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凸凹コンビ

作者: 田中花林
掲載日:2026/06/27


美嘉と大志のお互い疾患持ちの夫婦


 凸凹コンビ

                田中花林

 美嘉と大志は、二人共、障がい者の夫婦だった。

 二人の毎月の手当を足すと、十五万円ほどで、生活が困窮を極めていた。

 大志は、現在リハビリ中で、ある文芸の投稿サイトの運営のボランティアをやっていて、

食事や風呂やゴミ出し以外はずっと、書斎にある自身のPCにかじりついていた。

 美嘉はというと、家計を回していたので、

その少な過ぎる十五万円の中でやりくりするのに必死だった。

 スーパーで、単価が安くなるからと大きなサイズのお肉のパックを購入して、帰宅後、グラムをはかって、ラップで包んで、それをさらにジーブロックに入れて、冷凍庫で保存していた。

 また、冷蔵庫にあるものに、何を足せば料理になるのか、頭を酷使しなければならず、苦労の連続だった。

 それでも、食費と日用品費は合わせて一週間一万円で、月四万円から五万円内におさえて、残ったお金は、父の日や母の日などのプレゼント代に当ててていた。

 普通、そうやって出来たお金は、主婦のへそくりと言うんですよと、ある所の相談員が教えてくれた。

 しかし、プレゼントを贈る際は、美嘉の銀行口座から、お金を引き落としていたので、

美嘉にしてみたら、こういうやり方の方が貯金があまり減らずに助かるのだった。

 料理も出来るだけ、ひじきの煮物や切り干し大根の煮物をはじめ、手作り出来るものは

出来るだけ手作りしていた。

 昼食もパスタを茹でたり、安いラーメンの五個入りを購入して茹でて、それらを食していた。

 また、大志が飽きない様に、夕食の献立をたてるのにも躍起になっていた。

 そういった主婦業による疲労からか、一時期、『赤ちゃんに戻りたい』だとか、『入院して家事を休みたい』としきりにまわりに言っていた。

 大志は、母親がキッチンに入らせなかったらしくて、しかも本人が料理する事にも興味がなかったのか、ラーメンさえ茹でられなかった。

 それには、美嘉は参った。最近の男性は、

料理を作る人も増えてきているからだ。

 しかし、無理を言っても仕方が無いとあきらめていた。

それでも、つらくて困っていたので、病院で相談すると、主治医の提案で食事を作る日と、洗濯をする日で交互にやっていくプランを立てて、それを実行してみたらそれが功を奏して、美嘉の体調は徐々に元に戻って行き、なんとか回復した。


「大志君、運営の仕事、楽しい?」

「楽しいよ。みんなとコミュニケーションするのが面白い」

 そう、言っていた。

 しかし、美嘉としては他に仕事があって、さらにボランティアにも精を出すならわかるが、無職でボランティアをする事はいただけなかった。

 それで大志に

「それ、お金が発生しないでしょ?他にリモートワークでも探したら?月二万でも三万でも稼いでくれるとありがたいんだけど。ほら、私は家事があるし、障がい者だから、家事プラス仕事じゃあ、バテて、また入院になっても困るでしょう?そうなると今度は、もっと大志君に迷惑かけちゃうし」

 そう言った。

 しかし、これは実は少し違っていた。

 例え、大志が家事を全部やってくれたとしても、美嘉は外に働きには出られなかっただろう。

 それは、美嘉が仕事に対して苦手意識があるからだった。

 学生時代は、親からおこずかいをもらっていたので、比較的お金を自由に使えたが、いざ社会人として社会に出て、就職してみると、

自分が仕事に向いていない事がわかった。

 なぜなら、仕事を辞めた後や、仕事をやり始める前に、いつも美嘉は体調を崩して、入院していたからだ。

 きっと、仕事に対して、物凄くプレッシャーを感じてしまうタイプなのだろう。

 美嘉は、ナイーブというか、精神的に弱い所があった。

 だから、大志がブランクがある事で、仕事に対して、不安になっている事はよく理解出来た。

 しかし、ふたりには生活があった。

 結局、月十五万円だとギリギリの生活で、美嘉は毎日ピリピリしていたので、大志も、そんな美嘉を見て、自分が稼ぐしか道はないと思っているのだろう。

 なぜなら、この予算だと手当の中で、遊びにも行けなかったからだ。

 やはり、人間楽しみもないと続かないのが現実だろう。

 その部分がないふたりの生活には、潤いがなかった。

 

 美嘉は、やはり大志は頼りにならないと思ったので、自分がパートにでもでるべきかとも思った。

 しかし、パートと家事を両立させる自信が全然なかった。

 それだけに、ふたりは困っていた。

 どうにかして、資金面をなんとかしたかった。

 そして、美嘉は以前からやっている自分が運営するブログを有料化にする事を思いついた。

 しかし、はたして自分がお金を払ってまでして読みたいブログ記事を書けているか謎だったので、なんとも情けない思いがした。

 しかも、美嘉は一応、四大を出ているのに、

 これといった資格もなければ、技術もない。

 つまりは、稼ぐ力がない事が美嘉を悲痛な思いにさせた。

 これでは四大を出た意味がない様な、そんな気がした。

 両親が私のために支払ってくれた、一千万円が台無しになる気がした。

 それは親に対して申し訳なかったし、自分で自分を許せなかった。

 美嘉が自分にも他人にも厳しいのは、こういった所からきていた。

 そして、こういった事から、美嘉は自分に自信が持てなかった。

 とても、四大卒として胸を張れる様な自分ではなかったからである。

 大学時代は本当に何もしていなかった。

 していた事と言えば、曲を聴く事や、恋愛系の雑誌やダイエット系の雑誌を読む事ぐらいだった。 

 そしてただ、月日が経つのを待っていた。

 卒業したら明るい未来がやってくるのをただひたすらに信じていた。

 この頃、美嘉は、オフィスラブ系の小説にはまっていて、将来は仕事の後の、アフターファイブに、コンパをしたり、友達とショッピングを楽しむ様な未来を思い描いていたからだ。

 しかし、その夢は見事に打ち砕かれた。


 何社受けても落ちていた。

 それは、大学の成績がよくなかった事が、多分に影響していたと思う。

 それに、美嘉は話すのが得意ではなかった。

極端に下手だったので、たまたま書類審査などが通っても、面接試験で上手く自己PRする事が出来ず、入社には至らなかった。

 面接が終わって、帰り道、一緒に面接を受けた子達が、美嘉の前を二人で歩いていて、

時々後ろを振り返りながら、美嘉の事を馬鹿にして笑っていた。

 美嘉は、悔しかったというより、そんな自分が憐れだったし、悲しかった。

 それに美嘉は、それもそのはずで教養がなかった。

 それにひきかえ大志はあった。

 大志は、昔、音楽系の専門学校に通っていて、そこで音楽に関する歴史の資格を持っていた。

 だから、美嘉は大志を尊敬していた。


 大志は、東京で働いていたが、都会での生活に疲れてやっぱり、生まれ育った地元に帰りたい思いが強く、音楽系の仕事を捨ててまで帰って来た。

 美嘉とは共通の知人を介して知り合い、意気投合して、その日の内に連絡先を交換すると、次に会う約束をして、それが続いて、五年後、ふたりは結婚する運びとなった。

 美嘉と大志の共通の趣味は音楽と文学だった。

 大志がコード進行を考えて、美嘉がそこに歌詞とメロディーをつけ、楽曲にして、美嘉が歌った。

 ライブハウスで歌った事もあった。

 ステージに立つと、とんでもない興奮と、

刺激があって、美嘉はすぐ虜になった。

 大志に次の曲のコード進行を考えてほしいと、何度も要求してきて、大志は美嘉の曲作りに対する情熱に圧倒されていた。

 しかし、美嘉は楽器が弾けなかったので、大志にお願いするしか方法がなかったのだった。

 ライブハウスで出たカシスオレンジは、スーパーやコンビニで売られている、カクテルと同じ様に薄過ぎて、美嘉はまるで飲んだ気がしなかった。

 ずっと前、友達と一緒に行った居酒屋で飲んだ、濃くて美味しいカシスオレンジの事が忘れられなかった。恋しかった。

 探せば、市販で缶じゃない濃いカシスオレンジは探せばありそうだが、家で飲むのが習慣化する事をおそれてなかなか踏み出せなかった。

 また、飲んでいる疾患の薬との相性が悪いと以前、病院の相談員から聞いていたので、あきらめるしかなかった。

 しかし、同じ疾患なのにもかかわらず、大志は煙草も吸ったし、お酒だってたまに飲んだ。

 本人は、お酒と薬の関係など考えていなさそうだったので、今度教えてあげようと美嘉は思った。


 美嘉は今年四十四歳になる。そろそろ生理が終わって来る頃だ。

 その頃になってやっと、生理が終われば子供を産めなくなるという問題に直面した。

 年齢的な事と、美嘉の疾患の事、貧しさから大志との子供をあきらめるしかない事を身を持って知った。

 それは、悲しい事だった。

 それには、自分の遺伝子が未来に受け継がれない事、自分の血が、ここで止まる事。

 それを示唆していた。

 大志が自分じゃなくて、もっと若い女の子と結婚していたら、子供を望めたかもしれないのにと、沈痛な思いだった。

 なんだか、全て自分のせいかもしれない様な気がして、つらかった。

 しかし、お義父さんもお義母さんも、それがわかっていて、それでも美嘉に優しくしてくださっていた。

 美嘉は、大志と出会ってからというもの、

入院した事がなかった。   

 それは、美嘉の痛みをいつも察してくれる大志の力が大きかった。

 

 しかし、大志は美嘉と結婚してから、初めての入院を経験してしまった。

 美嘉はその際、車を出してくれたお義母さんと一緒に、二日に一度、お見舞いに行った。

 だが、後から大志に聞くと、大志から『僕、はやく、退院しなくちゃならないのかなと思った』と言われ、自分の浅はかさに嫌気がさした。 

 極端に短いスパンでお見舞いに行ってしまった事で、それが大志にプレッシャーを与えてしまっていた事実があった様だった。


 話は戻るが、運営の仕事を頑張っている大志だが、最近やけに生気がない感じで、美嘉は心配していた。

「大志君。大丈夫?なんか、元気がないよ。

熱海に行ってからじゃない?電車に長時間乗るのなれていないからでしょう」

 そう、美嘉が言うと

「そうだね。それだね。疲れた」

 大志はポツリと言った。

 以前、ずっと大志は、美嘉が昔から書き溜めていた詩が書いてあるノートの中から、大志がレイアウトを整えて、WORDに打って印刷する作業を繰り返していた。

「私の詩集はどうなるの?出版してくれるんでしょう?自費出版」

「ああ。あれね。僕にまたスタミナが湧いてきたらね」

 そう返答してきた。

 ずっと、この頃、大志は話しかけても目がうつろだったので、前よりは状態は良くなってきている事がわかった。

「大志君は、時間の問題でしょう?時間が経てば、心身が休まれば、また今まで通りの大志君に戻るんでしょう?」

「そうだね」

「そう思ったから、大志君の病院に電話かけなかったよ。大丈夫かなと思って。お義母さんたちにも心配かけると思って言ってないよ?」

 そう美嘉は言った。

「うん。ありがとう」

 大志は力なくも笑った。


「ねえ。大志君。美桜の誕生日どうする?また、図書カードあげる?」

 美嘉は、大志に探りを入れた。

「うーん」

 大志は何やらスッキリしない。

 しかし

「やめとこうか」

 そう言った。

「わかった」

 美嘉は大志の言葉にすぐに従った。

 美桜は、美嘉の姪だった。

 大志と美嘉は、美桜の誕生日にいつも、図書カードをあげていたが、ふたりの生活がキツくなってきたので、大志も今までの様にするのは難しいと判断したのだろう。

 美嘉としては、可愛い姪なのでいささか残念ではあったが、仕方が無い事だと解した。

 この前の父の日だって、千円もしない栄養ドリンクにしたのだ。

 お金をあまりかけられないからだ。

 それに、美嘉にとっては美桜は姪だったが、

大志にとっては血の繋がりがないので、それもあったのだと思う。

それでも美桜に図書カードをあげる事も恒例だったので、美嘉はなんだか悲しかった。

美桜に図書カードをあげられない事もそうだが、それよりも、美嘉たちがそれほどまでに、お金に困っている現状について、つらい気持ちになった。


そして、ふたりとも働く事が出来ない、いまの状態を嘆いた。

「ねえ。今年は本当に文芸誌に送る作品、短歌だけにするの?」

「そうだね。短歌だけ」

「詩とか小説は送らないの?」

「うん。送らない。今年は短歌一本で行く」

「そうなんだ。ふーん。つまんないなぁ」

 美嘉はそう言って、唇をとがらせた。

「美嘉ちゃんは、児童文学以外全部出すんでしょう?」

「そうだよ」

「すごいね」

 そうやって、大志が美嘉をほめたたえるので美嘉は気分が良くなって

「そりゃそうよ~」

 とか言って大志を笑わせていた。

 美嘉は、ちょっとひょうきんな所があって、

落ち込む時もあるが、比較的明るくて愉快な性格をしていた。

 美嘉のそういう所に大志は救われてもいた。

「美嘉ちゃんって、面白いよね」

「そう?そんな事あらへんで~」

 そう言って、また美嘉がおどけると

「ほらほら。そういう所。いいよ。いい味出してるよ。美嘉ちゃん。笑いのセンスがあるよ」

 大志は美嘉を褒め倒した。

「美嘉ちゃんのそういう所、好きだよ」

「そりゃおおきに~」

 美嘉はまた関西弁を繰りだした。

 美嘉は、ちょっとお調子者でもあった。

 

 そんな美嘉は、四十代になって、老いを感じていた。

 洗面所に映る、自分の顔を見ては、ため息ばかりついていた。

 美嘉の顔には無数の斑点があった。シミだ。

 美嘉は、四十代になるまでシミ対策をしてこなかった。

 それがあだになった。

 美嘉はずっといままで、化粧は、肌が汚い人がするものであると、間違った認識をしていた。

 しかし、そうではなかった。

 化粧は、自分の未来の肌をも守る役目を果たす事を最近になって知った。

 それからは、トマトジュースにエキストラバージンオリーブオイルをいれて、レンジで温めて飲んだり、化粧を、日が出る前や、日が出てそんなに経っていない時までにしていた。

 それは、家屋の窓から入って来る紫外線から肌を守るためだった。  

 それから、化粧を朝して、その後、二、三時間ごと間隔をあけて、化粧直しをしていた。

 また、外に出る時にはマスクをして、アームカバーをつけ、帽子をかぶり、日傘をさしていた。

 四十代から出てきたシミをこれ以上増やさないために、美嘉は努力していた。

 

 しかし、そうやっても過去に浴びた紫外線の影響からか、シミが増えて行って、美嘉は、

洗面所の鏡を粉々に割ってしまいたい衝動にかられたりもした。

 また、死にたくなるほど、シミを忌み嫌っていた。

 この事に関してだけは、美嘉は明るい気持ちになれなくて、沈んでいた。

そんな美嘉に大志は

「美嘉ちゃん、そんなシミ気にする事ないよ?美嘉ちゃん、十分綺麗だよ?」

 そう、大志が良かれと思って発した言葉にも美嘉は強く反応して

「大志君は男性だからわからないの!ちょっとシミがあるだけでも、すごく苦しいの。自信なくなるの。つらいの。正直、三島由紀夫みたいに割腹自殺したくなるくらい」

 そう言って、泣き叫んだ。

 これには、大志は困ってしまって

「じゃあ、美容皮膚科にでも通えばいいじゃん。そこでシミをとってもらえば?美嘉ちゃんの貯金ならば、自由に使ってかまわないんだから。そんなに気に病む様なら。体にも精神的にも悪いよ」

 そう、優しい言葉をかけても

「美容皮膚科なんて高くて行けないよ!うちら貧乏じゃん。これ以上、貯金を減らすわけにいかないよ!」

「だってさ、お金が減る事より、まずは美嘉ちゃんのその精神状態をなんとかすべきでしょう?僕、そんな痛々しい美嘉ちゃんを見ていられないよ!」

「だって、私の貯金すごい減っちゃうもん。

使えない。お金。この先、いつ、大金が必要になる時が来るかわからないし。それまで、とっておかないと」

 引き下がらない美嘉に大志は

「じゃあ、勝手にすればいいじゃん!でも、これからはもう、シミの事であーだこーだ騒ぎ立てるのはやめて!僕だって、そんな事されるとつらいんだから!」

「じゃあ、やっぱ美容皮膚科行く」

「どっちなんだい!」

 珍しく大志がツッコミをいれた。

「だって、やっぱつらいもん。シミ。施術はしないで、美容の薬だけにする」

「いいんじゃない?施術になると、高そうだもんね。そっちの方がリーズナブルなんじゃない?」

「そうでしょう?」

 そうと決まると、美嘉は打って変わって元気になった。


 自分で、美容皮膚科を探して来て、アプリで診察の予約をいれた。

「ひとりで行ける?」

「行けるよ。大丈夫。そこまで子供じゃないから」

 そう断ると、美嘉は意気揚々と美容皮膚科に出かけて行った。

 

 そして美容皮膚科から帰宅した美嘉は、ちょっとまた元気がなかった。

「美嘉ちゃん、お帰り。どうだった?」

「あのさ、顔、写真撮ったんだけどさ、今まで浴びてきた紫外線の。顔、真っ黒だった」

 そう言って、悲しそうにしていた。

「でも、先生が『こんなもん』って言っていたけれど。でも、やっぱりと思ったけれど、わかってはいたけれどショックだった」

「そうなんだ?でも先生がそう言うなら、みんなそんな感じなんじゃない?深く考える必要ないんじゃない?」

 大志がなんとか美嘉を励ます。

「それで、治療の方はどうなったの?飲み薬もらってきた?」

「うん。先生が、服薬でいきましょうって」

「そっか。先生がそうおっしゃったなら、それで効果が出るって事じゃない?」

「そうなのかなぁ。なんか不安だな。でも、新しく出てくるシミは防げそうな気がする」

 そう言って、美嘉は声を振り絞った。

 相当、不安なんだろうなと大志は美嘉の気持ちを察した。

「美嘉ちゃん。美嘉ちゃん、やれる事は、十分過ぎるほどやっているでしょう?頑張っているじゃん。そこの所、自分を評価した方が健全じゃない?」

 そう言って、大志は美嘉を元気づけた。

 その気持ちにこたえるかのように、美嘉は

「そうだよね。私、頑張っているもんね。努力めいいっぱいしているもんね。これ以上ないくらい。どこかで落とし所を見つけないとだめだね」

 美嘉は、自分自身の事をやっと客観的に見られる様になったし、気持も安定してきた。

 大志はそんな美嘉を見て、多少は安心した。

 そして

「美嘉ちゃん。美嘉ちゃんが学生時代から書き溜めていた詩があるでしょう?」

「ああ、自費出版の件?」

「そう。あれ、またレイアウト再開しようかなと思うんだ」

「そうなの?体調はもういいの?」

「うん。美嘉ちゃんのシミへの奮闘を見ていたら、徐々に元気が出てきた。僕は美嘉ちゃんのおかげで回復出来たんだよ」

「そうなの?私、そんな力になれた?」

「なれたさ。美嘉ちゃんは僕の女神だもん」

「なにそれ?新種のギャグ?」

 美嘉がまた面白い事を言い出したので、大志は笑って

「美嘉ちゃんも、調子もどってきたじゃあん。

そっちの方が美嘉ちゃんらしいって!」

 そう言われて美嘉は悪い気がしなかった。

「だって、誰だと思ってるの?美嘉さまよ?」

 また、美嘉がおどけると

「それ!それ!美嘉ちゃん節が出てきたねぇ~」

「なにそれ?」

「いや、やっぱり美嘉ちゃんは面白いって事!」

「元気な私の方が好き?」

「そりゃあ、好きだけど、元気ないと今度は心配で、美嘉ちゃんの事ばっか考えちゃうよ」

 美嘉は大志のその言葉に頬を赤らめた。

 そして

「じゃあ、どっちにしろ好きなんだね?私の事?」

 そう、大志に言葉を投げかけた。

「そうだよ。好きだよ?なんか困る事ある?」

「困りはしないけれど・・・。ストレート過ぎやしないかい?」

「ストレート過ぎるとだめなの?」

「だって、恥ずいじゃん」

「そう?僕にとっては普通の愛情表現なんだけど」

 大志のその真っ直ぐさに美嘉はぎこちなくなった。

「大志君って、変わっているよね。物好きというか」

「ちゃう。普通だよ」

 そう言って、大志は美嘉の言葉を否定した。

 そして、次の日からまたふたりは、せっせと美嘉の作品作りをやっていた。

 美嘉が記した、おびただしい量の詩が書いてあるノートから、いいと思った作品を選び出して、それを大志がWORDに打って、印刷していった。

 大志からもらったファイルは、美嘉の作品でいっぱいになった。

「これさ、自費出版じゃなくても、普通に出版社に売り込みに行けば、出版してくれそうだけどね」

 その言葉に美嘉は瞳を輝かせながら

「そう?そうかな?そんなにいいかな?私の詩」

 そう言うと、大志が

「すごくいいよ。僕のお墨付きだよ」

 そう言ってくれた。

「でも、大志君と同じ投稿サイトに私、入っているけれど、大志君の作品は評価が凄くいいのに、私は全然評価されていないじゃん。まあ、ブログは大志君より私の方が読者数も見てくれる人も多いけどさ」

「まあ、そうだけど」

「私、思うんだけど、あの投稿サイト、一般向けというより、ニッチなファン向けでしょう?大志君はニッチなファンには人気あるけれど、一般人には私よりは人気がなくて、私はニッチなファンには人気がないけど、一般人にはウケるんじゃない?」

 そうやって、美嘉は分析してみた。

 それについて大志は

「そうだね。それは一理あるね」

「そうでしょう?自分の作品の需要がある所を見極める力も必要でしょう?逆に、どういう作品なら、その媒体に必要とされるのか考えて作るとか」

「そうだね。まずは自分を合わせて行く事だね。好きなものを書くというよりかは」

「でしょう?だから、どういう作品が求められているのか、チェックする事が大事だと思うの。だけど、それを自分が作れないとなると困るけれどね」

「どんなタイプにも合わせて行ける、柔軟な書き手が求められるかもしれないね」

「そうよ。そこがポイントなのよ。プロになったって、いつも自分が好きな類のものを書けるとも限らないし」

「そうだね。僕もそう思う」 

 

「話題変わるけど文芸の運営の仕事ね、後、三か月ぐらいなんだ。だから、温かく見守ってくれると嬉しい。僕も仕事をはじめられるように、ウォーキングしたりしているし。まずは、体づくりからだと思って」

「いいんじゃない?」

「美嘉ちゃんも、本当はなるべく外に出て太陽の光を浴びる方がいいんだけどね。セロトニンが出て。セロトニンは、幸せホルモンとも呼ばれているよ?」

「うん。わかってる。それよりうちの父親は、ジムとかウォーキングとか好きじゃないんだって。ムダにエネルギー使っているみたいで」

「ふーん。まあ、そういう考え方もあるよね」

「大志君のはエネルギーのムダ使いにはならないの?そんなエネルギーありあまっているなら、家事を手伝ってほしいんだけど。大志君、私がお願いしないと、家事やってくれないじゃない?」 

 美嘉がちょっと不機嫌になったので

「美嘉ちゃんごめんね?それは僕が悪かったね?謝るよ。今度から自主的に家事をやるように心がけるから。そう機嫌を悪くしないで?美嘉ちゃんにとってもよくないよ?」

 そう、大志が優しく言った。

 美嘉は

「うん。わかった。じゃあ、ムリのない程度に家事手伝ってね。よろしくお願いします」

 そう言って、美嘉はペコリとお辞儀をした。

 ふたりはこれからも、仲良くやって行くだろう。これぞ凸凹コンビなのであった。



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