世界と根暗
暑くて黒いアスファルトの上を黙々と歩く。こちらの意思とはあまり関係なくイヤホンから流れる安っぽい音楽に気分が悪くなりそうだと思った。立ち止まり、ミュージックプレイヤーを鞄から出して音楽を停止せずに、電源をブチリと切った。昔、誰かに壊れるから止めたほうがいいなどと言われたがそんなことはどうでもよくなっていた。全ては暑さが悪いのだとも、誰かが言っていた。
ふと前を見ると、この暑い中、黒いワンピースを着た少女がこちらに向かって歩いている。ノースリーブなのがまだ救いだなどと思った頭はどうかしていて、日焼けなんて一生で一度もしたことが無いですとでも言うような真っ白な肌は、この強い日差しで赤くなっていた。少女との距離が近くなるにつれて、その少女が奇妙な同級生だと分かると、自らも歩いて近づく。尤も、彼女はこちらに近づきたいなどとは毛頭も思っていないと思ったが。
彼女、三水音々は瀬海に気がつくと顔の半分を覆う前髪で口と鼻以外は見えないものの、いっそ清清しいまでに不機嫌なオーラを放ち、通り過ぎようとした。しかし、瀬海は音々の考えとは全く逆に、音々の前に立ったうえに音々の赤くなった腕を掴んだ。音々は五センチほど瀬海よりも低い位置から睨むように瀬海を見上げる。もっとも長い前髪の所為で目なんて少しも相手には見えていないのだが。
瀬海は、その黒いワンピースよりも黒い艶やかな腰ぐらいまでの髪を眺めて何時見ても立派なものだと思う。音々の性格からして自分で手入れなどするようには思えないので、きっと上流階級の家の一人娘である彼女の有能な召使いがやっているのだろうと思った。いい仕事をしているとも思った。音々は何時までも無言の瀬海の視線に嫌気がさしたのか(元々好んでいない。)血色のいいとは言えない唇を動かして「何。」と一言だけ言った。どれだけの拒絶と殺気がこもっているかなどということを隠しもしない彼女の一言に瀬海はゆっくりと唇に弧を描く。ねえ、日焼け止めとか塗らないのと、瀬海は音々の言葉を無視して言う。答えは簡単に予想できた。
「面倒だから。」
音々は瀬海の手が緩んだことをいいことに、するりと瀬海から自分の日差しの所為で赤くなった腕を放して暑いアスファルトの上を歩いていった。
基本的プロフィール
瀬海→主人公
三水音々→根暗、嫌味、実はコンタクト、座っているときは猫背、前髪長い、黒髪長い、なんだかんだでお嬢様、本好き、色々と面倒だと言う、主人公と渡り合えるイイ性格。
凄く、殺伐としたヒロインと主人公の関係です。殺伐とした関係が好きなのでもっと書きたいなと、思っています。