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閑話:キドの独白 2

何人目の彼女だったかは、もう忘れた。

七月に小笠原諸島へ旅をした時のことだ。


外洋に出てから船の揺れがひどくなり、彼女は船酔いで文字通り「げーげー」と吐き続けていた。……最悪の雰囲気だ。わかるだろ?


島についても、待っていた宿泊先はトレーラーハウス。

鋼鉄の箱は南国の日差しを蓄熱し、深夜になっても室内はサウナのようだった。エアコンもなく、窓を開けても風はない。もう、隣で横たわる彼女の顔を覗き込む勇気さえなかった。


挽回しようと「人影のない極上のプライベートビーチ」を目指し、二人で山道を歩く。

荒い山道、舞い上がる砂埃、そして酷暑。都会育ちの彼女にとっては、バカンスではなく過酷な行軍だ。


その途中。

鼻をつく、恐ろしいほどの激臭が漂ってきた。

生まれて初めて嗅ぐ、獣臭だ。


風上から、十匹ほどの野良ヤギの集団が道を横切っていった。

最後尾から現れたのは、一目でそれと分かる、真っ黒な雄のボスヤギだった。

そいつは道の真ん中でピタリと足を止め、俺たち二人をねめつけるように威嚇してきた。


「ヤギごとき!」と言いたいが、一瞬で理解した。

勝てない! 殺される!


ヤギはゴミを見るような目でこちらを射抜き、去っていった。

なぜか今、その記憶が鮮烈に蘇った。


……ちなみに、その彼女とはもちろん別れました。

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