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二十章 あの世を見てきたように言う奴なんなの? 息はあっても幽霊なんだろ? 二

「ついてこれないやつは置いていく!」

 ナルテアが駆け出し、変形を続ける地下通路を先行する。

 シャッターのように上から横から石壁が迫り、ナルテアの乗った高台はリフトのようにせり上がって天井の穴へ向かう。

 ロックルフは足をゴムのように伸ばして追い、蜥蜴人のデューコ、ボクとリフィヌを乗せた大鬼ブヨウザも難なく飛び乗れたけど、魔術団のふたりと最後尾の聖騎士たちが遅れ、巨大サソリの群れに埋もれつつある。


 リフィヌから『伝説の剣』を貸してもらう。

「女の子と老人が危ない! なんとかできる?!」

 少しだけ刃を抜き、すぐにもどしてデューコに渡すと、うなずいて引き返す。


 しかしババ様は健脚で、人形師マキャラを気づかって遅れているだけ。

 デューコがとろいオッサンの腕をつかんでぶん投げ、リフト上のロックルフが胴と腕を倍くらいにのばして引き上げる。

 ババ様もほぼ同時に跳び上がり、そちらは大鬼が引き上げる。


「こんなところで重力魔法は使わないでよ?!」

「わかってますわよ! 隊長に指図するヒマがあったら、大恥さらしたことでも思い出しなさい!」

 仲の悪い女騎士ふたりは巨大サソリに通路をふさがれて剣をふるい、黒髪ツインテールのほうが一輪の花をふりまわし、周囲に花びら型の輝く盾を広げていた。

「使っているのも見えないの?!」

「私を守る位置に立ちなさいよ!」

 ひらひらと落ちる花びらバリアーは巨大サソリのハサミや毒針もはじいているけど、ひとり用らしい。


「あれは『恥じらいの造花』ですね。防御性能は高いのですが、使用者の移動や攻撃も阻害してしまうため、ひとりで戦うことがない『花の聖騎士』クラオンさんが得意とする魔法道具です」


 はねた短髪のほうは剣の補助に軽そうな杖をふり回し、狭い中で次々と襲ってくる重量級の攻撃をはじいていた。


「あれも借りもののようですね。『底無しの柄杓ひしゃく」は相手の敵意によって攻撃をひしゃくの底部分へ誘導する……『波の聖騎士』モルソロス様が戦場では決して手放さない一品として有名です』



 リフト床と天井の隙間が無くなる寸前、床下からガギリガギリと岩を穿つような音が響き、レイミッサがすべりこんでくる。

「斧をピッケルがわりに?!」

「狙いの定まらん武器じゃ。それを補う使い手レイミッサ君の身のこなしは騎士団でも随一じゃな……しかしよかったのかのう?」

 仲間の騎士ふたりはぞくぞくと集まる巨大サソリに囲まれていた。


「ノコイさん! ワッケマッシュさん! だいじょうぶでしょうか?! 私も引き返すべきでしょうか?!」

 レイミッサは悲痛な顔で床の隙間へ呼びかけるが、もう人が通れる幅じゃない。

 それに腕に巻いた『濃霧の頭巾』が少しも反応してなかった。

 発動条件は『迷い』のはず。


 ボクとリフィヌだけでなく、ナルテアも気がついたようだけど、すぐに頭巾から目をそらして上ずった声を出す。

「聖騎士がふたりならだいじょうぶなはず、です。一年近くたっているから、エサ不足で大型のはほとんど死んで、巨大ミミズや共食いを考えても数十匹くらい……」

 元は何匹いたんだ。



「ウェイトレスのお嬢ちゃん、やけに詳しいねえ? 地元の人?」

 マキャラおじさんが余計なことに気がついてしまい、ヤカン状の焼きごてが背後に迫る。


「騎士団の調査部はそれほど間抜けではありません。ヒギンズの判断か、上層には報告されていないようですが、出身は知っています……姉がお世話になったことも。ナルテア様には感謝しております」

「は、はひい?!」

 レイミッサがうやうやしく片膝をつき、ナルテアに礼を示す。

「名乗りが遅れました。アレッサの妹、レイミッサと申します。よもや礼を言う前に私まで命を救われることになろうとは」


「い、いええ。ここはその、おね……アレッサ様の苦手な巨大虫どもを私が追いこんで作ったものですから……私のせいというか……」

 ぱちもん妹ナルテアがうろたえて手を出すと、レイミッサはすばやくしがみついてはらはらと涙を落とす。

「今の事態は我々の総隊長の失策。それに騎士でもないナルテア様が、姉さんのためにここまでしてくださっていたとは……」

 レイミッサはにじりよって脚にまですがり、ナルテアは真っ赤になって目をまわす。


「ひ、ひええ。半分は自分の村のためですから……」

「……ところで姉さんを何度か『お姉様』と呼んでいたようですが」

 凶暴さで発動する斧が光りはじめていた。



「そ、それがその、アレッサ様には何度も危ない所を助けていただき、家事などのお手伝いもお任せいただいている内に、とても他人には思えないように……本当の姉妹であるレイミッサ様をさしおいておそれ多いのですが……」

 魔法殺戮兵器『酔いどれの斧』がギラギラと赤くまぶしい。

 逃げてナルテア。少しでいいから周囲を見て。


「アレッサ様は毎日のようにレイミッサ様のことを思い出し、懐かしそうに語っておりましたので、せめて村にいる間だけは私が姉と呼び慕うことを許されないかと……」

「……そうでしたか……」

 斧の光が少しずつおさまってきた。


「しかし姉は村を守る使命を果たせなかった身。私は姉を尊敬しておりますが、それゆえに姉がナルテア様に強い負い目を感じていることもわかります」

「そんな! お姉様は……」

「ですから」

 斧がふたたび地下空間を赤々と照らす。 


「ナルテア様はどうか、姉を二度と『お姉様』などと呼ばないように、お願い、いたします」

「は……はい……?」

 アレッサに対するレイミッサの執着は競争心だけではなさそうだけど、良いのか悪いのか。


「おーい、そろそろ手伝ってくれんかのう?」

 ロックルフはひとりで通路先の巨大虫の群れと戦っていた。

 


 レイミッサが先頭になるとほかのメンバーは見ているだけですんだし、巻き込まれないように見ているしかなかった。

 やがて大鬼の体格ではやや窮屈な、狭く長い通路に出る。

「大きな迂回になるけど、最終迎撃装置の起動後には最も安全な移動ルートになる」 


 砂岩のブロックに混じり、第三区間の巨人都市の近くで見たようなカラフルで光沢のある巨大ブロックが見えはじめた。

 魔術団のふたりは興味深そうに撫で回し、その部分から淡い光がブロック全体、そして先の通路まで広がる。 

「へえ、こんな広く生きてるんだねえ? あれだけ大げさな仕掛けを動かすだけはある。これを片っ端から掘り起こすだけでもそれなりの金になるよ?」

「ババ様、そいつぁ無粋な史跡破壊だぜ。時間をかけて構造を調べれば、人形技術の進歩につながるかもしれねえのに」


 広い通路に入り、途中から光沢のない黒い石柱が並びはじめる。

 あとから加えた内装……ほどなく柱の隙間には黒塗りの金属格子がはめられ、さらに進むとその隙間はカラフルで雑多な飾り紙に埋められる。

 壁の光に浮かぶ、几帳面に貼り合わされたペットボトルのラベル、マンガ本の帯、コンビニ袋……


「対魔法の黒い塗装に異世界よりの漂着物……ここにも『暗黒の聖母』教団の支部があったのですね? 多くの支部が魔竜の爆撃を受ける前に自爆して周辺の住民へ病毒をまき散らしたと聞きますが……」

「ナディジャどのがあとで使うつもりで隠したのかもしれんのう?」

 ロックルフが奥の大部屋の入口で足を止める。


 体育館ほどの広さで、ガラスの巨大テーブルは無かったけど、似た材質の柱が部屋の奥半分の壁、天井、床に複雑にからまっていた。

「こりゃまた見事な補助装置……姐さん?!」

 床の中央に転がる黒いローブと褐色の腕脚。



「声をかけたが動かん。罠には思えんのじゃが、念のため魔術団のかたに」

 今は外見が若い『変幻の魔女アハマハ』がロックルフにうなずき、ひとりだけで部屋に入る。

「わしらは『絆の髪』の対抗薬を塗っておるから多少は……」

 数歩まで近づいたところで、何本かの赤黒い肉紐が撃ち出される。

「アダダダッ?!」

 紐は当たったところで肉に食いこんで広がる……でもそれだけで、アハマハの体を動かしたり拘束したり爆裂させたりはしない。


「死んでおる! しかし伝言がありそうじゃから、姐さんは傷つけないどくれ!」

「介護烈風斬!」

 勇者の一閃が見事に決まり、ムチムチの自称老人を怪触手から解放する……しかしなぜか胸腰の衣服も少し解放されていた。


「あの速度なら対応できる」

 レイミッサが斧とノコギリを両手に赤く光らせる。

「ふむ。本体の指示がなく、狙いも単純なようじゃな」

 ロックルフは口ヒゲを撫でると、グニャリと上半身をのばしてナディジャへ射出し、それはゴムのようにすばやくもどる。

 反応して撃たれた肉紐はトンファーにはじかれ、斧とノコギリに刻まれる。


 勇者と従者と大鬼と給仕さんは見学。

「口ヒゲが光っている……あれって魔法道具? 魔法体質?」

「『背のびのつけひげ』ですね。発動条件は『余裕』です。ごく一時的な効果なので、戦闘であのように活かすには、心身ともかなりの鍛錬が必要でしょう」

 体をゴム化させた速さ、特にねじりをもどしながらのトンファーは床石を削る威力があり、あのガッチリと太い腕肩でなければ保持できないだろう。



 肉紐は何度か斬り散らされるとみるみるおとろえ、近づいたババ様に引きむしられるままになる。

「実の娘に、こんなたくさんの『髪』を植えるなんてね……気も狂うさ。よく寿命までもったものだ」

「はうおおー、ほふぇ~」

 人形師マキャラは無駄に加勢して鼻と頬をつながれ、痛がって泣きながら自分で引き抜いていた。


 ババ様がナディジャの上体を起こすと、刺青だらけの虚ろな顔はくちびるだけが動きはじめる。

「……こういう風に、この世界も、向うの世界も、限りなく下らない理由で終わりを迎えるのだろうか? 私はそれが悔しい。なんのためにこの星の生物は命をつなげてきたのか? 偽りの神に、玩具として使い捨てられるなど……私とお母様が愛した世界。憧れた異世界。夢見た楽園……シュタルガ! やはり君だけは殺すべきだった! 誰でもいい、彼女を殺してくれ! 『最後の覇者』が目覚めなければ、この世界は消失する! 永遠絶対の苦痛まで、あと一歩だというのに! 死という虚無! この恐怖! ああシュタルガ、君のことだって憎んでなどいない! 君と世界を救うためにも、君は死ぬべきなんだ! 怖い! 死が来る! 苦痛を失う! 助けて!」

 ピタリとくちびるが止まり、それきり動かなくなる。


「ちっ。……で、麻繰と豪傑鬼は?」

「え……え? 侍従長どののにおいは近いらしい。探ってみようかのう……」

 ナディジャは怖かった。

 戦闘力より、狂ってねじ曲がった精神……これが真の敵なら納得もしやすいのに、決勝戦を前に勝手に死にやがった。

「この先どうやって盛り上げろって言うんだか。ただでさえ最終区間はザコばっかなのに、双璧を越える強敵を軽々と倒して、恐れをなした魔王を押し倒す計画が台無しじゃないか!」

 八つ当たりに蹴り倒した木の卓から縛られた老小鬼さんを発見。


 侍従長ダダルバは豪傑鬼を見てないという。

「異世界の知識人と交流できて楽しかったと? ……まあ、乱暴なあつかいをされなかったのはなによりですじゃ。あとはマクリくんらの捜索じゃのう。この先は逃げ場もない一本道で、出口は部下がふさいでおる。仕掛けもないから観念してくれたと思うんじゃが」


 ロックルフはナディジャの遺体をかつぎ、大部屋の別の通路に入る。

 リフィヌがヒソヒソと耳打ちしてきた。

「マクリさんたちをずいぶん甘く見ていませんか?」

 小さくうなずいておく。



 地上に出るとロックルフの部下が気絶していた。

 開いていた出口の大岩は獣人や大鬼でも内部から動かすのは難しい構造。

「どうやったのやら、逃げられてしまったようじゃのう? ということは『献身会員』の症状は出てないか、どこか治療を受けるアテがあるか……ともあれ、まずは侍従長どのにお帰りいただき、ナディジャどののことはわしから報告しておこう。魔術団のおふたりにおとがめはないはずじゃ。あとは洞窟に残った騎士団に救援部隊が間に合えば、まずは一段落……」

 ふざけんなジジイ。覚悟しとけよ。


「な、なんじゃなユキタン君? その目は……?」

 リフィヌと一緒にとっとと帰ることにする。



 途中の岩場でデューコが姿を見せる。

「ロックルフの部下は地上に残った騎士団の監視を重視していた。マクリたちの姿は確認できなかったが、『虹橋の神官』と『雷電の神官』を見かけた。やはり意図的に逃がしたようだな」


 預けた『伝説の剣』を返される。

「デューコさんをもどしたのは探りをお願いする意図だったのですか?」

「ジジイの様子が怪しかったから」

 剣を抜いて待つと、不意に『危ない!』という声が刀身から響く。

「……あれ?」


「問題ない。『老人が危ない』と伝えたい意図はわかった」

 そう、『女の子と老人が危ない! なんとかできる?!』という自分の声の一部を切り取って指示を伝えたつもりだったのだけど。

「中途半端な頭脳プレイかっちょわりい……美しくも聡明なデューコ様に感謝せねば」

「ま、待て。私は子持ちのようなものだが、既婚者や未亡人ではないぞ?」

「オレも色情狂のようなものですが、別に後家ごろし専門じゃありませんてば」


「しかしまさか神官団が魔術団、というか『暗黒の聖母』教団の残党に協力ですか……」

「だから神官長も不本意そうだったのかな? 寿命にあせるナディジャが神官団と協力して清之助親衛隊を呼んで……でも洗脳しきれなかった親衛隊が独走して、自分たちで状況を確認するために侍従長をさらった……かな?」

「神官団の戦力が減ってあせっているにせよ、競技開始後の今さら、なんの意味が?」

「ダイカの言っていた『不穏な気配』か……悪徳ジジイが神官団に協力ってことは、競技だけじゃ済まない動きかな?」


「ユキタン、リフィヌ、それはブヨウザの肩の上でしていい話題なのか?」

 すっかり馬がわりの大鬼が眉間にしわを寄せて黙っていた。

「勇者に塩を送られるほど魔王軍は落ちぶれておらぬ……ひとつ、身内自慢をさせてもらおうか。我が姉、魔王配下最古参の八武強『豪傑鬼』シャンガジャンガには別の顔がある……」



 ブヨウザの姉はふたりいた。

 赤髪の『豪傑鬼ジャンガ』と白髪の『狡猾鬼シャンガ』という双子は先代妖鬼王を失った妖鬼族でも突出した戦闘力と凶暴性を持っていた。

 それはブヨウザの異性観に深い影響を与え、独り修行の長旅に出させたほど。


 姉のシャンガは腕力体格でわずかに妹に劣ったが、ずるがしこさにおいても突出し、悪だくみに優れていた。

 でも不死王との抗争で命を奪われ、妹のジャンガは食事を忘れてふさぎこむ。

 何日かたつと立ち直ったけど、時おり口調が変わるようになった。

 明るく豪放な口調が暗く粘つく口調に変わった時、その読みは恐ろしく精緻になり、策は凄惨な威力を発揮した。


「死んだシャンガがのりうつった……?」

「非科学的な。ジャンガ姉上は元より武力だけでなく、勘の鋭さもあった。シャンガ姉上もジャンガ姉上のかぎつける情報は重視していた」

「双子の姉を失った衝撃を乗り越え、指導力を補うためにも別人格を形成したわけですか……」


「今の名を授けたのは魔王様だ。ジャンガ姉上の武強、その中に潜むシャンガ姉上の策謀をまとめて破ったと聞く。以来、常に最大の兵力を預ける腹心とした。戦闘力や同族のよしみではない。吸血公女、二代目邪鬼王、暗黒の聖母、騎士団といった小ざかしい者どもを相手に、致命的な危機を避けうる判断力を知っていたのだ」


「どこに捕まっていても問題なく脱出できるか、わざと捕まっているか……ともかく心配しなくていいってこと?」

 選手村に隣接した侵攻基地に近づくと、ダイカと熊獣人が迎えに来ていた。

 シロクマ獣人のミフルクツと、灰色熊獣人のグリズワルド……もどってきたのか。

 ブヨウザは無言でオレたちを降ろして駆け去ってしまう。



「女房に顔だけ見せて、すぐに航空翼竜で追ってきたんだ。今しがた着いたが……ミフルクツとリトライアンも世話になったんだって?」

 巨熊の背からひょっこりと薄緑色のふわふわ髪……ラウネラトラが顔を出す。

「おんしらは絶対安静と言ったじゃろうに」

 今度はグリズワルドがひょいひょいと両腕に抱えてくれた。


「背中は? まだ何日もたってないのに……」

 すでに包帯はなく、乾いた大きな傷が見えていた。

「これが熊獣人の体力さ。名医先生の手当てのおかげもあるが」

 その名医が問答無用とばかり、ボクの体中にツル草をはわせてきた。

「おんしは普通以下の人間じゃ。自覚以上にボロボロになっちょることを忘れちゃいかんぞ。このまま動き続ければ、完走できたとしても……」

「もう休むよ。休みたい。大体の用は済んだし……なんかにぎやかだね?」

 侵攻基地のテント群には軍人でない人通りも多くなり、近づくとあちこちのテントが出店になっていた。



 魚人の店ではミュウリームのポスターやアクセサリーが並び、小鬼の店では邪鬼王子のソフトビニール人形、決め顔の写真集なども。

 騎士団を扱う店ではピンク頭のバカでかいポスターや等身大マネキンがやたらと展示されていたけど、会計に並ぶ列の多くはレイミッサやクラオンの商品を手にしている。

 神官団の店では売り子の『蛍火』と『花火』が自分たちのグッズをゴリ押ししていたけど、よく売れているのは選手でもない聖王様グッズ。


 最も目立つ巨大店舗は魔王軍をあつかい、とりわけ魔王と三魔将のキーホルダー、コップ、クッション、絵本、レプリカ衣装、遺影(吸血将軍のみ)などを含む異常に豊富な品ぞろえが飛ぶように売れていた。

 でも最有力の優勝候補だった黄金竜と青刀竜のグッズは割引ワゴンで半額以下に。


「はわ~、ザンナさんのグッズ、ほとんど売り切れですよ!」

 しかも元の値段を消して三倍にした跡が残っている。

「数を用意してなかったんだろうね……リフィヌのお色気写真集とかないの?」

「あ、ありませんよ! ほとんど普段着で、水着の撮影は少しだけ……」


「ちょっと寄って……はぐぉ?! わ、わかった安静にするからそこは……」

「わっちはかまわんけどね。ここでおんしを治しそこなうと、いろいろうるさいじゃろうから。ダイカちゃんやらアレッサちゃんやらザンナちゃんやら……」



 しかたなく、運ばれながら見るだけにしておく。

 ダイカとキラティカは棄権したにも関わらず、グッズには人だかりができていた。

 店の陰では表紙でふたりがからみ合う薄いマンガ本もコソコソと売買されている。

 歩き売りの行商人にはアレッサのグッズも多い。

 赤巨人長老の詩集や半馬人のブロンズ像など、渋すぎて購買層のよくわからない商品もいろいろある。


「勇者ユキタンのデザインは在庫もう残りわずか百……え、これラスト五十?!」

 豚鬼が叫びながら次々と箱を開けても奪い合いとなる人気の勇者グッズはパンチングクッション。

 店先の地面には殴られ斬られ踏まれ焼かれたボクのニヤけ顔が散乱している。

「ぎゃああ~?!」

 突然に叫んだ中年男は拳から血を流していた……魔王デザインのパンチングクッションには剣山が仕込んであったらしい。



 祭のように楽しそうで……むかついてきた。

 親衛隊騒動は中途半端でなにも解決してないのに裏でまとまったらしい。

 この競技祭も、どうでもいいやつらが裏でコソコソうごめいて、クソつまらない結末へ導こうとしているのか?

 シュタルガの野郎、魔王ならもっと派手に無茶苦茶やってくれよ。

 オレが魔王をやりたくなるだろ。




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