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タイトル未定2026/01/26 12:21

複数の馬の嘶く声。ガチャガチャと鎧の軋む音。慌ただしく行き来する足音。


馬上にいるラオスは、目は忙しなく、口は短く的確に。

でも、時折胸元にある、手帳の重さに心を引きずられながら準備を進めていく。


「コーディ」


小さく呼ぶ弟の名は、誰の耳にも拾われることない。


「団長、準備できました」


部下の声に辺りを一通り目視で確認する。


「出立だ」


青く澄み切る空の元、ラオスの顔には、もうなんの感情も窺い知れなかった。




石畳の道を過ぎ、やがて馬車もカラカラから、ゴトンゴトンという音に変わり始めた頃。


「団長、あの森の向こうが辺境の村になります。現地の調査官がこの辺で、あーいたいた」


視線の先には、汗で頭がべっとりとしており、一張羅だっただろう服をかろうじて前で止めているやや小太りの調査官だった。


「遠いところ、あ、ありがとうございます。あ、あの、書類に不備でも?」


緊張のためか顔は真っ青だ。


「書類は問題ない。ただ、村との報告に齟齬がないか確認させて貰いたい」


転がるようにして、駆けていく調査官。


部下達に一旦休憩を取るように命じるラオス。


転びかけながらも、持って来た調査の書類に書かれた一行の文字。


村の外からきた人間が住んでいる。


腕に力が入りかけ、目を瞑り呼吸を整える。


「何か、問題でもありましたでしょうか?」


ラオスの様子に不安そうに聞く調査官。


「いや、念のため、専門家の目で確認する必要がある、と判断しただけだ。ここからは、今の状況から見る限り、少人数の方が村の方にも負担が少なかろう。他のものはこの街に待機。俺だけがあの村へ行く」


再び馬上の人になるラオス。


ヒヒーン。


殆どのものが反応する間もなく、矢継ぎ早に指示を出すラオス。


調査官の妻がお茶の用意が、言う頃にはすでにラオスの姿は無かった。




ピーヒョロロー


木漏れ日の隙間から澄んだ高い声が響く。


そこから先の少し開けた場所に、その村はあった。


ただ、ラオスの目に映るのは別の景色。


「なあなあ、これ、馬って言うんだろ?俺知ってる、」

「うちにも居るよー」

「馬鹿、あれはロバっていうんだぞ」


何やらよくわからない格好の塊達。


とりあえず、その塊を壊してはいけないことだけは理解出来たので、馬から降りる。


「私は、王国騎士団長の、ラオス=シェルガードともうす。村長殿に取り次ぎを願いたい」


ざわつく塊。


「こ、こうか?」

「ほら、よく見て、こうよ」


王国式の騎士礼を真似し始める塊。


「違う、ここはこうして、あ、君は背筋を伸ばして」


統率が取れている。


今だ!


ラオスは咳払いをして、皆の注目を集める。


「ところで、だ…?」


目の前には、整然と並んだ草の隊列のみ。


「俺、みんなに自慢して来る!」

「いや、私の方がカッコいいから、私が行く!」


遠ざかるその声に被せて、


「おーい、お前ら。昼飯出来たぞ」


村人がこちらに近づくのが見えた。


先程と同様に、名乗りをあげようとするラオス。


「あー。すまん、1人追加できるかー」


目の前にいたはずの塊も消えた。





カチャカチャと食器が立てる音と、


「野菜ばっかり入れるなー」


という声。


手には器。


先程から、村長殿にとか、責任者は?と言う言葉には、器の中の具が増えただけ。


ラオスが声をかける度に、ちゃんと食えよとか、体格いいんだからもっと食べなきゃ。と、パンやら果物が増えただけだった。


異常か、否か。


これは報告書にあげるべき案件か。


無意識にパンを齧る。


「美味い…」


何故か、無性にエリーの手料理が食べたくなった。




そこに突然村の外に繋いだはずの馬の嘶きと、リアカーを引くゴロゴロという音に合わせて、ズシャーっという土を削る音。


「じいちゃん、だからちゃんと座ってないと危ないだろって」

「昼飯に間に合わんかったら、お前のせいじゃからな」


ワイワイと言いながら、ご老体と食べ物を奪い合う男。


…何してんだ、お前は


何の感情かわからないツッコミだけだった。




「誰だこんなもんここに置いたのは。誰かが躓いて転んだら危ないだろうが」


背後から声がする。誰かが近づく音と、

足元にあったはずの剣が消えて、壁際に移動してる。


ああ、スープが美味い。





「うおーい、ええもんあったぞ」


ご老体の声に、


「あ、じいちゃんは危ないから、ほらほらどいた。この返か?いやここの方がしっくりくるか。よーし、火をつけろ」


反対の足元にあった、兜が鍋となり、グツグツと煮え立ち、ちょっとだけ遠くなってた剣が鍋を支えていた。


「味が混ざると、食えんようになるでなあ」


鍋を混ぜるご老体。ちょっとだけ味見をしてニンマリしている。


何だか中身が光っている気がするが、目の錯覚だ。


「それは、じいちゃん専用鍋だからなー」


遠くで声がする。


ああ、果物も美味い。





夕暮れになると、馬はもう、ロバと一緒にいた。


何も言われずに風呂に案内され、ほかほかした身体のまま、机の前に報告書を広げる。


今日、俺は何をした?


違う、何を確認したか、だ。


・何だ良くわからない格好の塊。

・整列する草の隊列

・消える塊

・質問すると増える器

・声をかけると増えるパンと果物


…これは報告書じゃない。


・美味いパン

・美味いスープ

・美味い果物


これは、エリーに対して失礼だ。





その時、外のドアがカタンと鳴る。


「誰だ?」


帰ってくる無音。


ドアを開けると、少し古ぼけた酒瓶と、少し懐かしいクセのある字。そこには…


「風邪引くなよ」


とだけ書かれていた。


窓からは、リアカーをガラガラ引く音と、2人が言い合う声がする。


報告書は、明日の朝出る前に書くか。


考えることは放棄した。





翌朝、目が覚めると、机の上にある書類。


そこには、夕べと同じ文字で、


「異常なし」


外からガラガラとまた、リアカーの音がする。ご老体は、無事トイレに連れて行っていただけたようだ。


鼻をくすぐるバターの香り。


絶対美味しいパンの焼ける音。


ああ、早くエリーに会いたい。


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