任務1−2 目指せケーキ屋〜不思議な少女とありがちコンビ〜
騙されちゃいけませんよ?
どこで日常が変わるのか分からないですから。
この文章や、本編の展開に騙されたら……苦笑いしてください(何
キラキラと照りつけるお日様。
空にぷかぷかと浮かぶ雲。
校庭には、向日葵が太陽を目指そうと背伸びしている。
遠くからは畑を耕す人々の楽しそうな声が聞こえる。
ふっと風が私達の教室を吹き抜け、窓際に居た私をカーテンがふわっと優しく包み込んだ。
私はそんなのどかな風景を見つめ、大口を開けてあくびをした。
「……眠いなぁ」
この私、巴真美奈は授業を放棄してそんな事を考える。
「真美奈〜……授業しないと、高校退学になっちゃうよ?」
私の親友、由美が茶化すように、こっそりと話しかけてきた。「退学」と言う単語に、私はちょびっと驚く。
でもすぐに驚いた表情を消して、ぷいっとそっぽを向いた。
「いいもん。なったらなったで、何とかするもん」
「なんとかって……真美奈……。今の世の中、能力が高くないと生き残れないからねぇ〜。ここいらでレベルアップを図らないと、この先大変だよぉ?まぁ私はどうなるかわかんないけどねぇ」
由美が嫌らしく言う。そう、彼女は自分のことを言っている。
彼女は、こうやって人をおちょくるのが好きなのだ。
「……そりゃぁ由美は頭もいいし、運動も出来るし、可愛いし。何やったって出来る人だからそういうことが言えるんだよ……。私なんか、どれにも当てはまらないよ……」
ヨヨヨ、と泣き崩れるふりをしてみる。
由美はそれを本気で受け取ったらしく、慌てて何か言おうとした。が、言葉が詰まってしまったらしく、口をパクパクさせていた。
「……い……ぃやあ、冗談だよ!真美奈!大丈夫だって。ほら、真美奈だって可愛いじゃん!そのツインテールとか似合ってるよ!それからそれから……えと……えっと……え〜と……」
「可愛いだけじゃ生き残れないよ、由美。私みたいに、可愛いだけじゃ」
私のちょっとしたご自慢のツインテールをさらりと手で洗う仕草をして、ちょっぴり嫌みったらしく言ってみる。コレは私のささやかな反撃。さぁ、どうでるのかな。
「可愛いだけの私と、何でも出来る由美とじゃ天と地の差がありますもんね。将来、私には男の子が近寄って来るだろうけど、由美には沢山のお仕事が近寄ってくるんでしょうね〜」
「な……なんだとこの小娘ぇ!自分のほうが可愛いからと思って、調子に乗りおって!」
由美が顔を真っ赤にして、手を振り上げて抗議する。これだから由美をからかうのは止められない。こういう一つ一つのリアクションが、どれも飽きないのだ。
「……嘘だよ、由美も可愛いよ。前の夏祭りの時だって、由美の浴衣姿はとっても良かったよ?」
こつん、と由美の額を軽く小突いてやる。そして軽くデコピンをする。コレは、私達二人の昔からのおまじない。体の悪いものを優しく追い出して、幸せになろうと言う意味の。……もっとも、今では子供らしくてちょっと恥ずかしいけどね。
「こら!巴、秋月!廊下に立たされたいのか!そんなことじゃ先に進めんぞ!」
強面の先生に怒鳴られる。……数学教師なのに、体型は明らかに熱血体育教師。性格もその通り。そして本当にこの人は体育教師。
この辺は人が少ない過疎地だから、同じ人が複数の教科を受け持ってる。小学校みたいだね。皆高校生なのに、無邪気で遊びたい盛りなのもそっくりだ。
だから授業が終わってからの休み時間が楽しみ。昼食時間が楽しみ。放課後、皆で遊ぶのが楽しみ。
「どうやら二人で楽しそうに話していたようだな。巴、教科書のここの部分、やってみろ!話を聞いてたら解けるはずだ」
先生が教科書の一部分を指差して、バンバン叩く。もちろん、私は話を聞いてなんかいなかった。
それでも……私にはちょっぴりズルイ秘密の技がある。
何か知りたい事があったら、それに手の平を向けると何でも分かっちゃうのだ。それが物でも人でも。
人については詳しいことを知ることは無理だけど、名前とか、年齢とか何所の生まれだとか、その人が今一番思ってることとかなら。
……なんでこんな変な能力があるのか分からない。ただ単に勘で当ててるだけなのかもしれないけど。今まで一度も外れたためしは無い。
「巴!早く答えなさい」
先生が鼻息を荒くして更に強く教科書を叩く。
私は急かされるように先生が指差した部分に、手のひらを向ける。皆は、そんな私の行動に、キョトンとする。
その瞬間、自分でもよく分からない数字やら記号が頭に入り込んできた。でも、だんだんそれらが知識となり、鍵となり、頭に書き留められていくのが分かる。
そして綿密な計算が行われ、答えをはじき出す。
一瞬で全てを理解した。
黒板に悠然と向かおうとする私を、皆が心配そうな目で見る。何人かはくすくす笑っていた。ここに居る私以外の全員が、この問題を外すだろう、と思っているのだろう。由美も同じだった。
「やばいってぇ、真奈美……。外したら廊下に出されて、バケツもたされて……」
由美が心配そうに私に声をかけてくる。
もちろん、絶対に当たってるとは豪語出来ない。さっき言ったように、これは勘なのかもしれないから。
手に汗をかきながら、白いチョークを持つ。そして、頭の中に出来上がった数式をそのまま黒板に書き写した。
写し終わり、周りを見渡す。
先生は驚いたように私の事を見ていた。皆も、意外だと言うような表情で私を見つめている。
「……正解だ、巴」
先生にその言葉を聞き届けると、私は固まった表情を和らげて、自分の席に戻った。
「……す、すごいな、真美奈。今日習ったばかりのところだよ!?応用とか、発展じゃないんだよ!?」
「えへへ、勘だよ、きっと」
また二人のお喋りに戻ろうとしたとき、後ろから凛々しい声が響いた。
「すげえな、巴。お前ってやっぱ頭良いんだな〜。天才なんだな」
それは……私がちょっと気になってるあの人。佐々木大輔くん。その声に、ちょっと私の胸は高鳴った。
「……あ、あ、佐々木君。ありがと、でも天才じゃないよ!ホント、勘で書いたらたまたま当たっちゃっただけで。そんな褒められるほどじゃ……」
とは言え、やっぱり好きな人から好く言われると嬉しい。
「さ、そろそろ今日の授業も終わりだ。全員起立!」
先生が皆を立たせる。
「礼!さよーならー!!」
礼をした後、皆はしゃぎながら帰る支度をしていた。
私と由美は、お気に入りのケーキ屋さんに寄って行こうか、どうしようか相談していた。
「あそこのケーキ屋さん、新しいの出たんだって!みたらし団子をふんだんに使ったケーキとか、お茶を使ったケーキとか。おいしそうだったよ」
「いいなぁ、それ。でも、私お金ないからなぁ。真美奈、おごってくれる?」
じゃれ合っていると、なんだかタイミングよく佐々木君がやってきた。なんだかニコニコして嬉しそうだ。
「なぁ、巴、秋月〜。おやつ食べに行くのか?いいのか?」
「何でよ?別に食べたっていいじゃない」
真美奈が怪訝そうに、佐々木君を見つめる。
「いや、だってさ。年頃の女子がそんなに食べてていいのかなぁ、と」
確かに……。ここんとこ、一瞬間に一回のペースでケーキ食べてる気がする。お小遣いの問題もあるけど、それ以外にも女子としての問題もあるなぁ……。
「いいじゃない。美味しいもの食べたいんだから。女子にそういう事聞くもんじゃないよ?さ、真美奈!こんなお節介な奴はほっといて行こう!もちろん、真美奈のおごりでね」
由美が私の服の袖を引っ張り、廊下に飛び出した。その後ろを、慌てて佐々木君が追いかけてくる。
「なぁ、待ってくれよ。俺も丁度そのケーキ屋にケーキ食べに行こうとしてたんだ。一緒に行くべ?」
由美が私を引っ張ったまま、後ろを振り向く。おかげで私は、回されるようにぐるんと由美の周りを回転した。
「なに?私達をナンパするつもり?悪いけど私達とあんたじゃつりあわないわよ」
「……馬鹿かお前。自意識過剰すぎるぜ?俺は最初からお前を見てなどいない!」
由美の売り言葉に、佐々木君の買い言葉。二人の間に一瞬、火花が散ったような気がした……。
「……まぁ冗談だ、秋月。俺はただ単純にケーキを食べに行きたいだけだ。一人で食うより二人で。二人で食うより三人で、だろ?」
「そりゃそうかもしんないけどさ……。真美奈はどう?こいつと一緒でいい?」
由美が疲れたような表情を作って、私を見る。もちろん、私の心は決まっていた。
が、いざ言葉に出そうとすると恥ずかしい……。それでも、恐る恐る声に出した。
「えぇっと……うん、佐々木君も一緒でいいよ。み、皆で食べたほうが楽しいし」
よし、言えた。ナイスだ私!グッジョブ私!
「そっか。巴は俺が居てもいいんだな。秋月は……どうせ駄目だろ?」
「何言ってるのよ?別にあんたが来たっていいけど、」
「んじゃ、俺は巴と二人っきりで食べてくるさ。とびっきりの甘いデザートを!」
その言葉に私は顔を赤らめてしまったかもしれない。
落ち着け……落ち着け……。これが冗談だっていうのはわかる!こんないつもの事、私の変な能力を使わなくても冗談で言ってるって分かるって!それでも嬉しいのもわかるが、ここは耐えるんだ、私!
「なぬーー!こら佐々木!私の真美奈をさらって行くなー!っていうか私を一人ぼっちにするなー!」
由美が私の腕をつかんでぐいと引っ張る。
「了解、了解。しょうがねえなぁ。最初から三人で行くつもりだっつーの。なんでいつものように言ってる冗談を真に受けちゃうかな、秋月は」
いつも由美は本気にしちゃうのだ。それだけ、何事にも真剣に挑んでるって事なのかな?ちょっと違うかな?まぁいいや。
こうして私達は、ケーキ屋に向かった。
晴れた空の下。
友人達と足をそろえて歩く。
目指すはケーキ屋、目指すはオヤツ。小遣い無くともおごりはあるはず。信じてひたすらケーキ屋へ。
そして今の私達の心は、広大に広がる青空のように、澄んでいて、広い。
「さて、ここが目的地な訳だが。」
店に着くなり、佐々木君はそう言って店に振り向いた。何故か店の窓ガラスを指差している。
何があるのかと思い、私と由美はその窓ガラスを見てみる。沢山の広告や、新商品の宣伝が貼られている。その中に、一際大きくて目立つものが貼ってあった。
「え〜と、<超濃厚純和風ケーキ>……。時間内に食べ切れたらお代は無料。……コレを食べるの?」
私は佐々木君に聞いてみた。そうだよ、と言うような眼差しで私と由美を見ている。
「へぇ、おもしろそうじゃないの。たまには良いかもね、こういうのも。佐々木はオッケー見たいだし……真美奈は?」
「うん、私も食べてみたい。超濃厚って、どんなのだろ?」
ちょっとワクワクしながら、私はその張り紙を見てみる。スポンジの周りを緑色のクリームが飾り、中には、何だろう、白玉団子だろうか?美味しそうだ。
「とにかく中に入って、食ってみようぜ。いくぞー!」
佐々木君が早足で店の中に入った。私と由美も、足並みそろえて中に飛び込む。
席に着くと、すぐに超濃厚純和風ケーキを注文する。
三人分で3000円。かなり高い。それでも、食べきれる事ができれば、無料なのだ。絶対に食べきってみせる!
それは、他の二人も同じようだった。二人とも時間内に食べ切る等、簡単だと思っているようだ。
所詮はケーキ。甘い物好きな私達にとっては楽勝よ!
……でも、この時気付いておくべきだった。注文したときに、店員さんが、<え、マジで?>と言わんばかりの表情をしていた事に……。
っていうか、この時こそ私の変な能力を使うべきだったのかもしれない。店員さんが何を考えているのかを知るべきだった。
とにかく、全てが遅かった……。