十章 騎士のくせに馬に乗らない奴が多すぎだろ? 馬さえ乗れば騎士だと思う奴が多すぎだろ? 四
「しちゃいまして~、じゃねえだろ。虫人は手足とばすくらいじゃ平気で襲ってくるんだからよ~、自慢の足輪で壁の染みになるまでしっかり押しこめよな~」
ザンナは呆れ顔でほうきの柄をリフィヌの頬に押しこむ。
「んん~、考えてみましたら拙僧、討伐の時にはいつもほかの神官の方が一緒でして。防御向きな『陽光の足輪』持ちとして、補助ばかりしていたのですよ。攻撃もさっきのように、無力化だけして警戒や護衛にもどることが多かったので……」
カノアンくんの教えてくれた『下から五番目』の横穴に入って進むと、緑のにおいが濃くなってきた。
人間用の狭い通路はほどなく高さと幅が十メートルの標準通路につながる。
たいまつの数が少しずつ増え、シダ植物や苔が減り、数十メートル幅の巨人回廊に出る。
巨石ブロックの天井が光を遮り、緑色は見えないけど、根が大量に侵食していた。
床や壁はデコボコに押し出され、ところどころ崩れて小山を作っている。
アレッサが小山のひとつをじっと見ると、その影から腕に包帯をした半馬人が無言で駆け逃げ、それより後の壁穴からもトゲ鎧の犬鬼と刃鎧の小鬼も押し殺した悲鳴を上げて追う。
「うっとうしくてよ! くたばりあそばせ!」
三匹の逃げた先で女性の声が聞こえたあと、ガラガラと巨石ブロックの落ちる音がした。
「聖騎士のように見えたが、あの崩落も魔法か?」
アレッサはそうつぶやくけど、薄暗い道で百メートルほども先に少しだけ見えた人影だったので、ボクの目ではほとんどわからない。
「なにやってんだ! 少しは落ち着け! ……あっちは?」
「たぶんアレッサだ。問題ないだろう。念のため上げておくか?」
男二人の会話がかすかに聞こえたあと、向こうはひどい砂煙が舞っているのに、人間大の旗が見えた気がした。
視認できる範囲に存在を気がつかせる『認識の旗』らしい。
「出発して間もなく後退していた隊だな。進んでまた引き返しているらしい。騒ぎは鞭によるものか、湿気と中盤渋滞によるいらだちかはわかりかねるが」
今も発動させて知らせたということは、依然としてアレッサに停戦を求めている意思表示らしい。
巨人回廊を斜めに横切り、再び標準通路に入る。
根の侵食が激しく、シダやツル草も増えてくると半分くらいに狭く見えた。
意外に距離があり、湿度も気温もますます上がり、広大な『竜の巣』らしき空間が見えるころには、ガクランの前を空けても汗をかいていた。
地下森林に出て振り返ると、通路は低く細長い山に空いていた。
すでに『竜の巣』の中を進んでいたらしい。
最初に入った『竜の巣』は天井が星空のようだったけど、ここは何十メートルもの巨大シダ植物が密生して枝葉を広げ合い、その隙間からまだらにぼやけた光が見えるので、距離感をつかみづらい。
空中をとびかうコウモリモニターをひさしぶりに見かける。
誰かを追跡している様子はなく、三階くらいの高い位置をうろつき、多少なりひらけた見晴らしの良い位置で情報提供をしているらしい。
でも今は巨人将軍様の個性的な歌声によるコンサート第二幕が垂れ流しになっているだけなので、視聴できる位置に人影はない。
ボクでさえわかる足音や吠え声が遠くのあちこちから聞こえる。
アレッサは人間にしてはやたら耳が鋭く、それらを落ち着きなく聞き分けている様子。
「小型の魔獣も興奮して多くうろついているようだ。乱戦も避けられない今、ザンナとリフィヌどのに同行してもらえたことはありがたい。セイノスケが森にいるという情報はトロッコで聞いたが、どうやって合流したものか……」
「アレッサちゅわ~ん」
聞きおぼえのある気の抜けた声は、意外にも背後の通路から聞こえた。
重い足音が近づき、メイド人形メセムスの巨体も見えてきた。
「セイノスケたちか……な、なにをやっているんだ?」
アレッサの喜びかけた顔が困惑に変わる。
触手女医ラウネラトラと変態エリート清之助くんはメセムスの抱えた布団の中から手を振っていた。裸で。
「モニターで見かけた位置から、ユキタのにおいを追跡していた」
変態メガネがことも無げに答える。
「いや、なぜ服を着ていない? それにその布団は一体……」
「この暑さだからな。これは『合体の布団』だ」
よし、斬っちゃえアレッサ。
「念のためだけど、わっちはツル草を巻いているからセーフね」
布団から降りてきたラウネラトラは自分のツル草を申しわけ程度に胸と腰にからませているだけで、セーフかどうかは人による。
「あと合体とゆーのは魔法道具の名称であって……」
そうでなければ君を焚き木に清之助くんのベーコンを作る。
「そっちの銀髪が魔女のザンナか。そっちは……やはり『陽光の神官』なのか? むう、ユキタ、貴様というやつは……」
うなられてみるとザンナも言ったとおり、最強騎士に続いて最強神官まで連れているボクの強運は尋常でない。
「全選手屈指の貧乳を集めてどうするつもりだ? すまんが狙いを読めそうにない」
「どうもしないよ! 狙いたくて集まったまな板じゃないし!」
ザンナのほうきとアレッサの剣の柄が同時にボクの横腹にめりこむ。
「安定の巨乳好きだと思っていたが、叔母から野口山に移って趣味が変わったのか? そういえば不死王の未亡人も今朝の虫人も見事な絶壁……」
「たしかに『巨乳じゃない』胸もいいと思うようにはなったけどさ。それは主にアレッサの影響で……いや、これはアレッサさんが魅力的だからスレンダーの良さに目覚めたという意味であって……」
ボクがどう言葉を継ぎ足しても、アレッサは背を向けて体育座りのまま動かない。
「心配するなアレッサ。ユキタがこっちへ来る前に熱を上げていたのも『いい年こいてまったいらの変人女』だ」
ボクが茶わんで変人男を殴打する間にも、アレッサはひざに頭を埋める変形を見せる。
「虫人……不死王の未亡人……その延長で見られていたのか……切り裂き女だものな……」
「はじめまして、勇者セイノスケ様。『陽光の神官』ことリフィヌです。よろしければ、そちらの方も紹介していただけますか?」
リフィヌが気づかうように会釈したのはラウネラトラでもメセムスでもなく、その後ろでしゃがみこんで震えている、ボクも初対面の女の子だった。
肌は濡れて光るような青緑で、赤紫の髪はものすごいボリュームで波打っている。
「おっと、これは失礼。紹介が遅れて申し訳ない」
清之助くんが布団から降りてきて、震える女の子の肩に手をまわす。
失礼を気にするなら、まず服を着ようよ。
ブリーフをはいているだけなのに、一瞬、安心してしまったボクの常識感覚を元にもどしてよ。
なんで靴下と革靴ははいているんだよ。
女の子の大きな金色の瞳はすでに半泣きで、大きな口をぱっかり開けたまま、油汗をだらだらと流している……なにした清之助。
「魔王配下二十二名門の一人、蛙人のジュエビー嬢だ」
「セ、セイノスケ、だいじょうぶであろうな? わらわは胸が豊かじゃ。妬まれて寸刻みにされたり、たかぶらせて狼藉されたりはあるまいな?」
涙と汗の原因はボクとアレッサでした。
宝石を散りばめた生地の少ないドレスから、たしかにボリュームのあるバストやヒップが多めにはみでている。
ダイカのような筋肉質ではなく、ゴルダシスよりさらに女性的な脂肪がついた古風な貴族体型のグラマー。
「心配するなジュエビー。アレッサは聖騎士の中でも最高にくだらんプライドを持っているし、ユキタンには責任をとってもらう。それに恩がないでもない仲だろう?」
それのどこがフォローなんだ……というか君、アレッサには妙にきつくないか?
「う……う、そうであったな。恩……なのか? まあ、そうであろうな……」
「蝸牛人アバイチュと蛇人ラブテマルブに襲われただろう? ジュエビーの仲間だ。その場にも居合わせたが、出るスキもないまま皆殺しの危険が出てきたため、ひとり先に逃がされ、隠れていたら斧を持つ聖騎士に見つかり、追いかけられる内にはぐれたらしい」
人物関係がずいぶん複雑になってきた。
とりあえず両腕が大蛇の蛇人さんが見かけによらず仲間思いなのはわかった。
「この『不運のよだれかけ』は小さな不運を呼ぶかわり、大きな不運は避ける効果らしいから、定義されている運の正体を観察している」
ジュエビーの首元にある布だけはデザインが幼児的で浮いていて、かすかにチラチラ光り続けている。
「今日ほど、この家宝の効果を実感したことはないのじゃ。仲間は壊滅したものの自分は助かり、狂犬のごとき蒼い短髪の騎士に襲われたものの逃げ切り、もうコツコツ小さな不運をくらうのは嫌じゃとはずした途端にセイノスケに肩をたたかれ……」
それはたしかに、しっかり機能していたかもしれない。
「つけなおした途端にユキタンのにおいをひろえたわけじゃ」
ボクは小さな不運かよ。
大きな不運を回避できる要因だとしても、いかにも小者ぽくて悲しい。
「危機管理の潜在意識を操作しているのかと思ったが、それだけでは効果の発現が早すぎる。しかし今の話を聞いてみると、運不運の感じ方も考慮すべきか……」
清之助くんは科学で割り切れないことを、いったんそのまま受け入れてから、また科学的に考える。
「セイノスケ? 合流できたのね?」
キラティカの声だけ。
「ああ。待ち合わせは灼熱洞の入口でいいか?」
「伝えておく」
ザンナとリフィヌがキョロキョロと、声のしたメセムスの背後をのぞきこむ。
「獣人もいたのか? 水晶? ……あ、『虚空の外套』か」
ザンナが手を打ち、リフィヌは首をひねる。
遠隔移動マントの片方はメセムスが持っているので、ボクたちはダイカかメセムスと一緒にいれば分かれて行動しても連絡がとれ、いざとなれば支援や脱出もできる……という部隊構成だったのに、発案者である清之助くんがしょっぱなでボクらを置き去りにしやがった。
「そういえば魔法道具が集まっているから、清之助くんも持ってよ」
ボクは自分の荷物を広げ、清之助くんに性能を説明する。
正直なところ、ボクは魔法道具でない『竹刀サイズの鉄棒』『小型の盾』以外は『おこぼれの茶わん』しか使いこなせていない。
ほかに使えるとしたら『孤立の襟巻き』『おちこぼれのはし』くらいか?
残る『ぬかよろこびのしゃもじ』『怪力の首飾り』『道連れのちゃぶだい』『へつらいの鉢巻』『片思いのお釜』といった珍品、クズ品、地味な品に斬新な用途を思いつきそうなのは主人公くさい天才性のある清之助くんのほうだろう。
持ってみてわかったけど、戦場のピンチで頭が真っ白になるヘタレ一般人がこんなものをいくつ抱えていたって、活躍にはつながらない。
あとは『気に入りの枕』という通過用の便利アイテムが奥に眠っているけど、謎の合体布団のある今は、無駄なシモネタ話題を提供しそうなので、蒸し暑い密林を抜けるまでは言及しないでおこう。
「ユキタ、貴様というやつは……!」
怒っているのか発情したのか、突然に迫ってきた清之助くんにボクは思わずはしを向けてしまう。
謙虚な気持ちがどう働いたのか、はし先は正確にメガネの連結部をつまんで止めた。
清之助くんは荒ぶる呼吸を整え、いくつかの道具をひろい上げる。
「孤立、へつらい、片思いか……俺にあてつけたような品ぞろえだな」
似合わない憂い顔のブリーフメガネ、いいかげん服を着ろ。
清之助くんがピンクのネクタイにしか見えない『へつらいの鉢巻』を胸にしめ、変態ビジュアルに磨きをかける。
「それは頭に巻いたほうがいいらしいよ。ほら、酔っ払いオヤジがよくやるような……あれってどういう結び方だろ?」
リフィヌも首を振る。さすがに宴会芸は専門外か。
「助六だな? 紫縮緬でないのは歌舞伎ではなく太鼓持ちのわきまえか。桃色では左に巻きたくもなるが……」
清之助くんは謎のウンチクを語りながらひょいひょいと『虹橋の神官』の戦闘ファッションを正確に再現する。
リフィヌは驚き顔で何度もうなずく。
もはやブリーフ靴下が正しいコーディネートになってきた……しかしそこへマフラーを巻き、鉄釜としゃもじを両手にかまえる追い討ち。
ボクが見かねていさめると、ズボンとシャツは無視して学ランだけ羽織りやがった。
「我こそは魔王配下二十一鬼面の…………?!?!」
音もなく現われた三メートル近い蜥蜴人の戦士は、清之助くんを見るなりあとずさって姿をくらます。
「道具を試せるかと思ったが、逃げられてしまったか」
魔法道具を組み合わせた効果は発動したけど、それは魔法じゃない。
「ではアレッサに試してもらおう」
再び標的にされたアレッサが、とても嫌そうな顔で変態エリート完成形のファッションを見る……ここぞと全力で斬っていいと思うよ。
「だいじょうぶかな? 清之助くんが人に感謝するような性格には見えないのだけど」
「これでもアレッサには感謝しているつもりだ。ぜひ確かめてほしい」
マフラー・ガクラン・ブリーフでなければ少しいいセリフだったかもしれない。
アレッサはしぶしぶと剣をかまえ、腕輪の光も弱々しい。
清之助くんのピンクネクタイが早くもヌラヌラ光りだす。
「烈風……」
「本気をだせええ!」
変態メガネが一喝しながらブリーフを下ろす。
「斬?!」
裏返った声と共に、巨大虫を見た時と同じ激しさで勢いを増す蒼い光。
半透明の刃は高速で正確に男性特有の急所へ飛び、下ろしたブリーフの半歩手前で、頭からのびたネクタイの障壁にはじかれる。
「す、すまない! 加減も狙いも乱れ……いや、それより早く下着を……いや、ズボンもだが……」
どうにかボクがブリーフ、ついでにズボンもはかせる。
「ふむ。思ったより消費は少ない。ならばサンプルを増やしておくか……そこのダメ魔女、できるなら俺を刺してみろ」
ザンナが無言で立ち上がり、ギリギリと腰のベルトを締めつけて束縛感を充填する。
「いつも狙いが定まるとは限らねえからな? 急所を外せなくても文句言うなよ?」
魔王配下十八夜叉(自称)は怒り満面の笑顔で腕をかまえる。
「狙える時のほうが少ないだろうが。その首輪の発動条件を制御できてない証拠だ。体に飛ばなければ以後は『残念ザンナ』と呼び続ける」
清之助くんの挑発はザンナを追い詰め、怒りに真剣さを加えてしまう。
「闇針!!」
数本の黒槍が勢いよく正確に、ガクランの内部へ向かって殺到し、半歩手前で完全に止められる。
「いい狙いだ。しかし……」
「初対面のザンナが私とまったく同じ位置……」
アレッサが小さくつぶやく。
「ユキタから話を聞いていた影響か? メセムス、一発たのむ」
巨体の魔法人形が鉄甲パンチを連打し続けてもまるで効かない。
「一発でいいのだが……消耗の差を知りたいだけだ」
気が済むまでやるといいよ。
「そんなに確かめなくても、俺の気持ちは知っているだろ?」
バシュウッと激しい排気音がして、メセムスの腕が止まり、赤熱した頬からモウモウと煙が上がる。
清之助くんが赤熱部分に両手をそえると、ネクタイはピンク色に光り続ける。
「熱も防げるのか。俺に対し有害なものを中和するようだが、やはり限度はあるようだな。魔竜砲は何発もくらえないだろうが、一発ならいけるか?」
清之助くんは顔を近づけて観察し、わざわざ舌でもなぞって確かめる。
メセムスはガタガタと肩を震わせて動作不良を起こし、その場にヒザをつく。
「私が口出しすべきことではないのだよな……?」
アレッサさんまで頬を赤くして小声でボクに聞くけど、答えようがありません。
とりあえずその握りしめた刃物は好きなように振り回してください。
ボクとザンナは特に要請もないけど鉄棒とホウキで清之助くんを殴り続ける。
「おいおい。ユキタの攻撃なら戦車くらいは必要だぞ?」
ボクはこの厄介な変態に、とんでもなく厄介な能力を加えてしまったらしい。
「こ、こりゃ。同士討ちしとる場合か。虫人がきておる。アレッサ貴様、聖騎士のくせに鈍いのう?」
ジュエビー嬢の指した先から、またもや蜂人が……それも三メートル近い大型の個体が迫っていた。
すかさず清之助くんが突撃する。
「俺に任せてもらおう!」
「待てセイノスケ! そんな相手に、どうやって感謝などするつもりだ?!」
アレッサの警告で、ボクは反対のことに思い当たる。
清之助くんの異常人格なら、神官ポルドンスの屈折性格よりも対象を広げられるか?
珍妙魔法だけど、敵に使えるなら脅威の戦力になる。
「しまった!」
清之助くんの叫びと同時に、大型蜂人の四本腕が鎌のような鉤爪のラッシュ攻撃をはじめる。
「実験できるありがたみで、発動しないわけがない!」
ネクタイが輝き、閃き続け、すべての鉤爪をはじき返し続ける。
「だが待て、サンプリングの必要がなくなれば徐々に……ダメか? 虫人の動き、体構造を考えてしまう! あらたな発見が思い浮かんでしまう!」
そしてそのすべてに感謝の念を抱くのか、『へつらいの鉢巻』の輝きにおとろえる気配はない。
あの輝きは平石清之助の精神の一端を映し見せている……予想を越える気色悪さ!
清之助くんは『片思いのお釜』を振り上げる。
「これは超重量だったな。発動したあとは触れるだけにしないと肩をやられるか?」
「いや無茶だろ。なにをどう『片思い』するつもりだよ? ……え? できるのか?」
ザンナもはじめて目の当たりにする清之助くんの奇怪な生態にとまどう。
違うのだよザンナくん。
ちょっと頭がよくて、性格が悪くて、趣味が変わっている……とかいう程度の個性なら、ボクもとっくに親友か他人か判別できているよ。
「敵意がないこともわからないのか?」
そうつぶやきながら光らせた鉄釜はズシリと大型蜂人の腹にめりこみ、巨体は浮き上がって倒れたあと、内臓をやられたのか手足をバタつかせるだけで起き上がれない。
「持ち主のイカレ神官も『いい男』とかいうくらいでマッチョおやじの奥歯をとばしていたけどよ……」
口を大きく開けた魔女の表情は、呆れから恐れに変わりはじめた。
清之助くんは吠えやまない子犬をなでるように静かな表情で、倍近い背の直立昆虫を殴り倒してしまった。
倒れた蜂人を置き去りに、清之助くんは独りで奥に進む。
さらに数匹の大型蜂人が近づいていた。
「メセムス! ラウネラトラ! リフィヌ! みんなを『俺から』守れ!」
ザンナとアレッサが、清之助くんの言葉の意味を問うようにボクを見る。
メセムスがリフィヌをつまんで前に吊るし、その背後でラウネラトラは残るみんなをまとめて縛る。
「うそつけ……」
ボクは思わずつぶやく。
清之助くんが握る『孤立の襟巻き』は、持ち主だった『霜の聖騎士』すら見せたことの無い、強い光をみなぎらせていた。
ふざけた変態ルックを嬉々と着こなす君に、なんでそんなに『孤独感』なんてあるんだよ。




