【木彫りのハニーベア・終章:1】
視覚が情報を伝える。
目の前で×××が血を流して倒れている。ピクリとも動かない。理解できない。
なにか遠くで音がする。鳴らしているのは誰だ。
嗅覚が情報を伝える。
嗅ぎ慣れたかわいらしい匂いに混じって、鉄と錆と濃い赤の匂いがする。頭の奥が痺れたようになる。
なにか大きな音がする。鳴らすのは誰だ。
聴覚が情報を伝える。
「(却下)(却下)(却下)」
そんな情報は必要ない。
なにか近くで大きな音がする。鳴くのは誰だ。
漸く情報を頭が処理する気になったらしい。
のろのろと思考が紡がれる。
(×××は死んだ)
「(却下)?(却下)!!(却――。」
有象無象を薙ぐ。
見事に吹き飛んだ。
もう何も聞こえない。
遅すぎる思考に痺れを切らしたのか、身体が勝手に反応したらしい。
ああ、それでわかった。さっきからずっとしている音。あれは私の叫び声だったのだ。
身体が大きく熱くなっている、気がする。
遠い過去。生まれた時から必死で抑え込んできた遺伝的飢餓。ソレが目を覚ましている。
今となってはなぜ必死で抑えてきたのかわからない。
視覚情報はよりシンプルになり背景と生物の違いだけを伝える。
嗅覚情報は相手の位置と思考が大まかにわかる。周囲に適応して発散させる汗などの分泌物を感知しているのだろう。
聴覚情報は獲物が鼓動をうっているかどうかがわかる。
だが、正直言ってどうでもいい。
なんかよくわからないし。面倒くさい。
だから、私はいつまでたっても先に進まない思考を停止して身体に任せることにした。
そちらの方がこれからうまくやってくれるだろうから。
たき火の残りが燃え広がり、炎をあげる中。
新たに誕生した『先祖返り』は、渇きのままに歩み始めた。




