ロレッタの恋煩い
ええええ、嘘~~~~!!
その日、私は絶望した。
なぜなら。
「ラウロの【運命】が選ばれたって……本当!?」
友人のリリア・テレジア伯爵令嬢に詰め寄ると、彼女はケーキにフォークを刺した格好のまま、頷いた。
「本当よ。私、今朝登城したの。その時、文官のひとたちが話していたから、事実よ」
「信じたくない……」
「確かにショックだろうけど……ほら、元気出して?私のショートケーキあげる。特別よ?」
フォークに刺さっているのは、苺。
ショートケーキの主役と言ってもいい苺をくれようとしているのだ。
きっと、本心からリリアは私を慰めようとしてくれている。
私は、彼女の優しさに甘えて、口を開いた。
旬は過ぎているはずなのに、火魔法で温度調節された室内で栽培されている苺はとても甘かった。
王都の一番通り。人気のパティスリーの、しかもテラス席。
いつもなら楽しくケーキをいただいていたことだろう。
だけど今の私の胸中は、猛吹雪が吹き荒れていた。
私の名前は、ロレッタ・エーテル。
婚約者も、【運命】も決まっていない、適齢期十六歳の、貴族令嬢。
お父様は伯爵という肩書を戴いていて、この王国に務める文官でもある。
この日、私が嘆いている理由はただひとつ。
それは──
(好きなひとの【運命】が選抜されてしまったわ……!!)
突っ伏したくなるほど、悲しい。
しかもそれは、私ではない。私だったらとっても、ものすごく!嬉しいのに。
我が国には、【運命】システムというものがある。
なんでも昔、えらーいひとが「これはいいものだ!わが国の発展に大いに役立つであろう!」という予言と共に授けたのだとかなんとか。私は正直、その伝承は胡散臭いと思っている。
どうせ箔付けに違いない。
だけど、その運命システムは好評で、あまり悪い話は聞かない。
もしかしたら水面下では、山ほどあるのかもしれないけど。
運命は、魔力の相性で決められる。
水魔法と火魔法の相性が悪いように、逆に火と風なら相性がいいように。
そんな調子で、運命システムは選出しているようだった。あくまで、噂だけど。
そして、この度めでたく。
私の片思い相手である幼馴染。
ラウロ・アルモンドにも、運命の相手とやらが選ばれました。
なんて悲報。
思わず突っ伏したまま、涙をこぼす。
「うわ~~~~ん!嘘よ、嘘よ嘘よ!!その運命のひとより絶対私の方がラウロのこと好きだもの!」
「そうねぇ。それはそうだと思う、絶対」
リリアは妙に強く断言した。
この友人は、私と長い付き合いで、私のもうひとりの幼馴染。
私の恋心が、片思い歴がもうじき十年になることも、彼女は知っている。
耳にタコができる程に聞かされ続けて、年々、彼女の相槌はてきとうになっていく。けどいい。
今はとにかく。
「運命システムが、何よ!あんなのインチキだわ!私の方がラウロのこと、好きなのにーーー!!」
「なら、そう言ってくればいいじゃない」
「誰に!?」
顔を上げる。きっと、今の私は鼻水と涙で酷い有様だ。
令嬢としてあり得ない。こんなところをラウロに見られたら、きっと百年の恋も冷める。
だけど相手は友人かつ同性なので、気にしない。
リリアは私の悲惨な顔面に顔をひきつらせたがため息を吐いていった。
「まずはラウロ」
「……断られたら!?」
不安になって尋ねると、カッと一喝された。
「このヘタレ!言わなきゃ何も始まらないでしょーが!そんなこと言うなら私なんてもう何回振られてるか分からないわよ!!」
そうだった。
お淑やかに見えて、リリアは行動派だ。
二回りも年上の男性に長年恋をしていて、毎年誕生日に告白しては、玉砕している。
そんな彼女の前で、怖くて告白なんてできない~~なんて泣き言を言えるはずがない。
リリアはくわっと目を吊り上げて、さらに私を叱咤した。
「じゃあ何よ。あんたはこのまま、これから【運命】とやらで選ばれたどこの馬の骨かもわからないポッと出の女に奪われていいのかしら!?それで、結婚したラウロを草葉の陰からジメジメ見るつもり!?」
ジメジメ!?
草葉の陰とジメジメというフレーズのセットは、なぜかナメクジを思わせた。
「草葉の陰って、私、死んじゃうの……!?」
「そこじゃないでしょ!別に朝顔の蔓の陰とか、背高草とか、雑草でもいいわよ!」
雑草の陰から、ひそかに見つめる自分を想像して、私の涙は引っ込んだ。
あまりに不気味だったからだ。
リリアはそんな私に呆れ交じりで言った。
「別に、何も運命が決まったからと言ってすぐに婚約になるわけじゃないでしょ?最初はお試し期間とかあるじゃない」
確かに、システムの誤作動は稀に良くある話だ。
相性がいいはずなのに不和を起こして縁組にならない話もまぁ、なくはない。
しかし、私の脳内にはナメクジが居座っているのだ。
十年、ひた隠しにしてきた恋心の施錠は頑固で、うんともすんともいわない。
「お試し期間をすっ飛ばす可能性もあるのではない……?」
「ええい、鬱陶しい!」
塩をまきそうな勢いでリリアは言った。
「それなら早く聞いてきなさ──あ」
「『あ?』」
その声が、不自然に止まる。
彼女の視線は、私の背後。
後ろに、なにか……?
恐る恐る振り向けば、そこには件の人物が立っていた。
「きゃああ!!」
「良かったじゃない。話す手間が省けて。それじゃあ私、用事あるからこの辺で!」
すっと立ったリリアが微笑を浮かべる。
見れば、彼女の皿にあったケーキはなくなっていた。
結構な量があったのに、いつの間に……。
唖然としている暇もなく、リリアが颯爽とその場を後にした。
残されたのは、どこから聞いていたの?どこ??と落ち着きがない私と──ラウロのふたり。
「こんにちは、ロレッタ」
「こ、こんにちは……」
ラウロはいつものように私に挨拶した。
表情が……読めない。
(な、なに?どこから??どこから聞いていたの??)
もしかして私の赤裸々な恥ずかしい告白も──草葉の陰がなんちゃらも。
聞かれていたのだろうか。もしそうなら、この場を脱兎の勢いで逃げ出したい。
だって私は、まだ、幼馴染という関係から外れたくない。
恋愛は、怖い。
周囲にも、付き合ってみたはいいけれど、うまくいかずにお別れしてしまった、というケースが多々ある。この国は、運命システムがあるからか、お付き合いにはそこまでうるさくない。
よほど乱れていなければ。
「今日、暑いね」
「ラウロは髪が長いからじゃない?」
「そうかも」
ふは、とラウロが笑う。
私の好きな笑い方。
ラウロは、長い銀の髪に、薄青の瞳をしている。
私はずっと長いこと、彼の色彩に囚われている。
ラウロと目が合って、彼がにこりと笑った。
「座っていい?」
彼は、空いた席を示した。
さっきまで、リリアが座っていた場所だ。
辛うじて頷いて答えると、すぐに控えていた従業員が注文を聞きに来る。
ラウロはちら、と私を見てから尋ねた。
「ロレッタが食べてるのは檸檬パイ?」
「え、ええ。……夏だから」
「夏だから?まあいいや。俺も同じのをお願いします」
それからラウロは、アイスティーを頼むと、「で?」と尋ねてきた。
「え?」
目を瞬いてから、そういえば、夏だから?の質問に答えていなかったことに気が付いた。
「夏はほら、酸っぱいのを食べたくならない?檸檬シャーベットとか」
「確かに、夏は食べたくなるね。そうじゃなくて、さっきの話。全部聞こえてたんだけど?」
「……全部?」
「全部」
「どこから?」
「俺の運命がどう、って話してたところから」
つまり──
『ラウロの【運命】が選ばれたって……本当!?』
ここから!?
なんてこと。
本当に、全部じゃない……!
私はふたたびテーブルに突っ伏した。
タイミングよく、ラウロに檸檬パイとアイスティーが配膳されてくる。
従業員はちらちらとラウロを気にしていて、やっぱり彼の造形は人目を惹くのだと納得してしまった。
「……運命が決まったって、本当?」
全部聞かれてた。
とんでもなく恥ずかしい。
やけっぱちになった私は、無意味に檸檬パイをフォークで細かく分けた。
こんなところを教育係に見られたらお説教の雷が落ちる。
だけど、お皿に視線を固定して、無意味に檸檬パイでも見ていなければやっていられなかった。
私の十年の片思い。まさかこんなところで終わってしまうなんて……。
本当なら、もっとロマンティックに、想いを伝えたかった。
夜空を背景にした、バルコニーとか。
薔薇のシーズンの、庭園とか。
こんな、「あっ、うっかり言っちゃった!」みたいな、しかも食べかけの檸檬パイを前にした状況ではなかった。ここは王都でも人気のパティスリーだけど、ひとが多くてロマンティックとは程遠い。
しゅんと肩を落としていると、さらに追撃を受けた。
「運命の話?本当だよ。さっき顔合わせもしてきた」
うっ。しかも、ぐさってきた。
「可愛かった?」
「まあね」
「…………」
撃沈。私は細かく分けた檸檬パイを、これ以上数を増やすことは難しそうだったので、その一切れにフォークを刺した。ちいさな欠片なので、フォークの先から少し、ぽろぽろと生地が落ちる。
食べにくい。
「……ロレッタは、俺が好きなの?」
淡々と尋ねられて、少し腹が立った。
さっきの、全部聞いていたんでしょう!?
一から十まで!それなら、知ったはずだ。
私がどれほどラウロのことが好きなのかを。
勢いよく顔を上げて、私は宣言しようとした。
そこで、ふと止まる。
「な……何?」
「何って、何が?」
逆に問い返された。
「だって……なんでそんなに、嬉しそうなの」
そんな顔をされたら、ちっとも怒る気がしない。
ラウロはお行儀悪くテーブルに頬杖をついて、私を見ていた。
ニマニマ、という擬音がぴったりだわ。
妙に居心地が悪い。落ち着きなくそわそわしながら、私はじっとラウロを見た。
「まさかあなた、嬉しいの?」
「そりゃあね」
即答。
唖然とする私に、ニコニコと微笑んでラウロが言った。
「俺も、ロレッタが好きだよ」
「う、嘘だ!」
「嘘じゃないよ」
思わず立ち上がってしまった私に、注目が集まる。
やってしまった。超ド級のマナー違反。
思わず、ガヴァネスの姿がないか探してしまう。
良かった、周りは同い年くらいの令嬢ばかり。
マナーにうるさい婦人は見られない。
だけど、後でお母様に伝わったらきっとお小言を貰う。
途端、憂鬱になりながら、私はそっと着席した。
今度は、優雅に。もうさっき、乱暴に立ってしまったから意味はないけど、少しでも上品に見えるように。
「今度は何?落ち込んでるけど」
「とんでもないマナー違反をしてしまったから……お母様に叱られると思ったら気が重くて」
「なるほど。でも……周囲の女性のほとんどは、きみと面識がないんじゃない?きみの名前を知らないなら、夫人に伝わることもない」
「なるほど……」
確かに、周囲は夜会で見たことはあるけど、挨拶を交わしたことのない令嬢がほとんどだった。
私が納得していると、ラウロが言った。
「それで、ロレッタ?返事が欲しいんだけど」
「え?それなら──というか、あなたは私の気持ちを知ってるのでしょ?」
「それでも、知りたいと思うのが男心だよ」
そう言われてしまえば、否定なんてできない。
私は咄嗟に周囲に視線を走らせてから、フォークを置いた。
ラウロが私の動作に戸惑ったように目を瞬く。
私は両手を膝の上に揃えておくと──背筋を伸ばして、彼を見た。
想いを伝えるなら、ちゃんと。
片手間ではなく、しっかり目を見て、背筋を張って言いたかった。
「……好き」
一言、口にするのがこんなに難しいとは思わなかった。
ぶわっと、羞恥に身を焼かれる。声もなく震えていると、返事がないことに気が付いた。
「ちょ、ちょっと。ラウロ。なにか言って──」
顔を上げて、驚いた。
ラウロは口元を手で覆っていて、なんと、その顔が赤い。
「あなた……顔が真っ赤よ?」
「そういうことは、わかってても言わないものだよ」
少し上ずった声で言ってから、ラウロは目線を逸らした。
まだ、その目元は赤い。
「……ごめん。実は、聞いてたっていうの、嘘」
「えっ!?」
驚きにふたたび腰が浮きかける。
だけどラウロはさらに気恥ずかしさが増したようで、まつ毛を伏せてしまった。
「俺の【運命】。リリアだったんだよ」
「えっ、えっ、えええ!?」
「知ってる?あれは、近しい相手が選ばれるシステムだってこと。俺の属性は水。リリアは木。それで、ロレッタは火だろ?相性のいい組み合わせって言えば、俺とリリアになる」
ラウロの言葉を、私は呆然と聞いていた。
そういえば……リリアは最初、王城で聞いたばかり、と言っていた。
文官から聞いた、とも。
嘘は言っていない。
「~~~~~~」
思わず、テーブルに突っ伏した。
言ってよ……!言ってくれたっていいじゃない!?リリアーーー!
がっくりとうなだれる私に、ラウロが言った。
「退室した後、お互いに無い、となったんだ。俺もリリアも好きなひとがいる」
ラウロの気持ちは知らなかったけど……リリアのことなら知っている。
私は脱力しながらも、辛うじて頷いた。
リリアには長年の片思い相手がいる。
とても年が離れていて相手にされないのだと、何度も悔し気に言っている。
(どうりで、今朝、いきなりリリアからお誘いがあったわけだわ……)
「それで、リリアが、運命の話をロレッタにしておく、とか、言うじゃないか?そういうのは、こじれないように三人集まってからの方がいいでしょ、って言ったんだけど、リリアはきみとのアフタヌーンティーの後は意中の相手に突撃するって言ってね」
(なるほど、どうりであっという間にリリアの姿がなくなったわけだわ……)
もともと、ここにラウロが来ることを知っていて、ラウロがきたら離席するつもりだったのだろう。
すべてのことが繋がっていく。
「でも、運命に選ばれたら……婚約するものではないの?」
例外は除くとして、だいたいはそうなるはずだ。
運命システムは何も性格の相性だけではなく、子供のできやすさとか。
遺伝子の組み合わせとかまで計算しての選出、らしい。どこまで本当かは分からない。
神殿が勝手に言ってるだけかもしれないし、事実かもしれない。
思わず視線を落とすと、わずかな沈黙の末、ラウロが言った。
「じゃあ、俺と亡命する?」
「……えっ!?」
予想外の言葉に驚いて、顔をあげる。
そこには【亡命】という衝撃的な言葉とは裏腹に、穏やかに笑うラウロがいた。
「俺と一緒に外国で暮らす?」
「な、何言ってるの……?」
さら、とラウロが私の髪を指ですくった。
いつだったか、夏には涼しくていいね、とラウロが言ってくれた、水色の髪。
「冗談だと思う?」
「あなたは、伯爵家の息子でしょう?魔術師としても、優秀だと聞いたわ」
「そんなもの、あったとこで隣にきみがいないなら、意味なんてないんだけど?」
「本気?」
ラウロの声はどこまでも穏やかで、だからこそ戸惑ってしまった。
この国を捨てて、外国で──。
ごくり、と唾をのむと、それまでの緊張感を解いて、ラウロが笑った。
「なんてね。冗談……ではないんだな、これが」
「えええ」
「実は、準備だけはもう済ませているんだ。これが、リリアより出遅れた理由」
懐中時計を見れば、リリアとの約束の時間から、四十分ほどが経過していた。
ギリギリまで、その準備とやらを進めていたのだろう。
ラウロは、首を傾げて、にこやかに私に尋ねた。
「いざという時は、俺と外国に逃げてくれる?」
それは、もしや、プロポーズなどよりも、ずっとずっと、重い言葉なのではないだろうか。
檸檬パイの欠片は、フォークに刺さったまま。
周囲では、楽し気に令嬢たちが談笑している。
全くロマンティックではないシチュエーションで、私はとんでもないお誘いを受けている。
ここだけ、まるで違う空間になったかのように、切り取られていた。
「でも、大丈夫だよ。我が国はそんな、家畜の交配みたいな真似はしないから」
「かち……」
「リリアも猛反発していたし、俺も父上にそう答えておいた。まあ、反対するくらいなら相手を連れてこい、って話にはなるだろうけど。その【相手】に、なってくれる?ロレッタ・エーテル伯爵令嬢?」
にこりと微笑まれて、先ほどよりもずっと穏やかな言葉なのに、私はくちびるが震えた。
嫌なのではない。むしろ逆だ。
「う、うう……」
「嘘でしょ、泣く?」
「だ、だって、嬉しくて……」
ずっと、私の片思いだと思ってきた。
ラウロは優しいけど、その優しさは誰にでも向けられるものかもしれないと思っていた。
それに、彼の扱いは時々、妹相手に対するようなものに感じられて、常に不安を覚えていた。
結局、なんだかんだシチュエーションがどう、とか言いながら。
私はラウロに告白する勇気を持てていなかっただけの話だった。
「す、好き……好きよ、ラウロ。あなたが、い、一緒に虹の端を見つけに行こうって、言った時から」
「待ってそれ、いつの話?ものすごく前じゃない?」
「六歳の時の話……」
鼻をすすりながら答えると、真剣な顔をしてラウロが答えた。
「確かにそんな話をした覚えがある気がする」
「気がするじゃなくて、話したわ」
六歳のとある日。
私は、彼に手を引かれて──飛び出すようにバルコニーから庭園に足をついた。
その時から、景色が煌めいていた。
雨上がりの、虹。その端を見に行こう、とラウロはいった。
私は、覚えてないけどなにかが理由で泣いていて、ラウロはそれを慰めてくれたのだ。
しばらく沈黙していたラウロが話し出したので、顔をあげる。
「思い出した。ロレッタ、その時きみさ」
彼は、何か面白いことでもあったのか、楽し気な顔をしていた。
「泣いてたんだよ。なんで泣いてたか、覚えてる?」
泣いていた気はするけど、理由までは覚えていない。
首を横に振ると、ラウロがくすぐったそうに笑って言った。
「本だよ、本。読んでいた小説が理由で泣いていたんだ。妖精が死んでしまったんだってね。きみはそれにとてもショックを受けて──そうそう。三日三晩泣いて、俺と会った時も目が腫れてた」
少しずつ説明されて、忘れていた記憶が徐々によみがえってくる。
……思い出した。
(そうだわ、あの時……)
私が読んでいた本では、女の子が、相棒の妖精と世界を巡っていた。
だけど最後の最後で、妖精は女の子を庇って死んでしまう。
『死ぬわけじゃない、還るだけだよ』と話す妖精に、女の子は悲しく思って、涙を流す。
(どうして、忘れていたのかしら……)
あまりに悲しくて、悲しくて。その小説をふたたび開くことはなかった。
そうだ、そうだったわ。
それで、ラウロが連れ出してくれたんだ。
あまりに私が泣いているから。
『天国には、虹の橋を渡って行くんだって。今、お外に虹が出てるんだ。……ねえ、ロレッタ。一緒に、見に行かない?虹の端を、探しに行こう!妖精に、会えるかもよ!』
そう言って、ラウロは私を外に連れ出した。
『その妖精も、きっと虹の橋を渡ってる!こんなに綺麗なんだから、きっと、きっとね!』
ラウロの言うことに信憑性はなかったし、そもそも小説のお話なのだけど、私はラウロのその言葉にとても救われた。同時に、初めて見た虹の美しさに、目を奪われた。
(一目惚れ……だと思っていたけど)
よくよく思い返せば、ちゃんと理由があった。
愕然としている私に、ラウロがなぜか得意げに言った。
「好きになったのは、俺の方が先だね?俺は、好きな女の子に泣き止んでほしくて──あの日。きみを外に連れ出したんだから」
今書いてるのがとんでもないドシリアスなので息抜きに書いたお話。たまにはゴリゴリの恋愛小説も書きたい…




