ほんとうにあったコワい話~FAXの罠
といっても、オバケの話ではありません。
仕事をしているときに起きた、血の気が引いた出来事です。
その日、私は取引先にとある発注のFAXをいれました。
FAXは詳細がわかりやすいよう一件毎にリスト化したもので、上から順番に通し番号がふってあります。確か一番下の行は三十五くらいだったように記憶しています。
少しして、先方から確認の連絡がありました。
「〇〇をいくつ、△△をいくつ、ということでよろしいでしょうか?」
今思えば、相手に送信したFAXを参照しながら応答すべきでした。
しかしながらやることが山積していて忙しかった私はそれをせず、FAXが届いているなら間違いないだろうとの思い込みから
「そうです。それで間違いありません」
ろくに確認もしないまま、口頭で返答しました。
では後ほど回答のFAXをお送りします、といって電話は終わりました。
――それから数時間後。
先方から返信のFAXが届き、私はその内容を転記するためにPCのファイルを開きました。FAXしたのは、このファイルをプリントアウトしたものです。
ひい、ふう、みい――リストに記載された種類毎にカウントしつつPCに打ち込んでいると、何かおかしいことに気が付きました。
数が合わない。
ハッとして見ると、返信されてきたFAXのリスト末行が「二十八」になっている!
やられた、と思いました。
先方のFAXがいたずらしたか機嫌が悪かったのでしょう、途中で切れてしまったらしいのです。向こうの担当者はそれと気付かず、中途半端なFAXが全てであると信じたようです。
しかしこの場合、私は先方を責められません。
きちんと確認の電話を寄越してきているのですから。
慌てて電話を入れ、数の訂正を申し出ましたが、時期が悪すぎました。発注が非常に混み合う時期で、一度数を確定してしまったら容易に追加できないのです。向こうのFAXが切れていたとはいえ、確認してきた電話で「はいそうです」と返事をしてしまったのは私です。お前らのFAXが悪いんじゃとは口が裂けても言えません。
すったもんだの末、事は何とか上手く収まりましたが……一歩間違えばお客との間で大トラブルに発展するところでした。今思い出しても冷汗が出ます。
そういうことで、FAXなどは過信してはいけないのです。
送受信のトラブルといえばつい先日、私が休日で自宅にいると職場の後輩から電話がありました。
発注の取り消しをFAXで送っておいたが先方が受け取ってないといい、代金を請求されたというのです。
送った、受け取ってない、というのはいわば「言った・言わない」のレベルです。どっちが真実かわからないから、裁定のしようがない。
後輩の場合、強いて言えば、それだけ大事なFAXであるにも関わらずきちんと着信確認していないのが原因でしょう。これもまた、FAXを過信しているがゆえのトラブルです。
その一件については、私は後輩に先述した自分の経験談を交えて
「FAXを入れたら必ず着信確認しろ」
と諭し、請求トラブルについては間に立って解決してやりました。
その後輩、非常に優秀です。
以後、一度に何件とFAXしなければならないときでも、必ず全ての送信先に電話を入れています。ミスをミスに終わらせず、そこから学んで改善することがいちばん大事でしょう。
FAXに限らず、メールも同じことがいえます。
何かのはずみで届いていなかったり、あるいは相手が必ず開いて見てくれているとは限らない。
とある世界的有名企業の担当者とメールでやりとりしたことがありますが、さすがだなと思ったのは、重要な内容の場合は「メールをお送りしましたので確認をお願いします」と必ず電話を寄越してくるのです。成長企業の社員は行動の一つ一つが正確を極めている、といえそうです。
逆もありますね。
こちらから「FAXを送ったので確認をお願いします」と電話までしているのに、さんざん時間が経ってから「いやあ、まだ見れてなくて」とか言ってくる人もいます。こういう会社はダメな会社ですね。
仕事というのは、こういうことだと思います。
小さな作業一つであっても、疎かにしてはならない。
もう少しいえば、仕事ができる人、できない人の違いというのは、こういうところにあるのかもしれません。PCに長じているとか英語がペラペラとか、それだけで仕事の力量が決定する訳ではなさそうです。
社会人である以上「仕事ができないやつ」とは言われたくない、いつも思います。