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ただその為だけに

ただそれは世界の復興の為だけに――。

ただそれは人類の為だけに――。

それはただその為だけに作られた。

世界と人類の為だけに。

―――――――――――――――――――


世界にはゆっくりと、だが確実に秩序を失った時代があった。

かつて存在した、巨大な国家と、貧しい小国たちとの戦争。そしてそれがもたらした惨状。

事の発端は、貧しい小国からの声明だった。

各国の代表者が集まる会議で、この声明は発表された。


――何故大国は、自国の繁栄には力を尽くすのに、我ら弱小国へ救いの手を差し伸べないのか。

我らは大国を支える、いわば生命線ともいえるのに。

我らが居なくなれば、大国もたちどころに塵となり消え失せるというのに。

それでも我らを無視し、欲望のままに尽くすのならば、我らも武器を手に取り力を持って訴えるしかない

剣を手に取れ。盾を手に取れ。弱き者達よ。今こそ、椅子に座り我らを見下す輩どもに制裁を――



ある小国が世界に向けて表明した言葉。心からの叫び。……つまりこれは大国に対してのテロや戦争、即ち武力を使うもの一切を認める発言になってしまった。


当時は、幾つかの大国のみが繁栄しており、その周りにはただの大国のためだけに存在しているかのような小国があった。

食糧、資源、エネルギーとあらゆるものは貧しい小国が作り出し、そしてそれは肥大化していく大国のためだけに使われていった。

当然、力を求める大国同士の戦争もまた、止まなかった。僅か数国のみが戦う、巨大な戦争。その足元で死んでいく、小さな国々。

子供は飢え、大人も病に倒れ、それでも老若男女問わず、ただ大国のためだけに働かされた。


不満が溜まり、それでも戦争をやめない大国への怒りが爆発しそうになった矢先、発表されたのが、この発言だった。

極端な貧富の差が原因のこの戦争。だが、この発言の後、先に攻撃を仕掛けたのは大国群の方だった。


資源や食料の流通ストップを恐れた大国達は、それを阻止するため、小国を自らの傘下に治めるため、無理な攻撃を仕掛けたのだ。

当然、小国もその暴虐に対して立ち向かう。戦火は瞬く間に世界へと広がる。


救いの手を差し伸べなかった大国。それに対しての怒りが爆発する小国。

圧倒的な軍事力で進撃しようとする大国。だが、小国同士の頑なな結束力には苦戦していた。


この戦争の名前は、今でも残っている。

――最終戦争。

実に単純明快だが、この通りだった。


銃器から、戦闘機に戦車。爆弾や化学兵器。この世のありとあらゆる武器が戦場に持ち出された。

果てには最新技術の塊、「人型戦術兵器」まで。

人の形を模した、この兵器によって、そしてそれへの対抗策を巡って、各国の戦争は更に激化の一途を辿る。



やがて何十年もの年月が過ぎた頃、ついにこの戦争にも終戦の兆しが見えた。

その巨大さゆえに、自ら崩壊していった大国。自生産力をほとんど失っていた大国には、あらゆる物資の確保がもっとも困難だったそうだ。

つまり、大国の破滅の最大の理由は――食糧不足による、餓死。小国が味わった苦痛を、大国も味わい、苦しみ、崩れていったのだ。

食料生産力が0だった訳ではないが、それでも自国民全員の食料を確保するのは無理だったという。


こうしてこの戦争は終結し、平和への光が差し込んだ、かの様に見えた。

王座が空けば、そこにまた座ろうと争うものが出てくる。それは、弱小国と呼ばれ、虫けらの様に扱われた国々。


亡くなった大国から、今まで以上の力を手に入れた弱小国群は、見違えるほどの軍事国家へと成長した。

ここから先が、本当の最終戦争である。

……その後、どうなったのか。

ここから先は、正確に記されていない。記録の一切が、闇へと葬られたのだ。

どこで何をして、どんな行動をしたのか。いつ戦争が始まりいつが終戦日なのかすら正確にはわからない。

開戦から、終戦までの間が真っ黒に塗りつぶされている。

何があったのか、それを知る事はもはや困難だろう。


終戦後の世界は、荒れ果て、まさに地獄絵図だったという。

瓦礫に埋もれる人々。両親の名を叫び、さまよう子供。食料も手に入らず、うつ伏せになる人。

蛆が涌き、汚物が飛び散り、異臭が漂うゴーストタウン。化学兵器でも使われたのだろうか、不気味な色に染まった空、海、大地。

そしてどこに行っても目に付くのは……死体。

どこに行っても、大国が存在した時とまったく変わらない状態だった。いや、それよりも酷かったとも聞く。



この惨状を目にした、生き残った人々、そしてこの戦争に何故か関ろうとしなかった小国達。

彼らは、一つの考えの下に、計画を立てた。

世界統一。

……疲れきっていた国々は一切の反論を口にせず、この計画へと参加していく。

それは戦争の広がるスピードよりも速かった。一瞬で国々が結束しあい、世界を保とうとしたのである。

作られた一つの国。その名は「ザ・ワールド」。

国同士の国境など存在せず、全ての人間が同じ国民。だから「世界」という国名が決定された。

かつての弱小国は、いくつかの先進国に新政府の樹立を任せ、それぞれが大きな企業となった。

食料専門、薬品専門、工業専門等だ。


最終戦争が終わるのにかけた年月よりも、長い時間をかけ、世界はゆっくりと繁栄しつつあった。


……人とは争いを止められないもの。

世界が一応安定してくると、またもや利益を得ようと争いだした。

情報戦から、実力行使まで。「力」と名のつくものなら、何でも使った。


世界は統一されたが、それでも区別するために住み分けが行われていた。

……そして思想や、人種差別によって引き起こされる、殺人や、強盗。大きなものになれば、企業同士の紛争。時代が進むにつれ、もはやこれらは黙認されていた。

人々は、今でも世界は平和になったと口をそろえて言う。事実、紛争も、殺人も、そんな事とは無関係な、平和な地域もある。

しかし、その地域の数も年々減ってきているという。


今日もどこかで誰かが倒れ、血が流れている。それでも鉛弾が飛び交う音は止まない。

だが、それを止める力も、権利も、どこにも無い。誰も持ってない。



だが世界は無秩序では存在できない。

だからこそ。



それはただその為だけに作られた。

世界と人類の為だけに。





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