょーな体ならラストスパートのチャンスだけど、通路によってはマッハ超えるから、くわしくなければ使う前に遺言のこしたほーがいいかも?」
次に映ったのは青髪ネズミ娘さんで、老小鬼ダダルバと一緒。
「侍従長様も同様の危険を指摘なさっております! ただし『無限の塔』まで届く通路であれば、減速装置も稼動している可能性が高いそうで……今のおふたり、方向によっては一発逆転かもしれません!」
カメラがピパイパさんにもどる。
「魔術団のおふたりの方向は……内緒にしておきましょうか」
地図の中ほど、やや北側に丸をつける。
「遺跡位置に印の追加をお願いします。第十七部隊のみなさんは入口の確保へ。選手の皆様は入ってもかまいませんが、すべて自己責任で!」
「あんな後出しの近道あり?」
「魔術団でしたら方向や速度は多少、判別できるかもしれません。先ほど見た限りでは時速数十キロ。反対へ飛び出せば自力でもなんとか降りられる速さです。しかし『闇の勇者の防壁』は地下数十メートルにおよんでいますので、あの深さでは運が良くてもそこまでの近道でしょう」
気がつくと、モニターで見た砂オバケがすぐ前に立っていた。
一匹だけ。
破損がひどいのか動きが極端に遅いので、会釈だけしてすれ違う。
「もう『招きの土偶』がウジャウジャいたはずの場所だよね?」
「ほかの方面へ移ったか、騎士団が引き寄せているのかもしれません」
防壁、そしてへばりつくように増築された東盗掘砦は近づくと十階建てくらいの高さに見える。
風が強まり、砂煙がひどくなっている。
突然、バラバラと打ちつけるような音がしてあせる。
地面を見ると、湿った点が……大粒の雨?
「海水なので、舐めないように。眼にも入らないように気をつけてください」
「この砂漠に海が?」
赤い砂を含んでいるので、海水でなくても目に痛そう。
飛沫が口に入ったのか、しょっぱさを感じる。
「今日は全部の月が重なりますので……塔が海を引き寄せ、上空へ巻き上げています。気象学が発達するまでは、塔が全世界の雲の発生源と信じられていました」
モニターには別方面の盗掘砦と防壁が見えていたけど、波打つ水面に浮かんでいる。
地平近くには赤い砂漠も見えていた。
青黒い空を探すと、地平近くに白く小さな月が見えた。三つ。
「二つは微妙に小さい……あの光は飛行機かなにか?」
「え? ……あ。異世界に『氷雪月』や『鉄鋼月』はなくて『水晶月』だけでしたね。んん? すると竜の繁殖周期や聖魔大戦は……ないのでしたね。そもそも竜や妖精がオバケの類で……」
「清之助がこの世界は数千年前に同じ世界から分化したように言っていたけど、そんな短期間に天体が変わるもの?」
「分化の説はここ数十年でやっと異端でなくなったばかりですが……二つの小さな月は魔法道具と補助道具でもあるので、聖神ユイーツ様の創世時代である二千年前と時期は一致します」
「魔法道具……効果は?」
「観測で魔法道具の反応があるという以上はわかっておりません。海の巻き上げや繁殖周期と動きは重なるのですが。氷雪月が『ご都合主義の人工衛星』という学名で登録されています」
「なぜそんなひどい別名に」
「あの圧倒的な質量は魔法学の解明できない謎や矛盾をしばしば押しつけられる対象でしたので。妖鬼魔王の皮肉でしょうね」
「またも今さらだけど、この世界はまだ知らないことのほうが多いな……たった数日か。本の山も流し読みしただけだし。この戦いが終わったら、ちゃんと観光旅行してみたいな」
同じようなことを、高校受験の時にも考えていたっけ。
そして高校では大学でひとり暮らしをはじめたら、と思っていた。
「ちゃんともなにも、今まさにこの世界の中枢にして最大最高の秘境を真っただ中で探索中ではありませんか」
「なるほど。そもそもなにをどうやっても来れないはずの異世界にいて、万能美少女の従者さんまでいる」
今度は『けっ』とは言わなかったけど、やっぱりなにか不満そうに手足をブラブラとふり回している。
「リフィヌさん、優勝の報酬なのですが……」
「それはもう少し考えさせてください」
「まあ、ザンナには伝えたから、オレになにかあったら……」
また真っ赤なふくれつらに。
ザンナちゃんは一体なにをふきこんだ?!
モニターでは六本の腕がある四メートルほどの巨人と、それほど体格の変わらない双頭で猫背の灰色鬼が冷やし中華をかきこんでいた。タライで。
「たったこれだけか?! ないよりはだいぶいいが!」
「だがうまい。それだけにつらい」
ふたりとも日陰に体を押しこめ、水にひたした布をかぶって肩で息をしていた。
「ごめんなさいねえ? そっちの立て札の一覧、砂漠の生き物の食べかたですよう?」
給食おばあちゃんが空の巨大トンボを指す。
「あのこたち、足や羽をむしって焼くと、けっこういけるのよ? 私はつかまえようとして、逆にさらわれてここまで来ちゃったけど。おほほほっ」
「もう冷やし中華オアシスか。あの大きさで本気なら自動車なみだよな……」
「しかしやはり、すでに限界近いようです。防衛装置やほかの選手との戦闘を考え、トップ選手の様子を見てギリギリまで回復してから突撃……でしょうか?」
炎天下とはいえ、ゴルダシスに比べると走行距離がだいぶ短い。
ふたりともマッチョなりのゴツゴツしたバランスはとれているけど、それでもあの巨体で連続活動はきついらしい。
切り換わったモニターでは巨大魔獣……ティマコラに比べるとハンサムな『魔獣王』ベベンモが倒れ、相棒のはずの『妖獣妃』レキュスラに首を絞められていた。
仲間割れ?
「ふっざけるでない! 立たぬか痴れ者!」
痴話ゲンカ? いや、誰かに襲撃されたか?
「ベベンモ選手、自慢の毛並みがアダとなりました! 熱中症おそるべし!」
犯人はギラつく午後の太陽。
「じゃからもっと短く刈ってこいとあれほど!」
ベベンモの筋肉質で青黒い巨体は異常な汗におおわれ、雄牛とライオンを合わせたような威厳のある顔は長いたてがみの中で白目をむいている。
「ロングヘアーは我がアイデンティティ……悔いはない。妖獣妃よ、かまわず先ぶべっ」
うわごとをつぶやく顔へ、レキュスラは三対の片足をふり落とす。愛情表現?
「わらわは貴様なんぞと組んだことを心底より悔いておるわ! ここまで逃げ隠れして最後はそれか?! 生き永らえる価値もなし!『無限の塔』へ挑む魔獣の子らの糧となれい!」
もう少し優しくしてあげて。なぜか見ていてつらいから。
魔術団のふたりがふたたび映り、もつれあって寝ていた。
飛び降りたらしく、ほこりまみれでうめいている。
「ううぐ……うひゃは! 本で見た通りだ! じゃあもどって隣の線と比べ……」
楽しそうだ。競技を忘れてそうだけど。
「引き返してどうするのさ?! その知識はせめて塔でお使い! わしの体がもたないよ?!」
ババ様が床に手をつくと淡い光が広がり、巨石ブロックの地下広場を照らす。
「そうだ塔だ! 世界最高の芸術展がオレを待っている!」
あちこちが崩れて巨大ブロックの小山が重なり、通路の行き止まりになっていた。
天井に光はなく、壁の光もまばらで弱々しい。
マキャラはがれきへまばらに刺さる巨大な黒い金属柱へ石を投げつける。
「クソ! 『闇のクソ勇者』の防壁か! クソ! 勇者め! 勇者め! やつらには慈悲も情けもねえのか?! 芸術もわからねえでなにが平和だ?!」
よくキャラの変わるオッサンだ。
「塔の手前まで来た目印にはなったさ……しかしこりゃ、どうやって地上へ出るかねえ?」
「問題ねえよ! もぐればもっとすげえものを見られそうだ!」
マキャラは近くの岩を押しずらし、床の取っ手を引き上げる。
「こりゃ完走より、生きて帰る心配をしたほうがよさそうだね……」
「マキャラおじさん、意外と勇者候補かもね」
「どうして命の危険も忘れてお仲間をふり回せるのか、それについていくのか……」
リフィヌがぽつりとつぶやき、胸がズキリと痛む。
や、やめようよ。代理戦争レースの最終決戦で正気になったら負けだよ。
「塔の中は防衛装置がもっと厳しくなります。あのおふたりも位置では油断できませんが、戦車のような突破力はないようなので、騎士団や神官団をおとりにした探索が狙いに思えます」
「もう突発的な逆転要素ってない?」
「むしろ塔の内部は移動装置だらけです。しかし多くは故障で速度調整が壊れていたり、あるいは正確に土偶の群れへ連れて行かれ、探索者の大半の死亡要素となっています」
「可能性は誰にでも残るけど、危険と引き換えか……」
「それに警戒態勢になると一定区画ごとに遮断されますので、運だよりにしても何度かくり返す必要がありますね」
行く手に土偶が増えてきたけど、重量物を押せる陽光脚とメセムスパンチは刃物や針より相性がいい。
人数のわりに騎士団より進みが速そう。
茶わんをほとんど使わないで済むのは助かる。
「マキャラさんも言っておりましたが、あの地下は塔内の技術を再現した『魔法の道標』という魔法道具の集合体で、数百年前には一般的だった交通機関です。通信装置や魔法の伝達装置でもあり、最盛期には都市を離れていても小型の携帯補助具で誰でも多様な魔法を使用できました」
ありがちファンタジーゲーム風な魔法の時代もあったのか。
多様なヘッポコ魔法を使えてもどうかと思うけど。
「魔術団の表現では『魔法文明の黄金時代』『異世界よりも発達していた最後の時代』ですね。それを根こそぎ壊滅させた『光の勇者』様には非難も多いですが、現在の教団による解釈では『魔法文明の暴走を危惧し、異世界の機械文明と同じ末路を防いだ』とも言われています」
「末路って、まだ滅びてませんが。まだ」
「でも滅びるんですよね? ……あ、あうわ。失礼いたしました。少々、フィクションと混同を……まだ正式な学説などではありません」
「清之助はあっちの人類が数日で滅んでも不思議はないって言ってたけど……フィクションって、『夢幻の道化』の新世紀小説?」
「ええ。考察が緻密なので、専門家による議論の対象にもなっています。ペンネームしかわからない作者さん自身も話題になっていますが、やはり異世界のかたですかねえ?」
「清之助の用意してくれた本の山にもあったけど、こっちの世界の専門用語や歴史考察が多くてイマイチわからなかった……異世界研究をしているこっちの人じゃないかな?」
「セイノスケ様が薦めたということは、やはり正確なのでしょうか? 学者さんは仮定が荒唐無稽と言っておりますが、筋は通るそうです」
「魔法文明の崩壊で二つの世界が消える爆発オチかと思ったら、なぜか家族の思い出で締められて……『くどく』の次は『子づくり』って指示か?」
「昼に出た魔王軍の九選手ですがあ?!」
リフィヌさんが突然に投げやりな大声を上げる。
「は、はいい?!」
「モニターに映りませんね。休憩をいれずに防壁付近まで進んでいるかもしれません」
「気をつけます……でもここまでマラソンなんて、障害物の対処がきつくならない?」
「そのはずです。拙者も直前までの補給所で休むと思っていました。騎士団がそれほど早く進むと警戒しているか、優勝や完走を度外視でつぶしたい相手がいるか……」
「そこまで恨まれているかな? 象さんはザンナの知り合いで少しだけど協力してくれたし、虫人の教授も情報を買い叩いたとはいえ、戦闘を避けて交渉は成立している。鎧トリオとは関わってない……いや、トカゲ男には襲われそうになったけど、清之助のブリーフ姿を見ただけで逃げている」
「最後の件は精神的な性被害を軽視しているようにも聞こえますが」
モニターでは騎士団の塔内突入が放送されていた。
内部は魔術団の入った地下とも似ているけど、より明るく、オフィスビル風。
防衛装置は墓石をつなぎ合わせてヤドカリに似せたような姿をはっきりと見せ、ジョギングなみの速さで大量に出迎えている。
しかも話す。
「ようこそいらっしゃいマシタ」
「ここは制限区域デス」
それぞれに言っていることが違う。
「ご案内いたしマス」
「武装の解除を。捕縛機能は無害デス」
そして『ご案内』と言いつつ高速で突撃し、『無害』と言いつつ床を殴り割っている。
「ご注文は『回転寿司』デスネ?」
それ回し蹴り。
騎士団は二番隊を風よけに狂乱のダンスパーティをかき分け、ヒギンズはニューノを抱えて周囲を探りつつ、ピンク頭が悲鳴をあげると引き返していた。
「ニューノさんの遺跡知識によって『希望の金貨』の探知精度が上がります。前回の神官団より人数がはるかに少ないとはいえ、競技祭は回を追うごとに最終区間の情報も蓄積していますし……」
ピパイパさんが『一番乗り記念』で一斉攻撃の指示を出す。
すでに地上土偶の群れと小競り合いをしていた各方面で、包囲軍が攻勢を強める。
コース両脇の魔王軍は獣人や鬼がほんの数人で巨大投石器を巻き上げ、人間大のトゲつき鉄球が次々と塔の外壁へ放たれる。
ぶつかって爆裂しても大海の一滴のように見えたけど、騎士団のいる広間には振動が伝わっていた。
『お客様の到着デス。避難してクダサイ』
『侵入警報。この区画の清掃を開始シマス』
土偶にも動揺が広がって動きが乱れ、隙間をついてヒギンズたちは奥へと距離を稼ぐ。
「金貨の魔法でなくても、支援攻撃は計算に入れているはずです。今のところ、塔の手前でわずかに引き返したほかはほぼ予定どおり、あるいはそれ以上に順調かもしれません」
「このままだと厳しい?」
「拙者とメセムスさんで突撃をくり返しても届かない差になるとさすがに……各設備や防衛装置は破損によって予想できないトラブルも多く、ある程度の足止めは常にあります。一方でその破損によって、複数で慎重にあたれば持ちこたえて隙や侵入経路も見つかる傾向にあります……あくまで外部支援があり、ほかの選手も一斉侵入する競技祭の決勝日に限っての話ですが」
そうでなければ数で押しつぶされ、数で対抗できても持久性が問題になるか。
「開始地点の説明ですと、今回の優勝目標は四百から五百メートルの高度、中心部の近く」
一階を三メートルとして、百数十階相当。
面積の異常さはともかく、目標の高度だけなら元世界で最高層のビルくらい。
「高さにして数十メートル程度の差は運も大きいでしょうが、百や二百の追い上げとなればまずまちがいなく無理を強いられ、底をつく体力消耗になります。このままの戦力同士でそこまで引き離されたら、騎士団との決闘は自殺行為になります」
数十階分の差を埋めるためにメセムスの『土砂装甲』とリフィヌの『陽光脚』を使いきったら、追いついても軽くひねられるか。
「あとは意図的につぶしに来る、選手同士の動きか……」
「引き離しての単独トップはその『最悪の障害』を避けられます。塔内でもある程度は『風よけ』の損はありそうですが」
いかれた特務神官や必死な魔王軍中堅の群れを考えれば、いかれた歓迎ロボットの群れはまだ優しい。
そして土偶軍団は通り抜けた分だけ、いかれた後続を妨害してくれる。
いかれた……
「アレッサはひとりで騎士団を追って塔に突入したのかな?」
リフィヌとメセムスが砂オバケをかき分けながらモニターを見ていた。
「近いみたいです?! 防壁を超えればもう……合流に?!」
目の前とモニター、両方に見える東盗掘砦は同じくらいの大きさで、数百メートルの距離。
防衛装置の群れを縫って走る蒼い長髪と、それを囲むように追う鎧の巨体三人組。
「『八武強』格とあらば三人がかりとて剣士の恥とは思わぬぞ……覚悟!」
武者鎧の大鬼にアレッサはうれしそうにうなずく……剣道部の合宿じゃないんだから。
「手加減無用。私も手柄首を挙げるに遠慮はできない性分」
「ふぬう! さすがは見習い時代より魔族に恐れられし賞金稼ぎ『騎士団の狂犬』よ!」
武者鎧が鼻息を荒くする。
「でもなんで、まだここに?」
忍者装束のトカゲ人がつぶやく。
「やっぱひとりで突入は無理っぽくて引き返したんじゃね? 防衛装置の群れとは相性が悪そうじゃん?」
獅子獣人が軽口をたたく。
アレッサの顔が暗くなり、背と腰に差した数本の剣から二本を引き抜く。
「八つ当たりには格好の相手……いざ!」
もう少しかっこいい口上で開戦してあげようよ。
「ユキタン同盟をひとり仕留めれば、騎士団から『完走』の半額なのだろう?」
買収されて……騎士団に追いつくためじゃなくて、オレたちに仕掛けるためだけの距離を走ったか。
武者鎧が日本刀……よりも工具じみてデザインも派手な分厚い片刃刀を引き抜く。
「これなるは鬼の膂力にも耐えうる鉄工鬼組合の剛刀『冷蔵庫斬り』! そして同様の斬撃を想定した大鎧『鉄筋二階建て』! 試す相手に不足なし!」
続いて鎖鉄球をふりかざした西洋甲冑のライオン獣人の口調は少し気になった。
「着ていてよかった西南妖獣社の通気加工! 砂漠で走ってもベタつきません! 今なら同じキャッスル柄の片手武器もセットで、戦闘スタイルをエレガントに演出!」
ふたりが挟み討ちに迫り、アレッサの顔が険しくなる。
「鉄工鬼組合は接客態度が横柄で、細部変更の要望もろくに聞かん!」
蒼髪の剣士の一喝と共に、武者鬼の真横をにじっていた砂オバケの影から『乱舞の銛』が襲いかかり、『鉄筋二階建て』……という名の鎧の隙間、顔面の上くちびるへ直撃して歯を砕き散らす。
「ゆえに実用性において詰めが甘い!」
それでも武者鬼がひるんだのは一瞬。
鉄球をかわして駆ける蒼髪へ、名の通り工業用途に見える巨大鉄塊『冷蔵庫斬り』が正確にふり下ろされた……ように見えた。
ギャリギャリと金属を裂くような音もしたのに、アレッサは刃がボロボロになった細い剣をかまえて立っていた。
「見ろ! 握りが合わねば、この程度の剣もへし折れぬ太刀筋の乱れとなりうる!」
そう言いながら、なにか小石のようなものを捨てた……?
「しかし受け流してもこの手のしびれ……鬼の体に頼らず、鍛錬を積んだ良い腕だ」
なぜ教官目線。
「なりゃば次は受けぎれまい!」
武者鬼が銛を吐き捨て、ふたたびふりかぶる。
アレッサはふたたび鉄球をかわしながら、砂オバケに隠れて迫っていたトカゲ男を投剣で牽制していた。
捨てたはずの小石が地面から飛び出し、速度を急激に増して武者鬼の剛刀へ当たると、砲弾のように爆音と火花を散らす。
巨体がゆらいだ。
「む。発動がギリギリだったな。本当に痛かったのに、恨みが薄かったか?」
捨てていたのは『報いの火打石』……受けたダメージをやり返したか!
武者鬼は不自然なタイミングで自分の剛剣と同じ衝撃を受けてよろめく。
そして手首の無事を確認する前に、ふところへもぐった『切り裂きの魔女』の二刀流に全身を赤く染められていた。
「そして西南妖獣社製など、戦場にあるまじき飾り物! デザインや着心地で死ぬ気か貴様?! 警備や儀礼でこの場にいるのか?!」
「ひい! 『狂犬の魔女』!」
鎧ライオンはあとずさり、銛と投剣と二刀流の嵐から距離をとって防ごうとする。
トカゲ男は今度は背後から身を低め、両手甲に固定した刃で足を払おうとする。
アレッサは背後も見ないまま、足で大きく砂を跳ね上げてトカゲ男に目つぶしをかける。
鎧ライオンのかかとには銛が刺さっていた。
「ちょい待ってよマジで?! ほら、騎士団が先に……そう、神官団だけじゃなく、象人や虫人だって先に塔へ行ったから、障害も混乱している。もう今なら通りやすいって!」
「貴重な情報、感謝する」
アレッサは明るい笑顔になり、鎧の肩の継ぎ目へ剣を突き通す。
「だが『ユキタン同盟』へ刃を向けた代償、『切り裂きの魔女』へ刃を向けた礼は受けてもらおう」
倒れた鎧ライオンを砂オバケが次々と囲む。
「銛をつかんで離すな!」
叫んだトカゲ男はまっすぐに塔へ……死に体の仲間を見捨てて逃げていた。
小豆色の忍者装束の背には『安心の職人芸 岩小人工業』の夜光グリーン文字。
「うむ。岩小人の妥協なき品質には頭が下がる。私も急ぎでない限り、注文で頼りにしている」
アレッサは銛を置き去りに『地割れの根付』をふるっていた。
忍者トカゲは地面が急に数十センチ沈んだくらいでは転ばず、バランスをとりもどす。
代わりに目の前の砂オバケ二匹が急に横倒しになり、飛び越えそこねてつんのめる。
さらにそのつま先を狙って投剣が砂に刺さり、ようやく転ばせる。
「だがポイント景品が中年男性向けに偏りすぎだ! 酒やタバコを避けてしかたなく焼肉セットばかり頼んでいたら『騎士団の肉食獣』などという異名が広まりかけて……!」
忍者トカゲは這いずりながら剣撃と謎ダメ出しの嵐に耐える。
「剣士は心身の健康にも気をつかうもの! 心やすらぐ動物人形くらいあっても……その点、西南妖獣社はなぜ限定景品ばかりいい仕事を……なぜ市販しない!?」
三メートル近い、鎧を着なくても分厚いウロコのあるトカゲ男は全身に細かい傷を刻まれて血の跡を広げ、動きが鈍ってゆく。
速さ重さでうわまわる反撃をしているのに、当たらなかった。
「誰だよ腕輪がなければ十傑衆以下とか言ったやつ」
「おまえだ……」
砂オバケの下敷きでもがく血まみれの『鉄筋二階建て』と『通気加工』が声をそろえた。
アレッサはトカゲ男にもとどめは刺さず、砂オバケのおしくらまんじゅうに任せて銛の回収へ向かう。
「アレッサ選手……競技祭を広報に使う企業になにか恨みでも?」
「え」
モニターのピパイパさんに切り裂きの魔女はうろたえ、なぜか剣の柄にある『岩小人工業』のロゴを見せる。
「いや、つい。なじみの店ばかりだったので……鉄工鬼組合も値段のわりに性能はなかなか……うむ。このような大舞台にはふさわしい、それぞれの強みを持つ名店ぞろいだ」
「はあ。……おっと! そしてついにユキタン選手と合流ですね~!」
アレッサの笑顔がこわばる。
こっちはようやく、防壁にかかった縄ばしごを駆け登って息をきらせていた。
必要なら数百メートルでも烈風斬を届けるつもりで。
でもやっと腕輪を渡せる。
はずしてふりかざす。
とりあえず、こっち来いアレッサ。
……なぜ顔をそらす。
「も、も、もー塔には入れそーだし、いっこくも早く騎士団を追わねばなるまいなー」
なぜ棒読み口調。
しかも逃走。
「待ちやがれボケ貧乳!!」




